梟に憧れた蛇
或る所に、一匹の蛇がいました。
蛇には、いつもオリーブの枝で訪れる者の相談に乗る梟が、輝いて見えました。
或る日、相談者の列に蛇も加わりました。
「如何したら、貴方のように賢くなれますか?」
梟を見上げて、蛇は訊きました。
「お前は馬鹿だから、験するが良い」
梟は答えました。
「手も足もありません……」
蛇はそう言うと項垂れてしまいました。
「お前に無くても別の者には有ろう、もっと頭を使え」
梟は蛇を一喝しました。
蛇は頷くと、大学へ向かいました。
大学には様々な学者が集まっていました。
蛇は、自信満々に自身を万能と豪語する貪欲な学者を見つけました。
「全ての民を癒す“奇跡の薬”を作ると、上申せよ」
蛇は、貪欲な学者を唆しました。
「そんなことが出来れば、カネも、名声も、地位も手に入るだろう……しかし、そんな薬をどうやって作るんだ?治す病が無ければ、薬は作れない」
学者が蛇に尋ねました。
「無ければ、創ればいい。お前の手で、人々を逃げ場のない絶望の淵に追いやる病を創れ。お前には出来るんだろ?お前が作った病気なら、お前が真っ先に開発を始められる」
そう言うと、蛇は王宮へ向かいました。
玉座には、頭を抱えて苦しむ王様が居ました。
「王冠の重さに耐えられないか?」
蛇は王様に問い掛けました。
「知ったような口を利くな」
王様が答えました。
「民に支えて貰えば良かろう」
蛇は提案をしました。
「それはいいな……しかし、民と余の間にどれだけ距離があるか、お前には想像もつくまい」
王様は、蛇の提案に惹かれつつも、耳を貸しませんでした。
蛇は、玉座から離れて息を潜め、学者が来るのを待ちました。
やがて、学者が、計画を持って王宮に来ました。
「民のため、医薬技術の更なる発展のため、まだ見ぬ脅威をも克服する奇跡の薬を作らせてください。」
学者は大きな声で言いました。
しかし、王様は首を縦に振りません。
「王様が民を救えば、民は王様を慕い、王様の悩みも解消するでしょう。」
学者はさらに言いました。
王様は民を救えば、民に王冠を支えて貰えると思い、支援することにしました。
翌年、計画通り“陸に居ながら溺れ死ぬ病”を創り出すことができました。
しかし、薬の開発は難航しました。
不運にも、病が漏れ出て、救うはずの民が、掛かるはずの無い病に苦しみました。
夥しい数の死が訪れ、墓標の無いお墓ばかりが増えました。
民は、家に籠り、嵐の過ぎ去るのを神に祈るように、災厄が過ぎ去るのを待ちました。
学者は、絶望し、大学を追われました。
王様は、あまりに重い王冠に耐えられず、王宮を去りました。
蛇は、梟の留まるオリーブを訪れました。
「験を終え、何を学んだ?」
梟は蛇に訊きました。
「身の丈を」
蛇はそう答えて、薄笑いを浮かべ、藪に消えていきました。
最後までお読みいただきありがとうございます。
小説も書いていますので、もし宜しければそちらもどうぞ。