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大魔導士と呼ばれた侯爵令嬢 世界が汚いので掃除していただけなんですけど… 【書籍2巻&コミックス1巻発売中!】   作者: K1you
動乱の皇国編

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魔王種の残した傷跡

 魔物災害は討伐の後も忙しい。

 連日、私は領地で会談に参加し、ベネットとの打ち合わせを重ねていた。


「お嬢様、食糧輸送の準備、調いました」

「ありがと、すぐにコントレイルで送って。領地の備蓄は問題ない?」

「はい。並行して増産計画を進めておりますので、備蓄量低下は一時的の予定です。他へ支援する余裕はなくなりますが、南ノースマークで災害が起きても十分に賄えるだけの蓄えは残してあります」

「そこは、巨樹肥料様様かな」

「ええ、その通りかと。農業研究班の奮闘がなければ、これだけ大胆な食糧供給は行えませんでした」


 主に品種改良へ利用する筈だった巨樹肥料は私の手から離れた後、巨樹肥料を用いた急速栽培用の新品種を生み出すまでに至っていた。本来なら植物の成長を待たなければならない経過観察を短縮できるのが大きい。

 なんと、麦が僅か一月で、大豆なら二十日で収穫できる。

 栽培可能な作物はまだ限定されているものの、味に不満点は残っていなかった。勿論、食糧支援に適しているくらいだから、栄養面の問題も解決している。いろいろと高価な素材を使ってコストが跳ね上がるため常用には向かないものの、こうした非常時にはとても貢献してくれる。


「増産を受け入れた農家さんや無茶な輸送計画に応じてくれた業者にも、きちんと割り増し報酬を出しておいてね」

「マーシャリィ様から、ベールマン運送は追加分の受け取りを辞退するとの申し入れがありましたが?」

「それはそれ。今のマーシャは庶民なんだから、貴族が民間の厚意に甘える訳にはいかないでしょう? ベールマン運送名義で寄付って事にしてもらってもいいから、他の業者と同等額は支払っておいて」

「……そう、ですね。かしこまりました」


 歴史上でも類を見ない大災害に遭った帝国のためにする事は多い。何しろ、国の十分の一を超える土地が無人となったのだから。

 いくらかの住人は救い出せたものの、人が生活できる環境は残っていない。家は打ち倒され、インフラを支える大型の魔道具も魔石の捕食を目的として破壊された。地面から次々と湧いて出たものだから、分断された道路も少なくない。


 だからと言って、このまま放置したのでは魔物の巣窟となって奪い返すのが困難になる。

 帝国の西側地方で起きたのがこれで、墳炎龍の影響で増えた魔物被害を避ける目的でいくつかの領地を放棄した結果、今も奪還の攻勢を続けている。帝国の生活圏は大きく後退した。

 このまま東も西も生活可能圏を失ったなら、国力が大きく衰退してしまう。


 かつての墳炎龍の対応が今回のメドゥ沃龍の場合と大きく違うのは、反王国意識の強かった当時の上層部が王国の介入を拒んだ点。被害地域が王国から遠く離れていたのもあって、難民救済にすら関われなかった。

 墳炎龍自体は私が討伐したけれど、西側地方での魔物領域の拡大は帝国の決定が原因なので、王国が支援する理由にはならない。


 ただし、魔物が人類共通の敵のため、本来は魔物災害への支援は国の義務とされている。

 内戦や私との戦争で多大な被害を出した皇国も、できる限りで労働者や支援金を捻出しているくらいだった。

 ちなみに皇国の場合は竜に国土を荒らされたものの、竜が私の戦力と認識されているので魔物災害としては扱われない。同様にワーフェル山で起こった屍鬼の氾濫も、帝国からの攻撃とされている。戦争後にきっちり賠償をせしめたけれど。


 ヴァンデル王国としても復興に協力するものの、領主単位での援助も行う。下級貴族ならともかく、伯爵以上の遺族がこういった場合に無関係を貫くと、非道な領主として名を落とす。

 そうでなくても私は初期から関わっているのだから、最大限の支援を行うつもりだった。

 特に食料面では貢献できる。竜頭部に穀倉地帯を蹂躙されたため、帝国はかなり危機的状況にあった。当然、備蓄倉庫も荒らされている。魔物は穀物なんて食べないけれど、保存用の魔道具は大型の魔力充填器を使用している場合が多い。


「お嬢様、リデュース辺境伯から会談の時間を半日程度遅らせたいとの連絡がございました。物資送付用のコントレイルを増便している影響で、リデュースからの列車に遅れが生じているとのことです」

「それはいいけど……、調整できる?」

「可能です。午後からの面会を予定しておりましたカーギー男爵は既に到着しておりますので、予定変更に応じていただけるかどうかを打診して、了解は得ています」

「そう、じゃあそれで。こちらの都合に応じてもらったお礼に、宿泊は最高級のホテルへ案内しておいて、フラン」

「かしこまりました、お嬢様」


 こういった場合に備えて、いくつかの宿泊施設はノースマークの名前で常に押さえてある。巨樹と海が一望できて内装も料理も一流。裕福な貴族には人気でも、男爵が個人的に泊まれるレベルじゃないから十分なお礼になると思う。宿泊費もこちらが負担する……と言うか、永年契約を結んであるので追加の支払いは発生しない。


 貴族がそれぞれで支援するのが一般的とだとしても、どうしても例外は存在する。

 それがリデュース辺境伯。

 あそこは二十年前に大部分を占拠された経緯から、今でも反帝国感情が強い。そんな状況で今回の支援を行えば、領内の反感が高まってしまう。

 かと言って、貴族の体面的に無関係を貫く訳にもいかない。領民感情に配慮した結果だと一定の理解は得られるけれど、次に自分の領地で魔物災害が起こった際に支援を渋られてしまう。帝国の脅威は去ったとは言え、大規模な魔物領域に接したリデュース辺境伯領でその選択は自分達の首を絞めかねない。

 そこで、聖女基金を利用する。

 具体的な物資でなくとも十分な資金を投じておけば、義務は果たされたと見做してもらえる。使い道を帝国への支援と決めるのは基金側になるので、積極的に帝国を援助した訳ではないと建前を用意できた。詭弁ではあるけれど、面子を守るための備えは必要となる。


 慈善団体は他にもある筈なのに、どうも最近、大きな額が動く場合には優先的に窓口となる場合が多い。私への信頼と考えれば悪い気はしないけど。


 カーギー男爵もその一人で、先方から話を持ち掛けてきた。

 下級貴族に義務は発生しなくても、支援に協力するなら名を売れる。上級貴族に並べるほどの資金力があるのだと知らしめる目的もある。

 ただしカーギー男爵の場合は吹聴するほどの額は出せないので、人道支援に参加したって証を残すための出資となる。これなら具体的な金額が表沙汰になる訳じゃないし、支援者として名前を並べることはできる。最低限の売名は可能だった。


 それでも庶民感覚からすると決して少額じゃないし、大勢からの出資が集まれば結構な金額となる。そのために、なるべく多くの貴族と面談を繰り返していた。

 私が出資者のところへ出向く時間はないので、訪問してもらえる貴族限定になるけれど。


「あ、ベネット。特級回復薬も増産しておいて」

「それは可能ですが……、よろしいのですか?」


 ベネットが躊躇いを見せたのは、国内でも特級の流通には強い制限がかかっているため。

 先日の魔物の異常増殖みたいな非常時以外は、貴族であっても爵位に応じた本数しか購入できない。下級貴族ともなれば一、二本の所持が限界で、追加購入には厳格な審査を突破する必要がある。冒険者もBランク以上のパーティーに一本と取り決めてあり、こちらは使用期限の五年が過ぎるまで再購入ができない。

 比較的多めの特級回復薬を提供しているのは軍事施設で、任務中の負傷には制限がなかった。ただし、訓練中の怪我には適用されない。

 ちなみに騎士団にこの特例は適用されず、部隊ごとに二本のみ支給されるだけとなる。例外は王族護衛中の負傷だけれど、この事態が発生した例はまだなかった。


 瀕死の状態をも覆す強薬だけあって、厳しく管理されている。

 開発者の私には任意の使用が認められているものの、帝国の……しかも庶民を助けるために大量生産したとなれば国内の反感を買う。反スカーレット派を中心に、開発者特権の剥奪や規制緩和を求めてくる事態も予想できた。

 それでも、今回ばかりは個人的な感情を優先したい。


「折角助けたのに、薬が不足したからって死んでほしくはないからね」

「……分かりました。現在領地にある在庫は、全て帝国に送っておきます」

「それでいいかな。一定数を生産できるまでは私が領地にいると思うから、何かあったなら魔法で対応するよ」


 残念ながら、貴族が庶民を助けることに不満を示す貴族も存在する。王都や他領で見境なく治療を行うと、貴族らしくないと叱られる。特に他領の場合、領主の顔を潰したのだと苦情が届く。でも、領内に限っては口を挟ませない。

 とは言え、個人レベルでの事故や病気まで助けている訳ではないけれど。


「ベネットは甘いと思う?」


 貴族としては、感情に流され過ぎだとお父様やお母様から苦言をもらうレベル。

 国内でも、魔物に襲われて命を落とす一般人は大勢いる。その全てに特級回復薬を届けられる訳じゃない。少し関わっただけで情を向けるのは、不公平だと言われても仕方ない。


「正直なところを言わせていただくなら、少しだけ……。でも、いいのではありませんか? お嬢様らしいと思いますし、生活必需品はふんだんに送るのに、回復薬は駄目だなんて人道的におかしな話です」

「まあ、ね」

「全てを奪われるほど悲惨な目に遭ったのですから、そのくらいの奇跡はあっていいのではないかと。救助者の今後を保障することについては、アモントン公爵が約束してくださっているのですよね?」

「うん。被害者達を路頭に迷わせることはしないって」

「それなら、あの方の負担を軽くしてあげる必要はないのではありませんか? 全員を助けて、後の面倒は押し付けてあげましょう」


 ……どうも、私が嫌いなエノクは、古参のメイド達も嫌いらしい。

 私も、彼の為政者としての頑張りは認めているものの、出会った頃の悪印象を許した覚えはない。私の胸を鼻で笑った件、まだ謝ってもらってないしね。

 執念深い?

 それは仕方ない。忘れられる訳もない。

 あの頃から育った気がしないんだから……!


「それに、国王陛下の許可は得ているのですよね?」

「そこは流石にね。魔物災害自体私が解決したようなものだから、被害者の治療くらいは好きにしていいって」

「つまり、帝国への恩を重ねておくつもりなのだと思います。政治上の判断と言うことですから、お嬢様が気になさる必要はございません」

「そう……かな? まあ、貴族の不満は陛下に壁となってもらおうか」

「ええ、それがよろしいかと」


 確かに、あのメドゥ沃龍の脅威を考えれば、王国に多大な被害が出てもおかしくはなかった。伝聞でしか状況を知らない貴族はあの魔王種の危険性を実感していないだろうけれど、私は王国の危機を救ったとも言える。

 そう考えれば、多少の我儘は許される立場かな。


 ただし、救助者の中に一人だけ例外がいる。

 その人物はまだ生かしてあるけれど、それは情報を聞き出すために最低限の治療を施しているに過ぎない。


 ビドー・ショバン。

 私が帝国へ来る原因となった一味には、生き残りがいた。

いつもお読みいただきありがとうございます。

次回、11/22の更新ですが、対応できるか分かりません。できる限り間に合わせようとは思っていますし、無理な場合は翌23日、もしくは24日に更新します。(もしかすると、いつもの事じゃないかと思われるかもしれませんが……)

ご理解いただけると幸いです。

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