開戦 壊滅 解決……?
――バンッ‼
――バンッ‼
……と、砲撃音が連続で響く。
驚異的な弾速を持つ謎の兵器で一気に戦意を折るつもりだったらしい。六隻全てが超速の砲撃手段を備えていた。射程も大したもので、通常の魔法が届く範囲にいない。あれだけの性能で一方的な攻勢を続けられると、普通は打つ手がない。
けれど幸い、魔法障壁を突破するほどの威力はなかった。初撃こそ被害が出たものの、二発目以降は防壁への魔力供給が間に合った。コキオの港へ到達する前に全て爆裂している。
おかげで、少し冷静になる余裕が生まれた。
少なくとも、あの船団を今すぐ塵にしなくてはいけないほどの危険はない。六隻全てを拿捕し、コキオを襲ったことを後悔させるくらいはしないと気が済まなかった。
「伯爵、あれは何だ⁉」
「分かりません。しかし、敵対の意思は確実でしょう」
判断材料は正体不明って事くらい。兵器の実態もそこへ加わる。
船首部分が発光後、音よりも早く着弾している。私の知る限り、この大陸で音速を超える兵器が開発されたって話は聞こえてこない。何だかんだと主要国家とつながりを持った私が知らないって事は、存在しないと断定していい。
そうなると、未知の技術を操る敵性存在が思い浮かんでしまう。
根拠は弱いけれど、魔操銃や鉱化スライム片、あれらを超える技術があるなら、このくらいは不自然でないように思えた。
魔法障壁の設置が間に合っていなかったら、物見塔倒壊の一報を受けてから障壁を作動していたらと考えるとゾッとする。
様子を見る限り、次弾の装填速度も遅くない。障壁の活躍で更なる被害はないものの、次々と砲撃を繰り返している。偶々私が海の見える場所にいなければ、あれが何発も市街へ撃ち込まれていた。
思ってもみない形で、障壁の欠陥が浮き彫りになったね。
従来の展開速度を大きく縮めたつもりで、あっさり想定を超えられた。改良は必須だとしても、試案は後に回して今は不明船への対処を優先する。
「陛下、先方の敵対意思は明らかです。所属を詳らかにするためにも、攻撃に転じて構いませんね?」
こうなってしまっては、非公式の訪問だとか言っていられない。私はディーデリック陛下へ問いかけた。この事態に、国王陛下が傍にいてくれて都合がよかった。
確認の先がアドラクシア殿下でなかったのは、王太子の権限では国家間の紛争に許可を下せないから。
最低限の防衛に徹するつもりがない以上、最高権力者からの命令を得ておきたかった。
「許可する! あれが個人の暴走か国家の思惑かは不明だが、明確な侵略行為と判断する。ヴァンデル王国の威信を示すため、民の安全を守るため、伯爵は徹底抗戦せよ。相手にどれだけの被害が出ようと、無力化を優先して構わない!」
「ありがとうございます!」
「それから、各地へ伝令を頼みたい。複数箇所で襲撃作戦を展開している恐れがある。パリメーゼ、エッケンシュタイン、コールシュミット、ノースマークへ防衛体制を構築するよう伝えてくれ。王都については私がこれから戻り次第、戒厳命令を発動する」
流石に非常事態への反応は速かった。
海に面した五都市へ警戒を促せば、とりあえずの対策は講じられる。
「フラン!」
「かしこまりました!」
私も、最も迅速に動ける人員を派遣する。彼女は答えると同時に、昇降台から飛び降りた。風属性魔法で滑空し、領主邸へ向かうのだと思う。
フランを見送った後、私は帆船への対処を優先した。
船からの攻撃は通じないと判断したのか、船は後退する動きを見せている。襲撃地点を変えるのか、作戦を練り直すつもりなのか、指揮官の判断は速い。
「逃がさない……、捕まえて!」
防護障壁を展開中なので、こちらからの攻撃も届かない。強引に貫くほどの高威力魔法となれば、情報源を消滅させかねない。
だから、傍にいた巨大な存在に捕縛を命じる。
同時に大地が揺れ、帆船周辺の海面が盛り上がった。
「な、なんだ? なんだ、あれは⁉」
「伯爵、何をした⁉ あんな兵器があるなど、聞いていないぞ?」
対応の規模が想定を上回り過ぎたのか、疑問をぶつけてくる陛下と殿下の声は悲鳴混じりだった。
隆起した海面からは巨大な触手状の物体が姿を現し、六隻全てを絡め捕っている。
「報告なら、ずっと前にしていますよ。本体も、コキオ到着の時点からずっと目にしていた筈です。あれ、キミア巨樹ですから」
「「は?」」
「あれで魔王種ですから、塩害なんてものともしません。この一帯には巨樹の根が張り巡らされているのです。そして、自発的に動く性質は断ってあっても、私に従属した状態にありますから、命令すれば動きます。あんなに大規模で実践したのは初めてですけど」
「……危機は去ったように思えるのは気のせいか?」
魔法を使ったような光が見えるので、混乱しながらも抵抗は続けているらしい。とは言え、その程度で損害を与えられるような存在じゃない。根を含めた大きさなら、先日のメドゥ沃龍にも負けていない。
海面から引き剥がして逃走手段も断ってある。あのまましばらく吊るしておけば、心が折れて制圧も楽になるのではないかと思えた。
「増援や別行動部隊がなかったらの話ですね。しばらくは障壁の展開も続けます。それより、他国にも警戒を促した方がいいのではありませんか? あれが想像した通りの存在だとすると、最初の接触は皇国です」
「そうだな。国内の発令後、専用の通信機で帝国と皇国にも伝えよう」
「では、小国家群はギルドへ応援を要請しましょう。広域への警戒は、ナイトロン戦士国くらいでないと受け持てないでしょうから」
「冒険者ギルドのグランドマスターへ直接か。助かる」
おばちゃんが動けば、戦士国の傭兵団にも要請できる。依頼費は事後で各国に請求かな。
反重力昇降機の魔法に干渉して、搭乗台ごとお屋敷へ移動しながら意見を述べる。陛下が王城へ戻る前に相談できる事は済ませておきたい。
魔道具の一部を引き千切るような無茶なので修理が必要になるけれど、今は何より迅速を貴ぶ。降下してから専用車両を待つような余裕はなかった。
「それと、コントレイルにぱぺっ君と飛行ボードを乗せて各地へ派遣する方法を提案します。兵士を広域に展開させて都度交代させるより、操者だけ代わるなら警戒の穴も生じませんから」
「そうだな、採用する」
「なんなら、コントレイルⅡ型を動かしても構いません。軍が展開するより早く警戒網を構築できますよ。オリハルコンを利用した技術を外へ出せるなら、ですが」
「……宣告も無しに攻撃してくるような連中だ。他言無用を徹底した上で、協力を頼みたい。各領地へ応援が到着後は、王国軍に警戒を交代させる。人命には代えられんからな」
軍に協力した分領地が手薄になる訳だから、大魔導士が防衛を代われる南ノースマークだからこそ実践できる手段と言えた。
「この後はあの帆船を制圧に行く訳ですが、調査のためにノーラの協力を許可してもらえますか? 詳細が不明なあの船について調べるのは、彼女の魔眼が役立ちます」
「本来なら領主が防衛を主導するのが通例だが、子爵の鑑定能力は代わりが利かない。特別に許可しよう。転移鏡と通信機を活用して、領地との伝達は密にするよう調整してくれ。どういった理由でここを襲撃したかは不明だが、同時に襲撃を決行するなら近隣の領地や王都を狙う可能性が濃厚だろう」
「了解しました」
「それと、こちらからも要望がある。先ほど話したⅡ型全てに、転移鏡を搭載しておいてほしい」
「そのくらいは構いませんが……」
「もしも先ほどの砲撃以上の新兵器を隠し持っていた場合、伯爵に他領へ赴いてもらう可能性もあり得る。その際の移動手段を確保しておきたい。いつでも連絡が取れるよう、通信機が近くにある状態でいてくれ」
ここで通信機の傍で待機していろと言わないのは、私自身が帆船制圧に行く気だと察しているからだと思う。
物見塔一つとは言え、領地に危害を加えた連中を許す気はないし、知らない技術が満載していそうな船の調査を誰かに任せるつもりもない。急いで対応に当たる必要のないウォルフ子爵も、行く気満々だった。
そうこう話している間に、お屋敷の上空へ達していた。危険がない程度に速度を抑えていたとは言え、障害物がないから到着も早い。
転移室では飛行ボードで王城まで陛下を運ぶ帯同役が待機してくれていた。王城とコキオを結ぶ脱出経路の存在は明かせない。そのため、陛下がお忍びで使った非常ルートではなく、ノースマークの王都邸を経由する既知ルートを選んだ。多少のロスは帯同役が縮めてくれる。
移動するのは陛下だけ。
危険は去ったようなので、王都への報告を中継する役として王子は残るらしい。一応、非常時に王族を分散させるって言い訳も成り立つ。
「着替える様子もなく転移鏡へ走っていったが、あのまま伝令役を装うつもりだろうか……?」
「あの格好なら、殿下からの緊急連絡だと思ってもらえるのではありませんか。身代わり役は困るかもしれませんけれど」
陛下の代役を務めているのに、その陛下当人から緊急連絡を受ける事態なんて想像していないに違いない。
「それはそれとして、こちらは船を制圧して吉報を届けましょう」
「そうだな。連中に作戦の全貌を吐かせれば、今後の対策も立てやすい。だが、追い詰められているからこそ、抵抗が過激になるとも考えられる。どんな目的があるのかは分からないが、捨て鉢になる可能性もあるだろう。其方なら大丈夫だとは思うが、十分に警戒してくれ」
「そんな心配をしなくても、船ごと海に浸ければ無防備で浮いてくるのではありませんか?」
「…………悪魔か、其方は」
安全策を提示した筈なのに、殿下からは呆れられてしまった。
巨樹の根に捕らわれた時点で船の水平は保たれていないので、既に落ちている連中は上空からでも確認できた。あいつ等と一緒に凍らせれば捕縛も楽だと、ノーラの協力を要請した部分もあったのだけれど。
当然、溺れる人間も出るだろうと予想している。それで心が痛まない訳じゃない。
でも、感情を切り離して残酷な戦術に手を染める。民間への被害も想定して竜を率いた皇国戦と同じで、容赦はできない。戦ってはいけない、決して敵わないのだと心骨へ刻み込む。
甘さは隙と捉えられる。
過度な温情を見せると侮られる。
反感を抱いたまま解放すれば、報復の機会を与えてしまう。
それで再侵攻が起こったなら、国が、南ノースマークの民が危険に晒される。
人命は尊いものだけど、領主である私は優先順位をつけなくてはならない。
私はヴァンデル王国の貴族で、南ノースマークの領主。犠牲にするべき命がどちらかは考えるまでもない。
「お待たせしてしまいました、スカーレット様」
ノーラの到着を待って、飛行ボードに搭乗する。領地の安全確保を優先した彼女を責められる筈もない。崩れた物見塔から生存者を救い出す余裕もできたので、無駄に時間を浪費した訳でもなかった。
「それじゃあ、行こうか。――沈めて!」
沈降する分には大地を揺らさないのか、船を捕らえたままゆっくり威容を海の中へ消してゆく。上がった悲鳴は聞き入れない。
率いる兵士は二個中隊。
六隻全てを私が監視するのは難しいので、十分な戦力を用意した。全員が強化型魔法籠手とオリハルコン樹脂防着を装備しているので、多少の反抗はものともしない。
後に、この作戦は“樹氷制圧戦”と呼ばれるようになる。
微妙に実態から外れた命名のせいで南の海に氷の樹が出現したのだと噂され、また大魔導士が超常魔法を使ったと誤解を振りまくのだった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
ブックマーク、評価をいただけるとやる気が漲ってきます。是非、応援よろしくお願いします。




