桜木葵─女子中学生は思春期
女子中学生という生き物は、女の一生の中で最もスケベでアホな時期と言ってもいいだろう。
思春期を迎え、第二次性徴を迎え、徐々に性知識をつけると共に、それに伴って身体も成長していく。
東の河原にエロ本ありと聞けば我先に友を出しぬいてでも拾いに行き、西の住宅街に男の影ありと聞けばこれ以上ない団結を見せて仲良く覗きに行く。
家に帰れば親の目を掻い潜り、夜な夜なネットの海で性なる知識を求めてサーフィンしては、覚えたての猿のように一人遊びに耽る。
あたし─桜木葵─も例に漏れず頭の中はいつもピンク一色ではあったが、それを表向き隠す程度の慎みは持っていた。
というのも、母である涼子は男性管理局の副局長なんて大層な地位であり、日頃から口すっぱく淑女たれと教育されているのだ。
それに加えて、稀にお酒を飲んで帰ってきた時には口癖のように実際の男なんて碌なもんじゃないなんて愚痴ったりもするのだから、母にピンクな脳内を隠すのも仕方のないことだろう。
多忙な母が仕事の都合で家にあまりいないことは、確かに寂しいと言えば寂しいのだが、一人の時間が取れるのはそれはそれで助かるというのもまた本音だった。
最近になって彗星の如く現れたハル様という配信者に夢中になっていることも、当たり前のように母には隠し、母の不在をいいことに何度も動画を見返しては学校の友人とその魅力を語り合っている。
だが今日は日曜日ということもあり、学校は休みだし家には朝から母がいる。
仕方がないのでイヤホンでハル様の切り抜き動画、4時間耐久淫語ボイスループ動画を聴きながら、そのむらむらを宿題にぶつけるというチャレンジをしている。ちなみに既に二敗した。
─コンコン
「葵ちゃん、入るわね」
慌ててスマホをスリープにして、勉強のふりを続ける。
「なに? お母さん」
聞けば、今からお隣さんに引越しのご挨拶に行くから着いてくるようにと言うことだった。
なんで今更?と聞いてみたところ、私たちが入居したのもお隣さんが入居したのも、まだマンションが建設中の頃の契約であり、お互いともが第一入居者のような気持ちで挨拶できていなかったが、最近になって会うことがあり、改めて挨拶をするなんて話になったそうだ。
はっきり言ってお隣さんなんて興味ないし、大人ってめんどくさいなあと思ったが、お母さんの前では良い子ぶってるので態度には出さない。
「葵ちゃん、ネットの配信とかって見る? ハルって名前の男性の配信者とか知ってるかしら?」
な…何故急にそんな話を…
…もしかして見られた?
「き、聞いたことはあるかなぁ〜…学校の友達とかが…なんか話してたかも…」
バレてるのかコレ? あんなえっちな男の人の動画を見てるなんてお母さんに知られたら絶対に怒られるだろう…
「あら、見たことないの? 素敵な人だから見ておいた方がいいわよ? …ちょっと中学生には刺激が強すぎるかもしれないけど」
…は?
あの淑女たれとうるさい母が、あんなえっちな動画を見た方がいいって?
あの実際の男なんて碌でもないなんて言っていた母が、素敵な人だって?
というか母、あなた恋する乙女みたいな顔してますけど、どうしちゃったの?
「今から挨拶に伺うお隣さんが、そのハルさんなのよ」
「…え?」
はぁあああああ──?!?!!!




