改めて第3王子の暴走と第2王子
アドラクシア殿下は、第3王子が再びの暴走する事を警戒して、城の外まで送ると提案してくれたのだけど、私は断った。
城の人達に、殿下と私のつながりを印象付けたくなかった事が一つ。
対談は王様の代わりだったから仕方ないとしても、聖女として知られてしまった私が、戦争推進派の王子と共にいるのはイメージが悪い。ジローシア様とのお茶会も、受け入れはしたけれど、参加者は派閥を偏らせないように頼んである。
こんな事で小細工を企むような人達ではないだろうけど、無駄に距離を詰める必要はないからね。
それから、第3王子をこれ以上刺激したくないのが一つ。
どうしようもない人だけど、あれでも王族だから、私の方から敵対意思を見せる必要はない。あの人が私を気に入らないのは仕方ないから、放っておいてくれるのが一番なんだけど。
「スカーレット・ノースマーク! 貴様の企みもここまでだ!」
で、そんな私の思いもむなしく、玄関ホールで待ち伏せされていた。
アドラクシア殿下は心配していたけれど、今日中2度目があるとは、正直、思っていませんでした。
さっきの今で、恥とかないのかな?
今度はしっかり取り巻き付き。根拠なく側近筆頭っぽい態度のトリス・ドライアを始めとして、子爵伯爵令息が数人。けれど、この集まりで時々見かけたガーベイジの子爵子息の姿はない。この間の事故で首になったかな?
そして、代わりに取り巻きへ加わった訳ではないんだろうけど、普段は見ない顔が一人。
入学式で見知っている、魔塔の現責任者、エッケンシュタイン導師。勿論、魔塔設立者本人じゃなくて、その傍系にあたる人。
世襲と決められている訳ではないけれど、300年で半分くらいはエッケンシュタイン家の人が導師を務めている。実力主義の魔塔で世襲もどきがまかり通っていたくらいだから、今の腐敗も仕方ないのかもしれない。
ちなみにこの導師さんは、爵位を持っていない。その名を継ぐ直系の家は、また別にあるからね。
「企み、とおっしゃいましても、心当たりがございません。殿下は何を指摘していらっしゃるのでしょう?」
「とぼけても無駄だ。兄は騙せても、俺はそうはいかない。観念するがいい!」
微妙に話が嚙み合っていない。私としては、どんな言いがかりを持ってきたのか、聞かせてほしいんだけど。
どうも王子は自分に酔ってるみたいで、私に指を突きつけた体勢のまま、声を張り上げている。
ここは城で一番人通りのある場所で、吹き抜けにもなっているから、王子の声を聞きつけた人達が、階を問わずに集まってきている。
大勢の前で晒し者にして、憂さを晴らす気なのかもしれない。入学時の式典で婚約拒否を突きつけたくらいだから、そういう演出、好きそうだよね。
「騎士達よ、あの罪人を拘束しろ!」
大仰に私を示すけど、周囲は戸惑うだけで、その命令に従おうって人は出てこない。
無理もない。
私、まだ客人扱いだから、不当な拘束なんかすると、王様の面目を潰してしまう。取り巻き含めて、そのリスクを負おうって人はいないみたい。
その事を置いておいても、貴族の拘束は簡単じゃない。
「貴族の拘束には、法務省の許可状が必要となりますが、手続きはお済みですか?」
余程しっかりした不正の証拠を提出しないと、許可は下りないと聞いている。多くの理不尽な貴族がこの特権に守られて、自分は何でも許されると思っている場合が多い。
あまり好ましい慣習じゃないけど、守られてるのは私も同じ。
「うるさい、俺が命令しているんだ。そんなものは必要ない!」
そんな訳がないでしょう。
「例外は、現行犯の場合と、本人の自白があった場合、そして国王陛下の命令だけ。しっかり法に記されております」
「法など、俺が望めば何とでもなる。俺を誰だと思っている」
貴族の信用すら得られていない落ち目の3番目だよね。
「国王陛下なら、匙加減一つで逮捕も処刑も指示できます。けれど、法を逸脱した命令を下されるには、貴族の信用を失うというリスクを伴います。貴方は、陛下以上の事ができるとでも仰るつもりですか?」
「……そんな話、聞いた事がない。侯爵令嬢風情が、勝手を語るな!」
「個人が有する権利については憲法にはっきり記されております。政治学としては非常に初歩ですし、学院でも必修科目に含まれております。御存知ないと仰る殿下は、来年も学院に所属されるおつもりですか?」
「なっ、き、貴様、俺を馬鹿にするつもりか!?」
留年するくらい勉強不足ですかって皮肉は通じたみたい。
真っ赤になって怒る前に、自分の言動、思い返せばいいのにね。
「馬鹿に馬鹿と言っているまでですよ。彼女は何一つ間違った事は言っていない、そうでしょう?」
凄く同意だけど、私の言葉じゃない。
代弁者は城の奥、王族の居住区の方からやって来た。
「アノイアス殿下、このような場でのご挨拶となってしまい、申し訳ございません」
「構いません。父に呼ばれた身でありながら、其方を煩わせているのは我ら王族の不徳です」
ここで会うとは思ってなかったけれど、第2王子アノイアス殿下の登場で、周囲の空気が少し変わった。
もしかすると、アドラクシア殿下が遣わしてくれたのかもしれない。私にとって初対面の第2王子なら、変な勘繰りをされるリスクは少ないからね。
騒ぎを聞きつけて、野次馬的に来ただけだとしても、話の通じる上位者のお出ましは助かるよ。
短く切りそろえた黒髪灰目、目鼻立ちがはっきりしてるアノイアス殿下は、柔らかい雰囲気をしている。それでいて、控えめな印象はなく、自信に満ちているように思う。
赤い髪を待たない代わりだと思うけど、肩から掛けた赤いチェックのマフラーが、シックな装いに映えている。
「兄様、貴方まで、この女の肩を持つと言うのか!?」
「……そのような考え方しかできないから、愚かだと言っているのです。お前では埒が明きません、ノースマーク令嬢、事情を説明してもらえますか?」
話を振られたけれど、語る事は少ない。言葉が碌に伝わらなくて、ほとんど話が進んでないからね。
ついでだから、対談中に乗り込んできた件から話してあげたら、深い、深い溜め息をついた。容姿はそうでもないんだけど、兄弟だけあって、第1王子と仕草が似てるね。
「それで、お前は恥に恥を重ねて、何をしたいのですか?」
「その女が、いかに狡猾か、知らしめるのです!」
「……ノースマーク令嬢、貴方を招いた用件とは大きく異なる用向きになってしまいますが、今しばらく付き合ってもらえますか?」
「ここで話を切ってしまっても、気が済むようには思えませんし、アノイアス殿下が間に立ってくださるなら、比較的建設的なお話ができるでしょう。私からもお願い致します」
「感謝します。……アロガント、そういう訳ですからお前の教育は後回しです。感情で話すのではなく、事実だけを告げなさい」
お兄さんには頭が上がらないみたいで、嫌そうな顔をしながらも、さっきまでみたいな横柄な様子は鳴りを潜めた。
忌々しそうに私を睨む視線は変わってないけど。
教育を後回しって事は、お説教が待ってるって分かってるのかな?
「折角の機会だ、兄様にも知ってもらいたい。この女は、新しい付与魔法を発見したなどと言って、アドラクシア兄上にも取り入ったようだが、全て真っ赤な噓! 魔塔の研究者を拉致し、その成果を奪っただけなのです!」
へー、何だか凄い事、言い始めたよ。
これ、私はどう収めたものかな?
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