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大魔導士と呼ばれた侯爵令嬢 世界が汚いので掃除していただけなんですけど… 【書籍2巻&コミックス1巻発売中!】   作者: K1you
1年生編

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復興聖女 1

 私達が被災現場に着いた時、ビーゲール商会の職人さん達はスライム濃縮装置の改造を進めてくれていた。

 変更点は2点。

 ポーションの素にもなる濃縮魔素の注ぎ口を設置。

 それから、可動用への換装。

 据え置き用しか設計していないので、突然の仕様変更になる。移動自体は台車にでも載せればいいけど、動力と熱源の設置指示は無茶振りもいいところだったと、我ながら思う。ごめんね。

 それでも私の無茶に応えようと、分割付与製品の試作機をいくつも運んできて条件を満たす形に組み替えてくれている。動力には大型に設計した魔導変換器を、熱源はスライム核を傷つけない為、直火ではなく高圧蒸気による間接加熱装置が用意してある。

 こういう時、何も無いところから火や水を生み出せる魔石は便利だなって思う。


 彼等にも強制はしていない。なのに、誰一人欠ける事なく、培った技術を生かそうと集まってくれた。

 その心意気には応えなきゃと思う。


 設営は彼等と、指示出ししているキャシーに任せて、私は救護場所へ向かう。

 サーブテイジ伯爵の屋敷が緊急対策本部として活用されていて、その庭に急を要する負傷者が集まっている。

 伯爵はこの事態に全面的に協力する構えで、屋敷には軍関係者が調度品を気にする事なく踏み込んでいるし、大人数の出入りを邪魔する塀を突貫で除去する徹底ぶりだった。


「う!?」


 救護所に向かう途中、焦げたたんぱく質と膿の臭いが混ざって漂ってきた。


 私は慌てて表情を凍らせる。


 ここで顔をしかめたり、嫌な顔をするようなら、先へ進む資格がない。

 私は綺麗なものだけを見に来たんじゃない、一人でも多くを救う力になりたくて、我儘を通したんだから。


 痛みに呻き声をあげる人、荒い息を繰り返すだけの人、焦点の合わない目で空を見つめるだけの人、泣き疲れて気を失った子供、そして人、人、人……この光景を見て、安易に掌握魔法を使った事を、私は後悔した。

 ここは火の手の拡大から逃れる為、火事現場から距離がある。当然、魔法の効果範囲には入らなかった。

 掌握魔法で貯めたモヤモヤさんは使い切っている。移動過程で出来る限りを回収したけれど、連続使用にはとても足りない。私の使う回復魔法も魔力量に任せたごり押しなので、専門家のそれと違って大人数の治療に向かない。

 消火を優先しなければ被害はもっと広がったと分かってはいても、今魔力が足りない事を不甲斐なく思ってしまう。

 回復薬を作る事でしか貢献できない状況が情けない。


 被災者は貴族関係が多い。

 焼けた大部分が貴族区画である事に加えて、やたらと広い屋敷が多いから、火事に気付くのが遅れて逃げるタイミングがギリギリになったんだろうね。あのあたりは逃げるのに向いた立地してないし。


 患者の手首、もしくは足首には白、赤、黄の輪が取りつけられていた。

 色と患者の状況を見比べて、その意味するところはすぐに分かった。

 今すぐ命に関わるものではないけれど、処置しなければ後遺症が残る患者が黄。すぐにでも処置しなければ命が危ない患者が赤。そして恐らく、白は手の施しようのない人だと思う。

 前世のトリアージタグのようなものがここにもあるらしい。

 異なる点は、輪が魔道具で取り付けられている事。多分、勝手に取り外せない魔法がかかってる。


 白い輪の人も多くいる事に胸が締め付けられるけど、逆に考えれば特級回復薬を必要としている人が一目で分かる。


「おお! スカーレット様、丁度良いところに!」


 色別の数を把握して、必要な回復薬の内訳をおおよそで伝えようと決めた時、ここであまり聞きたくない声がした。


「噂の回復薬を我々の為に提供してくれるそうですな。聖女と呼ばれるだけの行い、感服しました」


 見覚えのある鶏ガラもっさり髭はガーベイジ子爵。

 受け身をとれずに転んだのか、顔左半分の擦り傷が痛々しい。当たり前だけど識別の色輪はない。


「ですが、折角こうして私が受け取りに来てやったのに、医者共が渡せないと言い張るのです。スカーレット様、愚かな医者共を叱ってやってください」


 この人にまた会うとは思ってなかったけど、非常時にこういう貴族(バカ)が出るのは予想してた。

 残念だけど、相手をしてる余裕は無いんだよね。


 だから、有無を言わさず胸元を掴んで引き摺り倒した。


「3秒あげます。このまま首をへし折られてここで回復薬を待つか、私の目の届かないところに消えるか、選んでください」

「―――ヒ、ヒィッ!」


 私が怒っているのは伝わったみたいで、青くなったのを確認してから雑に放り投げた。


「ぐっ! 爵位も待たぬ小娘が! 私への仕打ち、必ず後悔させてやるからな!」


 3秒待つ事なく意識から外す。

 逃げ去る前に何か言ってたけど、居なくなったなら何でもいいや。


 色輪の確認作業に戻ろうと思ったけれど、今の騒ぎで注目を集めてしまった。

 介抱に当たっていた医師の一人が血相変えて飛んでくる。


「スカーレット様! 話は聞いていますが、このようなところにいらっしゃらなくても、回復薬を用意していただければ結構ですので……」


 やって来たのはインバース医院のカンバー先生。魔法治療医師として協力の為に来てくれてたみたい。


「私は私にできる事をしに来ただけです。一人でも多くの被害者を救うよう、王子からも命令されていますから、あの手の貴族は私が責任をもって排除します」

「あ……はい、それは助かります。ですが」

「私自身が治療の力になれない事は自覚しています。貴方達の邪魔はしませんが、魔力を回復させるポーションを持ってきました。使ってください」

「おお! ありがとうございます」


 私が瓶を差し出すと、既に青い顔をしたカンバー先生は迷わず飲み干した。限界を超えて回復魔法を使っているだろうに、自分を酷使してでも、患者を救う手を止めるつもりは無いみたい。


「カンバー先生、白い輪の方には、こちらの判断で特級回復薬を処方して構いませんね?」

「……宜しいのですか?」


 開発過程の協議で、特級回復薬は王侯貴族専用にする予定で進めている。

 アシルちゃんの奇跡で存在は知れ渡ったものの、命を軽んじる事に繋がりかねない薬は流通させるべきではないと判断された。貴族への販売数についても厳しく管理すると決めている。


「構いません、非常時です。先ほども言った通り、アドラクシア殿下もそれを望んでおられます」


 今回のような緊急事態や戦時供給のモデルケースになると思う。


「その他は、上級回復薬の製造をなるべく急ぎます。在庫は全て持ってきましたから、中級下級が多いですが、重傷者の治癒には効果が足りないと思います。貴方達の疲労回復や、患者さんの体力保持に使ってください」

「はい、助かります」

「綺麗事と分かっていますが、私はこれ以上1人も死んでほしくないと思っています。その為にできる事があるなら何でもしますので、是非仰ってください」

「スカーレット様にそう言っていただける事が励みになります。何かあった際には頼らせていただきますので、今は失礼します」


 うん。患者さん達をお願いします。

お読みいただきありがとうございます。

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