大魔導士収監される
私達は今、牢屋の中にいます。
死んだ国主アウフ氏の第一発見者。私達はそのつもりだったけれど、獅子人達はそう捉えなかった。私達がアウフ氏を殺害したものとして身柄を拘束された。
出入りが管理された最上階の部屋で国主が死んだ。
状況だけ見れば、その直前に部屋へ入った私達が殺害したとしか思えない。
「一応、私達の前に出入りした人間にも同様の容疑が掛かると思うのですけれど」
「それは確認した。しかし部屋を出る際、アウフ様と会話する様子が報告されている。以降の出入りがない以上、犯人はお前達以外にあり得ない」
私の指摘は、審問官にバッサリ切り落とされた。
彼の役割は私達への事情聴取で、この国では牢屋へ収監したまま行うらしい。牢の外に審問官用の椅子と机が用意してあり、担当者がそこからこちらへ質問を投げかける。鉄格子が魔力を通さない素材で作られているので、魔法を使って暴れられないためと思えば分からなくもない。
けれど、一時的であっても暗い牢屋から解放される機会は失われてしまった。
「私達が入室した直後に死体が発見された事も報告されているのでしょう? 私達に殺害する時間がなかった事もお分かりの筈ですわ」
「その件に関しても聞いている。けれどアウフ様の死因は脳挫傷、突き飛ばされて後頭部を打ち付けられたご様子でした。そのため、ごく短時間で犯行は可能だったと判断している」
「では、動機は何ですの? 私達がエルフ打倒のための協力を打診に来た事は既にお聞き及びだと思います。アスラン様によると、前向きに検討するとのお話もいただいておりました。そんな国主を殺害しなければならない理由はどちらに?」
「ついでに言うと、その犯行状況では私達が問答無用で襲い掛かった事になります。協力を仰ぐ立場でありながら、一言も言葉を交わさないまま国主を殺害する利点が、私達のどこに?」
「そ、それは……」
ジュート、私と続けざまに詰め寄られて、審問官はたじたじとなる。彼は横柄な態度を示している訳でもなく、こちらの言い分にまるで耳を貸さない訳でもないけれど、私達の犯行だと決めつけた前提での調査には応じられない。
「この国に混乱をもたらすためだと言われている……」
「へえ、ではどうして私達はここで大人しくしているのでしょう?」
「……ぐ!」
私達は抵抗することなく連行に応じている。いきなり国主を失って混乱するのは当然だと思うし、不可解な死を遂げた国主の第一発見者を野放しにできなかった気持ちも理解できる。
「どうしてこんな事を……っ!」
連行される過程で目にした、どうしようもない憤りを吐露するアスランさんの姿もちょっと忘れられない。
だから、これが不当な拘束だとも根拠が不足しているとも文句は言わなかった。少なくともアスランさんなら、気持ちの整理をつけた後できちんと捜査してくれると思う。
今はショックが大きいうえに、短絡的な報告を受けているだけだろうから。
そして、出るだけならいつでもできた。
この程度の魔力吸収材なんて私にとってはないに等しいし、私達が暴れて抑えられる人材はこの国にいない。
あくまで大人しくしているのは、きちんと捜査したならすぐに真犯人が見つかると思ったから。ディルガームくらいの国家規模であれば、国主が殺害されたテロ事件を決めつけや思い込みで真相を曖昧なままにしない。
それと、ここで事件を起こしたと疑われたまま逃走すると、マルフットへ集結中の獣人達からの信用が落ちる。
殺人容疑が掛かった人物が、しかも強行突破で逃亡した容疑者が決戦の先頭に立つなんて、きっと誰も認めない。何か企みがあるのではないかと疑われたままでは戦えない。そんな邪な意思はないのだと示すためにも、容疑を晴らしてから竜討伐へ向かいたかった。
きちんと取り調べが行われる範囲においてはここで大人しくしている。
特殊な金属の格子はそれほど多く用意できていないらしく、私達四人まとめての収監なのでシャハブやジュートを心配する必要もない。
混乱をもたらすなんて言葉が何処から出たのかは知らないけれど、そんな不確かな根拠をもとに判決を下すようなら力尽くでそれを覆す。真実を捻じ曲げる国だとして堂々鉄槌を下す。
エルフを討つ前に、私と敵対した者の末路として見せしめになってもらう。
「私達を尋問する前に、最上階の出入りを管理していた三人の証言にどれほどの信頼性があるのです?」
「以前に担当者を買収して偽証を強要しようとした者がいたため、国主様が徹底した調査を行なった上で管理を頼んだそうだ。入り口に設置した映写晶の記録でも同様の映像を確認したから、疑いの余地はないと思っている」
制御不能の怪物を押し込めている自覚はあるらしく、こちらの質問には答えてくれる。納得させられないまま反抗に出られるのを恐れているのかもしれない。
それでも、内容は満足できるものだった。
映写晶の記録もあるなら、出入りに関する証言は全て信じていい。
「もう一人、私達を案内してくださった女性はどうですの?」
「彼女は一度アウフ様の執務室に入った様子が確認されている。アスラン様が国主様を訪ねていらした際、お茶を出すためだった。しかし、それだけだよ」
「アスランさん? 私達への招待状を預かったと言う時の話ですか?」
「いや、アスラン様は二度おいでになっている。一度目は招待状の時、その次はお前達が来る少し前、用向きは報告のためと伺っている。お茶を届けたのはその時だな」
その時点で異常の報告が上がってない訳だから、事件はその後という事になる。
ちなみに、この世界では人間も身体に魔力を有する事から、死体の経時変化から死亡時間を割り出すのが難しい。魔力の個人差によって死後の代謝も大きく異なってしまう。
「念のため聞きますが、その女性とアスランさんの関係は?」
「顔見知り程度ではないだろうか。事務員の女性は多少思い入れを抱いている様子だったが、政務棟ですれ違う以外に接点はなかった筈だ」
眺めて満足するタイプかな。結託している可能性は低そうだった。アスランさんに父親を殺害する動機なんてないし、それで女性を抱き込むと言うのも彼らしくない。
「その後に来たのが私達という事ですの?」
「いや、アスアード様がその直前に駆け込まれている。だが、『死ね、くそ親父!』『おう、やってみろ。いつでも返り討ちにしてやる!』といつもの調子で罵り合っていたそうだから、アウフ様の生存は確実だ」
「それが、私達が来る前に確認されたと言う会話なのですわね?」
「ああ。頭を強打して意識が朦朧としていたとは考えられないほど溌剌とした様子だったらしい」
アスラン兄も、そのやり取りが現実になるとは思っていなかっただろうと思う。声に張りがあったという証言からも、嫡男を庇っての苦し紛れとは考えにくかった。
そうなると、状況証拠的に怪しい人物は私達しかいない。
少々強引であっても犯人に違いないとこじつけようとする気持ちも分からなくはないけど、そのまま確定されては堪らない。
「執務室へ入るのに、昇降機で来る以外の方法はないのでしょうか? 例えば屋内にこっそり別の昇降機を造るだとか、空を飛んで窓からこっそり出入りするだとか、空間魔法で別の出入り口を作るだとか、一般には公開されていない転移魔法があると言った話はないのでしょうか?」
「……そんな御伽噺のような事を言われても、全ての調査はしかねるよ」
ほとんど有り得ない可能性にまで捜査員を割く余裕はないと言われてしまった。王国では実際に起こりうる事例なのだけれど。
「しかし、スカーレットは別に夢を語っている訳ではありません。彼女ならそのくらいはできる。つまり、スカーレットがアウフ氏殺害を目論んだなら、正面から乗り込む必要などないと知るべきですわ」
「……ジュート、それ、私なら不可解な方法で国主を殺して、何食わない様子で戻ってくることも可能って事にならない?」
「あら?」
「……とりあえず、様々な可能性が考えられる事は捜査本部へ報告しておこう」
これ以上私達から引き出せる情報はないと悟ったのか、私達の罪を確定させるには自白だけじゃ足りないと思ったのか、審問官は疲れた様子で留置場を引き上げていった。
それと入れ替わりで面会が告げられる。
「ああっ! シャハブ様がこんなところに……、なんて事でしょう」
アスランさんかサーリア支部長あたりかと思っていたら、やって来たのはハイサムだった。商人としての人脈で面会許可をもぎ取ったらしい。
「……しかし、これはこれで有りかもしれませんね。掃き溜めに鶴と言いますか、薄暗い牢屋だからこそシャハブ様の神々しさが映えると申しますか……。英雄の活躍と言うのは全てが華々しいものとは限りません。苦境に陥るからこそ輝く逸話もあるでしょう。つまり、僕はその貴重な一瞬に立ち会っているのです。当然、ここから盛り返し、シャハブ様をこんな鉄格子の中に入れた愚か者どもへ応酬する過程を余すところなく見られる訳です。なんと光栄な事でしょう。そう思えば大きく羽ばたく前の一瞬の陰り、数奇なる時を心穏やかに休んでいただくべきかもしれません。その後は勿論お供いたしますとも。無知な獅子人達、枯草同然のみすぼらしい毛皮を纏った者どもに、燃えるような鮮烈な威容を見せつける様を余すところなく拝見させていただきます。それでも、僕の帰還が今この時でよかったと思います。拘束の瞬間に立ち会ったなら、どんな理由があれ我慢できなかったでしょうから……」
とりあえず本題に入って……!
いつもお読みいただきありがとうございます。
ブックマーク、評価をいただけるとやる気が漲ってきます。是非、応援いただければと思います。




