魔塔に行こう
今日も今日とて忙しい。
そろそろ研究に戻りたい気もするんだけど、お父様が王都にいる間に済ませておく用事が多いんだよね。
カミン達にはもっと居てほしいとも思うけど、あの子たちも勉強に戻らなきゃだし、忙しいお父様をいつまでも王都に止めておく訳にもいかないし。結果、私がバタバタしてる。弟達と遊ぶ時間がもっと欲しいです。
今日訪ねるのは魔塔。
構想はあっても、研究する暇がないものを任せられる体制を作っておきたいんだよね。国内最高峰の研究機関だから、そんな暇はないと断られるかもだけど、それはそれ。伝手だけでも作っておきたい。
膨大な蔵書量を誇る魔塔図書館にも入ってみたいし、過去の知見から助言がもらえたりすると嬉しい。
そう思っていたんだけど、何だかお父様の反応が鈍い。
元々私だけで行く予定が、念の為と言ってお父様が同行者に加わったくらい。オーレリアやマーシャのところは任せてくれたのに、今更子供だけで行かせられないって事はないと思うんだけど。
何かありそうなのに、無策で行くのは宜しくない。
だから、魔塔について知っていそうな人を呼んだ。情報収集です。
「お久しぶりです、スカーレット様。貴方のご活躍は聞いています。私が再び王都に来るとは思っていませんでしたが、私のできる全てで手伝わせていただきます」
そう言って頭を下げたのは、レグリットさん。
3年前、私の属性測定に来て、いろいろ知ったせいで侯爵家に縛られてしまった元・魔塔の研究員。
私の魔法の先生でもあるんだけど、私のでたらめを知ってしまったからか、強制的にノースマークと契約を結んだ時に、よっぽど脅されたのか、姿勢が低い。会った頃、所作は今と同じで丁寧だったけど、態度はもう少し大きかったと思うんだよね。
今回、領都で独自の研究を続けるのではなく、私を手伝ってくれる為に、上都するお父様達と共にやって来た。
彼女の方から望んでくれたとか。
私がやらかした結果、魔塔を出る事になった彼女の事だから、無理強いなんてしてないよ。
「魔塔に協力を、ですか……」
私の方針を聞いた彼女の冴えない顔が、問題有り有りですって語ってる。
魔法技術の最高峰、国内で最も優秀な魔術師集団、魔法学の権威、エッケンシュタイン博士が設立して以来、魔法の根幹を支え続けたとされる研究機関、称える言葉がいくらでも枚挙されるくらい有名な組織なんだけど、何か表に出ていない事があるのかな。
小さい頃にこのキャッチコピーを知ってから、流石ファンタジーって密かにワクワクしてたんだけど。
「正直、それらの謳い文句が独り歩きしているのが現状です」
おっと、いきなり先行きが怪しくなってきたよ。
「試験がありますから、所属員はそれなりの魔法使いが揃っていますが、内部の構造は貴族制度がそのままです。曰く、高貴な血が魔法を高みに導く、と」
「……今時、貴族でも口にする人は少ないと思うけど?」
魔法の遺伝に関する研究って、魔塔から発表されてたと思うけど、真っ向から否定してませんか?
騎士と同じで、家を継げなかった人が多いらしいから、その劣等感のせいかな。貴族社会の弊害だよね。
初期には、設立者を始めとして、多くの貴族が名を連ねたそうだけど、研究と領地経営の両立って難しいからね。実際、それを続けたエッケンシュタイン家は凋落してる。
「そんな状況ですから、発表される研究成果も、評価されるのは上級貴族出身者ばかりです。残念ながら、評価と内容は一致していません。それでも、魔塔の成果として発表されれば、大きな予算がついて実用化に向けて動きます」
「そんな事したら、すぐに評判に影響しそうだけど?」
そういった話は聞かない。隠蔽してるにしても、限度があると思う。
「下級貴族や平民出身者には、国の最高技術を体現しようと考える、本当に優秀な研究者もいますから。彼等が根本から見直しを行い、凡庸な内容でも発展させて、少なくとも世間から見られて恥ずかしくないものまで手を加えています。おかげで何とか魔塔の名前を守れている状態です」
当然、それで世間から評価されるのは、発表する上級貴族なんだろうね。研究の搾取とかも、普通にありそう。
「優秀な人が正当な評価を受けられない状況で、不満は溜まらないものなの?」
そういうのって、モチベーションに関わりそうな気がするけど。
「私も覚えがありますが、魔塔所属の研究者と言う立場に酔って、そういうものだと思い込んでいたように思います。自分の興味関心や評価より、国や魔塔の為に働く事が誇りだ、などと考えていました」
魔塔に迎えられた事で芽生えた愛国心が、一部の高慢貴族の為のものに、都合よく挿げ替えられているのかな。
「実のところ私も、各領地へ属性測定に向かわされるのが、当時は不満で仕方ありませんでした。これは魔塔の研究者がすべき仕事ではない、と」
それでうちに捕らわれた訳だから、不満だっただろうね。
「今はこれで良かったと思っています。国に尽くすと言う事は、人に尽くす事なのだと、奥様に教えていただきました。組織の為に身を粉にしてきた頃より、余程有意義な時間を過ごさせていただいております」
憑き物が落ちた感じかな。
そうやって人を諭すの、お母様得意だし。
魔塔の実情を聞いて、私の意欲は下がったけれど、お父様の考えは見えてきた気がするよ。
お父様は魔塔に多額の出資をしている。
目的は勿論、必要な研究に十分な資金を行き渡らせる為。
レグリットを私の属性測定に呼べたのもこのおかげ。多分、昔からいろいろやらかしたせいで、私が普通じゃないと察したお父様が、専門知識を多く持ってる魔塔の測定師を私の為に呼んだのだと思う。
援助を受けてる魔塔側は断れなかったろうしね。
その後は見越していた訳じゃないだろうけど、レグリットを引き込む事になって、彼女から魔塔の現状を聞いた筈。これで援助金がきちんと使われてるなんてある訳ない。
私が少し話を聞いただけで呆れたくらいだから、出資者であるお父様は、もっと深刻に話を受け取っただろうね。
多分、魔塔の正常化を望んでいるんだと思う。国の重要機関が歪んでいるなんて、あっちゃいけないから。
でも、事を公にして、大々的に体制改善をするつもりも無さそう。
それをしてしまうと、きっと魔塔の歴史に傷が付く。積み上げた権威は本物だから、できるならそれを損なわないように刷新を望んでるんじゃないかな。
私も、先人に敬意を払う気持ちは理解できる。
お父様が侯爵の権限を振りかざすならともかく、国営研究機関の組織改革を外部から強いるなんて普通はできない。
だからまず、私に付き添ってその目で実情を確認しつつ、揺さぶりをかけるつもりなんじゃないかな。酷い一例を世間に知ってもらって、魔塔上層部の危機感を煽るとかね。
私がカモられないか、心配して付いて来てくれてるのも本当だろうけど。
優秀な人材はきちんといるみたいだし、魔塔の原点回帰は私も望むところだから、うまく運ぶといいな。
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