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大魔導士と呼ばれた侯爵令嬢 世界が汚いので掃除していただけなんですけど… 【書籍2巻&コミックス1巻発売中!】   作者: K1you
1年生編

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無駄な会談

 13の塔とそれを管理する13人の魔法使い。

 それが300年前、エッケンシュタイン博士が設立した魔塔の始まり。


 塔そのものが丸ごと研究施設になっていて、建物自体は当時そのままで現在も使われているらしい。その頃の魔術師が、強固と固定化の魔法を付与した為、今でもほとんど劣化が無いとか。

 外壁は黒。

 月と杖のシンボルと同様に、魔塔の象徴として鎮座する。


 今では高層建造物が増えたけど、かつては王城も見下ろす唯一の巨層建造物だったらしい。

 どうしてそんな研究施設を建てたのか、実は不明。何故かそのあたりの資料が残っていない。案外、博士が高いところを好きだったなんて理由だったりしてね。


 勿論、研究員も当時より増員してる。大掛かりな研究になると、一人で出来るものじゃないからね。塔ごとの長13人の下に、それぞれ100人近い所属員がいる。それでも、狭き門だけどさ。


 私達は副塔と呼ばれる附属施設の応接室に案内された。事務なんかの機能を集約させたところで、塔と言うより官舎だけれど。別の副塔には図書館もある。


 対面に座るのは、第5塔の長とその副長。

 第5塔は付与魔法を専門としていて、私の研究内容に沿った責任者が出て来たらしい。


 私だけなら、この対応でもギリギリ及第点なんだけどね。今回はアウト。


「導師殿は、本日どちらに?」


 導師と言うのは、魔塔の最高責任者で、第1塔の長でもある。入学式で挨拶してたから、私も顔は知ってる。


「ドライア伯爵のお招きがありまして、そちらに行かれております。何か、導師に御用でしたか?」

「いえ、いらっしゃらないなら、結構です」


 お父様が話を振ってあげても気付かなかった。

 侯爵より伯爵との約束を優先しましたなんて言える人、なかなかいないと思う。


 私が魔導変換炉見学に行った時、エジーディオ所長が迎えてくれたように、上級貴族の対応はその組織の責任者が行うのが普通。侯爵(おとうさま)の場合なら、義務と言っていい。

 そんな貴族の常識が分からないくらい、ここの人達の頭は劣化しているみたい。

 閉鎖された世界で威張って、自分が偉くなったつもりかな。

 レグリットによると、貴族主義を引き摺ってるって話だったけど、これ、もっと忌まわしいものだよ。爵位を継げなかった鬱憤を、ここで解放してるんじゃないかな。


 挨拶の後、ここは子供の遊び場じゃないとか、時間を取ってもらっただけ光栄に思うといい、なんて意味合いの事をネチネチ言われたけど、特に気にしない。

 見下す事に慣れて、侯爵(おとうさま)が視界に入らないような人達、取り合ってたら話が進みそうにないからね。


 話を始める前に、会談の内容を外に漏らさないよう記した魔導契約書にサインしてもらう。

 貴族にとって、機密を守る事は信用問題に関わるので、この過程は省く場合もある。先日の戦征伯達との会談がいい例だよね。信用できる相手なら、むやみに契約で縛る必要はないからね。

 勿論、今日の場合は適用しないけど。

 ちなみに、分割付与以外の資料は持ってきていない。無駄に開示する必要性を感じなかったからね。

 委託する気も薄れてきてるけど、きちんとした人もいるって話だから、今後の為と思って、繋ぎだけは作っておく事にした。

 ノースマークの令嬢が魔塔を軽視してるって、世間に思われるのは良くない。




 渡した資料を読み込んでから、何故か2人の顔がだらしなく緩んだ。

 何だろうね。面白い事とか、載せた覚えはないよ。


「宜しいでしょう。12歳と言うのは随分早い事例ですが、学院卒業後、お嬢さんの席を我が5塔に設けるよう、計らいましょう」


 はい?

 何言ってるの?

 新技術を賄賂として提供しに来たとか思ったの?

 聞いてもないのに、裏口採用の話が飛び出したよ。


 探りを入れる前に情報が手に入って、笑顔の圧が上がってるお父様に気付いた方がいいと思うよ。私だったら絶対敵に回したくないってくらい、怖い人だからね。


「どうも、私達の用向きが伝わっていないようですな。面会依頼の書状は確認されていないのですか? なかなか斬新な解釈で驚きました。幸い、娘は講師資格を持っていますから、教える事には慣れています。レティ、先触れの内容を、噛み砕いて説明して差し上げなさい」


 わーお。

 塔長さん達、嫌な顔してるけど、お父様の怒りはそれ以上だと思うよ。


「私達の研究室では、付与魔法の新しい活用方法を発見しました。これまでの付与とは異なる点も多く、様々な応用も可能と考えておりますので、共同研究を行いませんか、とお誘い致しました」

「はっ! 子供の思い付きが、ものになる筈がないだろう。穴だらけで話にならん」


 副塔長さん、侯爵令嬢(わたし)を鼻で笑うとか、なかなか凄い事ができるね。

 そういう魔塔の中だけでまかり通っていた部分を、表に引き出すのが今回の目的の一つだから、ここでの事はすぐ外へ筒抜けになると思うよ。

 栄えある魔塔にこんな愚かな者がいるって噂になったら、実家から呼び出されるんじゃないかな。確か家を継いだ妹さん、厳格な人だったよね。


「あら、どのあたりに穴があったでしょう? 今後の為に、是非ご教示ください」


 それはそれとして、マーシャ達がまとめた資料の批判は放っておけない。


「複数の基盤をつないでも、動作しない事は報告されている。こんなものが成立する訳がない」

「エッケンシュタイン博士のお弟子さん、アナカルド博士の論文ですよね。その内容は存じていますが、その後、ルティジン博士の研究で、魔導線素材を見直す事で動作自体は成功してますよね。残念ながら、魔導線に希少素材が必要になる事と、機能が多重付与に及ばない事で、以降の研究は断念されたそうですけど」


 それ、直列に、しかも多重付与した基盤をつないだ場合なんだよね。基盤同士が干渉するのか、負荷抵抗値が跳ね上がる。

 似た研究報告は、ちゃんと確認してるよ。


「私達は、基盤のつなぎ方を変更する事で、問題点を解決しました。実証実験の結果についても記載していますから、動作する事は明らかだと思いますけど?」

「……ど、どうせ、お前のそれも、侯爵家の財力で揃えた希少素材で構成されているのだろう?」


 そういう現実味のない素材構成、魔塔上層部(あなたたち)が得意だって、レグリットから聞いてるけど?


「鋼糸線や魔虫粘糸が、それほど高価とは知りませんでした。資料をよく読む事をお勧めしますよ」

「……う、…ぐ…」


 私を否定したいって感情だけで話すから、議論にもならないよ。研究者なら、もっと論理的に話してほしい。

 子供だから勢いで押せば竦むと思ってるかもしれないけど、強い言葉も歳の差も、貴族が怯む理由にはならないんだよ。


「いやいや、よく調べているし、この資料にも間違いはないのでしょう」


 次は塔長の番ですか。


「ですが、開発と言うのは、それだけで成功する訳ではないよ。新しい技術と聞いて、それを扱おうとするのは、こんな資料を理解できる者ばかりではない。大衆が求めるのは信用だよ。いくら技術が優れていようと、小娘が開発したと聞けば、誰もがその中身を疑う。実績ある研究機関と小娘、どちらが信用を得るかなど明らかだ。わざわざ小娘の技術を製品化しようなんて者は現れんよ」


 そういう場合はあるだろうね。前に行った工房とか、そんな感じだったし。目の前の2人もそちら側なのは間違いなさそう。

 商売人でも、職人でも、ウォズん家みたいに、機先を見られる人ばかりじゃないのは確かだね。


 でも、私、ただの小娘じゃなくて侯爵令嬢なんだよね。

 私が命じれば多くの人に影響を与える立場にいるんだよ。だから、カロネイアやキッシュナーとも渡りを付けられた訳だしね。私じゃなくて、お父様への信用あってだけど。

 まあ、そんな事は資料に載せてないから、既に実用化に向けて動いてるなんて知らないよね。


「そこでどうだろう? お嬢さんの代わりに、魔塔の成果として発表するのは。それで大衆に受け入れられるし、お嬢さんの名前を協力者として連ねれば、名声も手に入る」


 魔塔のブランド力で有名にしてやるから、成果そのものを寄越せ、と?

 吃驚するくらい堂々とした搾取だね。

 これで意向が通ると思ってるみたいで、交渉ですらないよ。

 下級研究員なら、魔塔の為にって研究成果を差し出すのかな。それがまかり通るって、どうかと思うよ。


「先ほども言いましたが、ここには共同研究を持ち掛けに来ただけです。成果の譲渡も売却も、考えておりません」

「それこそあり得んな。栄えある魔塔が、後追いで研究するなど、あってはならない」


 あ、そう。

 実利より、中身の無い矜持の方が大事なら、それでいいよ。


「どうも、ご協力いただけないようですな。それなら仕方ありません。レティ、そろそろ失礼しよう」

「はい、お父様」

「よ、良いのかね、我々の譲歩が得られる機会など、もうないぞ」


 どのあたりを譲歩したのさ。

 もしかして、協力者の1人に加えるってとこじゃないよね?


「ええ、問題ありません。ご存知ないようですけれど、ビーゲール商会と共同で開発を進めていますので、既に量産体制に向けて動いております。繰り返しますが、共同研究の申し入れに来ただけです。それ以外は望んでおりません」

「え―――!?」


 話が違う、みたいな顔になったよ。

 勝手に都合のいい用向きを捏造しないでほしい。まさか、会話が成立しないとか思わなかったよ。


 試験を突破して所属員になってる人達だから、魔法使いとしては優秀なのかと思っていたけど、どうもそれすら怪しそう。

 歴史ある研究機関が、貴族の落伍者の吹き溜まりになってるとか、勘弁してほしいです。

 お父様が動く訳だよ。


 十分刺激しておいたから、傲慢の塊みたいなあの人達は、間違いなく暴発すると思う。餌は撒いたし、自分達の思い通りにならない事なんて無いって様子だったしね。

 そしたら、適性のない研究員は排除するべきって方向に、世間の風潮を向けられる。

 組織全体の腐敗じゃなくて、資質のない者が責任者に就いた事で起こった水準の低下なら、魔塔の信用の失墜は最低限で済むんじゃないかな。

お読みいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
無駄な会談ではなかった。 バカのあぶり出しとしては! かな?
この人達が貴族の当主になれないわけだよ(笑)
[一言] ギブアップ。 バカな登場人物を出してざまぁを連発すれば、 主人公が賢く見えるのは小中学生の読者までですよ
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