閑話 練習着のお披露目 2
引き続き、オーレリア視点です。
「じゃあ、そろそろ着替えましょうか」
そう言って渡された練習着は、思った以上に軽いです。そう言えば、プラウ布の特徴に、羽毛のように軽いというのもありましたね。
私、薄い布地の服と聞いて、サマードレスのようなものを想像していました。
でも、何でしょう、この形状は?
上下一体型みたいですけど、ワンピースではありません。手、足を出す部分は分かりますけど、どうやって着るのでしょう? 継ぎ目が見当たりません。
「首の部分がかなり伸縮するように作ってあるから、そこに足から通してね」
なるほど、着ると言うより、穿く感覚に近いのですね。
と言うか、手早く身に付けたレティを見て確信しましたけど、これ、白い全身タイツですよね。
「レティ様、ほ、ほんとに、これ、着るんですか?」
キャシーは既に涙目です。その気持ちは私にも凄く分かります。私だって泣きたいです。
伸縮性に富んでいることを利用して、しっかり肌に張り付くよう作ってあるみたいで、着ると身体のラインが丸分かりになります。
ほとんど裸と変わらないじゃないですか!?
ふと、キャシーとマーシャも一緒に練習着を試す事を提案した際、言葉を濁したレティを思い出します。
あれ、こういう事ですか!?
私が恥ずかしくても構わないなら反対しないって言ってたんですか? 全っ然言葉が足りてません。きちんと説明しておいてください!
こうと知ってたら、使い方だけ聞いて、自室でこっそり練習しましたよ!
「ほんとは効果を高める為に、下着もつけない方がいいんだけどね」
私に死ね、と?
そんな姿、一人で鏡を見るのだって耐えられそうにありません。人前だったら、間違いなく心臓が止まります。強化を覚える前に私の命が儚く散ります。
前から思ってますけど、レティ、羞恥心が壊れてませんか?
弟さん達への見栄を知られて恥ずかしがる前に、女性としての慎みを持ってください。
お父様達の見学や、侍女の立ち入りを断ったあたり、最低限の節度はあるのかもしれませんけど、お友達なら大丈夫なんて曲解が過ぎます。
「うぅ……、恥ずかしい、ですけど、けど、理屈には、合ってますよね。この薄さが、肝要なんですね。私は、私は強化魔法に困ってないので見学していたかったですけど」
ぶつぶつ言っていたマーシャも覚悟を決めたようです。巻き込んだ私も日和っている訳には、いきませんよね。
思い切って袖を通してみると、私用に作られているだけあって、ぴったり身体に張り付きます。動く邪魔にはなりそうにありません。
―――そうか、強化魔法を試すには、これを着て動き回らないといけないんですよね。私の心、最後まで保つでしょうか?
考えれば考えるほど、後ろ向きになってしまいそうですから、頭を振って余計な思考を振り払います。
修得してしまえば、この服を着る必要は無くなるのですから、早く終わらせてしまいましょう。
「……もしかして、こうして着用者を追い込むことで効果を上げている、とかないですよね?」
「考え過ぎじゃないですか? あたし達と違って、男性同士ならそこまで気にしないでしょうし」
案外思い切りが良くて一番に着替えたキャシーも、顔はかなり赤いです。やっぱり、この状況で平気そうなの、レティだけですよね。
私も覚悟を固めましたけど、身体のあちこちが気になって、直立するのはできそうにありません。
「それじゃ、早速強化魔法を試してみようか」
レティって、意外と容赦ないですよね。
そうは言っても、頼んだのは私です。拙いなりに強化魔法を発動させます。
「わあぁぁぁっ! 何、何ですか、これ!?」
泣きそうな声で叫んだのはキャシーでした。
希少な闇属性を持つ彼女は、魔力の籠った部分だけが斑に黒くなって、全身がまるで牛みたいな模様になっています。
「キャシーは魔力を全体に巡らせるイメージは持てているんだろうけど、薄く延ばせていないから、そうして魔力が塊になってるんだよ」
「うぅ、よく分かりました……」
なるほど、思っていた以上に明解ですね。不出来さが否応なく突き付けられてしまっています。
私はと言うと、手や足に緑色が集中して、関節のあたりの色が特に濃いです。他の部分も色が無い訳ではありませんが、とても薄いです。
濃くなっている部分には心当たりがあります。風を纏わせる際、特に意識している部分です。以前、レティに指摘されましたけど、こんなにもはっきり違いがあるんですね。これでも偏らないように意識したつもりですから、完全に癖として染み付いているようです。
「以前のオーレリアなら、身体全体を覆ってる方はほとんど無色だっただろうから、少しずつ成果は上がっているよ。でも、強化魔法って、部分的に集中させるより、全体をなるべく濃い魔力で覆った方が効果は上がるから、もっと頑張らないと、ね」
レティの言っている事は、マーシャを見ると分かりやすいです。
火属性の彼女は、ほとんど全体が薄紅色に覆われています。力を込めるとその部分がいくらか濃くなるようですけど、私みたいに色がはっきり分かれていません。
「万能タイプだけあって、マーシャは綺麗に延ばせてるよね。力を入れた時に、全体の色が濃くなるようになれば、もっと強化割合が上がるかな」
「そうですね。あまり、あまり意識した事はありませんでしたけど、魔力より腕力に力を込めようとしがちかもしれません」
3人共、覿面に課題が見えてきましたね。
「レティ様はどんな感じなんですか? マーシャみたいに、上手い人のお手本を見ると参考になるみたいですから、見せてください」
「私? 私は、ほら、こんな感じ」
「「「???」」」
胸を張られても、薄く下着が見えるくらいで、色の変化が見えません。
「私、無属性だから、色が見え難いんだよね。……これなら分かる?」
困る私達の反応を察して、レティは袖を一部摘まみ上げてくれました。肌から離れた部分が白く変わります。
「え? あれ? 離した方の色が変わる、んですか?」
「え…と、つまり……つまり、レティ様の魔力で、布の色が薄くなっている、と言う事ですか?」
「そう、あんまり魔力を込め過ぎると、完全に透けちゃうから、これくらいで許してね」
あ、そのくらいの羞恥心はあったんですね。
でも、言われなければ気付かないくらいにムラがありません。これが均一に魔力を込めると言う事なんですね。そもそも、始めからその薄い色じゃありませんでしたか? もしかして、ずっと発動させてます?
急に、色差の激しい私の魔法が不格好に思えてきます。
キャシーも同じ事を思ったのか、黒ぶちを延ばそうと意識を集中させています。私も負けていられませんね。
結局この日は夕暮れまで頑張って、濃くなっている部分の境界を薄くするくらいまで進みました。目で追いやすい手足はまだ楽なのですが、同じように意識している筈の腰を後ろから鏡で見ると、まるで変化が無かったりして難しいです。
キャシーは灰色多めの灰黒斑くらいまでは進んでいて、私が一番遅れています。変に癖がついている分、追い付くのに時間が掛かりそうです。
普段以上に意識を集中させましたし、精神的にがっつり消耗していたので、お父様にそんなに大変なのかと心配されてしまいました。
大変と言えば、大変ですね。乙女心がごっそり削られますから。
お読みいただきありがとうございます。
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