モヤモヤさん 4
全身に力を込めつつ、ラバースーツを身に着けるイメージを持つ事で、モヤモヤさんの漏洩は防げるようになった。
寝ている間も持続できているかどうか分からないけれど、朝起きた際に、私の周りが汚れていなかったので、きっと大丈夫。
副作用として、なんだか力が漲ってるけれど。今のところ害はない。
とにかく、これで問題を一つ解決できた。
だけど、これはあくまでも現状維持でしかない。
モヤモヤさんを集めると、また溢れてしまう。
モヤモヤさん自体に害はないようだから、放っておけばいいのだけれど、私的にそれは無理。
黒い汚れが漂っているところで生活なんてできないよ。
つまり、どこかに廃棄するしかない。
排出物を捨てる場所と考えて、一番に思い付いたのはトイレだった。
でも、モヤモヤさんは水で流れない。そうなると、トイレにモヤモヤさんが、ずっと残ってしまう。そんなトイレ、絶対に嫌だ。
そんな訳で、この案は早々に却下した。
それに、オムツ生活の私は、まだトイレに用事ないしね。
他は外ぐらいしか思いつかないんだけど、庭の中ではまだ抵抗が残る。なら敷地の外はと言うと、実は行ったことがない。
何しろ、うちの庭は滅茶苦茶広い。庭園があって、花畑があって、池があって、川が流れてる。私の移動範囲だとこれくらいだけれど、聞こえた話では、温室、農園、薬草園、厩舎、訓練場とかもあるらしい。
とてもじゃないけど、庭の外まで辿り着ける気がしない。
こっそり廃棄作戦、実行前に終了しました。
作戦第2案はって言うと、実はあんまり気が向かない。
その名も、フンコ〇ガシ作戦―――どうしてそんな名前を考えた、私。
乙女的に無かった事にしたかった。
要するに、排出する際にぐっと丸めてこっそり捨ててしまおうと言う訳。
勿論、部屋の中に置く気はないよ。
モヤモヤと固形物では密度が違う。小さな団子でも体内のモヤモヤさん量はぐっと減るだろうし、ゴミ箱に捨てておけばメイドさんが片付けてくれる。モヤモヤさんが燃えるかどうかは知らないけれど、どうせ私にしか見えないんだから分別しなくても迷惑にならないよね。
排出物をゴミ箱に捨てるのは乙女的にどうなんだって?
オムツ生活が日常の私に、そんな羞恥心残ってないよ。
実は、ラバースーツのイメージで漏洩が阻止できた時点で、成功するだろうって確信が私の中にある。モヤモヤさんを私の中で動かす点で、共通しているからね。
理屈はさっぱり分からないけれど、コツを掴むとモヤモヤさんはとても成形しやすい。
右手を握ると、ぎゅっと力を込める。
体の中にあるものを、握った手に集中するイメージ。
集まったものを丸く固めるイメージ。
さらに、固まったものを外へ―――できた!
漏洩防止の時よりずっと疲労が大きい。多分、イメージを重ねた分だけ疲労も増える。
赤ん坊の体力ではきっとこれ以上の重ね掛けは難しい。ギリギリだったけど、今回は間違いなく成功した。体内のモヤモヤさんがぐっと減った気がする。
コロリと。
成功の証拠が掌から転がり落ちた。
「……なんれ?」
元はよく分からないモヤモヤで、溢れ出てきた時はまるでヘドロかタール。だから、黒い泥団子のようなものができると思っていた。次点で炭みたいな塊。
実際に出てきたのは、ビー玉みたいな、小さな透明の珠だった。
訳が分からない。
黒、どこ行った?
固めたらモヤモヤさんじゃなくなるなんて、誰が想像できた?
恐る恐る摘まみ上げる。
表面は磨き上げたようにつるつるで、内部で七色の光がキラキラ踊っている。
何を固めたのか考えなければ、素直に綺麗と思える。
ところで、今の私が一人になることは決してない。
だから、今も世話係の全員がここに揃ってる。さっきまで一人遊びする私を見守っていた視線が、私の右手に集中している。
正確には、この後こっそりゴミ箱に放り込むつもりだった珠に。
「わぁー、綺麗。レティ様、それなあに?」
全員が沈黙する中で、最初に動いたのはフランだった。一見綺麗なビー玉っぽい何かに、無邪気な興味を示している。
え!? って言うか、これ、見えるの? モヤモヤさんは見えないのに?
色なの? 色が黒じゃなかったら見えるの?
そもそも、私の中で何が起きたの!?
今世の私は体内で無機物を生成できるの?
パニックになる私だったけど、混乱しているのは私だけじゃなかった。
フランを除いた全員が、凍り付いたように動かない。
一足先に我に返ったメイド長は、お世話係の人達に決して部屋から出ないよう指示すると、大慌てで走って出ていった。
うん、赤ん坊がどこからともなく見覚えのないビー玉を取り出したら、当然両親に報告が必要だよね。
勿論大騒ぎになった。
残念ながら、周囲の会話には聞き覚えのない名詞がいくつか含まれていたので、私は事態を把握しきれなかった。
断片的に得られた情報から推測するに、私の作ったビー玉らしきものは、たいへん高価な代物らしい。……原料、モヤモヤさんだよ? そこら中にあるよ?
「レティ、これがどこにあったのか、教えてくれるかな?」
「……わかんない!」
私への質問は、全てこれで通した。
だって、そうとしか答えようがない。
実際、自分でも何が起こったのかよく分かっていなかったし、今の私の語彙では伝えきれない。
何より、排泄物を固めたら高価な何かになりました、なんて言えない。
私、金のうん〇が作れるんです!
なんて吹聴は決してしない。
乙女的に、絶対にNG! 断じてNO!
結局、箝口令が敷かれて、何もなかった事になった。
なんと、ビー玉もどきは、ウチみたいなお金持ちの家でも在ってはいけないくらいの代物で、然るべき先へ献上するらしい。
大事過ぎて、なおさら真実を明かせなくなったよ。
状況的に私が怪しまれているんだろうけど、分からない事が多過ぎて、自重はできそうにありません。
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