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大魔導士と呼ばれた侯爵令嬢 世界が汚いので掃除していただけなんですけど… 【書籍&コミックス1~2巻発売中!】   作者: K1you
消えた大魔導士編

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尊大の代償

 基地を地面へ埋めて、後は勝手にしてくださいと去る訳にもいかない。脱出が困難だからと引き篭もられると他のエルフ達に情報が伝わらない。私を敵性存在と認識したエルフ達を返り討ちにする気でいるのに、情報がここで止まってしまっては陥落させた意味が薄まる。

 ここでの敗北を知ったエルフが力量差を認めず、撃退を繰り返されることで何を敵に回したのか思い知る。

 そうした段階を踏む予定だった。


 それと、この基地の人員が八つ当たり紛れに周辺国家を襲う。竜の棲息領域へ向かう私達を追ってくる。……なんて事態を望んでいないだけで、助けも呼べずに野垂れ死ねとまでは思っていない。

 垂直に切り立った土壁の突破は困難だけれど、不可能でない程度には調整してあった。竜とエルフを同時に相手にするのは面倒そうだから時間稼ぎが目的なのに、監禁が目的だと勘違いして緩やかに死を迎えられても困る。

 虐殺しようと思ったなら魔法が失敗した時点で皆焼滅しているし、地下へ沈めた上から土をかぶせている。


 気が進まないとしても、そうした意図を説明しておく必要があった。

 地底へ降り立った私達を多くのエルフ達が遠巻きに警戒する。不快さを隠せていない者もいるけれど、キャンキャン吠える小型犬ほども脅威を覚えない。


 ある程度エルフも魔力の感知が可能と聞いたので、いつでも攻撃できると突きつけるために魔力を散布してある。

 獣人の髭の代わりに、長い耳がアンテナの役割を果たすのかな?

 私の魔法が発動すればどうなるのか、エルフ達は嫌でも思い知っていた。加えて今は穿孔に放り込まれているので、爆発も火災も先ほど以上の大惨事になる。

 彼等に反抗の選択肢は与えられていなかった。


 私の魔法が失敗だったって事実を明かす義理はないし。


「今すぐ我等を地上へ戻せ! 非才な無し人と汚らわしい獣人如きが……!」


 で、私達を迎えた基地司令の第一声がコレ。

 会話が成立するのか不安になる。


 基地司令は、他のエルフと同様に整った顔立ちをしているのだろうと察せられるものの、たっぷり蓄えた脂肪がその素地を台無しにしていた。おまけに、エルフの間では大地の精霊の恵みとされる宝石をじゃらじゃら身に着けていて、軍服が原形をとどめていない。

 なんでも、宝石を愛用していると精霊の加護が得られるとの信仰があるのだとか。

 ああして顕示する事も、エルフにとっては愛用と呼ぶのかどうかはファイサルさんも知らなかったけれど。


 あくまで獣人達への示威を目的とした辺境の基地なので、こう言った人物が君臨している可能性は想定していた。ここなら指揮能力はさして必要とせず、他種族への蔑視を拗らせた有力者子息の左遷先としてはちょうどいい。


 代わりに副官となら話せるかと言うと、彼は司令官の後ろでぼーっとしていた。

 切り立った土壁をぼんやり眺め、見とはなしに凍ったままの武器庫へ視線を向け、時々私の方を見て溜息を吐く。半分口を開けた状態で呆けていたかと思えば、ニマニマ空を見上げ、基地司令の暴言が耳に入った様子もない。

 他のエルフと比べても一際美形で、何故だか着崩した軍服も似合っているのに、態度が全てを丸潰れにしていた。

 大丈夫かな、この基地?


 仕方がないので同席している他の将校を見れば、頭が痛そうに顔をしかめていた。彼等となら話が成立しそうではあるけれど、司令官の頭越しに会談を進行する訳にもいかない。


「あら、おかしな事を言いますわね。全面的に負けを認めたのではなかったのかしら?」

「ふん、オレ様は何の指示も出していない。一部の者が勝手を言っているだけだ!」


 ジュートが冷たい視線を向けても、司令は強気な態度を崩さない。

 他の将校へ視線を向けると、青い顔で首を振っていた。司令の言い分が基地の総意という訳でもないらしい。


「そうなのですか? 私達は示談交渉に来たつもりでしたが、そちらに従う意思はないと?」

「当然だ! むしろ、どうして無し人などに従わなければならない? オレ様はバウワーブ家の八男だぞ。思い上がるな、未開民族共がっ!」

「降伏はしていない。つまり、戦闘は未だ継続中であると?」

「そうとも、我々が負ける事などありえない。我々エルフは常に強者、貴様らは我々に蹂躙される運命にあるのだ。はっはっは……!」

「そうですか。このまま司令官を暗殺して終わり……とは言いませんが、頭上の土壁を崩して生き埋めになっても構わないと?」

「はん! やれるものならやってみるがいい。本国が黙っていないぞ? バウワーブの名を持つオレ様を害したとなれば、国中が躍起になって貴様等を追うだろう。どこへ行こうと逃げ場はない。貴様等は八千万のエルフを敵に回すのだ。どうだ、恐ろしかろう?」


 ここまで聞いて、この状況で司令官が強気でいられる理由を漸く知った。

 要はエルフの国力を笠に着て、自分をどうこうできる訳がないと高を括っているらしい。同時に、顔を青くはしても司令を止める様子のなかった将校達の立場も理解できた。


 私はバウワーブ家がどれほどのものか知らないし、八男の発言力がそう大きいとも思えない。それでもこの男がここで居丈高に振る舞っていられるあたり、相当面倒な家なのだと察せられた。

 あれだけ劣勢で負けてないと言えるのも、戦うのが自分じゃないからなのだろうね。同じエルフであっても彼にとってはほとんどが格下で、自分の望みを叶えるために存在している。誰が死のうと、どれだけ傷付こうと、司令を満足させるためなら当然の犠牲でしかない。

 基地の火災も糧食の喪失も、丸い司令にとっては他人事でしかなかった。


 でも、その出生と言い分は私にとって都合がいい。


「――!」


 自分は絶対の安全圏にいると勘違いした司令の両手両足を、魔力波レーザーで撃ち抜く。照準点へ直接着弾するエルフの模倣はできなくても、光速で射出する魔法なら発動とほとんど同時に被弾する。


「あがっ……、ぐ、ぎ……!」

「あ……、な……⁉」


 どうして……と言っているつもりなのかもしれないけれど、司令の口から意味のある言葉が漏れる事はなかった。

 将校達も私が怯んで当然だと思っていたのか、目の前で起きた事態を信じられないでいる。そんな状況でも副司令の筈の男は、突然飛び出したリュクスを面白そうに眺めるだけだったけど。


 私としては、何をそんなに驚くのか分からない。

 既に戦端は開かれたと言っているのだから、エルフの攻勢を恐れる理由が私にない。そんな事は自明の筈だった。


 まあ、大きな声を出す事が自分を尊大に見せる事だと勘違いした男を黙らせられて、少し気分はいいかな。

 傷口が焼けて流れる血は多くないけれど、四肢には大きく穴が開いていた。


「こちらの要求は一つです。()()をそのまま上層部へ突き出してください。勿論、ここで起こった事、この男の脅迫に私達が屈しなかった事を有りのままに伝えてもらって構いません」


 エルフ全体が敵に回ると言った司令の言い分を真に受けた訳じゃない。そんな価値のある人物なら、辺境で燻っていないだろうとは思う。それでも、バウワーフ家とやらは本腰を入れて刺客を送ってくる可能性が高い。

 辺境基地の陥落は、思った以上の成果が見込めた。


「総攻撃、大いに結構。エルフの八千万だろうと、そこへドワーフが加わろうと、全て撃退して貴方達の歴史を終わらせてみせましょう」


 私の大言にシャハブも、ファイサルさんすら驚いた様子を見せなかった。ジュートに至っては、こうなると分かっていたかのように地属性魔法でバウワーブ司令の拘束を進めている。

 そんな私達へ、将校達は化け物か何かに出会ったように戦慄した視線を向けるのだった。

いつもお読みいただきありがとうございます。

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