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大魔導士と呼ばれた侯爵令嬢 世界が汚いので掃除していただけなんですけど… 【書籍&コミックス1~2巻発売中!】   作者: K1you
消えた大魔導士編

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コミックス2巻発売記念 番外 全属性の高い壁

コミックス2巻、本日発売です。よろしくお願いします。


そういえば本編で触れてなかったな……と今更思ったシーンを書いてみました。入学前、王都へ向かう途中の一幕です。

 ノースマークを出て王都へ向かう途中、私はフランから衝撃的な事実を聞いた。初めて向かう都会への期待だとか、勉学より人脈形成を重視する学院への緊張だとか、離れてしまった弟達への回顧だとか、いろいろなものが一気に吹き飛んだ。


「私が全属性って本当⁉」


 フランから告げられた事実が信じられない。

 この世界に生まれて十二年、魔法に関する常識も身に付けてきた。個人が扱える属性は基本的に一つだけ。極稀に複数属性に恵まれる例もあるそうだけど、それでもほとんどが二属性まで。三属性となると数百年前に一人確認された記録が残るだけ。

 それなのに、四属性、五属性を飛ばして六属性⁉ しかも、それぞれが釣り合っているから意識しないで発現させた魔力は無属性になる?


 何、その出鱈目存在?


 しかも、私にその奇跡が起こっていると言う。

 それってもしかして、転生特典?

 これまであんまり意識した事はなかったけれど、私ってチート仕様として生まれてきたの? モヤモヤさんを可視化する変な眼だけじゃなかった?

 ありがとう、会った事のない神様……!


「でも、どうして⁉ どうしてそんな大切な話をこれまで教えてくれなかったの?」

「……魔法関連と知れば寝食を忘れて本を読み、魔法の実習を始めれば魔力が尽きないせいで誰かが止めるまで挑戦をやめないお嬢様ですよ? 全ての属性魔法を使えると知ったなら、ますます魔法に傾倒したに決まっています。その場合、勉強をおろそかにしなかったと断言できますか?」

「…………」

「お嬢様が学院へ行くための勉強を全て終わらせたのは一か月前。かなりギリギリの進行でした。それなのに全属性の事を知ったとなれば、魔法に熱中するあまり勉強の修了が間に合わなかったに違いありません。そんな事態を避けるために、旦那様は伝達を制限されたのです」


 何も言い返せなかった。

 痛いところを突かれた私はフランからそっと目を逸らす。


 あの属性測定の日以来、正確にはモヤモヤさんを体内で動かすと奇跡じみた現象を引き起こせると知った日以来、私は魔法に関する好奇心を抑えられた事がない。前世と今世で最も違う点、魔法の存在に魅了された私は、魔法について詳しく究明してその限界を突き詰めると決めている。


 もともと無属性に限定しないで情報を集めていたから読書量は増えないとしても、知った限りの魔法を習得しようと躍起となった自分が想像できる。お父様が抱いたらしい懸念は何一つ否定できなかった。

 そして、勉強の遅延をお母様にこっぴどく叱られたに違いない。情報の制限は間違っていなかったと自分でも言える。叱られると分かっていても、魔法の探求をやめられなかっただろうから。


「でも、今になってどうして?」

「これからはお嬢様の判断に任せるそうです。学院生としてとは言え家を出た以上、自分の行動に責任を持つのも必要だ、と」

「う……」


 そう言われてしまうと弱い。

 魔法の勉強を始めた頃ならともかく、先日まで真摯に勉強してきた私は貴族の責務についても自覚している。庶民にかしずかれ、様々な特権を持つ分、人々の期待と義務がのしかかる。

 もしも魔法にかまけて勉学がおろそかになってしまえば、私が学院に通うために投じた税金が無駄になる。それで降りかかってくる失望や不信は、叱られるより怖い事に思えた。

 これまではお父様と言う緩衝材があった。お母様が叱って、止めてくれた。でも、もう両親の庇護から飛び出してしまった。

 これからの私は、侯爵令嬢という自分の立場や好奇心、周囲から向けられる誘惑や要求を慎重に見極めて、自らを律しないといけない。


 課した勉学を乗り越えたら今度はそれを現実で生かして立ち振る舞えと言うんだから、お父様も厳しいよね。


 聞いた話では、入学する子女と一緒に王都へ向かってしばらく監督する親もいるらしい。貴族として特別な教育を受けたと言っても十二歳はまだまだ子供だと思うから、その姿勢が間違いだとも思わない。

 でもそうした話を羨ましがらないあたり、私もノースマークに染まったものだと思う。

 前世の当時と比べればとんでもないお子様になったと実感してるけど、そんな自分も嫌いじゃない。ひたすら大変だと思ってきた勉強も、確かに私の血肉となった。


「お父様の思惑通りって気もするけど、そう言われてしまえばきちんと計画を立てて魔法を習得する時間を作るしかないね」

「そう言ってくださると思っていました」

「三年後、学院へ入るカミンに貴族の責任を放棄した私を見せる訳にもいかないし」

「フフフ、そうですね。カミン様も今頃、お嬢様に追いつこうと努力を重ねていらっしゃるでしょうから」

「それにあれだけ勉強したんだから、少しは余裕ができてる筈だよね。他の学院生達と交流する時間は仕方ないとして、予習済みの科目の時間を使って多少は魔法に集中できるんじゃないかな?」

「…………」


 期待を肯定してほしくてフランへ確認したのに、何故だか微妙な顔をするばかりで返事をくれなかった。

 え?

 まさか、修めた分はあくまで最低限で、これからもっと厳しい勉強生活が待っているとか言わないよね?

 私、これ以上は流石に泣くよ⁉


 フランの反応がどういったものなのかはっきりさせたくて詰め寄ってみたけれど、決して口を開こうとはしなかった。どうも、王都に着くまで口止めされているらしい。

 その指示が私のためだと判断した時のフランは頑固だから。


「それよりお嬢様、ご自身が全属性だと知った事実を確認してみないのですか?」

「……」


 明らかに話のすり替えだけど、これ以上の尋問は無駄なので恨みがましい目を向けるだけで乗っておく。

 魔法への関心は本物だしね。


 幸い、私は無属性だと診断された後も他の属性について記した本を読み続けた。ゲームやアニメの設定資料を読んでいる感覚で、この世界の基本知識を読み漁った。

 おかげでそれぞれの属性を発現させる方法も知っている。

 火属性は、燃える炎と熱を思い描く。

 水属性は、大気中から水を取り出すイメージ。

 風属性は、空気がどこにでもあるのだからそれをかき混ぜる。

 土属性は、地面へ見えない手を伸ばす。

 光と闇は不可分だから、それぞれを色濃く意識する……。


 そうしてしばらく意識を集中させると、右手に蠟燭程度の小さな火が生じ、その隣に水滴が膨らみ、左手の上で風が踊り、手の平に石礫の重さを感じた。更に右手はうっすらと光り、右手の影が濃くなっている。


「……本当に、お嬢様の魔法の才能は秀でていますね。全属性が使えると意識するだけで、しかも全てを一度に発動させられるなんて……」


 フランは心から驚嘆した様子で称えてくれたけれど、私はまるで満足していなかった。


「お嬢様? 嬉しくないのですか?」


 風魔法を見せてもらって大騒ぎした時の興奮や、空間魔法を発動させて得た達成感が湧いてこない。拍子抜けしたと言っていい。体内に溜め込んでいた筈のモヤモヤさんが魔力だと知った時の感覚に近いかな。

 眉間にしわが寄っていたかもしれない。

 フランも、思っていたような反応を返さない私に気づいて心配そうにこちらを窺う。


「発現()問題なかったよ。でも、その先が見えてこない」

「え……、と?」


 うまく伝わらなかったみたいなので、私は他の属性を消して風魔法にだけ集中する。フランが風属性なので、多分この方が理解を共有しやすい。

 手の上だけだった干渉範囲を広げて、宿の部屋中に風を吹かせる。


「ここまではできるんだよ。でも、フランは更に風を刃にしてみたり、風の触れた対象を探知したりできるんでしょう?」

「ええ、この通り」


 彼女がそう言った途端、風でたなびいていた髪の一部が切れた。見えなかったけれど、極薄の刃が起こした結果に違いない。


「うん、それ。私も、風を刃に変えて攻撃する魔法については本で読んだ。頭に思い描く内容も知っている筈なのに、それと実践が繋がらない。風の触れた感覚が空気を伝わって届くと知っていても、どうやって認識すればいいかも茫漠としてる」

「そんな……」


 これだと火や水を出せるだけとなる。魔力量は多いから火力や水量は増やせても、魔法ってほど細やかな操作ができない。

 前世の記憶が邪魔している訳でもないと思う。実際水を大気から取り出し、見えない手を伸ばしてどこからともなく石ころを引き寄せられた。なのに、風を刃にするイメージは頭の中で形にならない。


 強いて挙げるなら、風の制御を一部フランに奪われた実感だけはあったかな。


「フランにとって、風が刃になったり風の触れた感覚が伝わったりするのは自然な現象な訳でしょう? でも、私にはそれが当然だと思えなくて……」

「あ! もしかしてそれが、魔法感性の有無でしょうか?」

「そう……なのかな? 頭に思い描いた筈の映像に靄がかかったみたいにボンヤリしてるんだけど」


 レグリット先生が言っていた。

 魔法感性は魔法を使う上で必須だとされている。そのため、属性診断前には小さな炎、僅かな水滴すら発現できない。

 私の場合はモヤモヤさんを目視しているせいで、あれに干渉できて当然だと無属性の魔法感性が働いたんじゃないかと思っている。“ビー玉”を作った時、体内のモヤモヤさんを窓やタンスに押し込んだ時、前世の感覚的には非常識な現象なのに、それが当然だという感覚が湧いてきた。

 閃きが現象として成立すると言ってもいいかもしれない。


 それで言うなら今回は、不調のフランを癒した時や空間に干渉できると気付いた時のような不思議な感覚が生じていない。これが魔法感性のない状態なのだと言われてしまえば、納得する他なかった。


「つまり私は、扱えない六属性を無駄に持っているか、私独自の干渉方法を見つけないといけない訳だね。だからって、何をしたものかも皆目見当がつかないよ」

「折角お嬢様の可能性が広がると思っていたのに、残念でしたね……」

「え、なんで?」

「いえ、こうして碌に魔法を使えなかった訳ですから……」

「それは現時点の話でしょう? 今後もフランみたいに上手く風を扱えないと決まった訳じゃない。困難な問題かもしれないけれど、とりあえず弱い風を起こす事はできたんだから可能性は十分あるよ!」


 今回、私が前代未聞の全属性保有者だと知って、それぞれの属性に関して才能があると判明した段階だと言える。なら、その才能を磨けばいい。超えるべき壁が高いからって諦めるのは勿体ない。

 研鑽が成就するかどうかは知らない。

 努力すれば、才能は必ず芽吹くだなんて思っていない。


 それでも、全属性だよ?

 転生した世界に魔法があるってだけでも興奮したのに、全ての才能に恵まれていたなんてこれ以上の幸運はない。初手こそ期待はずれだったけれど、好奇心と遣り甲斐で心が躍る。

 独自のアプローチ、自分なりの魔法の解釈? それを考えるだけで楽しそう。

 魔法をこの世界独特の現象と捉えて、そのメカニズムを解き明かす過程で突破口が見つかるかもしれない。理解が深まるだけでも、新しい発想が得られるかもね。


「……申し訳ありません。私、お嬢様をまだ過小評価していたようです」

「そう? それはいいけど、確か学院にはノースマークの図書館以上の蔵書があるって話だったよね?」

「はい。魔法に関してだけでも、相当な量だと思います」

「まずはそれを読むところからかな……。あ、王都なら複数属性を持ってる人もいるかもしれないから、話を聞いてみるのもいいかもね」

「分かりました。探してみます」

「うん、お願い」

「それから、学院の全課程を修了した後なら魔塔の図書も借りられますよ」

「流石に入学前に考えることじゃないと思うから、それは後でいいかな。学院の勉強と並行して魔法関連の本を読みながら検討してみるよ」

「…………」


 今度のフランの沈黙は、まるで私の関心を刺激しなかった。

 それより、思い出せる限りの魔法発動方法を試してみる。中には室内で試すには危険な魔法もあったけど、空間魔法で宿の部屋を拡張して試用スペースを確保した。

 同じ方法で移動中の車内でも魔法の検討を続けられるし、空間魔法を習得しておいて本当に良かったよね。


 結局、王都までの私は魔法漬けだった。

 都会への期待? 緊張? どこかへ消えたよ。




 王都到着後もそれはあまり変わらない。入学手続き後は図書の貸し出しが可能になったので、早速専門書を読みふけっていた。何かを思いついたなら空間拡張した寮の部屋で試す。

 少しずつ成果は上げられている。

 魔法感性がないのは間違いないみたいで、その状態で魔法を使おうと思えばゼロからイメージを構築する必要がある。魔法感性に沿って魔力を扱う場合と同じにはならない。でも、その分オリジナルの魔法が使えそうだから楽しくて仕方がなかった。


「お嬢様、そろそろ遅い時間です」

「え? もう?」


 集中していると、あっという間に時間が過ぎ去ってしまう。さっき本を読み始めたと思ったのに、フランに声をかけられて時計を見ると十一時を回っていた。

 自覚的にはそろそろアラ〇ォーでも、今の身体は十二歳。これ以上の夜更かしは翌日に障ってしまう。


「そうだった。明日はオーレリアと魔塔に登るんだよね。研究階層には立ち入れなくても、丘の上の高塔から見る景色はちょっと楽しみかも……」


 折角明日も楽しみな予定が入っているのに、これ以上読書は続けられない。

 気づいてしまえば途端に体が睡眠を要求する。瞼が落ちそうになりながら両手を上げると、フランが着替えさせてくれた。普段は自分で着替えるのだけれど、ちょっとその余裕がない。このままだと服を脱ぐ前にベッドへ飛び込みそうなので、今日はフランに甘やかしてもらう。


「魔法への関心はそのままに、同じくらい大切な友人ができた様子で、何よりです……」


 微笑んだフランの呟きは、もう私の耳には届かなかった……。

巻末にも書き下ろしSS載せています。

オーレリアとの王都散策の一環で、今度は海へ乗り出します。

釣り……の筈が、その概念を覆すのがレティです。美味しい魚を釣って一攫千金……?

どうぞよろしく。

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ファイヤーボール、ウォーターボール、ロックボール、ウインドボール、ライトボール、シャドウボール… 魔法球でおてたわまして見ます。
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