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大魔導士と呼ばれた侯爵令嬢 世界が汚いので掃除していただけなんですけど… 【書籍2巻&コミックス1巻発売中!】   作者: K1you
1年生編

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復興聖女 幕間

短めです。

前話に挿入するか悩んだのですが、展開が異なるので、幕間としました。

 疲れた―――


 あれから3000匹以上のスライムに付与を施した。

 白輪赤輪の人は勿論、黄色輪の人にも行き渡らせて、噂を聞きつけて集まってきた軽傷の人達の分も用意した。できるなら、痕が残らない方が良いしね。


 無属性で魔法付与が得意なんて人は都合よく見つからないから、全部私に圧しかかってきたよ。流石に無理し過ぎたかな?


 付与術師の育成も、今後の課題だね。


 で、ここは緊急対策本部兼、救護所として屋敷を解放しているサーブテイジ伯爵邸の応接室。

 ソファにもたれかかると、疲労がどっと押し寄せてきた。


 とにかく付与は終わらせて、私にできる事はひと段落着いた。患者さん達の容態をもう少し見ていたいと思っていたけど、フランに無理矢理引っ張って来られた。

 多分、傍目にも見て取れるくらい疲労が溜まってたんだと思う。

 こうして休憩すると、とっくに限界だったと自覚できる。使命感と興奮で、疲れを抑え込んでただけみたい。


 弱ったところを人目に晒す訳にはいかないから、助かったよ。


 サーブテイジ家の人に用意してもらった紅茶に口を付ける。

 強い甘みが染みるね。

 フランが淹れてくれたのほどは美味しくないけど。他所の家だから仕方ないよね。


 少し休んで糖分の補給ができたら、心にも癒しが欲しくなった。


「ん!」


 フランに向かって両手を広げると、彼女は驚いた顔をした。


 これは私がフランに甘えたい時の合図。

 小さい頃はこうしてよくねだっていたけれど、何年ぶりだろ?


 私の意図を察して、フランが優しく抱きしめてくれる。私も彼女の柔らかい胸に顔をうずめた。


「無理して、いらしたんですね」

「……当たり、前だよ……」


 零れた声には嗚咽が混じる。


 無理したに決まってる。


 来るんじゃなかったって、何度も思った。

 逃げたかった。

 誰かに押し付けてしまいたかった。

 見なかった事にしたかった。


 それでもって歯を食い縛ったけど、何度泣きたくなったか―――


 貴族が人前で泣くなんて許されない。涙を見せていいのは、一人の時だけ。


 今もフランとベネットはいるけれど、彼女達は別。貴族令嬢(わたし)には本当に一人きりの時間なんて無いからね。

 その代わり、フランは胸にいる私の顔を見ようとはしないし、ベネットは後ろを向いてくれている。


「……怖かったよ―――」


 誰かを死なせてしまうかもしれない事が。

 聖女の責任が。

 何より自分の無力さが。


 震える私を、フランの手がゆっくり撫でてくれる。


「それでもやり遂げられた、大勢の為に尽くされたお嬢様が、フランは誇らしいです」

「私にできる事なんて大した事じゃない! 私は聖女なんかじゃない! 私はもっと利己的で、打算的で……それに、私はそんなに強くない!」

「はい、知っています。でも、全て背負われるんですよね」

「だって私は貴族だもの。ずっとそう教えられたもの。そうやってしか生きられないもの」

「……ええ。そんなお嬢様だから、私が支えます。ベネットも助けになります。お嬢様は一人じゃありません。弱気になったなら、いつだって頼ってください」


 私の性根はどこまで行っても前世のままで、急に強くなんてなれない。でも貴族の生き方は厳しくて、その責任は重い。

 周りに甘やかされて、贅沢に囲まれて、生活に苦労なんて無くて……、そうでなかったら、きっと私は異世界(こんなところ)で生きていけなかった。その分、義務と責任が圧しかかる。

 だけどこの生き方は強制された訳じゃない。

 こうあるべきだと選んだのは、間違いなく私自身の意思だから、顔を上げたらまたいつもの私に戻るから。


 今だけは寄りかかる事を許してほしい。

 もう少しだけこうさせてね、フラン。

お読みいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] タイトル詐欺です。 これは絶対にそんな軽い物語ではありません。 主人公はなんか宣ったようですが、間違いなく聖女の偉業ですね。 それがどれほどすごい事かはよく伝わって、感服です。
[一言] お疲れ様レティ
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