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大魔導士と呼ばれた侯爵令嬢 世界が汚いので掃除していただけなんですけど… 【書籍2巻&コミックス1巻発売中!】   作者: K1you
1年生編

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王様不在

 執事が先触れに来た後、部屋に入ってきたのは第1王子アドラクシア殿下達だった。


「すまんな。聞いたと思うが、父は席を外せなくなった。呼び立てておいて悪いが、其方への聞き取りは私が行う」


 うん、途中からそんな気はしてた。

 でも今は、殿下の隣にいる人の方が気になるよ。


「私は気にしておりませんし、殿下が気になさる必要もございません。それより、ご挨拶させてください、ジローシア様。スカーレットです」


 第1王子妃がご一緒です。

 私、この世界に転生して、縦巻きロールって初めて見たよ。金髪翠眼で、すっごいゴージャスですね。印象強過ぎて、胸元の大きな宝石も霞むよ。

 どうして同席する事になったかは、何となく想像つくけどね。今も、値踏みするみたいに私を見てるし。


 私としては、12歳の女の子を警戒しなくてもと思うけど、貴族社会ではこれくらいの歳の差婚、あるから困る。私、貴方の敵じゃないよ。


「初めまして。噂通り、可愛らしい方ね」

「……そう警戒してやるな。私にそのつもりは無いと言ったろう」

「ええ、信じてはいますけど。最近、貴方が彼女を話題にする事が多いものですから、つい、気になってしまったのです」


 多分、回復薬関係の噂から話が広がったんだと思うけど、誤解を振り撒くのは止めてもらえないかな。そして私を巻き込まないで。


 うん、早く話を逸らそう。

 私にもその気は無いって分かってもらおう。


「ジローシア様、お近づきの証に、こちらを試していただけますか?」

「……それは?」


 物で釣るつもりかって、警戒心がはっきり出てるよ。


「回復薬を応用して研究中の化粧水、その試作品です」

「まぁ!」


 凄い勢いで喰いついたよ。いや、釣るつもりは無いんだけどね。


 第1王子妃は、アドラクシア殿下の幼馴染って聞いているから、前世の私よりきっと上。神経質になって当然だよね。


「回復魔法を使った際、肌も活性化されて、一時的、局所的に綺麗になる事は御存知だと思います。私達は、その効果を持続させる方法を模索しております。その最初の成果を、是非お試しください」

「肌が健康と若さを取り戻す、と?」

「はい。現時点では、効果は半日ほどですが」

「つまり、美しさを保つための従来品とは異なり、限定的に美しさを手に入れる、新しい化粧品という訳ね」

「はい。従来品の効果を否定するものではございません。むしろ、日頃の手入れを、更に輝かせるためのものとお考え下さい」

「……それは素晴らしいわね」


 そう言いながら、ジローシア様不満そう。何か不手際ありました?


「……持参したのは、それだけかしら?」


 ああ。


 差し上げたのは小瓶だけだし、控えるベネットの鞄から覗いてるのも、同じ瓶が20本くらいだけ。王族女性で分けたら、1人当たり数本しかないよね。

 でも、これはどうにもならない。


「申し訳ありません。開発が始まったばかりで、改善の余地が多く残っております。すぐに仕様を変更する予定の試作品ですので、多くは用意できませんでした。勿論、もっと出来の良いものが完成した際には、一番に献上させていただきます」

「……そういう事なら、仕方ないわね」


 化粧品の開発は、塗布薬研究中の思い付きで、まだ2週間も経っていない。

 インバース医院で、できる限りの実験はしたけど、今日持ってくるかどうかも最後まで悩んだ。


 それに、さっきヒントを貰ったばかりだけど、魔法薬と魔漿液の融合研究は、化粧品にも応用できると思う。そう考えると、今回の試作品は、製品としては全然足りていない。


 帰ったら、化粧品メーカーにも共同研究を申し入れないとね。

 ウォズの寿命、削ってる気もするけど。


「本日は、ジローシア様を始めとした、この国で最も美しさを必要としている王族女性の方々に、私達の成果をお届けしたくて、お持ちしました。多くを用意できませんでしたが、ここぞという場でお使いください」

「気持ちを煽るのが上手いわね。今日のところは、その思惑に乗ってあげましょう。第2妃の若さを羨ましく思っていましたけど、しばらくは満足していただけそうですよ、アドラクシア様」


 国の顔として、公の場で威容を示すのも、ベッドの上で美貌を魅せるのも、用途はお任せします。


「それにしても、私と会う予定はなかった筈なのに、用意のいい事ね?」


 現王陛下の妃は、第3王子を生んだ後、亡くなっている。

 王様には側妃だけで、女のお子様はいないから、王族女性の序列はこの人が一番になる。私がジローシア様を狙って、化粧品を持ってきた事は伝わったみたい。


「陛下にお会いするなら、王子様達が同席する可能性を考えました。そうなると、一番の候補はアドラクシア殿下ですし、ジローシア様がご一緒されなくても、妃様への贈り物として献上すれば、きっと殿下にも喜んでいただけると思っておりました」


 前回、私と対談した事は伝え聞いてるだろうから、アドラクシア殿下が来るなら、ジローシア様はセットだろうと予想していたけどね。

 新しい化粧品の宣伝として、これ以上の人はいないから。


 王城に来る以上、できる限りの準備はしているよ。


「賢しいな、其方は」


 王子妃様と盛り上がっていたら、アドラクシア殿下が不満顔になっていたよ。何が気に障ったんだか。


「回復薬とやらの別用途を先に明かして、軍事利用を挫く意図もあるのではないか?」


 全くないと言ったら嘘になるけどね。


「アドラクシア様、何でも派閥関係を通して考えるのは良くないと言った筈ですよ。そうでしょう、スカーレットさん」


 こうして、王子妃様が少し肩を持ってくれたらいいなってくらいしか考えてないよ。


「はい。思い付いた使い道を、ジローシア様に伝えたかったまでです。それに、ジローシア様は聡明なお方とお聞きしております。将来の国母となられる可能性のある方が、この程度で、国の判断を違えるとは思っておりません」

「……ふん、まあいい」

「あら、人を立てるのも上手いものね。弟から聞いていた印象と、随分違うわ」


 この人の弟さんと言うと、前来た時に、怒り出した騎士がいたよね。今は姿が無いから忘れてたけど、お姉さんに言い付けたの?


「その件は、彼女に非は無いと言ったろう」

「ええ、存じております。スカーレットさんもごめんなさいね、あんまり教育がなってないから、国軍で鍛え直してもらっているの」


 あ、異動になったんだ。

 王子の側近から軍へ出向だから、左遷かもしれないけど。しかも、ジローシアさんの意向で。


「さて、前置きが長くなってしまっているが、改めて回復薬について聞かせてもらえるか?」

「はい、勿論です」


 魔漿液の発見から、結果的に起こった奇跡の演出、研究状況まで、既に隠す事もない。研究をひと段落して、量産が軌道に乗ったなら、全てを公開して国中に広げる計画まで、全て話した。


「秘匿するつもりは無い、と?」

「はい。噂の、人々の期待の広がりが、想像を超えておりました。これを私やノースマークの独自技術としてしまっては、悪感情を招くと考えております」


 技術料は貰うつもりだし、魔法付与と魔力充填の基盤は秘匿するから、完全に手放す訳じゃないけどね。

 魔漿液は、いろんなところで研究してもらった方が、新しいものがいっぱい生まれそうだし。


「それは助かる。其方のところほどではないだろうが、王城にも問い合わせが多いのだ。奇跡を一令嬢のものにして良いのか、などと言い出す者達を気にする訳ではないが、国の主導とできるなら有り難い」

「どうか、多くの民も救えるよう、お願い致します」

「うむ、それも父へ申し伝えておこう。その代わり、担当者を定期的に向かわせるので、経過状況を都度報告してくれ。国の方針を決めるのに、詳しい状況把握が必要だ」

「はい、勿論です。それから、こちらをお納めください」


 ベネットから、王子の側近へ箱ごと渡してもらう。


「特級回復薬、20本です」

「これが、蘇生薬とも噂される代物か、有難く頂戴する。これが必要になる事態など無いとは思っているが、備えがあるだけで心持ちは変わるだろうからな」

「私もそれを願っております。ですが、過去には王位を巡って暗殺が横行した事もございます。そう言った愚かな出来事の抑止力になれるなら、私達も研究した甲斐があります」

「抑止力、か。なるほどな」

「簡単には殺せないと知らしめてしまえば、暗殺など起こらないと言う訳ですか。子供達にも持たせておけば、心労が一つ減りますね。ありがとう、スカーレットさん」


 王様に会えないとか、想定外はいろいろあったけど、とりあえずお役目完了かな。

お読みいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 「……持参したのは、それだけかしら?」 お金を支払う気が全くなく、乞食みたいだね。
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