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辺りを包む乾いた土煙。時折鼻を刺すのは、銃口から上がる煙と焦げた肉の臭い。隣にいたはずの仲間が気付けば足元に転がっている。銃声に混じらぬ程の大声で名を呼ぶが返事はない。
「――……ッくそ!」
嘗ての英雄だと? ふざけるな。煌びやかな栄光だって、磨かなければくすみ、いつしか滅ぶではないか。畜生、何が勇衛士だ。何が英雄だ。何が栄光だ。死んでしまったら全て無くなってしまうではないか。
死骸と成り下がった友の迷彩柄をした軍人用ズボンのポケットから乱暴に銃弾を剥ぎ取った。彼が愛用していた機関銃は、撃たれたと同時に彼方へと吹き飛び無残な形でくたばっている。
「……スミス、ティスト、モルト、ラフロ……」
今までの戦時で死んだ仲間の名を呟きながらライフルの薬室に実包を一つずつ装填していく。己の身を隠すためのコンクリートの壁もそろそろ限界のようだ。預けている背からヒビが段々と拡がっていく感触を感じる。
――生き残れるだろうか、自分は。否……生き残らなくてはならない。
戦場には合わない、洋琴の繊細な音が耳奥に響いた。彼女は、俺を許してくれるだろうか。
初めまして。燕と申します。
戦記物という事でかなり緊張していますが、最後までお付き合い戴ければ、と思っております。
では、行ってらっしゃいませ。