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大魔導士と呼ばれた侯爵令嬢 世界が汚いので掃除していただけなんですけど… 【書籍2巻&コミックス1巻発売中!】   作者: K1you
動乱の皇国編

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やってきたフラン人形

 鏡面転移が可能と言っても、オリハルコン間の移動に限定される点は変わらない。クリスティナ様の固有魔法は、神製金属の補助なしに模倣できるほど解析できていない。鏡面間という制約があっても、転移魔法実現の壁は高かった。

 おそらく、この世界の摂理について解明できていない部分がある。


 だから、ウェルキンへの移動にはオーレリアの煌剣を借りる。

 元々コーフックス伯爵を拘束するだけの予定だったし、私は魔力を貯蔵して持ち歩く必要もないので、都合よくオリハルコンの持ち合わせはなかった。


「――転移先設定、魔力圧上昇、鏡面接続……確認、鏡門展開」


 勿論、煌剣のオリハルコンを転移の入り口にするには面積が足りていない。当時採取量が限定されていた神製金属を最低量しか使用していないので、伸ばして表面積を拡大するのも現実的じゃない。第一、そんな事をすればオーレリアの絶対切断武器が使用不能になってしまう。修繕は可能だとしても、この状況で私の離脱とオーレリアの攻撃力低下は救出作戦に支障が出る。

 そこで、煌剣を媒介にしてオリハルコン鏡面と同性質の力場を作り出す。


 クリスティナ様が初めて固有魔法を発動させた手法が、多分これ。

 彼女は家族同然だった孤児院を壊滅させられた辛い現実から逃げるために、鏡の代わりとなる力場を発生させた。


 展開は一瞬。転移魔法の適性を持たない私はそれだけで小規模の臨界魔法を放てるくらいの魔力を消費するけれど、魔王種が猛威を振るう今なら補給は容易い。出し惜しみしている場合ではなかった。

 力場を維持できずに双方向の転移が不可能な点については、ウェルキンを足にすればいい。


「こんな魔法があるなら、もっと安全に避難誘導を進められたのではないか?」

「残念ながら、そこまで便利なものじゃないんです。転移対象を設定毎回しなければなりませんから、不特定対象を移送するのに向いていません。そのあたりは、魔法を定着させた転移鏡と違いますね」


 魔道具は汎用性が前提なので、起動中の転移鏡に触れた人物を対象とするよう調整してある。けれど、そこまで魔法を制御するのは大変だった。


 はじめて鏡面転移魔法を試した際、素っ裸で隣の部屋へ移動した体験はちょっと忘れられない。

 設定された対象以外が鏡をくぐれないなら不足にも気付けたのに、鏡を通った後で未設定対象が入り口から吐き出される仕様だったから笑えない。身に着けていた服どころか下着まで放り出されて、研究室の空気が凍ったと言う。

 歴史的瞬間に立ち会うんだと張り切っていたキャシーも、全裸で鏡から出てきた私を見て何も言えない様子だった。出口側にウォズが待機していなくて本当に良かったと、切実に思う。


 そんな魔法なので、集中力を必要とする。

 あれ以来、私個人が移動する目的以外で使用した事はない。間違っても、いつ竜頭部が襲ってくるか分からない切羽詰まった状況で使う魔法じゃない。下手をすると大惨事がまた起こる。


 その点、魔道具なら装着物一通りを対象として含めるよう設定しておけば、事故は起きえない。あらかじめ設定した鏡面間以外の転移はできないって短所はあっても、確実の同じ魔法を再現できる点は強みになる。

 かと言って、オリハルコンがないなら転移鏡を作製って訳にもいかないし、国外への持ち出しは手続きも必要となるから、どちらにしてもメドゥ沃龍の被害者救出に鏡面転移は導入できなかった。少しでも人命救出に有効な手段が欲しい気持ちは分かるけれど。


「そのあたり、詳しく説明はお願いね」

「分かりました。行ってらっしゃい、レティ」

「――鏡面転移魔法、発動!」


 魔法に集中した状態で解説まで続ける余裕はないので、後の事はオーレリアに任せて力場を展開する。

 足元に開いた力場へ沈む感覚を覚えると同時に、見慣れたウェルキンの一室へと移動した。


『ご足労いただき、ありがとうございます。緊急時につき、連絡が十分でなかった点は申し訳なく思っております、お嬢様』

「…………」


 私の転移を予測して転移部屋で待っていたフランと対面し、エノクが何に戸惑っていたのか理解できた。同時に、すごく微妙な気持ちになる。


 フランには違いない。今更彼女の声は間違えない。でも、彼女を疑問符付きで呼んだエノクの気持ちも理解できてしまう。


『危急の帝国へ技術者を派遣するにあたって、その方法を実践して見せた方が早いと私だけ先行させていただきました』


 明らかに目の前の物体から、フランの声が聞こえてくる。

 けれど、その姿は彼女のものではなかった。体躯は小さく、材質は木製。大きな頭部があって四肢が人の形状に似通っているものの、バランスは人のそれと異なる。“人形”と呼んで差し支えのないものだった。


「それ、何?」

『申し訳ありません、まだ名前はございません。遠隔操作人形……とでも呼ぶべきものでしょうか? 私は今、王都からお嬢様に話しかけております』


 短いながらに丁寧な所作を見せる手足からすると、そうだろうと思う。まるで似つかないのに、その立ち居振る舞いからはフラン本人を想像できた。

 首、肩、腰などが球体間接になっていて、人体の動きを模倣できる。パペット人形を操り糸で操作する代わりに、魔道具で駆動させているのだろうと推察できた。


「もしかして、鉱化スライム片を使ってる?」

『はい。私の思考を魔力波通信機で伝える事で、人形の稼働を可能にしています。頭部には映写晶が設置してありますから、お嬢様の姿はこちらにも届いていますよ』


 皇国でアンハルト-レゾナンス連合軍がゴーレムモドキを動かしていたくらいだから、人形を動かすくらいは想定できた。けれど、通信機と映写晶を組み合わせて超・遠隔操作する発想は私にもなかった。意思を魔力波で飛ばせる事自体検証していない。


 ちなみに、事前の連絡がなかったのは通信機をこれに使っているという事情もあったらしい。

 私を驚かせようって誰かの意思も働いているような気もした。今の帝国はサプライズの対象となるような状況ではないけれど、悲壮感は遠地にまで伝わらない。


「誰が……、いつ、こんなものを……?」

『着想はフェリリナ・ロイアー様です。作製はシドの留学生達が協力したそうですから、造形が拙い部分もあるのですけれど』

「え……、フェリリナちゃん!?」


 思ってもみない名前が出てきて驚く。

 事ある毎にキャシーが褒めていたので魔道具に関して理解が深いのだろうとは思っていた。それでも、六歳の女の子が未知の魔道具を生み出せるとまでは思っていなかった。


 けれど、同時に納得できた部分もある。

 魔力波通信機は悪用される危険が高いので、生産工場を限定する目的で機構については秘匿してある。鉱化スライム片に至っては、その技術をまだ公表していない。元となった魔道具を皇国から奪取してきたのもあって、概要を魔塔へ伝えたに過ぎなかった。そうなると、これらの技術に触れられる場所は南ノースマークしかない。

 そして、フェリリナちゃんは天才と呼ばれたアノイアス様の血を継いでいる。


「自由を約束したのもあって将来の糧となればと新素材も渡してみたけれど、意外な形で才能を開花させたね」

『はい。事件について知るまでは構想でしかなかったそうですが、製作可能な留学生と引き合わせ、必要な素材を手配したのはベリル様です』

「……ああ、フェリリナちゃんの名前が出た時点でそんな気はしてた。ウォズに師事してそのあたりの伝手を作っていたからね」


 そうでなければ今に間に合わなかったに違いない。私達の誰かが残っていれば製作環境を整える事もできたけれど、実際はそれどころじゃなかった。

 私の不在時、領地の方針はベネットが握っている。彼女は魔道具に関して明るくないから、帝国の状況把握と必要魔道具開発を並行して進められたとは思えない。そうなると、ベネットを説き伏せてフェリリナちゃんに開発環境を用意できる人間は、今の南ノースマークでベリル君しか思い当たらない。

 しかも、メドゥ沃龍の生態を私達が把握する前から行動に移していたらしい。技術員が不足する事態を読んでいなければ、的確にフランを派遣できなかった。


「……兄弟そろって末恐ろしいね」

『まったくです』


 まだ六歳だなんて事実はまるで当てにならない。

 私の危機を助ける魔道具だと正論を突きつけられれば、ベネットも頷くしかなかっただろうし。


「その上でフランがここへ来たって事は、量産の体制も整っていると思っていいんだよね?」

『はい、三日ください。それで同様の人形三百体を届けられるそうです。ベリル様が計画書を用意した上で、ロイアー準侯爵を動かしてくださいました。ビーゲール商会が別魔道具の生産を止めて、制作を開始してくれています』

「操作用の通信機も届くと思っていいんだよね?」

『はい、既に製造済みの通信機を改造中です』


 なんでも、音声と映像を確認するためのフルフェイスヘルメットが必要になるらしい。稼働中は椅子に座って人形の操作だけに専念する。


「人形を動かして、計算の補佐をするのは誰が?」

『魔塔の皆様が立候補くださっています。改造済みの通信機を使って操作を練習中です』

「あ~、目に浮かぶね」


 好奇心に逆らえない大きな子供が絶賛試用中らしい。その光景は容易く想像できた。魔王種の勢力範囲に直接赴く事がない上に新しい魔道具を体験できるなら、彼らが躊躇うとは思えなかった。

 測定値を目視して、計算は魔塔で行なうのかな。人形の手は筆記できるほど精巧な造りになっていないので、結果は口頭での報告になると思う。それで生じる多少のロスくらいなら許容できる。おまけに人形は飲食を必要としないので、協力者分の物資の用意も省略できた。


「操作用の通信機も届くと思っていいのかな?」

『ええ、その方向で進めています。必要でないなら発送を早められますが……、どうします?』

「そのままでいいよ。こっちでも操作可能な人形があった方が助かるから」

『分かりました。では、それで』

「ちなみに、このウェルキンには他の物資も積んでいると思っていいんだよね?」

『はい。現時点で出来うる限りの武器や食料を運んできたつもりです』


 どちらかと言うと、人形のお披露目の方がついでとなる。

 避難者がどんどん増え、竜頭部との戦闘が激化している状況では武器も食料もいくらあっても足りない。


 けれど、これで一気に可能性が開けた。

 魔塔の技術者の助けが借りられるなら、潜伏本体の特定は時間の問題となる。更に、大量の人形投入がその確実性を上昇させる。

 計算だけなら数十人もいれば十分なところ、三百体もの人形を用意したのは測定器の設置を目的としたものだと分かる。破損のフィードバックなんてないから危険は少ないし、最悪の場合は衝撃軽減の魔法だけ施してウェイルから降下させれば設置に向かえる。現地での設定調整も可能だった。


 これで討伐できないなら、大魔導士だなんて名乗る資格がないね。


いつもお読みいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
フェリリナちゃんとベリルくん、未来予知とループ能力をそれぞれ持ってて情報の共有と試行錯誤を繰り返して辿り着いた結果です! って言われないと納得できない……いや、言われても納得できるか分からないレベルの…
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