魔導士派遣の意義
搾取事件の解決も大事だけれど、皇国の魔導士問題も放っておけない。
塵灰オイゲン騎士隊長が戦闘不能に陥った時点で、対抗できる戦力はヘルムス皇子くらいしかいない。けれど、脳筋であっても歴とした王位継承権を持つので、対魔導士戦には投入しないと決めている。
そうなると、剛盾ザカルトを止める手段は存在しない。
戦争経験の乏しさから気勢を欠いていた連合軍も、戦況が有利となれば数を頼りに突撃してくる。そうなれば、連携の不足も問題とならない。その牽制の為に大型の魔導兵器を用意してあったそうだけど、大勢を薙ぎ払う筈の攻撃も剛盾が止めてしまう。防御に特化した魔導士が本領を発揮する。
連合軍はまだ時間が欲しいみたいで、すぐに動く気配がないとは聞いている。でもそれって、準備が整ったなら確実に皇国軍を押し切れるだけの自信が垣間見える。魔導士を引き抜いておいて、それが奥の手じゃなかったって事だからね。
おそらくはまた未知の技術で造られた新兵器なのだろうけど、戦略を覆すだけの性能を秘めているのは間違いない。魔導士の離反だけでも手に負えてない状態で、そんなものを投入されれば潰走は免れない。
そうでなくても、小競り合いの度に被害を増やしている。中級相当の回復薬があるとは言え、数で劣る皇国軍は追い詰められつつあった。
時間をかけた分だけ、状況は悪くなっていく。
なので、王国での協議は長引かせられない。協力を求められて、他国の事だからって無駄に時間を引き延ばしていたのでは信用を失う。見返りも目減りしていく。恩を売っても不信が燻る。
一部の独断による強行はできないにしても、急いで意見を取りまとめる必要があった。
そんな状況のため、領地の問題を抱えているからと、議会への参加を先延ばしにはできなかった。
それに、貴族相手に早急な面会は成立しない。周囲への根回しが必要な場合もあれば、議題に関する情報収集が必要な場合もある。今回のように不正を非難される場合でも、追及回避の為に理論武装しておく必要があった。
瑕疵のあるコンフート男爵にいつまでも先送りできる権利はないものの、相手も貴族である以上、数日の猶予はどうしようもなかった。都市間交通網が機能していなかった頃に比べれば、これでも格段に早くなっているんだけどね。
そこで、コンフート男爵の追及は王城で行なう事とした。立会人も必要なのでちょうどいい。無駄に待つだけの時間は、議会への根回しに使った。
優先はどう考えても皇国対応についての議論なので、私は大議堂へ入る。
皇国が内戦状態となった事は既に広く知れ渡っているので、観覧席には貴族、王城職員、軍関係者など大勢が詰めかけていた。
ほどなく陛下達がやって来て開会となったものの、議論が紛糾するような事態はなかった。
皇国に多大な恩が売れて、動くのは私一人、既に皇国に滞在しているから穴埋めを考える必要もない。これほど美味しい話もなかった。ほとんど結論ありきで、議論より現状確認の場となった。
「子爵、敵魔導士を圧倒できるか?」
決議を前に、ディーデリック陛下が強気の確認を向けてきた。
それに、私は大仰な態度で応える。
「お任せください、陛下。墳炎龍も容易く討伐した私です。王国の魔導士と、数だけは立派な皇国の魔導士の違いを見せつけてまいりましょう!」
「頼もしいな」
「本来なら、情勢が悪化する機会もない状況で私の魔法を披露する予定はない筈でした。内戦についてもあくまで皇国の問題、介入するつもりもありませんでした」
これまではなかった。
私が考え始めたところへ、都合良く大義名分をくれたってだけで。
「けれど、私に魔導士としての役割を望むなら、是非もありません。大勢にとって不確かな噂でしかなかった王国魔導士の実力を、現実のものとして顕示してきます。他所事などではなく、決して無視できない脅威と知らしめましょう」
そうする事で、恩を売る以上に有利な立場を得られる。技術面の不利だけでなく、王国には決して敵わないのだと突き付けられる。気位ばかりを肥大化させて現実を見ようとしない皇国貴族の鼻っ柱もへし折れる。
実際、入念な事実確認を行なった皇族は非公式に白旗を上げた。今度は、皇国の大勢派にも続いてもらう。帝国侵攻時は墳炎龍の討伐でそれを成したように、皇国の最大戦力を挫く事で戦意を削がせてもらう。
それで、大国間の明確な序列を示せる。
ヒエミ大陸三大強国の枠組みから抜きん出られる。
海外からの侵略が懸念される今だからこそ、各国の力関係を明確にしておく必要があった。
そうした勇名に、魅力を覚える貴族は多い。国内で名を上げる私を快く思っていなくても、国の評価が塗り替えられる誘惑に抗える貴族はいない。当然、今後の国家間交渉を有利に運べる。経済にだって影響する。
そんな躍進に反対意見を投じる筈もなかった。益々評判の高まる私を疎ましく思ったところで、誰かが役目を代われる訳じゃないから余計にね。
こんなふうに貴族をその気にさせるシナリオは、陛下と四大侯爵達が書いた。私はそれを演じるだけ。この国の最高権力を結集した時点で、成功は確定していた。議長も承知していたから、この会議自体がパフォーマンスでしかなかった。
それでも、魔導士の派遣を承認したって事実だけは残る。
今回はその秘密会議にアドラクシア殿下も呼ばれていたから、次期国王としての扱いにすっかり切り替わっているみたいだね。傑物ぞろいで緊張する場だろうけど。
「本件に賛成の者は、王国の威勢を示す大魔導士殿に格段の拍手を送ってほしい!」
――わああああああああぁぁぁっ‼
ディーデリック陛下の宣言に、議員席ばかりか観客席からも喝采が響く。静観する人もいない訳じゃないけど、採決の必要はなさそうだね。
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