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大魔導士と呼ばれた侯爵令嬢 世界が汚いので掃除していただけなんですけど… 【書籍2巻&コミックス1巻発売中!】   作者: K1you
1年生編

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復興聖女 4

「スカーレット・ノースマークが命じます! これから、新しい治療を試します! 皆さん、私の指示に従ってください!!」


 突然貴族の立場を振りかざした命令に、人々の反応は決して芳しいものではなかった。想定通りではあったけど。


 ここに居る人達は、貴族である事を強調して無茶を言ったガーベイジを排除する私を見ていた。私が口にした綺麗事を聞いていた。

 それだけに、失望を隠せない人も多い。

 治療に当たる医師の中にもそういった反応は見られる。


「聖女って少し持ち上げられたからって、治療に口を挟むのか?」

「回復薬を用意してくれればいいのに」

「新しい治療って、実験動物扱いする気か?」


 彼等の立場からするともっともなので、陰口くらいは気にしない。そもそも、愚痴を言えるくらい余裕がある人、つまり、黄色輪って事だから、治療を急いでいない。スライム治療の対象には基本的に入らない。


「何の権利があって、邪魔をするんだよ。俺達が痛いのを我慢しながら、治療を待っているのが見えないのか?」


 でも一人、はっきり不満の声を上げた人がいた。


 腕輪は黄色だけど、左の肩から先が潰れて痛々しい。止血だけして、残りの処置は後に回されてるみたい。上級回復薬で足りるかも怪しい。


 気持ちは分からない訳じゃないけど、考慮してあげられない。


「権利? それは勿論、私が貴族だからに決まっています。私の方針に、あなた方の都合は関係ありません」


 傲慢貴族そのものみたいな事言わなきゃいけないのが辛い。


「非常時ですから、不敬は聞かなかった事にしてあげましょう。ですが、従えない者に施す治療はありません。邪魔になりますから、ここから去ってください。特に貴方、足は動くのでしょう? 受け入れてくれる病院を探しに行っては如何?」

「な!?」


 ぴしゃりと言ったら、言葉をなくした。


 そんなところがあるなら、ここで脂汗を流しながら後回しにされ続けてないよね。無茶言ってるのは分かってる。

 でも今は、心を折ってでも従ってもらう必要がある。


 私が引き下がる事は無いって通じたのか、彼はそれ以上何も言わなかった。納得した訳じゃないんだろうけど、小声の非難も止んだ。権力を前面に押し出した貴族に、滅多な事は言えないよね。


 私の根幹には前世の記憶があるから、できるならこんな事言いたくない。

 でも今回は、私の横暴って体裁を明らかにしておかないと、スライム治療で問題が起きた場合、現場の医師に責任が向きかねない。責任者に責任が向かないとかおかしいと思うけど、貴族は権威に守られている。




「スライムを熱傷の治療に使う、ですか?」


 改めて私の説明を受けた医師のほとんどは、信じられないといった反応だった。

 でも、特級回復薬の準備に、まだ2時間近くかかると聞くと、渋々ながらにスライムを受け取ってくれた。中には、指先を切って治癒能力を試してる人もいるけど、そのくらいで受け入れてくれるなら問題ない。


 回復薬を注射や点滴で投与する事には、それほど拒否反応は無かった。私がスライムに魔法付与してる間に、先生達を説得できるくらい検証を進めてくれたカンバー先生に感謝だね。


 最初にスライム治療を開始した患者は58人。用意したスライムの数からすると、少なくなった。

 これは私の失敗。

 検証が成功した事に興奮して、そのままスライムに魔法を付与してしまったけれど、サイズが大小様々だった為、貼り付ける面積がバラバラになった。

 治療スライムに魔素と水を与えて膨らませそうとしたところ、上手くいかなかった。

 付与で生態を書き換えてしまったから、魔素と水で魔漿液を生成する本来の能力を無くしてしまったんだと、スライムを患部に張り付けながら気付いたよ。

 急を要する人は、熱傷範囲が広い場合が多い。だから用意したスライムでは、多くの人へ回せなかった。


 その分はキャシー達が頑張ってくれた。

 スライムは魔素と水を吸収すると大きくなって、2倍くらいまで膨らむと、核を分裂させて2匹に増える。その境界を見極めて、なるべく大きな個体を回してくれた。

 私も次々付与を行って、必要としている人達へ行き渡らせてゆく。200を超えたあたりから、数えるのも止めた。とにかく、数をこなす事だけを考える。


 作業を続けながら、私の視線は一人の少年に向いていた。

 輪の色は白。

 身なりからすると、貴族の家で働く使用人の子供だと思う。年は私より少し下くらい。熱傷範囲は身体の半分以上に及んでる。処置の時点で呼吸は細く、薄く開いた目は何も写していなかった。

 特級回復薬があったとしても、飲ませる事すら難しそう。

 でも、治療スライムを使った方法なら、助けられるんじゃないかって、願ってる。


 少なくとも、回復薬の注射で呼吸音が聞こえるくらいには持ち直してくれた。


 大人でも厳しい火傷に、見たまま子供の体力。

 白輪37人の中でも、最も危険なのがこの子だと思う。


 逆に考えるなら、この子を助けられれば、多くを救える指標になる。

 だから、スライムへの付与を続けながら、時々気にかけてしまう。


 容態を見ながら、時々ポーションの原液をスライムに与えるカンバー先生も、祈るように彼の手を握ってる。回復魔法を重ねてかけてあげようにも、光属性の先生では害を与えかねない。

 できるのはスライムの治癒・鎮痛能力を切らさない事だと、注意深く観察している。


 自ら魔漿液を作れなくなったからなのか、治癒スライムは含有魔力が少なくなると、その表面がしなびてくる。そのタイミングを見逃さないよう、見守る方にも力が入る。


「……あ、れ……?」


 不意にか細い声がした。


 何の反応も見せていなかった男の子の瞳が、不安そうにあたりを見回している。


「……ぼ…く、死ん、じゃった……の、かな?」


 ドキリとする。


「……あんなに、痛かった……のに、今は…なんだか……ふらふわ、してる…や」

「「「―――!!!」」」


 大勢が息を飲んだ。

 カンバー先生が男の子の手を強く掴んで訴える。


「死んでない! 君は死んでなんかいない!! 夢でもないぞ、君はまだ生きている。だから、もう少し頑張れ!」

「……おじちゃんが、助けて…くれたの? あり、がと……」

「ああ! 助ける、助けるから、君も頑張ろう? ……な?」

「う……ん」


 小さいけれど、確かに聞こえた返事に、拳を強く握っていた。


 やれる。

 助けられる。

 治療スライムは、確かに効果があった。


 あの子が生きててくれて、良かった……。


「助かる……の?」

「良かった……良かった……良かった……」

「生きられる、生きられるんだ……!」

「……ありがとうございます! ありがとうございます! ありがとうございます! ありがとうございます……」


 喜びは私だけのものじゃない。

 歓喜と安心が救護所に伝播してゆく。


 空気が変わった。


 見た目の拙さと印象の悪さからスライム治療を嫌厭していた人達からも、治療を望む声が上がり始める。

 生気を無くして横たわっていた人達にも、希望が伝わる。

 感極まってすすり泣く声まで聞こえる。


 勿論、私の心も救ってくれた。


 無駄じゃない。

 私は、確かに彼等の力になれた。


 丁度、背負子いっぱいにスライムを運ぶウォズが見えた。彼の顔も、遣り甲斐で綻んでいる。

 まだまだ私の付与が要る。

 でも、漫然と作業を繰り返すだけじゃない。一つ一つの付与が、確かに誰かの助けになっているって確信できた。


 魔法の使い過ぎで少し頭が重いけど、千でも二千でも、絶対やり遂げてみせるよ!

お読みいただきありがとうございます。

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