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大魔導士と呼ばれた侯爵令嬢 世界が汚いので掃除していただけなんですけど… 【書籍&コミックス1~2巻発売中!】   作者: K1you
消えた大魔導士編

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ジョゼット・ミラーブ侯爵

 正直な話、私は帝国に魅力を感じていない。魔素濃度が高いせいで魔物の脅威に晒され、王国を敵視するばかりに軍国化を推し進め、文化的に見るところがない。

 単に偏見という話でなくて、多くの資料を読んで判断している。当然、王国で発行されたものばかりじゃない。


 強いて挙げるなら、魔物素材が豊富に手に入るくらいかな。

 クランプル()ドレイク()みたいな存在は珍しいとしても、帝都の近郊で年に何度か竜が見られるくらいは環境が違う。その分屈強な兵士や冒険者が多く集ったって歴史は、軍国化と共に個性を色褪せさせた。

 今では高位の魔物を狩る目的で冒険者が流れてきても、定住する例は多くない。宿に魅力がなかったり食事が美味しくなかったり、稼ぎのために一時的には我慢できても物足りなさは感じてしまう。

 反王国思想をこじらせて排他的な国民性もあるから、結婚して永住って話もあまり聞かなかった。


 冒険者の活動状況は、国や領地を見る上で便利なバロメーターとなる。誘致したいとギルドの窓口を作っても、彼等の生活環境を整えなければ寄ってこない。衣食住は勿論、武器の品揃えや娯楽、新人を育てる体制なんかも必要となる。

 そうして冒険者を迎えたところで、情勢が悪くなれば去っていく。領主が運営を放棄したせいで荒廃していた旧エッケンシュタインや統治機構が崩壊したシドがいい例で、荒事を生業にするからこそ安心して滞在できる場所を好む。命懸けで魔物を狩りに行くからって、街中でまで暴力沙汰を望んでいる訳じゃない。

 報酬さえ用意しておけば大丈夫と考えて、失敗する領主は珍しくなかった。


 そういった観点で考えると、西側領地はマシになってきていると聞く。生活圏の奪還は急務だったのもあって、ニョードガイ辺境伯を中心に多くに貴族が私財を投じた。それだけの事業に失敗もできないから、ナイトロン戦士国からアドバイザーも雇って環境を整えたらしい。

 で、東側領地はと言えば……今回魔王種の出現を聞いて多くの冒険者が逃げ出した。


 帝国軍に協力して竜頭部を押しとどめた冒険者もいたけれど、ほとんどが地元出身者だったと言う。

 冒険者であっても命は惜しい。根無し草である彼等が愛着もない街を守る理由もなかった。帝国がギルドへ訴えれば評点は下がるとしても、魔王種認定が事後となったので強制招集はかけられておらず罰はない。

 復興作業は地味でお金にならないのもあって、彼等が戻ってくる様子もなかった。


 私としても、そうした統治しかできていなかった東部地域の評価は低い。武器の制限は理由にならない。西側領地はそれで魔物の掃討を続けているのだから。

 反王国が当然だった時代を回顧するばかりで変革しようとする現政府に追従できないなら、国交に対する期待も湧いてこない。食料の輸入が必要って訳でも、燃料や薬を帝国へ頼る訳でもない。特産品や気候を生かした産業にも魅力を見いだせなかった。

 以前にエノクと口論した通り、軍事方面にばかり特化して庶民の生活レベルも低い。こんな調子では、目新しいものも物珍しい発見も期待できなかった。


 異世界なんだから前世にはなかった不思議産業を……とは言わないまでも、王国で真似できない独自性が欲しい。


 それで帝国の解放に反対する訳じゃない。

 帝国に対して技術を供与しないとか、その内容を制限しようとか思っている訳でもない。

 ただ、私が帝国に望む競合はもっと先に思えた。


 だからって、それを本人達に伝えられる筈もない。同様に商機もあまりで期待できないからか、ウォズも微妙に塩対応だったけど、次々挨拶に来る帝国貴族とは笑顔で話した。

 基本的には感謝が多くて、反王国の意思を隠しているようには見えない。

 そういった人物は、暫定政府が今回の王国行きから外したとも考えられる。


 それでも、どうしても招待から外せない人物も存在する。軍人なら数が多いので厳選したって言い訳が通っても、貴族となればそうもいかない。竜頭部討伐へ積極的に兵を出し、難民受け入れにも寛容な大貴族となれば尚更に。


 帝国で活動していた頃はなるべく顔を合わせないよう調整していられたけれど、王国側から招いたこの場では避けられない。


「私からも感謝を述べさせていただけますか、ノースマーク伯爵」

「勿論です、ミラーブ侯爵。私こそ、秘匿部隊を動かしていただいて感謝しております。おかげで、被害領域の拡大を止められました」


 なるべく平静を装って答えたものの、胸の内は混乱でいっぱいだった。

 何しろ、私が把握していた人物像とはまるで違う。


 帝国東部を掌握するミラーブ侯爵の活躍は王国でも有名で、二十年前の戦争では追撃するカロネイア将軍を抑えて帝国軍の撤退を成功させた事で知られている。()が殿を務めたおかげで、国境要塞まで踏み込む予定だった反攻作戦の勢いは削がれてしまった。

 魔導士未満のカロネイア将軍と互角に張り合えるほどでなくとも、猛攻をしのげるだけの武威は王国に対して衝撃を与えた。

 現実を知らないまま政治的な思惑だけで戦争を望む多くの帝国貴族とは異なり、自ら戦場に立つだけの気概と侯爵領で王国への睨みを利かせながら自身の望む方向へ為政者達を誘導する狡猾さを併せ持つ。“策謀野猪”、“明晰たる猛進”などと呼ばれるだけあって英雄の一人には違いない。


 その勇名は王国からすると決して相容れないものにも関わらず、戦争責任から逃れてた事実からも、その手練手管が窺える。なんでも、ワーフェル山の呪詛ダンジョン事件までは主流派として暗躍していたものの、終帝アウグストへ譲位が行われて以降は領地へ引き籠っていたらしい。国境での防衛戦にも兵を出していない。

 ……と、それが私の知るゾオン・ミラーブ侯爵の話。


 けれど、目の前の()()は違う。

 年の頃は二十代半ばくらい。どう考えても二十年前に活躍している筈がない。

 それに、随分とゴージャスな格好をしていた。


 華やかなレース襟以外はシンプルな白シャツの上から金羊毛で織ったベストを着込み、ボタンには硬貨よりも大きなダイヤモンドが複数輝く。更に、その上からこれでもかってくらいに白金糸を刺繡した深緑のロングコートを羽織っていた。

 一見すると男装に見えてしまうものの、手足や腰の細さを強調するデザインとなっており、ショートパンツと膝上ロングブーツの間で脚が白さを主張する。ドレスばかりが女性を彩るのではないのだと、美しさと個性を前面に押し出していた。


「申し訳ありません。ミラーブ侯爵が代替わりしていたとは存じなかったのですが、いつ襲爵を?」

「無理もありませんわ。メドゥ沃龍の騒動、その最中ですもの。祖父を排除して親族には認めさせたものの、正式な手続きは先日終えたばかりですの」


 ミラーブ新侯爵は悪戯が成功した子供みたいにくすくすと笑う。手の甲で口元を隠す仕草がとても上品で、おーほっほっほ……と高笑いしても絵になる気がした。

 実際のところは、襲爵を隠して混乱を抑えていたのだと思う。非常時だからこそ、若輩の指示には従えないって勢力が出てきてしまう。


「排除?」

「ええ、英雄と称えられた祖父も、寄る年波には抗えず融通の利かない害悪に成り果てておりましたの。僅か数日で複数の領地が魔物の脅威に飲み込まれたというのに、それを放置して王国に攻め込むと仰るのですもの。国の損益について考えられなくなった老人は、退場いただいて当然だと思いません事?」

「……なかなか思い切った決断をされたのですね」

「それが最善だと思いましたので。きちんと領主として働いていたなら、もう数年は様子見のつもりでしたのよ?」


 簒奪の予定が前倒しになっただけらしい。

 その事実が噂として聞こえてこなかったくらいだから、政治空白が生じないくらい迅速な交代劇だったのは間違いない。


「それで漸く魔王種討伐が成ったかと思えば、先代を担ごうと分家達が騒ぎ初めまして、ちょっと説得に手間取ってしまいましたの」


 英雄視されていた前侯爵だからこそ、支持する勢力は少なくない。反王国思想は帝国で珍しくないから、同調する者達をまとめ上げてきた。二十年前の時点で貴族としては年嵩だったのに、先日まで侯爵であり続けた事からもその影響力が窺える。

 そんな後援勢力を黙らせるのは、簡単じゃかなっただろうとも思う。

 でも、説得したって話なのに拳を握る必要はあるのかな? もしかして、前侯爵の排除も力尽く?


「改めまして、ジョゼット・ミラーブと申します。この度は帝国を救っていただき、本当にありがとうございました」


 そう丁寧に頭を下げる姿勢からは、一切の粗雑さが感じられない。これほどお手本に沿った所作は、王国でもお母様やイローナ様をはじめとした数人しか思い当たらない。


「できるなら私も前線に馳せ参じたかったのですけれど……」


 なのに、次に出てくる言葉がこれだから物騒さが際立ってしまう。


「臣下を掌握しきれていない私が領地を離れてしまうと祖父が息を吹き返しそうでしたもので、祖父が集めた私兵を向かわせるだけで精一杯でしたの。王国人であるノースマーク卿が帝国を救おうとしてくださる中、最低限の助力しかできなくて申し訳ありませんでした」

「最低限だなんて仰らないでください。侯爵の決断がなければ、きっとコーナン基地は落ちていました。その場合、もっと被害は広がっていたでしょう」

「ですが、事実として私は後方にいる事しかできませんでしたわ」

「本来、それが領主の役目でしょう。民の安全を保障する筈の領主が前線で散ったのでは、守るべき民が安寧を得られません。それに、あの時点で必要だったのは個人の武勇より被害の拡大を抑えられる大部隊でした。英雄と呼ばれるような功績がなくとも、間違いなく貴女は帝国を救ったのです」


 なお、領主であると同時に軍属でもある大魔導士や戦征伯将軍は例外となる。国の最大戦力が変事に後方にいたのでは前線の士気が保てない。

 そういった場合があるから、普通は貴族家の当主が軍に属する事はないのだけれど。


「……ノースマーク卿は戦場での活躍だけで評価しないのですね。けれど、一つだけ訂正させてくださいませ」

「何を、でしょう……?」

「私、戦力差も把握できずに死ぬ事を誉とするような愚か者ではございません。前線に出たからと、責任を忘れる真似はしませんわ」

「それは……申し訳ありませんでした」


 どうも、戦場へ出れば死ぬかのような言い回しが気に障ったらしい


「ミラーブ侯爵は武術の心得がおありで?」

「ええ、乙女の嗜みですもの。武器なしでも、熊を撲殺するくらいはできましてよ(注 決して真似しないでください)」


 カロネイアでしか聞かないような嗜みが飛び出してきた。それでミラーブ侯爵を改めて観察すると、アクセサリっぽく偽装したメリケンサックを腰のベルトに吊ってある。

 剣や銃ならともかく、護身用の武器を隠し持つ貴族は珍しくない。私も縮小した箒をポケットに入れてあるから、違反じゃないけど。


 これは、オーレリアととても気が合うんじゃないかな。呼んでくるべき?

 帝国貴族にも武闘派女性がいるとは思わなかったよ……。

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― 新着の感想 ―
肉体言語上等なお貴族様(それも女性)が現れた。 まぁ、話し合いで解決できないことは…
説得(物理) 老害は粛清しました。 現在、東日本では熊被害が多いから。 異世界ならともかく、現実世界で熊を撲殺するのは無理ですよね。
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