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モヤモヤさん 3

 結局、私の大号泣騒ぎは、フランのおさげに気を取られて私の機嫌が直ったので大事にはせず、夢見が悪くて泣いてたって事になった。


 お世話係として私と接する時間の長いメイドさん達は、その結論に納得しきれていない様子だったけれど、家長である父の決定は覆らない。

 原因は見つからないけれど、最も怪しいお布団を総入れ替えする事を約束させて、一旦は引き下がった。

 私も、モヤモヤさんで真っ黒になったお布団を交換してくれるのは嬉しい。


 お父さんとしても、夢で全てが片付けられるとは思っていないらしく、当分の間は私の様子をより細かく報告するようにメイドさん達に指示していた。更にその日からしばらくはお父さんの部屋で、お母さんと3人で眠った。

 私、お布団無かったしね。


 私としては、事情を説明できないものの、身体的にも精神的にも問題は無いので大丈夫と伝えたい。だけどその術が無い。

 片言で大丈夫と訴えられなくはないけれど、きっと信じてもらえない。

 だから、しばらくは殊更に元気な姿を見せて、安心させてあげることにした。流石に1歳児の空元気は疑われないだろうから。




 それはそれとして、私はモヤモヤさんと向き合わなくてはいけない。


 何より優先度が高いのは、先日のモヤモヤ溜まりの原因究明と対策だと思う。

 度々あんな惨劇が起こっていたら、私怖くて眠れない。


 ただこれ、原因は割と明らかだったりする。


 まず、自然発生の可能性は低い。

 モヤモヤさん発生の原理は分かっていないけど、これまでなかった事態が突然起こったのなら、それなりの理由が付帯する筈。


 お世話係は通常4~6人体制なのだけれど、私のお昼寝中、私に就くのは2人になる。私の就寝時間が不定期なので、私が寝ている間は最低人数のみを残して、他の人は仮眠をとったり、用事を済ませたりしているらしい。

 あの日はベテランメイドのフレンダと見習いのフランが当番だった。彼女達とフランを教育中のメイド長テトラ、私を含めてあの場所にいたのは4人だけ。

 私以外の3人はモヤモヤさんが見えていない。多少の付着はあっても、大量に運んで来る事もないだろうから、原因にはなり得ない。

 で、モヤモヤ溜まりの中心には私がいた。


 これ、どう考えても発生源、私だよね。


 モヤモヤさんが私から染み出して、吹き溜まりを作った。で、起きた私がモヤモヤさんに浸かっていて泣き出した、と。

 無自覚自作自演じゃん、穴を掘って埋まりたい!


 だけどこの1年、同様の事は起きなかった。

 でもって最近と以前で違う事はと言えば――――これも明らかだよね。


 誕生日に贈られた私の箒。

 楽にモヤモヤさんが消せるからと楽しくなって、屋敷中を磨いて回った私。この数日で私の処理するモヤモヤさんの量が一気に増えた。


 状況から考えて、触れる事で消えていると思っていたモヤモヤさんは、その実、私の中に蓄積していたらしい。

 (けが)れを祓う魔法少女かと思っていたら、(よご)れを吸い集める人型掃除機でした。

 しかもダストボックスは私自身。何それ、凹む。


 そう考えると、モヤモヤさんを吸い込み過ぎたせいで、私から溢れたのがあのモヤモヤ溜まりの正体って事になる。


 え!?…………………つまり、あれは私の排泄物?


 と、言う事は、お漏らしで号泣して、屋敷中を騒がせた挙句、心配して原因を探すメイドさん達が排泄物塗れになるのを黙って見てたの!?

 誰か私を殺して……。




 ともかく、原因は分かった。

 細かく考えると死にたくなるから、今は対応策を考えよう。


 単純に考えて、私の中でモヤモヤさんが溢れそうになっている訳だから、排出してしまえば2度と漏れる事はない。

 ただし、この方法、今は使えない。

 成長と共に行動範囲が広がって元気に遊び回っていたけれど、急に世界が広がった事で実は精神的に負担が大きくて、密かに不安定になっていたんじゃないか。それが先日の騒動に繋がったのではないかとお母さんが心配して、現在外出自粛中なんだよね。

 誤解だけれども、お掃除に夢中になり過ぎた私が悪い。

 お掃除ごっこは勿論、お散歩にも連れて行ってもらえない。部屋を出るのは食事と入浴時のみとなっている。


 仮に、隅に排泄物が堆く積み上げられた部屋を想像してみてほしい。匂いは無くとも、何かと視界には入るのだ。間違いなく病む。

 食堂とお風呂も論外だよね。


 それなら次策。漏れないように栓をするしかないかな。


 ただこれ、言うは易いが、行うは難い。

 口や鼻等々、分かりやすい身体の穴を塞げば済む話じゃない。


 モヤモヤ溜まりに浸かっていた際、私は()()が真っ黒だった。汚れが集中していた特定の個所はなかったし、モヤモヤさんは服に染み込んで広がったりしない。

 だから、汗の様に全身から漏れ出てくる可能性が高い。


 そうと分かれば、早速、自分の掌を観察してみた。

 ぱっと見、何も見えない。

 けれどそれで終わらせずに観察を続ける。目力込めて凝視する。


「―――!! みーった!」


 うっすらと、極僅かに、ジワリ、ジワリ、と漏れ出ているのが判る。

 仮説は証明された。

 それなら、後は塞ぐ方法を考えればいい。


 無茶な理論展開だとも思うけれど、なんとなく、上手くいく予感もあった。


 今は本当に僅かしか漏れていない。でも、先日は短時間のお昼寝の間に、大量のモヤモヤさんが噴き出た事になる。寝ている時、つまり弛緩していると漏れやすい訳だね。


 それなら、その逆もできる筈。

 ヒントはさっき、漏れを見つけた時の行動。見えなかったものが、ジッと力を込めたら見えるようになった。

 私はモヤモヤさんに干渉できる。


 ぎゅっと、全身に力を入れる――――まだ漏れている。


 ぎゅっぎゅっと、体の中身を内側に押し込むイメージ――――漏れている。


 ぐっと、身体を固くするイメージ――――漏れてる。


 さらに、全身を薄い膜で覆うイメージ――――漏れて、……ない!


「やっちゃ!!」


「「お嬢様!?」」


 成功した喜びで、思わず飛び上がったら、メイドさん達の悲鳴が上がった。

 うん、考え事している間も彼女達はいたよ。お嬢様で幼子の私に、一人きりの時間なんてないんだよ。


 で、今、50センチくらい飛べてたよね。

 赤ん坊が、おおよそ身長の半分以上の跳躍――――そりゃ、悲鳴も上がるよね。


 多分だけれど、これもモヤモヤさんのせい。

 まだまだ分からない事で一杯です。

お読みいただきありがとうございます。


投稿を始めてから1週間が経ちました。

こんなに品ない展開の続く話にするつもりはなかったんですが、書いてみないと分からないものですね。勉強になりました。今後も宜しくお願いします。


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― 新着の感想 ―
[一言] 黒いモヤモヤが何なのか気になりますね。文章に惹き込まれる。笑
[一言] なにかに憑りつかれてるとかラノベ界隈でよく聞く瘴気の類かはたまた怨恨が形になったものかと思ってたら思いっきり違って予想を遥かに上回る作者殿の発想力に脱帽。
[気になる点] まさか黒モヤさん、身体に良い奴なのか……?
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