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大魔導士と呼ばれた侯爵令嬢 世界が汚いので掃除していただけなんですけど… 【書籍&コミックス1~2巻発売中!】   作者: K1you
消えた大魔導士編

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レティと行商人

「お願いします! どうか、どうか僕も連れて行ってください……!」


 私は今、南大陸にも土下座の文化があるのだと初めて知った。しかも、実演付きで。

 こっそりファイサルさんに確認したところ、首を斬られても構わないってほどの覚悟は必要ないらしい。少しでも平身低頭して誠意を見せる程度だとか。

 それにしても、今世の私は土下座とつくづく縁がある。


 エルフの行商人はハイサム・ジュンディと名乗った。

 商人を志したものの、エルフ国内では商機が掴めないため獣人への忌避感が少ない事を生かして故郷を飛び出したのだと言う。国外での取引が禁止されているドワーフ謹製品を持ち出しているあたり、割と抜け目がない。


「是非ともシャハブ様のご活躍を目に焼き付け、後世に語り継ぎたいと思います! その機会を、どうか僕にお与えください。誰もが興味を惹かれ、そのご尊顔を拝見しようと大勢が押し掛けるくらいに美しい物語にしてみせます!」


 ……金銭欲より美的意識の方が高そうだけど。


 ちなみに、ハイサムの勢いから逃れたいシャハブは、変人を喜ばせるだけの火炎獅子魔法を解き、今は私の背中に隠れている。二メートル越えの長身をそれだけ縮こまらせているのだから、相当嫌がっているのは間違いない。


 ついでに、方針の決定権を持つ私の方へハイサムの頭は向いているものの、関心は完全に私を貫通していた。

 なんでも、慄く様子も麗しいのだとか……。

 怯えさせているのアナタだけどね。


 とは言え、要望を聞き入れる義理もない。

 ぴしゃりと拒絶して南行きを続けようとしたところ、どんな風に感動したのかを滔々と語られ、フィルママンへの搭乗を邪魔され、足にしがみつかれ、駄々をこねられ、泣き落としされての今となる。

 イラッとしたジュートが強めに殴りつけたけど、残念ながらめげなかった。意外と頑丈にできている。


「どうしても受け入れていただけないなら、商人としてお役に立ちましょう! ドレス、装飾、化粧品、望まれるものを何でも手に入れてみせます。ですからどうか……」


 情に訴えても無駄だと判断したためか、物で吊る作戦に切り替えたようだった。こういった考え方は商人らしい。

 心に響くどころか、気持ち悪い言動で刻一刻と心象が悪化していた訳だけど。


 そして、商品の選択も間違えた。

 私とジュートの高級感から女性好みの贈賄品を想定されても、興味を惹くには至らない。南大陸でそれを着る機会はどう考えてもなかった。

 私は召喚時の魔導士服を着やすいように改良しているし、ジュートは動きやすくて好みに合った服をヒュウガライツで仕立ててある。今更TPOを弁えずに着飾ろうとは思わない。


 ジュートの服飾への関心にしても、最先端の技術を取り入れた流行を自国に作り出したいのであって、服であれば何にでも興味を持つ訳でもなかった。むしろ、ドレスそのものよりエルフの独自織物でも勧めた方が印象は良かったと思う。

 勿論、シャハブもファイサルさんもその方面に興味はない。


「シャハブ様は炎に似合う鎧がよろしいでしょうか? いや、魔法で服を保護できるなら礼服も捨てがたい……。宝石の輝きは炎の威容に霞んでしまうでしょうが、ドワーフの職人が作った耐熱、耐衝撃合金製の腕時計はいかがでしょう? ああ! 金の飾り紐も捨てがたいですね……」


 だと言うのに、シャハブを飾り付ける妄想にふけっているものだから冷たい視線を向けてしまう。


「……どうも関心を持っていただけなかったご様子。では、情報はいかがでしょう。これでも各地を渡り歩いておりますので、噂や流行、様々な種族の動向にも通じていると自負しております。住みやすそうな国、狩人が高収入を期待できそうな国など、ご要望に応じられると思います」

「へえ、それなら、ユーシアメイルの裏事情なんかも教えてもらえるのかい?」


 少し正気を取り戻して攻め方を変えたハイサムへ、ファイサルさんが意地悪そうな顔で言う。私達が本当に欲しい情報は漏らせないだろう、と。

 しかし、その返答で驚かされたのはこちらの方だった。


「勿論ですとも! 何がよろしいでしょう? 一介の商人に軍事機密や政治の裏側まで知る術はありませんが、それ以外であれば何でも話しますとも! 密入国するのに警戒が少ない経路でしょうか? 獣人が潜伏していても目立たない区画でしょうか?」


 この人の覚悟を舐めていた。


「同胞に裏切り者と誹りを受けても構わないと言うのか……?」

「それが何か?」

「……」


 あっさり返されて、ファイサルさんは二の句が継げなくなってしまう。

 真顔で言っているあたり、嘘を吐いている様子はない。


「僕はエルフでユーシアメイルに属してはいますが、国へ忠誠を誓った覚えはございません。いえ、たとえ誓っていたとしても、シャハブ様のためなら反故にしてみせましょう。燃え盛る炎が眼前へ降り注いだあの瞬間、僕の全てはシャハブ様に捧げると決めたのです! 何でもご用命くださいませ……」


 魅力的な提案ではある。これからユーシアメイルを攻めるにあたって現地情報は欲しい。狐人やマルフットの馬人に調査はお願いしてあるものの、現地人ほど詳細な情報は期待できない。

 けれど一方で、どこまで信じたものかも分からない。

 シャハブに救われた興奮で今は本気だとしても、後で冷静になって考え直す可能性は十分にあり得る。虚偽の情報を流されても証明のしようがないから、慎重にならざるを得ない。


 そうして警戒する私に、これだけでは押し切れないと察した様子で、ハイサムは更なる手札を追加する。


「では、魔道具、或いはその必要素材で如何でしょう? 見たところ、かなり特殊な移動手段をお持ちのご様子。更なる改良や異なる魔道具の開発をお考えなら、きっとお力になれると思います」

「……どういったものが手に入りますか?」

「シャハブ様がご一緒なのですから、魔石にはお困りでないでしょう。それなら、希少魔物素材やミスリル、アダマンタイトと言った魔法鉱石、それから精霊石やドワーフが好んで使うユーシアメイルの独自素材なども提供できます」


 それはちょっといいかもしれない。


「……お姉ちゃん」

「……スカーレット」

「……嬢ちゃん」


 顔に出したつもりはなかったのだけれど、私の心が動いたのを鋭敏に察した三人が冷たい視線を向けてくる。特に、シャハブの視線には恨みがましさが籠っていた。

 私、パーティーメンバー三人にこんな目を向けられるの、何度目だろうね?


「いや、私が欲しいってだけじゃないんだよ?」

「へえ……、他にどんな理由がありますの?」


 どうもジュートからの信用がない。

 でも、出任せを言っているつもりはなかった。物欲だけなら、連合国を戦後に考えればいい。キャシーやノーラも参加したいだろうし、その方が集中して研究できる。

 でも、今後――獣人達を巻き込んでの開戦時を考えると手に入れておきたい。


 精霊石……鉱化スライム片はともかく、魔法鉱石までなら相手にする必要はなかった。南大陸にはダンジョンが存在しないから流通量は少ないものの、お金には困っていないので入手は不可能じゃない。

 それでも、魔物素材の品質が限定されるせいで強力な武器を造るのは難しかった。それを打開しようと思えば、風を発生させる布や水を吸い上げる管、南大陸の固有素材を頼る他ないと思う。素材の性質次第では、既にいくつか素案もあった。


 けれど、その手の情報はエルフやドワーフが独占していて、獣人達からは手に入らない。ここでハイサムを利用するかどうかは、悩ましいところだった。

いつもお読みいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
隷属の魔道具で裏切れないようにする方法もあるけどね。
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