覆る脅威度判定
ノーラ達との合流後、調査は彼女達に任せて私は避難誘導に集中した。
私も調査に加わりたいところではあったけど、最高戦力を調査に割くのは勿体ないと言われてしまえば断れない。
竜種の蔓延地域に地上から向かうのは現実的じゃないけれど、空路なら救出できた。軍用飛行列車ウェイルから私が魔法を放ち、次が現れるまでの短い時間に避難民を収容する。その誘導には、オーレリアも参加していた。
彼女はレオーネ従士隊と騎士学校生の一部を率いて防衛にあたる。
空中から広範囲へ魔法を撃つ私は、細かい標的調整ができない。避難民を巻き込む位置には撃ち込めないので、急に現れる蛇竜には地上で対処する必要があった。
その点、神速で動けるオーレリアは適している。
彼女の従士隊も連携に優れているし、連れてきたのはそれなりに経験を積んだ女性騎士見習いだから、避難民を誘導しながらの警戒もこなせていた。どこから現れるか分からない敵影を監視するには、見張りの目を増やすのが一番効率いい。
オーレリアの騎士学校は、急に一期生を募集したのもあって入学した生徒に年齢差がある。これまで機会に恵まれず活躍の場が与えられなかった女性達を年齢で選り分けるのは勿体ないと、能力試験だけで判断してある。
そのため、冒険者としての実績があったり、騎士としては認められなくても実家で護衛を担当していたり、個性を生かして活動していた女性も多い。そういった経験でもなければ、成人後に改めて騎士になろうだなんて考えないってのもある。
オーレリアの目的は多くの女性に選択肢を与える事。
強くなろうって意思を最大限尊重するのはカロネイアの基本理念でもあった。
だから、入学後に改めて試験を課して、能力別にクラスを振り分けてある。体力作りから始める初心者コースもあれば、公の場での礼儀作法を学べば卒業できる短期集中コースもあった。ここに連れてきているのは後者のお姉様方で、即戦力として頼りになる。
「右前方、魔力反応あり! オーレリア様!」
「はい!」
迎撃を担当するのはオーレリア。
疾さと攻撃力が違う。避難民が恐怖で混乱に陥る前に、地面から顔を出そうとした蛇竜はバラバラになった。
「将軍、避難民の進行方向に複数の魔力反応が――!」
「おう! 第二師団、突貫!」
「「「うおおおおおおぉぉぉっ!」」」
勿論、王国軍も負けていない。煌剣を持つオーレリアみたいな瞬伐はできなくとも、彼等は蛇竜への攻撃と警戒を同時にこなす。魔法籠手で蛇竜の動きを止め、ロケットランチャーで顔面を粉砕する。
個人の携帯型ではなく、本来は小型艇ミノーに搭載する多連装ロケット砲なので、複数の蛇竜にも対応できた。発射筒をアルミニウム合金で軽量化したとは言え、あれを担いで避難民を誘導しながら、戦闘となれば頭部へ正確に当てられる技術は人間離れして見えた。
カロネイア出身の精鋭だからこそ可能な超人技とも言える。
ちなみに、単独で大勢を誘導し、同時に全体を指揮しながら、もぐら叩きみたいに蛇竜を次々と粉砕する真似は、カロネイア将軍にしかできない。
一緒に行動中の帝国軍は、あれと戦わなければならなかったのかと怖気づいていた。
私?
圧倒的な魔法の行使に、ただただポカンとされていたよ。
あんまり脅威が過ぎると、現実のものと思えなくて感情が停止するらしい。敵対するなら逃げ惑うしかなくても、自分達に被害がないなら考える事自体を放棄するのだとか。王国でも皇国でも見慣れた反応だったから、今更気にしないけど。
残念ながら、蛇竜発生領域内での生存者は多くなかった。東はムロート辺境伯領の一部、南は海岸線まで及び、北はいくつかの領地を呑み込んでミラーブ侯爵領とコーミ辺境伯領に達し、西はコーナン城砦にまで活動領域が伸びており、帝国の十分の一近い国土に蛇竜が蔓延った状態にある。
あくまで魔力奪取を目的として人を襲うので、都市や町といった人口密集地域以外は蛇竜に襲われずに済んでいた。根こそぎに人を襲うほど感知能力は高くないのか、少人数で隠れていた場合や避難民とはぐれて震えていた住人が見つかった場合も多い。
そうした人物を探してウェイルとデルフィス、サンドゥが帝国東部を飛び交う。案内役の帝国兵数人が飛行列車に乗った以外、救援は私達に任せて帝国軍は防衛に集中していた。装備が整っているなら蛇竜は倒せないほどの脅威じゃない。倒しきれないだけで、活動領域の拡大は止められている。
空路から救援に向かえるのは王国の協力があるからだと、地上での役割に専念してくれた。王国軍の部隊展開は住民の反発と不安も大きいから、適材適所とも言える。
それでも、救出できるのは被害に遭った帝国民の極一部でしかなかった。
特にコーフックス伯爵領が酷い。それなりに栄えていた筈の領都は瓦礫の山で、片手で数えられるほどの生存者しか見つけられていない。いずれも、瀕死の状態で魔力反応も弱く、おかげで蛇竜の探知から逃れた人達だった。
他国の事と言っても心が痛い。
もっと早く来られていれば、せめて不良騎士達に足止めされていなければと無念が募る。
王国側としても魔物の脅威を軽んじて武装を制限し過ぎた責任があるから、生存者救助にはできる限りで協力した。勿論、回復薬や食料の提供も惜しまない。
そうして私達が活動する間に、ノーラはキャシー、マーシャと協力しながら調査を続けていた。
ノーラ曰く、どこからか魔力の供給を受けている、と。
土地から直接って話ではないらしい。地下に魔力の供給線ができている。地脈とも違う積層のようだった。
「え? つまり、あの尻尾の先ってどこかに繋がっているの?」
『そうとしか思えませんわ。あれだけ大量の魔力の供給先が、そういくつもあるとは思えませんもの』
「はぁ~……、なるほど」
否定はできなかった。竜は特殊進化を果たした魔物だから、常識では考えられない異能も持ち得てしまう。斥力を操る小竜、ダンジョンの一部を外殻として纏った土竜、既にそんな個体をいくつも見ている。
複製ではなく再生、それも大本が別にいると考えれば、いくつかの謎も説明できてしまう。ゼルト粘体のように分裂で増殖しているのではないとするなら、多頭同貌の進化なんて他の可能性が思いあたらない。
「通常とは異なる形で展開したダンジョンって訳でもないんだよね?」
『はい。地中に力場が張り巡らされてはいますが、ダンジョンの魔力反応とは違う流れ方ですわ』
「まあ、普通に地面が砕けているからね」
『その通りです。ダンジョン核に魔石の情報が記憶されて、損壊と同時に再生が始まっている訳ではありませんわ。既に大量の蛇竜が潜んでいて、餌を見つけると顔を見せているだけです』
同貌の個体が湧いて出る仮説として帝国内で噂されていただけで、私も別要因だろうとは思っていた。
ダンジョンが発生しているなら、その領域内からモヤモヤさんが消える。けれど、私の眼下には、黒々とした見慣れた光景が広がっていた。
「変化前の個体はヘテロコンダだと思うけど、あれも複数の集合体だったって事?」
『そうですわね。地上に出ているのは触手のようなものではないでしょうか。本体には地上へ出られない理由があって、魔力や養分補給の目的で竜頭を伸ばしているのでは?』
「うーん。それだと、蛇竜のそれぞれが魔石を持っているのはどうして?」
『離れた場所での視界を得るためだと思いますわ。おそらく、脳や魔力感知器官も頭部ごとにあるのでしょう』
「触手が自発的に人や魔物を襲って本体を養っていると?」
そんな摩訶不思議も、竜の形をしている時点で今更だけど。
つまり、ヘテロコンダも集合体だった事になる。そうなると、脆弱な竜として判断されていた脅威度がまるで当てにならなくなってしまう。複数個所を同時に襲う魔物と考えれば、かなり厄介な存在と言える。それにおそらく、地上現出部分がダメージを負うだけで、討伐された事はなかったに違いない。
そんな怪物が、更なる魔力を得て変貌した。
本当の意味で討伐されていないのだから、潜んでいた数もきっと多い。複数のトレントが融合してキミア巨樹となったように、それらのヘテロコンダが統合されて上位種へ進化を果たしたに違いない。
『魔王種、そう判断して差し支えないかと思いますわ』
蛇竜単体なら討伐可能でも、それらが絶えずに襲ってくると思えば脅威度は跳ね上がる。本体へ攻撃は届いていないのだから、このままで弱る事はない。竜に相当するような触手を次々生み出せる様子からは、膨大な魔力量が窺えた。
そして既にいくつもの領地を吞み込んでいる状況を思えば、最恐種に相当するのだと考える他なかった。魔黒龍や墳炎龍でも、ここまでの広範囲を支配下には置いていない。
「伯爵、ワーフェル山の時のように、広範囲魔法で一度に消し去る事はできんのか?」
「無理です。あの時の私は、ほとんど全力でした。それでも山一つ分、それに比べて今回は蔓延対象が広大過ぎます」
「むぅ……、そうか」
移動中、ノーラとの通信に口を挟んできた将軍の無茶を否定した。
魔王種相手に有効な攻撃手段が私しかいないのは把握しているけれど、私が魔法を制御できるのは視界に収まる範囲に限定される。映像を見ながらの遠隔操作なら可能だとしても、それで出力範囲を広げられる訳じゃない。
そもそも、呪詛ダンジョン化事件で私は加減をしなかった。つまり、私の最大火力である臨界魔法はあれで限界という事になる。おそらく、魔力収束率が上限に達している。
「地上へ現出している竜頭部分を攻撃するのではなく、本体を討つしかないでしょうね」
それならいくらか可能性が考えられる。
臨界魔法の効果範囲を絞って地中深くまで消滅させる方法は、ラミナ領で実践した。いくらなんでも、蛇竜本体が星の中心近くまで潜行しているとは思わない。触手の出現範囲が帝国東部に限定されている事から考えても、地表付近に潜伏している可能性が高い。それなら、おおよその位置を特定できれば私の魔法が届く。
本体の消失で触手部分も死滅するのか、魔力供給が途絶えてヘテロコンダに戻るのかは分からないけれど、帝国軍で対処可能な状況にまでは持っていけると思う。
「なるほど、つまりエッケンシュタイン子爵に本体を見つけてもらう他ないのだな?」
『申し訳ありません。わたくしも、地中深くに潜伏した魔物の本体を見つけ出すのは無理ですわ』
「何⁉ そうなのか?」
「ええ、ノーラの魔眼能力は鑑定特化と魔力の目視。物体透過はできません」
「……そうか、魔眼と聞くとつい頼りたくなってしまうが、伝承で聞くほど万能なものでもないのだな」
魔眼は一能力に特化していると言っていい。
使い方次第では便利な一方で、鍛えたからと新しい能力が追加されたりはしない。それについては、モヤモヤさんの目視をON/OFFできないものかと私が十年以上に亘って実証した。
ノーラが魔力の流れを追えるのも、高濃度の魔力が極浅い地層に存在する場合に限られる。
「そうは言っても、蛇竜の再生が尽きるまで討伐を続ける方法が現実的でない以上、本体の捜索は必須であろう? どうするつもりだ?」
「直接の補足が難しいなら、魔道具の目を用意するだけです」
具体的には魔力の測定器を複数設置して、本体の位置を計算で割り出す。蛇竜部分へ魔力の供給が続いている以上、本体は必ずその流れの中心にいる。その準備のために、ノーラとキャシーは動いてくれていた。
ただし、この方法にも問題はあった。
何しろ、人手がまるで足りていない。
ここまで広範囲に魔物の活動が散ってしまうと、測定機の設置は十や二十では意味がない。数百、下手をすると数千にも及ぶ設置が求められている。
ノーラは軍人さん達に護衛してもらいつつ、周辺を凍らせて蛇竜出現を抑制できる。キャシーには烏木の守を付けた。それでも危険は伴うから、設置速度は上げられない。
しかも、取得した魔力値を計算する担当がマーシャしかいなかった。
測定値が膨大になる事は確定しているのに加えて、本体も移動している可能性が高い。そうした状況を考えれば、リアルタイムで数値を追う必要がある。贅沢を言うなら、測定器の設定調整役も欲しい。
かと言って、この作戦で確実に本体を補足できる保証もないのに、救出活動は止められない。生存者捜索が優先に決まっている。
避難が完了したなら設置作業は軍に任せられるとしても、計算役は私達が合流したくらいでは焼け石に水でしかない。パソコンの開発がうまくいっていないのが悔やまれる。
早急に人材確保の方法を考える必要があった。
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