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大魔導士と呼ばれた侯爵令嬢 世界が汚いので掃除していただけなんですけど… 【書籍2巻&コミックス1巻発売中!】   作者: K1you
動乱の皇国編

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ウォズはどこへ行った?

「悪魔の心臓をダンジョン開発に利用した事、ダンジョン核が悪魔の心臓だった事、これらは王国でも一部にしか明かしていない。そうでしょう?」


 その大前提をまずは確認しておく。私達の間では当然の内容でも、世間的には知る必要がない。危険を承知していたからこそ、開発へ着手する前に国から許可をもらったって経緯もあった。


「エノクへは国から内々に、皇国へはレティが伝えたのでしたよね?」

「うん。ゼルト粘体の件で、危険物だって認識共有は必須だった。きちんと管理してもらわないといけなかったからね」


 危険性を説くだけでなく、有用性を知ってもらって管理する意欲を刺激しておいた。

 技術供与の一環でもある。当面はともかく、いつまでも王国で技術を独占していたのでは新しい発想が生まれない。国ごとに生まれるダンジョンの個性にも興味がある。

 この二人から、秘密が漏れるとは考えられなかった。いつか巨万の富を生み出すかもしれない異物に関する情報を、不用意に漏らすとは思えない。帝国では反王国貴族がまだ存在するし、皇国には国より領地を優先させようとする貴族が多い。一領地がダンジョンを独占するなんて状況は見逃せない。どう考えても、詳細は国が秘匿したまま管理しなければならない問題だった。

 当然、王国でも情報開示を厳選している。

 人工ダンジョン開発許可を議会で得る必要があったから他国に比べれば知っている人間は多いけれど、徹底して緘口令を敷いている。他は、ダンジョンを保有している領主くらいかな。従来のダンジョン利用を続けるか、人工ダンジョンを取り入れるか選択してもらう必要があった。彼等も、他者に利益を奪われかねない漏洩を行うとは思えない。


「レティ。確か、ビドー・ショバンは知らないと言い続けているのですよね?」

「情報を得てきたのは伯爵令息だったみたい。むしろ、それを知ったからこその魔力増強剤モドキ密売かもね」


 私への対抗手段を得たから、暫定政府の方針に背く暴挙に出たのかもしれない。

 仮死状態だったビドーの記憶は、殴られた時点で止まっている。コーフックス領の壊滅も、メドゥ沃龍の暴虐も知らなかった。そのせいで、自分を裏切ったユラート・コーフックスを道連れにしてほしいと尋問には協力的に応じているらしい。拘束された事で観念したというか、自身の末路より怒りが勝った様子で、都合が悪いからと嘘を吐くとは考えにくかった。


「そもそも……、そもそも立地的に考えて、コーフックス一族に皇国との伝手はありません。加えて反王国派だったことも考えれば、王国貴族と繋がりがあるとも思えませんね」

「他の例外は悪魔の心臓を提供してくれたアーント統括官くらいだけど、小国家の一官僚が王国を敵に回すなんてできる筈もないよね」

「……一族郎党どころか、ヴィーリンが消し飛びますね。以前にレティと一緒に会った様子からすると、そんな大それた真似ができる印象はありませんでした。蒐集欲より異物を手放せた安心が勝った様子でしたし」

「何より、彼には監視がつけてあるよ。そこからの報告はない。ウォズが蒐集品で縛ってあるから、裏切るような兆候は見られないって」


 ウォズ曰く、ああいった人物は操りやすいとの事だった。同じような真似をしようとしても、これまで欲を満たしてもらった実績と今後の期待があるから、おいそれとなびかないとか。


「そうなると……、黒耀会の残党でしょうか? でも、あんな連中に秘密を探れますか?」

「無理じゃないかな。以前みたいに連中と癒着していた貴族からならともかく、そういった人物は議会から一掃されているしね」


 残党側からは探れない。

 そうなると、貴族側から意図的に漏らした疑惑が持ち上がる。


「帝国側の情報拡散は問題ないかな。関係者は皆死んだから」

「唯一の生き残りも、処刑を免れる事はあり得ませんね」


 ユラート・コーフックスが機密を拡散しようと思ったなら、会合を持つか書面を送るか。どちらも家令に内密にしたまま行えない。書面の内容は伏せたとしても、送った事実は把握されてしまう。拘束したビドーから、不審な書面を送った情報は入っていない。せいぜい親族の誰かへ口頭で伝えるくらいしかできない筈だった。


 一方で黒耀会の残党からは、漏らした疑惑が残る。少なくとも、関係者全員を処分する必要が生まれてしまった。

 南ノースマークで違法薬を売った段階で、そのつもりだったけど。


「国家への……、国家への反逆ともとれる情報漏洩。調査は諜報部でしょうか?」

「ヴィム・クルチウスが何か情報を得てくれればいいけど、そうでないなら手掛かりがないからね。機密を知っている人間全員を容疑者とするなら、彼等が適任だろうね」

「懸念点は、今回の魔物災害で所属員に少なくない被害が出てしまった事ですね。人海戦術には支障が出るかもしれません」


 コーフックス伯爵家の人間が関与していると判明した時点では、薬物密売ルートの特定は急務だった。けれど直後に魔物災害が起こったせいで、何人もの潜入員から連絡が途絶えたと言う。


「そこは私達が気にしても仕方がないよ。損害が出たからって活動を止める組織じゃないだろうし、あそこにどのくらいの所属員がいるのかも私達は知らない訳だし」

「そうですね。私達にできるのは、社交中に不自然な人物がいないか目を光らせるくらいでしょうか」

「残念ながら……、残念ながら私はそこでお力になれそうにありません」

「相手はこれまで捜査線上に名前の挙がっていない人物だろうから、私達もどこまでできるか分からないけどね」


 人工ダンジョンに関する情報漏洩と違法薬物の密売。二つは別の事件だけれど、どちらにもユラート・コーフックスとの伝手があった以上、関与が一方だけとは思えなかった。


「とりあえずの舞台は、今度の祝勝会でしょうか」

「三日後に王城で催されるやつだね」


 本来ならメドゥ沃龍討伐記念に帝国で開催するところ、復興に精一杯でそれどころじゃないと王国主催に決まった。善意の他に、大魔導士(わたし)が中心の作戦だったと内外へ示す意図もある。

 カロネイア将軍は勿論、生存者救出作戦で活躍した部隊長やレオーネ騎士学校生、潜伏本体特定に協力した魔塔研究者の他、竜頭部の被害拡大を押しとどめたモレキュラー将軍や各部隊長、難民の受け入れや支援物資輸送に貢献中の帝国貴族も招待している。なんでも、この機会に私へお礼を言いたいと西側辺境伯のオーディル・ニョードガイ卿も来るらしい。

 長期間帝国を離れられる立場じゃないので、送迎にはコントレイルを使う。


「未だ胸中が不明のミラーブ侯爵も来るから、情報漏洩者を探すどころじゃないかもだけど」

「これまで、反王国を主張する帝国貴族が王国を訪問した例はありませんでしたからね。それだけでも事件です」

「正直、招待に応じるとも思ってなかったよ」


 どんな心変わりか、何か思惑があるのかと、帝国でも噂になっていると聞く。それでも侯爵は沈黙したままで、私兵団だけが復興に手を貸しているとか。

 不気味ではあるものの、だからと言って国土防衛に部隊を派遣した侯爵を呼ばない訳にもいかない。


「ところでレティ、ウォズは今どこに?」

「え? 知らないよ」

「「「…………」」」


 普通に答えると、三人からとても冷たい視線をいただいた。

 あれ? 私、何か間違えた?


「婚約者ですよね、レティ?」

「うん」

「それなのに、居場所を把握していないのですか?」

「えーと……」

「祝勝会に……、祝勝会に出席するなら婚約者同伴は必須の筈です。まさか、一人で出席するつもりだったとは言いませんよね?」

「……あたし、ウォズが可哀そうになってきました」


 信じられない、といった様子で詰め寄られる。何故だか、ここにいないウォズヘ同情が集まっていた。


 親同士の口約束ならともかく、正式な手続きを終えた婚約者同士が公式行事に連れ立って参加しなければ、個人的に婚約を認めていないものと受け取られてしまう。まずは不仲を疑われるし、婚約者側を蔑ろにしているのではって噂も立つ。

 いくら私でも、そんな貴族の常識を知らないとまでは言わない。ウォズにそんな不名誉を背負わせるつもりもない。


「いや、毎日通信で話してはいるよ? 帝国への出征中は流石に無理だったけど」

「レティ様にしては、随分な進歩ですね」


 厳しい評価をもらう。恋愛結婚しようって貴族の婚約者的には、まだ不足らしい。


「どうしてそれで、ウォズの行き先を知らないのです? 出征には同行しませんでしたし、魔物の異常増殖のあたりから顔を見せていませんでしたよね?」

「あの頃は、被害に遭った町村のために支援物資を集めていたって聞いたかな……?」


 今回の事件と比べれば、魔物に襲われた損害はずっと小さかった。だからそれほど多くの貴族と会う必要はないので、基金の運用も任せられた。


「魔物災害の時点では、皇国へ行ってたって話だよ。ぱぺっ君用の鉱化スライム片を量産する体制は整っていないから、内戦で回収した一部を貰ってきたって。あの国で私の名前を出した時点で、接収とも言うけれど」

「きちんと把握しているではありませんか。なのに、今の居場所は知らないのです?」

「把握と言うか、雑談の過程でそんな話をしただけだからかな? 個人的な通信だから、報告会みたいな真似はしてないよ」

「それ、レティ様の関心がないせいじゃないんですか?」

「そうかな? と言うか、婚約者の居場所って常に把握しておくもの? 皆はきちんと知ってるの?」

「カミンなら、今はノースマークに戻っていますよ。学院での自主研究より、魔物災害への物資手配を学ぶそうです。この機会に、地方首長との結束を強めておきたいとも言っていました」

「グリットさんは道路工事の監督と護衛ですね。魔物領域近くの作業になりますから、あの人がいてくれるだけで安心感が違います。工事自体にも参加してしまっているみたいですけど……」

「私の……、私の場合はもう婚約者ではありませんけれど、カーレルさんはシャンブーフ商会のデイジーさんと会っている筈です。帝国へ大量の食糧を送った分、国内の流通を見直すと言っていました」


 ……負けた。

 婚約者ができたってだけでは、まだまだ彼女達に敵わなかった。全幅の信頼で仕事を丸投げしていても、日々の成果を事細かに尋ねるのが乙女心らしい。


「だって、どんなふうに頑張っているのか、知っておきたいではありませんか」

「あたしも頑張らないとって活力をもらえますから」

「カーレルさんが……、カーレルさんが忙しくしている様子なら、労ってあげたいのもあります」


 私、こんな風に女子力をレベルアップさせらえる日なんて来るのかな?

 ウォズが不満を見せないから、それに甘えてしまった部分もあるかもしれない。


「とりあえず、祝勝会の期日だけ伝えて、当日会えればいいやって思っていたのが悪かったのは分かった」

「論外です」

「レティ様……」

「もしかして……、もしかして衣装のつり合いも考えていないのではありませんか?」

「……言われてみれば、そんな必要もあったね」

「「「…………」」」


 呆れを通り越して、とても凍えるような視線を向けられた。ノーラはいないのに……。

 流石に、ちょっと反省する。


 これは改めて、ウォズと真面目に話し合っておく必要があるかも。

 オーレリア達に指摘されたからってだけでなく、自分でも多少の危機感を覚えた。ウォズに愛想を尽かされるのは困るしね。

 後回しにするとまたズルズルとこれまでの日常を続けそうだったので、すぐさま彼の居場所を探したところ、判明したのはウォズが学院で拘束されたって事実だった。

いつもお読みいただきありがとうございます。

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