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大魔導士と呼ばれた侯爵令嬢 世界が汚いので掃除していただけなんですけど… 【書籍&コミックス1~2巻発売中!】   作者: K1you
消えた大魔導士編

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救済と圧倒

 基地全体を覆った魔力が爆発すればどうなるか、そんなの大惨事となるに決まっている。

 広げた魔力が薄い分、火力は低めで発熱も一瞬だったから死ぬような事はない。それでも普通に火傷はするし、衝撃で転倒して怪我した者もいる。咄嗟に水魔法を使った術師がいたから深刻な被害はないものの、大規模爆発に巻き込まれて戦意は失った様子だった。


 人的被害はそれで済んでも、一瞬であろうと高熱に晒された軍事設備は無事じゃない。

 建物のあちこちから上がっている煙は紙に引火したのではないかと思う。基地にどれだけの重要書類があるのか知らないけれど、早く保護しないと灰へと変わる。

 食糧庫なんかも燃えそうな気がした。あくまで辺境の基地で、補給の利便性があるようにも見えないから焼け落ちると在留が継続できなくなる。戦闘どころではない様子で消火に向かっている倉庫がそうなのかもしれない。

 それから火薬。

 こっちは既に二度目三度目と次々爆発音が聞こえているから手遅れだった。火力が私の模倣魔法の比じゃないので、周辺にいたエルフ達は逃げる事を優先していた。勿論、破壊前だった高射砲も燃えている。


「もう少し段階を踏んで心を折る予定ではありませんでしたの?」


 ジュートに反論できる言葉は持っていない。私としては、もっと制御できるつもりでいた。前世のイメージで上手くいく筈だった。

 だから悪くないとまでは言い訳しないけど。


「で、でも、圧倒的な魔法で降伏を迫る方法は間違ってない……んじゃないかな。武器もほとんど失ったみたいで抵抗の意志は残っていないだろう……し?」


 シャハブのフォローが心に痛い。

 最後が疑問形になっているから余計に。


「わはははは……! ああも慌てふためくエルフ共は初めて見たぞ。竜殺しの偉業はまだだが、あれを見られただけでも貴殿等に同行して正解だった!」


 でもってファイサルさんは機嫌がいい。私達が負ける筈ないだろうと分かってはいても、実際に基地が陥落するところを見ると感慨深いらしい。それだけ、エルフと獣人の因縁は根深い。


「こ、降参する! そちらの要求は飲むから、これ以上の追撃はやめてほしい!」


 エルフはあっさり降伏を認めた。拡声魔法を使う精神的余裕もないのか、大声を張り上げて許しを乞う。

 あちこち燃えている状態で追い打ちをかけるつもりはなかったけれど、私が思っている以上に深刻らしい。実際、消火活動へ移っている筈なのに火の手が収まる様子がない。


 でも、降伏した相手を見捨てるつもりはなかった。

 魔法の失敗で火をつけておいて、知らない振りをしようとも思わない。


 私はフィルママンから出ると、ウィッチを真上へ掲げた。

 魔法を構築するのは遥か上空、快晴だった空に暗雲が集まる。どんどん暗さを増していき、雨となって落ち始めた。


 通常、燃え広がった炎は少々の水では消し止められない。今回の火薬のように、可燃物が大量にあるなら余計に。

 家や森、主に木材が燃えた場合の温度は五〇〇度を超える。空気の流れもできるから、局所的には一〇〇〇度にも達すると言う。これに沸点が一〇〇度しかない水で立ち向かうのは心許ない。

 水は引火点を持たないから二次災害の危険は少ないものの、蒸発してしまえば気流にあおられて煙とともに空へと舞い上がる。大火力を前に、濡れているから燃えない……なんて理屈は通用しない。人が運べる水量と比べれば膨大な筈の雨であっても、勢いによっては延焼を遅らせる効果しか持たない。


 だから、大規模火災の際には炎上範囲近辺から可燃物を取り除く。炎を消し止められるだけの水を用意できないなら、手を付けられなくなった範囲が燃え尽きるのを待つ他ない。


 だけど、私の雨は違った。

 広範囲へ水を届かせる手段として雨と言う形をとっても、私が発した水属性魔法に違いない。

 そして、私の雨は熱を奪う。

 火の勢いを弱めただけでは終わらない。火薬庫の大火炎に煽られても決して蒸発しない。それどころか、高熱の火災現場で凍り始める。

 火薬であっても、引火点を越えなければ決して爆発しない。一定以上のエネルギーを得て急激に化学反応を引き起こし、多量の熱やガスを発生させるのが火薬だから、低温下では安定している。熱を奪い取ってしまえば燃焼は継続しない。

 ついでに、人体からは熱を奪わないように調節もしてあった。あくまで消火が目的で、エルフの氷像を量産しようとは思わない。消火が目的の魔法なので、濡れた状態で凍えるのくらいは我慢してもらう。

 当然ながら、炎は急速に衰えていく。


「何が……起こった?」

「魔法なのか? まるで奇跡だ……?」

「魔法? 一体、どんな……」

「た、助かった……のか?」


 何とか火を消そうと奮闘してエルフ達は、未知の魔法を前に呆然としている。


「お姉ちゃん、凄い!」

「うーむ……。何をどうすればあんな真似ができるのか分からんが、エルフ共の鼻っ柱をへし折れたようだから小気味はいいな」


 こっちの二人は今更私の魔法に驚いたりはしない。ファイサルさんも、非常識(そういうもの)だと慣れたらしい。


「敵対していたエルフを助けるなんて、スカーレットは優しいですわね」

「そう? 異常だと恐れられる事は許容できても、非道だと危険視されようと思わないだけだよ」

「降伏した以上は捕虜ですから、人道的な扱いを保証するという訳ですの?」

「まあね。エルフやドワーフはともかく、獣人達からまで危ない人間だと思われたくないし」


 食事ができなかったり、宿泊を断られたり、最悪入国を拒否されたりすると快適な旅が続けられなくなる。

 だから、吊り下げた捕虜移送用の岩塊もきちんと魔法障壁で覆ってあった。同胞の魔法で狙われる恐怖までは、私が与り知るところではないけれど。


「それに、ここで助けられた事が幸運とも限らないよ」

「と言うと?」

「だって、無し人である私達にこうも簡単に基地を陥落させられて、傲慢なエルフ達が罰を下さないとも限らないでしょう?」

「それはあり得る話ですわね。少なくとも私なら、そんな不甲斐なさを見せた兵士は徹底的に鍛え直しますわ!」


 武闘派ミラーブ侯爵流の再教育はなかなか厳しそうだった。

 先の魔王種戦でも、侯爵領の兵士や偽装冒険者が活躍していた筈だね。


 それと、私の魔法はこれで終わりじゃない。消火に手を貸したのは、鎮火を待てなかったって都合もある。

 続けて私は、ウィッチを基地へと向けた。


 アル・サウル基地を陥落させたところで、四人しかいない私達が占領できる訳じゃない。私達は基地に残留するつもりがないから、岩塊に埋めた五十人のように拘束すれば緩やかな処刑と変わらない。かと言って保護を任せられるような協力者はおらず、このまま放置したのでは何のために陥落させたのか分からない。

 だから、しっかり無力化しておく事にした。


 発動させるのは地属性。敷地全てにイメージを浸透させる。

 頭に思い描くのはエレベーター。

 私の想像の通りに地下へと沈んでいく。広範囲への魔法行使になるから速さはないけど、逃げようとしたエルフは魔法障壁が阻んだ。お昼にならないと太陽が差し込まないくらい深く、簡単に逃げられないよう真っ直ぐと。


「な、何だ? なんだ⁉」

「嘘だろ⁉ こんな事、有り得るのか?」

「我々は、一体何を敵に回したんだ?」

「あ、悪夢だ……」


 今度も呆然とする他ないエルフ達だったけど、その表情は随分と恐怖で彩られていた。

 私の魔力を浸透させてあるので、地属性術師であっても地面を変形させての脱出は難しい。それでも基地陥落の事実を完全に隠すつもりはないので、飛翔可能な風属性術師か、余程身体強化に優れた術師なら伝令に走れる可能性は残してあった。

 勿論、捕虜入り岩塊も降ろしておく。


「助けたと見せかけて、絶望へ突き落す。なるほど、屈服させるのにこういった方法もあったのですわね。手札が多いと言うのも便利です事」


 待って、ジュートの誤解が酷い。

 私的には力量差を見せつけようとか、敗北感を突きつけようとか思っていない。あくまで旅を続けるのに必要な処置を施しただけ。

 そんなつもりじゃなかったんだけど?

いつもお読みいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
ヴァンデル王国ノースマーク領に軍艦で侵攻してきたのはエルフだから、エルフの上層部にトラウマレベルのダメージを与えて心を折らないと駄目だからねぇ。
>「我々は、一体何を敵に回したんだ?」 けんかは、相手を確認してから売りましょう。
『大魔王スカーレットと愉快な仲間たちの快進撃』
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