同居人ができました
専任護衛官のセツナさんとの顔合わせを終わらせて、無事に帰宅。
いや、無事とは言い難いかもしれない。
あの後護衛に関する説明を受けたが、まずこのマンションの俺の部屋の真下を借り受けて、そこに国防軍の軍人が6名詰めることになった。
軍人である。
マンション自体にも工事が入り、特に俺の部屋の周辺、ドアや窓といった侵入経路になり得る全てに監視カメラを設置して、護衛部隊による24時間監視が実施されるらしい。
いや怖いよ。
まあここまでは良い。家の中まで監視されるわけじゃないし、何かしらの事態が起きない限り軍人護衛部隊と顔を合わせることもないだろうし、意識さえしなければ問題ない。
目下一番の問題は、この我が家のリビングで向かい側に座る専任護衛官のセツナさんである。
「あの、セツナさん─」
「セツナとお呼びください」
一瞬で割り込んできた。まあ確かに見た感じ年下っぽいし呼び捨てで良いと言うならそこまで抵抗はない。
俺自身が雇い主というわけではないが、立場も主従に近い形になるわけだし。
「じゃあ、セツナ。本当にここで暮らすつもりなのか?」
そういうことなのだ。何も俺が同居を希望したわけでは無い。
かと言ってセツナ自体が希望したというわけでもなく、管理局からそうするようにお願いされたというのが適切だろう。
確かにセツナは美人だ。
つり目がちだが、黒の長髪をうなじあたりで束ねて降ろした、なんというか全体的に古風な大和撫子然とした雰囲気を感じさせる美人だ。服装も和服だし。
かといって美人と同居だと言って素直に喜べるものでもなく、俺にもプライバシーというものがある。
今日が初対面の人間と、これから四六時中ずっと家の中で顔を突き合わせるというのはちょっと…と思っても無理からぬ話だろう。
そんな話をやんわりと伝えてみたのだが─
「ご安心を。私は隠形にも長けておりますので」
と言ったかと思うと、目の前のセツナの姿がフッと消えた。
周りを見渡してもどこにも姿は見えず、気配も感じない。
「セツナ…」
「ここに」
ふと呟くように名前を呼ぶと音もなく背後に現れた。
…いや怖すぎる。忍者かよ。
悲鳴をあげなかったのは奇跡だろう。
というかそもそも俺のプライバシーの話なんだが、隠れて気配が無ければ大丈夫だね…とはならんのよ。
むしろ逆にいるのかいないのか分からない分、余計に怖いわ。
「セツナ、その隠形とやらはとりあえず普段は禁止だ。来客時や、護衛の必要がある場合は頼むかもしれないが、それ以外では普通に過ごしてほしい」
「心得た」
その後、寝室やトイレや風呂といった特に一人になりたい部屋には許可なく入らないことなどいくつかのルールを定めて、同居を受け入れることにした。
幸い部屋は余っていたので、一つをセツナの自室として定めた。
今日もいろいろあって正直疲れたが、せっかく検査結果も持ち帰れたことだし、とりあえず告知して夜から配信するかぁ…




