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大魔導士と呼ばれた侯爵令嬢 世界が汚いので掃除していただけなんですけど… 【書籍2巻&コミックス1巻発売中!】   作者: K1you
1年生編

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閑話 暗躍

今回は、トリス・ドライア視線となります。

誰!? と思われるかもしれませんが、第3王子派閥の伯爵令息です。以前に、ちらっと名前が出てきました。

なお、ゲス男の視点ですので、気分を害する方もおられるかもしれません。ご注意ください。

 奇跡の魔法使い。

 緋の聖女。


 ここしばらく、あのスカーレット・ノースマークの話題で、世間は持ちきりになっている。


「ええい! 忌々しいっ!」


 投げつけたカップがメイドに当たり、エプロンドレスをお茶の色で汚したが、全く溜飲は下がらない。

 泣き叫ぶなり、顔を歪めるなりすれば可愛げもあるものを、最近は少々熱いくらいでは顔色一つ変えなくなった。面白くない。

 そろそろ替え時だな。

 胸が大きいので少し惜しいが、なに、代わりはいくらでもいる。


 だが、そんな事より腹立たしいのはノースマークの小娘だ。

 噂のきっかけとなった、貴重な薬を使って平民を助けたなどと言う綺麗事はどうでもいい。偽善が好きそうなあの女の事だ、こうして噂になる事まで計算していたのだろう。


 問題はあの回復薬だ。

 死の淵にいる者を蘇らせる奇跡の薬、欲しがる貴族はいくらでもいるだろう。間違いなく、貴族の力関係が書き換わる。俺だって手に入れたいと思うが、あの女に足元を見られるのも癪に障る。




 そもそも、入学歓迎式典の時から、あの女は思い通りに動かない。

 以前からアロガント殿下は、派閥強化の為に侯爵家とのつながりを望んでいる、と言う噂が気に入らない様子だった。気持ちは分かる。女に尻尾を振らなければ、立場一つ守れないと言われているようなものだからな。

 だから、提案したのだ。

 一度婚約を拒否してしまえばいい、と。

 婚約を望んでいるのは王子側ではないと、はっきり示して、向こうから擦り寄ってくるのを待てばいい。そうすれば、後々あの女を付けあがらせる事もないと思った。


 だと言うのに、あの女、あっさり婚約拒否を受け入れるふりをしやがった。


 性格の悪いあの女は、その気もないくせに、王子の方から折れてくるのを待っているのだ。女だというのに、権力を握って、貴族の真似事がしたいらしい。

 おまけに、婚約拒否の理由に無能である事を上げた殿下へ当て擦るように、優秀さを喧伝し始めやがった。

 あんまり苛立つものだから、殿下からあの女を傷物にするよう命令された。

 気持ちはよく分かる。

 あの綺麗な顔が歪むまで殴ってやれば、気も晴れる事だろう。

 丁度イジュリーンの奴が阿呆な事を言っていたから、ゴロツキ共と引き会わせてやったが、上手くいかなかった。

 無属性だから魔法はからっきしだろうと思っていたのに、強化魔法1つであっさり切り抜けやがった。無能なら無能らしく、怯えていればいいものを。


 その後、王子は馬鹿のアイディオの口車に乗って、あの女が取引しようとした工房に圧力をかけたようだが、勝手に名前を使われて、却って恥を晒していた。愚かとしか言いようがない。

 王族でありながら、平民なんて家畜同然の奴等が思い通りに動くなどと勘違いしていたらしい。


 そもそも、俺は第3王子派なんぞに居続けるつもりは無い。

 親父達は、第3王子の下で重鎮面していい気になっているようだが、金眼赤髪だから王に相応しいと祭り上げるなんて馬鹿げてる。

 数年一緒にいて分かったが、第3王子は中身もないのに立場を振りかざすだけの子供だった。持ち上げられるのが当たり前になっていて、少しおだてれば簡単に操れる。傀儡としては便利かもしれないが、俺の主としては相応しくない。

 今はドライア家の一員として大人しくしているが、ここで実績をあげて、実力主義で知られる第2王子アノイアス殿下に取り立ててもらう予定だ。

 沈みそうな船に、いつまでも揺られているつもりなど無い。


 だと言うのに、あの女のせいで失点が続いている。

 愚かな第3王子も満足させられないようでは、アノイアス殿下の目に留まる筈もない。

 だから、あの女を引きずり下ろす事で、俺の偉大さを証明するのだ。中立派などと風見鶏を気取っているノースマークに打撃を与えれば、殿下も喜んで俺を迎える事だろう。


 最近では女ばかりを集めて、研究ごっこに興じている。才女を演出すれば、アロガント殿下の興味を引き付けられるとでも思ったのだろう。


 あの女が誰から技術を買っているかは知らないが、王都にそれらしい影がないなら、領地にいるに違いない。そう思って家の者をノースマークに遣わしたが、碌な報告を寄越さない。身内に無能しかいない事を失念していた俺の失態だ。

 ならばと、文書の運搬をしているらしい車両を襲撃させたり、あの女の研究室に忍び込ませて成果を盗ませようとしたが、どれも上手くいかなかった。

 侯爵家だけあって、金に飽かせて防備を固めている訳だ。面白くない話だが、曲者として知られる侯爵だ、情報の管理は徹底しているらしい。今の俺より、少しだけ上手のようだ。


 だが、隙がないなんてことはあり得ない。


 先日、侯爵家に潜ませた女から、新しい薬を開発するという情報と、その為にあの女が病院を訪ねる事を聞き出した。

 ようやく掴んだ尻尾だ。

 あの女の成果は俺が相応しく使ってやろうと、病院行きを決めた。

 だが、足が付かないようにアイディオに送らせたのが失敗だった。

 女共が帰った後で、病院関係者を何人か拉致して情報を聞き出すだけのつもりだったのに、あの馬鹿は急ぐ必要もないのに、運転手を急かして、あろうことか事故を起こしやがった。

 しかも、到着が早まったせいで、まだ滞在中だったあの女が介入してくる始末だ。どこにでも現れるあの女は、貴族が人を使う立場にあるという自覚がないらしい。


 今回の事で、アイディオの馬鹿には愛想が尽きた。

 ノースマークに恨みがあるようだったから使ってやったが、まるで役に立たなかった。

 新車の購入ができなくなったと言うから、表向き当主を代替わりさせて購入責任者の名義を変える妙案を教えてやったというのに、仇で返しやがった。

 正規の方法以外で車を買って、事故を起こしたんだ。いつまで貴族でいられるか、知らんがな。


 まあ、俺は類稀な光魔法使い。

 光を屈折させて姿を隠せば済む。アイディオは散々脅しておいたし、俺があの場にいた事が知られる事はないだろう。だが、逃げる形になった事は腹立たしい。


 ここで新薬を大々的に公表されたのは痛手になった。

 そうと知っていれば、姿を消したまま妨害を考えたのだが、平民なんぞに貴重な薬を使うとは思わなかった。あの女の、偽善を躊躇わない計算高さを忘れてしまっていた。


 おかげで、ここ最近のあの女の噂には手が付けられなくなった。平民も貴族も、薬欲しさに、誰もがあの女を褒め称えていやがる。

 完成はまだのようだが、蘇生すら可能な薬を王に献上したとなれば、あの女の評価は盤石なものとなる。その前に、何とか手を打つ必要がある。


「トリス様、お約束のお客様がご到着になりました」

「……待たせておけ」


 人が考え事をしているのに、考え無しに声を掛けてくる執事にイライラする。

 客と言っても、貴族にもなれなかった魔塔の能無しだ。俺がくつろぐ邪魔をするだけの価値など無いというのに、気が利かない事だ。




 わざわざ新しく茶を入れさせて、たっぷり待たせてから俺は応接室に向かった。

 あの女を陥れる協力者には違いないが、立場は分からせないといけない。


 客は女が1人と、男が2人。

 男の方は魔塔の第5長とその補佐だ。

 以前に一度会った際は、身の程を知らん支配者意識に溢れていたが、今日は表情が冴えない。どうやら、現実を知ったらしい。

 なにしろ、俺は卒業後、第5塔の長になる事が決まっている。こいつらは俺の部下になるのだ。先日まで、内心下に見ていた俺と立場が入れ替わって、さぞかし面白くない事だろう。


「お時間を割いていただき、ありがとうございます。漸く、お望みの報告を持って参る事ができました」


 話を進めるのは女の方らしい。辛うじて、まだ塔長でいられるだけの男共は、俺と口も利きたくないのかもしれんな。


「それが報告にあった代物か?」

「はい、ノースマークで開発した、新しい付与魔法について記した資料です」


 これは、先日あの女が魔塔を訪ねた際、持参していたという資料だ。内容に虚偽がないか、念の為、女に調べさせていたのだが、間違いはなかったらしい。


 会談の際には情報漏洩を防ぐ為に、魔導契約を使ったらしいが、それで安心するあたりがあの女の限界だ。

 魔塔の歴史は古い。

 中には、表に出せない成果というのもあるのだ。


 ノースマーク家も、魔塔へ献金しているらしいが、俺に言わせれば金の使い方を知らん。

 金はただ注ぎ込めばいいものではない。勘所というものがあるのだ。

 今の魔塔で言うなら、導師だ。

 本来なら、魔塔の頂点にいて、盤石な立場の筈だが、数年前に実家が降格して、すっかり影響力を失ってしまっている。過去の栄光だけにしがみついている無様な男だ、金をちらつかせてやれば、ほとんど言いなりになった。

 卒業後の席も用意させたし、今回の手配もさせた。

 まあ、塔長でいるのは、第2王子を王にするまでの短い間だけだろうがな。


 そして、今回の為に用意させたのが、魔導契約を無効化する薬だ。


 こういう情報を手に入れられるのも、俺が金の使い方を知っているからに他ならない。


「ここに書いている事、本当に間違いはないのだな?」

「はい。私に自由をくださった、トリス様の名前に誓って」


 くくく。

 笑いが抑えられん。

 新しい付与魔法だなどと吹いておいて、なんて単純な代物だ。だが、後に続く応用範囲は馬鹿にできない。軍事技術に転用すれば、第1王子にも恩を売れる。

 そして、最後に記されたスミス・シモンズという名前を見て、納得する。少し前、丁度あの女の研究が本格化する頃に聞いた覚えがある。

 なるほど、そういう絡繰りか。


「これでお約束通り、私を魔塔に戻すよう、働きかけていただけますか?」

「……ああ、いいだろう」


 自分の為になら嘘をつく事を躊躇わない、こういう女は嫌いじゃない。むしろ、むさ苦しい爺より、この女を副長に据えてやってもいいかもしれんな。一度クビになった女が使えるとは思えんが、間諜の真似事くらいしかできなくとも、彩にはなるだろう。

 女としては少し熟れ過ぎなのが惜しいが。


 できるなら、新薬の製法が欲しいところだったが、この情報も悪くない。

 あの女の信用を粉々にしてやれば、蘇生薬なんて眉唾物として扱われるに違いない。罪人の成果として接収して、俺が完成させてやってもいい。


 折角だ、大々的に裁かれる舞台を用意してやろう。多くの者に掌を返されるのを見て、打ちひしがれるがいい。

 想像するだけで、実に心が躍る。


 ああ、あの女の顔が悔しさで歪む日が楽しみだ。

お読みいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
で、誰だっけ?
閑話でこんな所に再登場したということは、盛大にいく人なんだろうなー、と思って我慢して読みました。
果たして、その女の人信用していいものなのかな?
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