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内戦参加後のお楽しみ

「ただいま! お土産持って帰ったよ!」

「おかえりなさい、レティ様。何かあるとか思ってませんでしたけど、無事で何よりです」

「大変な……、大変な任務、お疲れさまでした」


 戦場から戻った私を、キャシーとマーシャが明るく迎えてくれた。ヘルムス皇子の勝鬨より、私の場合は南ノースマークへ戻った方が終わったんだって実感が湧くね。


「……えーと、キャシーはお土産要らなかったんだっけ?」

「ごめんなさい。口が滑りました。レティ様が無事に帰ってきてくれて、とっても嬉しいです」


 口が滑ったって言い訳は本音だったって事だから、謝罪になっていない気もするけど、まぁいいか。

 それより、持ち帰った戦利品を検分する方がよっぽど大事。

 私の言うお土産は、当然南大陸産の未解明魔道具。ゴーレムが禁忌なら、出所が同じのこれもそうなのではないかと放り出す兵士が大勢いたから、銃型の魔道具がいっぱい手に入った。


 皇国へ要請したなら、剛盾の魔導士を討伐した見返りにいくらかは貰えたかもしれないけど、その手続きを待つ時間が勿体ない。あの混乱の中でいくつか無くなったところで気付く筈もないから、先にこっそり拝借しておいた。

 ヒエミ大陸の侵略者については情報を共有するよう交渉する予定だから、魔塔やその他研究機関の分はその時に提供してもらえばいい。


「……スカーレット様、ゴーレムは神罰に見せかけて全て破壊しませんでしたか?」


 ウォズが首を傾げているように、持ち帰った中には特殊なゴーレムもある。銃型の魔道具だけを手に入れて、私が満足する筈もないよね。


「破壊したように見せかけて、空間魔法で回収しておいたよ。ザカルト・ハーロックは跡形もなく消えた訳だから、ゴーレムの破片が消えていたところで不審に思わないんじゃないかな」

「スカーレット様ったら器用に魔法の出力を調整して、地面に穴をあけた箇所をいくつも作っていましたわよね?」

「うん。流石ノーラ、あの一瞬で良く見分けられたね」

「わたくしの場合、閃光の強弱より魔力の強弱が的確に映りますから」

「そんなのノーラくらいだろうから、消えたゴーレムと強出力の因果関係が分かる筈もないよね」


 奪取してきたゴーレムは三体、解体用、観察用、保管用と揃えてある。ちなみに諜報部からの情報をもとに製造工場も全部破壊したから、現存する躯体はここにしかない。中枢を除いてゴーレムはレゾナンス製だって話だから、諜報部の調査から逃れられなかった。


「それ、皇国で起きた事件なのに、私達で技術を独占する事になってません?」

「公的には禁忌って扱いになってるから、改めて研究する機会もないんじゃない? それに、設計図なんかは侯爵邸にあったから、基本構造を把握した上で秘匿すると思うよ」


 流石にそれは見せてもらえなかったので、確保しておいたゴーレムの方を貰ってきた。自分達で解き明かすのは嫌いじゃない。


「というか、レゾナンス領都を陥落させたのは昨日だって話なのに、レティ様はここにいていいんですか?」

「陥落と言っても、何の抵抗もなかったけどね。レゾナンスの後始末に一部兵士を残して、皇国軍は凱旋中だからね。剛盾討伐で戦勝に貢献したからって、他国の私がでしゃばるのも良くないと思うんだよね。勝利の為に尽力したのはヘルムス皇子や兵士達な訳だし。だから、私はウェルキンで移動中って事になってるよ」


 当然のように混じってた第四皇子とかいたけど。

 レゾナンスから離れると、神罰への恐怖も去ったらしい。皇族専用車両から誇らしそうに手を振っていた。


「つまり……、つまりレティ様は魔道具の解析を待てなかったのですね」

「まあね。それとも、私とノーラだけで進めておいた方が良かった?」

「「そうは言っていません!」」


 もしかして余計な気遣いだったのかと訊いてみると、よく似た二人に揃って否定された。息ぴったり。特にキャシーとか、領地に帰っていないって事は、私が皇国から研究対象を持ち帰ると確信して待ち構えていたよね。

 仕事はここで進めるとして、グリットさんは何も言わないのかな。


 今回はかなり大きな内戦となったので、各地へ勝利を報告する意味でも、国への反抗は決して許さないと知らしめる意味でも、戦勝報告は大々的に行なう必要がある。皇都に到着するまで十日以上は費やすと思う。

 その間、私はここで研究を進めていればいい。


 最初に着手したのは銃型の魔道具だった。レゾナンス侯爵は魔操銃と呼んでいたらしい。

 いっぱいあるので、それぞれが分解しながら内部を確認する。


「うん。やっぱり、複数の基板が内蔵されてる。魔力を流す基板を切り替える事で、魔法を使い分けていた訳だね」

「その鍵となるのが赤い宝石というのも間違いありませんわね。全ての基板から魔導線がそこへ繋がっています」

「この構造って、分割付与に近いですよね。もしかして、南大陸では分割付与が一般化しているんでしょうか?」


 複数の基板を切り替えて使っているのが魔操銃、複数の基板を並列に繋いで同時起動させるのが分割回路。基板を組み合わせる点は似ている。

 ちなみに魔操銃の基板を並列に繋げても、属性魔法を再現した付与が重複するから起動しない。


「そもそも多重付与があんまり普及していたから盲点になっていただけで、分割付与って誰も思いつけないほど難解な構造だった訳でもないからね。基幹となる技術が違っていたなら、意外と気付きやすかったのかもしれないよ」

「そうですね。王国でも……、王国でも複数の基板を組み合わせた試みはありました。多重付与に限界があるなら、基板を増やす事で付与数を追加する発想までは自然な流れでしたから」

「そこで一列に並べたり、多重付与基板を繋いでしまった事で行き詰っていたんですよね。確かに、付与数を増やしたいのに単付与でなければいけないって制限は壁になっていたかもしれません」


 魔道具の普及の時点で多重付与を常用していなければ、分割付与なんて特別でもなんでもなかったかもしれない。


「南大陸には強力な魔物が出現しないと聞きます。もしかすると、多重付与に耐えるような素材の入手が難しかったのかもしれませんわね」


 博識なノーラの仮説は、案外的を射ているような気がした。

 複数の効果を必要とする場合、基板素材の品質を上げる事で多重付与数を増やそうとしてきたヒエミ大陸の歴史とは逆行する。

 でも、この大陸の軌跡が正しいとも限らない。


「そう考えると……、そう考えると、複数の基板を組み合わせる技術については南大陸の方が長じているのかもしれませんね」

「一つの機能を実現する為に私達は複数の基板を組み合わせたけど、複数の機能を一つの魔道具に詰め込んだ、と」


 なかなか面白い発想だよね。

 前世でも十徳ナイフとかあったくらいだから、複数の機能を詰め込んだツールにはロマンがある。冷蔵庫付きテレビだとか炊飯機能付きトースターはどうかと思うけど。


 でも、切り替えが煩雑では折角の集約が生かせない。

 それを解決したのが、正体不明の赤い宝石って事になる。


「ノーラ、何か分かった?」

「……難しいですわね。明らかなのは持ち手の意思に反応して魔力が流れる方向を変える事くらいです」

「意思? 伝達する魔力を調整するとかじゃなくて?」

「はい、特別な制御は必要ないようです。兵士としての訓練も碌に受けていない徴用兵にまで支給された訳ですわね」


 使用者が限定されるようなら、量産武器として向いていない。そんな縛りがないからこそ、連合軍の拠り所となっていた。

 でも実際に稼働するところを見ると、これまで学んだ理論から外れていて驚く。


「……確かに、ちょっと意識するだけで簡単に切り替わりますよ」


 悩む前に試す事を選んだキャシーが、取り外した基板の代わりに宝石から伸びた魔導線を魔力測定器に繋ぐと、彼女が指定した通りに針が振れた。

 使用者の魔力を誘導するような構造にはなっていないので、動力源がグリップの大きな魔石なのは間違いない。少なくとも、属性変換器は実装されていないらしい。


 似た魔道具である魔法籠手は、装着者の魔力で操作する。術師タイプであれ、騎士タイプであれ、魔道具がありふれているのもあって魔力で稼働させる事に違和感を覚えない。魔法の基礎を学んでいない幼子以外は、魔道具が構築した攻撃魔法を前に飛ばすくらいはできる。

 私も、魔力伝達型の魔道具とはそういうものだと思って設計してきた。


 自分の延長として魔力を流すのではなく、魔操銃へ意思を伝え、それを宝石が中継して攻撃魔法を再現させる。

 王国どころか、ヒエミ大陸のどこにもない設計思想だった。


「魔道具にイメージを伝達させる……?」

「それ、使用者が思い描いた魔法を、魔道具が再現するって事ですか⁉」

「勿論、魔法を発動させるだけの機構が魔道具側に要るだろうけどね」

「でも……、でもそれって、今より複雑な魔道具を、今よりずっと簡単な操作で扱えるという事になりませんか? 制御方法に問題を抱えて実用化できなかった魔道具についても、見直せるかもしれません!」


 そうなれば、魔道具の歴史がまた動く。

 異なる発展を続けてきた基礎技術同士の邂逅な訳だから、そんな可能性も十分にあり得た。


「スカーレット様、すぐに製法を調べましょう! …………って、レゾナンス侯爵領でも内製には成功していないのでしたわよね」

「うん。実現させようと検討を続けた記録はあるだろうけど、何処まで参考になるかは不明だね」

「それでも……、それでも興味はあります。レティ様、写しを貰えるように取り計らってもらえませんか?」

「うん。王国の技術を教授している見返りに交渉してみるよ」


 皇国発祥の技術って訳でもないから交渉の余地はあると思う。むしろ、独占しようとするなら非難もできる。


「というか、南大陸へ行けばいいんじゃないですか? ウェル君でひとっ飛び……は無理ですけど、アビーマちゃんがありますよ」

「それをすると、戦争になるかもよ」

「あ」


 既に皇国の混乱には関与している。レゾナンス侯爵の方針をどの程度誘導したものかはこれからの調査になるけれど、武器を売っただけって事はないと思う。

 王国はまだ直接の被害を受けていない。だからって、王国-南大陸間だけで友好関係を築く訳にもいかない。なにより信用できそうにない。今後南大陸へ向かう機会があったとしても、戦闘を想定した準備が必須となる。

 東や西と違って、気軽に観光へ行ける場所ではなくなった。それ以前に、自国以外の人間を信用していなくて国交がないのだけども。


 あ、ちなみにキャシーの言う“アビーマちゃん”はアビスマール、水地両用潜航艇の事だね。


「そんな遠出を計画するより、やれる事から始めようよ」

「やれる事?」

「うん。ここに実物がある。目標も明確になった。組成が調べられて、比較はいつでもできて、魔法的な性質はノーラが鑑定してくれて、測定機器も色々揃ってる。不足があるなら買い足しても、何なら自作したっていい。それでも、いきなり正答が必要?」

「あたし達で再現しようって事ですか?」

「確かに……、確かに、レゾナンス侯爵領で無理だったからと、私達にも無理って話ではありませんよね」

「ノーラにも詳細が分からない。そんなの、久しくなかった例だけど、だからこそ挑戦し甲斐があるって思わない?」

「わたくしは……、挑戦してみたいです。新しい知識を自分達で導き出したいです!」


 皇国は開いていく技術格差に危機感を覚えて、王国からの供与を打診してきた。これは政治の話。後々致命的になる格差を放置しておけなかった。でも、情勢に十分な余裕があったなら自国で研究を続けたと思う。ペテルス皇子や三権威、研究を託せる人員は揃っていた。

 南大陸の件とは状況が違う。

 皇国で不審な動きはあったものの、レゾナンスの敗北で橋頭保を失った。すぐに次の動きがあるとは限らないし、王国からすると他所の事情って話になる。だから、特別急いでもいない。


 それに、自分達で研究した方が理解も深まるし、試行錯誤した分だけ応用の選択肢だって広がる。安易に解答を求めるのは勿体ない。それ以上に、面白くない。


 いくらでも素材を集めてくれるウォズがいて、次々情報を読み取ってくれるノーラがいて、根気よく可能性を潰しながら法則性を見出すマーシャがいて、直感的に素材を選択するのに長けたキャシーがいる。これで再現できなかったら、南大陸の技術者に負けたみたいで悔しいよね。

 最初から製法を教えてもらうなんて、いきなり白旗を上げるみたいであり得ない。


 私達の新しい挑戦が始まった!

いつもお読みいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
人に頼らず新しい技術得られると良いよね。(ヤバそうな国っぽいし、平和的に技術交流図れるとも思えないし)
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