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大魔導士と呼ばれた侯爵令嬢 世界が汚いので掃除していただけなんですけど… 【書籍2巻&コミックス1巻発売中!】   作者: K1you
1年生編

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スライムの可能性

 沸点上昇という現象がある。

 塩とか不揮発性の物質を液体に溶かした時、その溶液の沸点が上がる現象で、まずはそれを疑った。


 検証は簡単。

 縮んだスライムは端にどけておいて、回収した水もどきを、もう一度沸騰させてみればいい。何かが溶けていただけなら、もう取り除いてるから100℃沸点に戻る筈。


「―――121℃……変化有りません、ね」


 1℃とか、誤差だよね。これでこの液体が水じゃないのが確実になった。


 いや、でも待って。

 水を他の物質に変えるのって、難しいんだよ? 前世でも、今世でも習ったから、知ってる。しかも目の前のこれ、水の性質を保っているように見える。


「いや、結論を出すのは早いだろう。まだ高沸点液体が混入しているという可能性もある―――無味無臭だが」


 そう言ったのは、アルドール先生。

 隣の部屋で書類仕事をしていた筈だけど、騒ぎを聞きつけてやってきた。魔物素材が専門だから、気になったんだと思う。

 あと、リッター先生もここに居る。

 スライムの事なので、何か心当たりはないかとキャシーが質問に行ったら、すっ飛んできた。


 アルドール先生主導で同定を進める。まずは、単体か、混合物かが知りたい。


 あと、検証用に追加でサンプルが欲しいので、次々フラスコにスライムを突っ込む。リッター先生のところに、いっぱいいたからね。むしろ先生が率先して、どんどん詰め込んでた。

 ついでに確認した沸点は、一律120℃、個体差はないみたい。


 蒸留しても、沸点差のある液体は得られなかったし、クロマトグラフィーなんて方法でも、全く分離できない。

 どうも、水ではない単体物質と考えるしかないみたい。

 分泌液とかが混ざったって可能性は低い。


「いやあ、スライムには大きな可能性が秘められていると信じていましたが、これは驚いたよ。まさか構成している液体が水でないとは」


 水分の多いところを好んで、水を吸って大きくなるのに、構成してる物質が水じゃないとか、思いつく訳が無いよね。

 この液体、スライムは吸収した水を原料にして作ってるんだよね。魔力で分子構造を作り変えたとか?


 リッター先生、大興奮です。

 角刈り、マッチョで、体育の先生みたいだけど、スライム研究者なんだよね。趣味は筋トレだと思う。


「何故そんな生態を持っているのか、興味が湧きますね」

「単純に考えるなら、より揮発性の低い液体をまとって、乾燥から身を守る為では?」

「その点は、身体をゼリー状にする事で対処していると発表されていませんでしたか? まあ、今回の事で前提条件が変わりますから、覆る可能性はありますが」

「ええ、調べ直す必要がある。その為にも、アルドール先生の性質分析には期待してますよ」

「あまり急かさないでもらえるとありがたいですが、一見、水にしか見えない点が面白い。何かの代替にできるかもしれません」

「実際、水としか扱われていませんでしたからな。冒険者などが遭難した場合には、渇きに備えてスライムを確保するよう指導されているくらいですから」

「実績的に毒性はなさそうですね。料理の彩りに、スライムをスライスして添える、なんて地域もあった筈です。念の為、過去の症例は浚ってみましょう」


 先生達、大盛り上がりだね。

 スライム専門リッター先生は勿論だけど、新素材が見つかるなんてなかなか無いから、アルドール先生もテンションが高い。

 楽しかったし、研究結果は気になるけど、私のテーマは素材の活用だからね。物性が明らかになっていない液体なんて、扱いが思いつかない。今のところ、私の興味はここまでかな。

 時々、先生達のところで経過を聞こう。


「……あ、あの…」


 そんな風に考えていたら、キャシーがそっと声を上げた。


 先生達含めた全員の視線が集中して、続く言葉を切り出せなくなってしまってるけど。


「キャシー、どんな内容だって、可能性を議論する場には必要だから、遠慮なんてしなくていいんだよ」

「は、はい。…あたし、思ったんですけど、スライムが魔力を蓄える為って事はないですか?」

「「「!!」」」


 そうだ。

 モヤモヤさんを吸収するところは私が確認してるし、魔物であるなら生態と魔力は直結している。スライムの体が魔力で支えられていると、考えたのも私だった。そして、スライムの核はあまりに小さい。

 核が本体だとしたら、ゼリー部分は容量不足を補う外部貯蔵器。理屈は合ってる気がするよ。


 だとすると、この液体には魔力が溶ける?


 思いついたら、すぐ試す。

 幸い、ここには魔導変換器がある。モヤモヤさんを用意すれば、いくらでも魔力に換えられる。


「ああっ! 液体だから、魔力度計に接続できない!?」

「大丈夫、私の研究室には液体用の測定器がある!」


 言うと同時に、アルドール先生、走って行ったよ。本来動くべき助手兼側近さん、ポカンとしてるね。




 結果はキャシーの予想通り。

 魔力を吸収させた液体は、測定器の針をぐいぐい押してる。溶けてないなら、魔素に戻って、私の目に映る筈だけど、わずかな漏れも見つからない。


「しかもこれ、吸収量も多くないですか?」


 装置の構造上、セットできたのは小匙一杯分くらい。なのに、みるみる魔力を吸っている。オーガやキメラ、上級魔石に匹敵するレベル。

 このゼリーの塊に、どうして無駄に高いポテンシャルが備わってるんだろうね。


 ふと、スライムが原初生物だって仮説を思い出した。


「これ、魔物が魔力を蓄える構造の原形なんじゃ……」


 言ってゾッとした。

 並列回路から分割付与を思いついた時と同じ。ただの思い付きなのに、カチリと理論がはまった感覚がある。

 勘でもない。思い付きを自分の中にある知識経験で、否定できない感じ。


「「「……」」」


 根拠なく合ってる気がしたのは私だけじゃなかったみたい。ここに居る全員が沈黙した。 


 水にしか見えないから、いろんなものと容易に混ざる。血とか、体液とか、身体を構成する液体と混ざれば、魔力を全体に循環させられる。

 ひょっとすると、人間にも流れてるかもしれないよね。


「お、おおぉ……研究を続けて20年、スライムが魔物の原点である可能性に踏み込めるとは思わなかった。これで、スライムに価値など無いと嗤った魔塔の阿呆共を見返してやれる!」


 最初に衝撃から立ち戻ったのはリッター先生だった。

 感極まって、天井に祈りを捧げてる。

 後半の暴言は聞かなかった事にしてあげよう。20年も前から、魔塔(あそこ)の体制は歪んでたんだね。


「そうなってくると、この液体の応用範囲は広がるよ。仮説が正しいなら、あらゆる魔物の特殊能力を支えている事になる。魔法だって溶かせるかもしれない!」


 次に動き出したのはアルドール先生。


 魔法を使うのは人間だけで、魔物は身体を変質させて特殊能力を使う。

 人は魔法で火を作り出すけど、魔物は体内で火を生成して吐き出す、とかね。

 でも、魔物の能力は多岐に亘る。身体構造だけでは説明のつかないものもあると言う。それも、体内を循環する術式があるからだとすれば、理屈が通る。

 質量的に浮く筈のない竜が空を飛べるのは、体内に飛行の術式が巡っているのかも。


 今度は私に視線が集中する。

 うん、スライムと同じ属性、つまり無属性なのは私だけだからね。


 スライム水の容器を手に取ると、魔力を込める。イメージは、皆といつか話した回復魔法を溶かし込んで傷を癒すポーション。ゲームでおなじみ回復薬。

 付加はすぐに終わった。

 見た目の変化はないけど、モヤモヤさん漏れもないから、きっとうまくいってる。


「よし、早速試してみよう!」


 いきなり自分で試そうと、ナイフを振り上げたリッター先生は、皆で慌てて止めたよ。

 最初は動物実験から始めようね。

お読みいただきありがとうございます。

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こっちの方が最先端ww
[良い点] マッドサイエンティスト集団や(ガクブル)
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