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大魔導士と呼ばれた侯爵令嬢 世界が汚いので掃除していただけなんですけど… 【書籍2巻&コミックス1巻発売中!】   作者: K1you
1年生編

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種明かし

 もう少し泳がせておいた方が、観覧の皆さんには楽しんでもらえたかもしれないけど、この糾弾が始まった時点で、私の目的は達してる。

 アノイアス殿下に呆れられてまで、被害者の演技を続ける必要はないよね。


 だから、暗躍疑惑をあっさり認めたのだけれど、それを明後日の方向へ解釈した人がいた。


「ついに白状したな、この悪女め! 兄様、聞いての通りです。全てはこの女が我らを陥れる為に目論んだ事、その罪、償わせましょう!」


 ある意味凄いな、この人。

 話聞いてた? まさか、本気で理解できないの?


 ただはっきりしてるのは、この人、本当に何も知らないまま担ぎ上げられたんだって事。思った以上に、伯爵子息と導師にいいように使われてたみたい。

 特に同情はないけれど。


「はぁ、誤解のないよう言っておきますが、私にアロガント殿下を陥れる意図はございません。私の狙いは、エッケンシュタイン導師です」

「な、何? ……ま、まさか、儂を引きずり出す為に5塔に接触を!?」


 漸く、悪い噂を撒いたのが、反感を私に向ける為だったと気付いてくれたみたい。魔塔に関わりのないところで回復薬が生まれたり、聖女呼ばわりされるようになって余計に刺激したりと、出来過ぎの部分はあったけど。


「ええ、貴族の魔塔に対する不信感を煽り、後任の導師には立て直しを望む方を迎えられるよう備えておりました。その是正改革を推し進める為にも、現導師には問題行動を起こしてもらって、その地位を引いていただく必要があったのです。例えば、公の場で、最近活躍目覚ましい侯爵令嬢へ、何の根拠もない言いがかりをつける、とか」


 ちなみに私は実行役。

 筋書きのほとんどを書いたのはお父様だけどね。そうでなかったら、法務大臣を動かして、大きな釘を刺すなんてできないよ。


「ふ、ふざけるな! 歴史ある魔塔を何だと思っているのだ。300年に渡って、王国を支えてきたのだぞ。繁栄の立役者を愚弄する気か!?」


 まるで、自分がその一員みたいな事を言うね。


「その魔塔の歴史に傷を付け、先人達の功績を軽んじる貴方を排除しようと思ったまでです。王国の研究機関は、実力主義を形骸化させ、上位者に忖度し、金銭で功績を買う、高いところを好む愚か者の集まりだなどと、国内外に噂を広めさせる訳にはまいりませんから。勿論、魔導技術省の了解を得て動いていますよ」

「そ、そんな……」


 魔法や魔道具と言った、文明を支える技術についての行政を管轄しているのが魔導技術省。

 だから、国営研究機関である魔塔の人事権もここにある。彼等が動いていると知って、覆しようがないと悟ったみたい。


「ふむ、魔塔の状況は私も悩ましく思ってましたから、反対はしません。しかし、省庁を巻き込んだ、それだけ大掛かりな改革の話が、私達王族に知らされていなかったのは何故でしょう? 伝達されていれば、弟がこうして恥をかく事もなかったと思いますが?」


 アノイアス殿下、こんな事言ってるけど、魔塔の優秀な技術者の取り込みを進めてたんだよね。それをされると研究機関としての根幹を失って、傷が広がってしまうから、先に動かせてもらった。

 魔塔の在り方が正常化されれば、引き抜きに応じる技術者は減ってしまう。

 内心面白くないだろうけど、殿下の表面上の落ち着きは崩れない。


「申し訳ありません。ですが、導師が第3王子派閥と懇意にしていると知りまして、何処まで繋がりがあるか調査中の為、情報を控えさせていただきました」


 第1王子派は兵器転用できる技術を求めて、第2王子派は人材を欲して、それぞれ魔塔と接触がある。その繋がりが、正当なものなのか、腐敗を助長させるものなのか、この期間では明確にできなかった。


「先日魔塔を訪問した際、お父様の対応より、ドライア伯爵を訪ねる事を優先させておりましたので、癒着が明らかになりました」

「ほう、この国に身分制度を理解していない者がいるとは驚きですね。それで貴方は、ドライア令息の動向に注視していたと言う訳ですか」

「ええ、間者をあっさり受け入れてくれたので、調査がとても楽でした」


 レグリット曰く、おだてると何でも話してくれたらしいから、裏付けも楽に進んだよ。


「ま、待て! それはおかしい!」


 まだ状況が理解できないのか、ドライア子息が何やら叫ぶ。


「契約無効化の薬を使ったのだ、その女が、貴様に従う筈がない。それに、金も地位も用意してやったではないか!? お前も、俺に従うと言ったろう?」

「……そうなの、レグリット?」

「そんな事も言ったかもしれません。何をもってそれを信じられたかは、分かりませんが」


 レグリットって、お金や地位より、研究の環境と正当な評価を望むタイプだからね。

 そもそも、契約に縛られて従うようなら、お父様は彼女を私に就けたりしない。本人が望んでノースマークに居るんだから、契約無効化なんて、彼女には意味を成さないよ。


 多分、自分に都合の良い事だけ言われて、レグリットが言う通りに動いてくれるって舞い上がってたんだろうね。


「ぐ、……そ、その女が貴様側だったとして、塔長達はどうだ? こいつ等は貴様に従う理由なんてないだろう。ならば、提出させたこの資料は本物の筈だ! 貴様の不正の証拠である事に違いはない!」

「従う理由は無くとも、彼等は契約に縛られています。情報の漏洩などできませんよ」

「契約は無効化したと言っただろうが。こいつ等は未来の俺の部下達だ、俺に逆らうなどあり得ん」

「ですから、契約の無効化など、できていないと言っているのです」

「は!?」


 魔導契約というのは、特殊なインクで書面を制作する。このインクが魔法薬で、署名した者を魔法で縛って、強制的に書面の内容を履行させる。

 で、ドライア令息が得意気に言ってる無効化薬は、この魔法の縛りを紐解いてしまう。

 そうは言っても、無条件って訳じゃない。

 薬は、束縛魔術に干渉するけれど、これも魔法だから、束縛を打ち破れるだけの魔力が要る。具体的には、インクに使った素材の含有魔力を、服用者が超えていないといけない。


 原材料や製法は無理でも、これくらいは調べられる。当然、対策は取ってるよ。


「こいつ等は、定められた魔力量規定を通過している。一般人より遥かに魔力は多い魔塔員だ。外部の人間が仕込んだ魔導契約など、薬を使えば無かった事にできる筈だ」


 2人もそう思ったから、躊躇わずに契約書にサインしたんだろうね。


 令息の見苦しい喚き声に私が答える前に、アノイアス殿下が話を引き取った。


「ふむ、私にも絡繰りが読めてきたよ。ノースマーク令嬢、何でも貴方達は、魔素や魔力を扱う研究をしているとか。その技術を使って、インクの含有魔力量を上げたのではないですか?」

「はい、その通りです。平均的な人体魔力の、およそ10倍を籠めました」

「「―――じゅっ!?」」

「ははは、それでは、薬を使ったところで、跳ね除けられる人間はいないでしょうね」


 私を除けば、ね。

 私が直接魔力を籠めても良かったのだけど、今回の高含有魔力インクは研究室で作った。今後の事を考えると、私以外でも対策を取れるようにしたかったし、実験も兼ねたからね。

 おかげで、販路が広がったって、ウォズがほくそ笑んでたよ。


「ですから、5塔のお二人は契約に縛られたままです。もっとも、契約を破棄しようとして違反条項に触れましたから、賠償金が発生しています」


 魔導契約に違反なんて普通はできないから、違反条項を盛り込む例は少ないんだけどね。今回はしっかり記しておいた。

 まあ、書面を読んで、その不自然さに気付かなかったんだから、自業自得だよね。


「塔長達は、先日の醜態が噂になって実家から縁を切られてますから、支払い能力がありません。ですから、補償を待つ代わりに、偽の資料を提出する役を負ってもらったのです」

「ば、馬鹿な……」


 勿論、この程度で償える金額じゃないから、塔長達の未来も碌なものじゃないだろうけどね。


「ま、待て、ならば、資料に書かれたスミス・シモンズの名前は何だったのだ? 研究に関わったからこそ、署名があったのではないのか?」

「スミスさんですか? 今頃、コールシュミットのご実家で静養してると思いますけど」

「は!?」


 ドライア令息の顔が、全く理解できない事を聞いたと硬直した。

 本気で知らなかったみたい。


「いえ、先程から失踪と言われて、不思議に思っていたのですけれど、業務量過多で付与魔法行使中に倒れられた方ですよね。病院で目を覚ますと、付与基盤の納品が間に合わなかった責任を負わされて、失踪した事にされていたそうですよ。今は心身の容態を崩されて休まれていますが、訴訟の準備を進めていると聞いています」


 気まずそうに導師が目を逸らしてる。

 都合の良い事だけを吹き込まれてたみたいだね。お互い様だろうけど。


 適当な名前を書いておいたら想像以上に嵌まって、笑いそうだったよ。


「随分、御粗末な結果となりましたね。そもそも、この資料を見た時点でそうなる気はしていましたが」

「……ど、どういう事でしょう?」

「ノースマーク令嬢の研究は、全く新しい付与魔法を生み出したそうです。ここにあるような、素材を変更したり、魔道具を補助に使うと言った単純なものではありません」


 第1王子が知っていた事だからね、アノイアス殿下が知っていても不思議はない。勿論、第3王子だって知れる立場にいたけれど、彼等はその伝手を使って裏を取ろうとしなかった。


「侯爵令嬢への侮辱に、冤罪転嫁、虚偽証言、いくらでも罪状が挙げられそうですね。ただで済むとは思わない事です。叩けばいくらでも余罪が出てきそうですからね、きちんと手続きを踏んだ上で拘束して、洗いざらい吐いてもらうとしましょう」

お読みいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
なんとこういう結末になったかー ドライア子息、自分が自滅行動をおこせる有能さはあったぞ!
いたいけな聖女(笑)を虐めてた罪は重いw
[良い点] いつも楽しく読んでます! 案内から見つけて、前半と後半を読んでました、今は前半の読んでたところから少しずつ読んでいます。 読み方としてはだめなんでしょうけど、やらかしや、策略、発明とか…
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