復興聖女 幕間
短めです。
前話に挿入するか悩んだのですが、展開が異なるので、幕間としました。
疲れた―――
あれから3000匹以上のスライムに付与を施した。
白輪赤輪の人は勿論、黄色輪の人にも行き渡らせて、噂を聞きつけて集まってきた軽傷の人達の分も用意した。できるなら、痕が残らない方が良いしね。
無属性で魔法付与が得意なんて人は都合よく見つからないから、全部私に圧しかかってきたよ。流石に無理し過ぎたかな?
付与術師の育成も、今後の課題だね。
で、ここは緊急対策本部兼、救護所として屋敷を解放しているサーブテイジ伯爵邸の応接室。
ソファにもたれかかると、疲労がどっと押し寄せてきた。
とにかく付与は終わらせて、私にできる事はひと段落着いた。患者さん達の容態をもう少し見ていたいと思っていたけど、フランに無理矢理引っ張って来られた。
多分、傍目にも見て取れるくらい疲労が溜まってたんだと思う。
こうして休憩すると、とっくに限界だったと自覚できる。使命感と興奮で、疲れを抑え込んでただけみたい。
弱ったところを人目に晒す訳にはいかないから、助かったよ。
サーブテイジ家の人に用意してもらった紅茶に口を付ける。
強い甘みが染みるね。
フランが淹れてくれたのほどは美味しくないけど。他所の家だから仕方ないよね。
少し休んで糖分の補給ができたら、心にも癒しが欲しくなった。
「ん!」
フランに向かって両手を広げると、彼女は驚いた顔をした。
これは私がフランに甘えたい時の合図。
小さい頃はこうしてよくねだっていたけれど、何年ぶりだろ?
私の意図を察して、フランが優しく抱きしめてくれる。私も彼女の柔らかい胸に顔をうずめた。
「無理して、いらしたんですね」
「……当たり、前だよ……」
零れた声には嗚咽が混じる。
無理したに決まってる。
来るんじゃなかったって、何度も思った。
逃げたかった。
誰かに押し付けてしまいたかった。
見なかった事にしたかった。
それでもって歯を食い縛ったけど、何度泣きたくなったか―――
貴族が人前で泣くなんて許されない。涙を見せていいのは、一人の時だけ。
今もフランとベネットはいるけれど、彼女達は別。貴族令嬢には本当に一人きりの時間なんて無いからね。
その代わり、フランは胸にいる私の顔を見ようとはしないし、ベネットは後ろを向いてくれている。
「……怖かったよ―――」
誰かを死なせてしまうかもしれない事が。
聖女の責任が。
何より自分の無力さが。
震える私を、フランの手がゆっくり撫でてくれる。
「それでもやり遂げられた、大勢の為に尽くされたお嬢様が、フランは誇らしいです」
「私にできる事なんて大した事じゃない! 私は聖女なんかじゃない! 私はもっと利己的で、打算的で……それに、私はそんなに強くない!」
「はい、知っています。でも、全て背負われるんですよね」
「だって私は貴族だもの。ずっとそう教えられたもの。そうやってしか生きられないもの」
「……ええ。そんなお嬢様だから、私が支えます。ベネットも助けになります。お嬢様は一人じゃありません。弱気になったなら、いつだって頼ってください」
私の性根はどこまで行っても前世のままで、急に強くなんてなれない。でも貴族の生き方は厳しくて、その責任は重い。
周りに甘やかされて、贅沢に囲まれて、生活に苦労なんて無くて……、そうでなかったら、きっと私は異世界で生きていけなかった。その分、義務と責任が圧しかかる。
だけどこの生き方は強制された訳じゃない。
こうあるべきだと選んだのは、間違いなく私自身の意思だから、顔を上げたらまたいつもの私に戻るから。
今だけは寄りかかる事を許してほしい。
もう少しだけこうさせてね、フラン。
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