閑話 練習着のお披露目 1
オーレリア視点の話になります
今日は朝からそわそわしています。
眠りが浅く、随分早く目が覚めてしまいましたし、いつもの倍も走り込みをしていました。それでもまだ、朝食まで時間があるくらいです。
昨日が楽しくて、軽い興奮状態が続いているのも理由の一つでしょう。
公園や商店街で行われる新年のお祭りには近年顔を出してはいましたが、貴族である私が堂々と混じる訳にもいかず、お忍びでこっそり顔を出すくらいでした。それでも賑やかな雰囲気を楽しめていたのですけれど。
なのにレティったら、従者も護衛も連れているのに、平民服を着ているからってまるで気にしないで踏み込んで行くのですもの。貴族がお忍びできましたと宣伝しているような状態でしたから、最初の内は王都の方々も戸惑っていました。でも、あまりにもお祭りを楽しんでいる彼女は、徐々に気にされなくなっていきました。
身分の壁を感じさせないくらい、はしゃげるのは彼女らしいです。
私なら、周囲の視線を気にして、かえって際立ってしまうでしょう。彼女のおかげで昨日は私も楽しかったです。
カミン君も私を慕ってくれて、少しお姉さん気分でした。とっても可愛い弟さん達でしたから、レティが少し気取った様子だったのも納得です。
そして、今日はレティがうちに来る日!
お友達が遊びに来るというのはワクワクしますが、本目的はノースマーク侯爵家とカロネイアの技術提携、その取り決めです。マーシャの為にキッシュナー伯爵も巻き込むそうです。
私が楽しみにしているのはその後、以前から話にだけ聞いていた強化魔法練習着を受け取れるのです。
遂に、私が強化魔法を扱えるようになる日が来たのです。
ノースマークの試用実験を除けば、初の試着となります。
でも、その効果は疑っていません。研究であれだけの成果を上げているレティが提案したそうですし、何度か一緒に訓練しただけで、私にコツを教えられた彼女が推すなら、間違いはないでしょう。
共に高い水準で強化魔法を扱う両親を見て育った私が、あれだけ欲して、でも諦めるしかなかった魔法を修得できるなんて、本当に夢みたい。
お昼を少し回った頃、ノースマーク侯爵と共にやって来たレティは赤いドレス姿でした。
赤を着た彼女は、自信と気品に溢れてとても美しいです。印象が強く派手であるはずの赤が、レティを彩るのに自然に思えてしまうから不思議です。
ちなみに会談の心配はしていません。
第1王子に呼び出されて、戦争は絶対に許容しないと言い放って戻ったレティですもの、コールシュミット滞在中もしっかり準備していましたし、私が気にかける事なんてありません。
「レティ様、本当に、本当にありがとうございました。これからも、精一杯お手伝いさせてください」
思った通り、レティはマーシャをしっかり引き抜いてきました。
彼女もレティを信じていると言いながら、心の内では不安と戦っていたようです。普通は12歳の女の子が伯爵に意見しようとか考えませんからね。
キッシュナー伯爵は、女性の幸せは結婚と考える人で、元々マーシャが研究に携わる事を快く思っていなかったようです。それより、女性らしさを磨いてほしかったみたい。マーシャは人を立てる事を知っていて、楚々とした立居振る舞いが似あう女性的な方だと思いますけど、これ以上何を望まれていたのでしょうね。
だからと言って、マーシャの知らないところで結婚の話が進んでいたのは驚きました。かえってレティのやる気に火をつける事になりましたから、安心して見ていられましたけど。
それより、強化魔法です。
カロネイア王都邸の訓練場、今日ここを使うのは私達4人だけです。
お父様をはじめとして、見学の希望もあったのですが、レティが許可しませんでした。何でも、気が散ると良くないそうです。従者も外して4人だけというのは本当に初めてですね。
姿見があると良いと聞いて、きちんと人数分準備してあります。
「服で魔法を修得できるなんて、とっても興味深いです。オーレリア様、私達までご一緒できるよう提案してくださって、ありがとうございます」
キャシーが喜んでくれるなら、私も提案した甲斐があります。
今日を迎えるにあたって、私は1つの我儘を言いました。
元々被験者は私一人の予定でしたが、キャシーとマーシャも引き込めないかと、レティに持ち掛けたのです。マーシャは練習着を使う事で強化精度を上げられないか試すだけで、私と同じで苦手なのはキャシーだけですけど。
―――オーレリアが構わないなら、私は反対しないけど……。
お願いした時、レティの反応が冴えなかったのが気になります。
でも、先日のニュースナカのように、今後2人が荒事に巻き込まれる事もあるかもしれません。
レティの研究に関わる以上、その情報を求めて彼女達を襲うという可能性もあるでしょう。力尽くで喋らせようとしても、契約魔法に縛られて話せる事はないのですけど、短絡的な手段に訴える輩が、そんな事を考慮してくれるとは思えませんから。
けれど、秘匿技術をむやみに広げるような事を言って、彼女を困らせてしまったのでしょうか? 家の方の反対を押し切ってくれたのかもしれません。だとしたら申し訳ないです。
「王都邸に、これだけ大きな訓練場があるなんて、流石、武門カロネイアですね」
「うちは使用人もよく使いますから」
「あ、はい。それは、うちより一回り大きい使用人の皆さんを見たので分かります」
「でも、これで強化魔法を使えるようになれば、あたしでもそんな腕自慢の方達を軽くひねれるようになるかもしれないんですよね!」
使用人達は武術の心得もありますから、簡単じゃないと思いますけどね。
でも、キャシーの言う通り、新しい事ができるようになる自分への期待は、私にも分かります。
「キャシーは強化魔法を覚えたら何をしたいの?」
「とりあえず、研究室に籠る私をもやしっ子扱いした兄が領地に戻る前に、投げ飛ばします!」
「あら、ルーフィン様ったら、そんな事言ったの? その時、その時は私も一緒に行くわね」
「キャシーのとこには、これから話し合いに行かなきゃだから、その時に私がちょっとへこましとくね」
会った事のないキャシーのお兄様がかわいそうな目に遭う事が決定したようです。私の分は残りそうにないですね。
試し斬りは、騎士団との訓練の時にしましょう。最近、不愉快な視線を向けてくる方がいらっしゃいますし。
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