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複雑化する戦況

申し訳ありませんが、しばらく月曜の更新を休みます。

なるべく早く再開したいとは思っていますが、当面、木土の週二回更新となります。

 宝石。

 外観が綺麗で、装飾品などに使われる鉱石の事を言う。

 人の感性で価値が決まる曖昧な定義なので、モルダバイトのような非晶質から、真珠や琥珀のような生物由来の固形物まで様々な物質が含まれてしまう。それでも多数を占めるのが天然由来の無機物結晶ではある。

 一方で魔石も同じく無機物結晶で、似た光沢や発色を持つため貴族の中には装飾品として身に着ける者もいる。外観での判別は難しく、非常時には魔法の補助触媒として活躍できる事から、あえて魔石アクセサリーを愛用する貴婦人もいるのだと聞いた。

 でも、その逆はない。

 理由は単純で、魔力許容量が違うから。何より、魔物由来である点が異なる。構成元素が同じでも、魔物の体内で凝集する過程で結晶構造が変質している。自然界では決して起こり得ない組成を形成する。私のビー玉魔石も、自然現象では不可能な結晶構造には違いなかった。

 見た目が似ているからと宝石へ魔力を注いでも、すぐに限界が訪れる。バスケットボール大の宝石があったとしても、魔力許容量はスライムの魔石にすら及ばない。そんな性質上、魔道具を作る上で宝石に価値はなかった。


 ……その筈だった、と言ってもいいのかな。

 その常識を覆しそうな実例がここにある。


 私にとって、分からないというのはそれほど悪い事じゃない。新しい知識を得る機会になるし、何が分からないかを突き詰めていく過程で新事実へ至れる場合だってある。

 でも、世の中はそう考えられる人ばかりじゃない。


「我々に時間を割かさせた結果がこれか。ペテルス殿下や監察官の結論と同じではないか」

「まあまあ、小娘に期待するだけ無駄というものでしょう。むしろ、連合軍の新兵器の出所が、王国でなかっただけ僥倖と言うもの」


 不健康そうな宰相と頭のさびしい大臣が頷き合っているけれど、未知の魔道具への興味を削ぐほどではないので取り合わない。


 三人が同じ結論を導き出した事にも意味はあった。おそらく、リンイリドさんはその為に私を呼んだんだろうね。彼女と皇子とは異なる視点からの見解も同じなら、推論の確かさを裏付けられる。


「リンイリドさん、近年、レゾナンスへ出入りする船に変化は?」

「現在改めて調査中ですが、警戒するほどの変化はなかったように思います」

「先生、そうなると、外からですか?」

「余程隠蔽に長けているのでもなければ、そうなるでしょう」


 この際、新兵器の存在自体は問題じゃない。極端な話、天才が一人いたなら技術革新は起こり得る。研究室が一つあれば開発を進められる。外部からその個人を突き止めるのは難しい。

 でも、武器を量産するとなれば話が違う。

 六千人以上の軍勢ほとんどに配給されていたなら、製造量はその倍じゃ済まない。当然、今回限りの配備になる筈もないから、この内戦の主武装として数を揃えている可能性が高い。

 通常兵装なら魔物への防備や領地軍の強化だと増産理由を誤魔化せる。カバーとなる拳銃に酷似した部分は、そこへ紛れさせて材料を集めればいい。けれど魔導線をはじめとした基板を構成する魔物素材、一定以上の品質の魔石を大量購入したなら間違いなく目立つ。製造には専用の工場も必要だろうし、人足も要る。お金や物資、人の動きを外部に悟られないまま量産できるとは思わない。

 しかもこの魔道具には相当数の宝石も必要になるので、この世界の場合、その調達先はどうしてもダンジョンとなる。ダンジョンの管理は国営、発覚は避けられない。

 そうなると、新型武器自体を海外から取り寄せたとしか考えられなかった。既に二重貫通弾頭を受領したって実績がある。軍備の供給も頼るに決まってる。


「先生でも考え付かないような武器が海の向こうに?」

「それはあるでしょう。発展の歴史や技術体系が違うからこそ、別の可能性が生まれる下地も十分あると思います」


 前世の経験をベースに魔道具を開発した私がいい例だった。それでも、世界で最高の技術者だなんて自認した覚えはない。エッケンシュタイン博士の偉業を超える活躍を目指していても、それ以上が無いだなんて思っていない。むしろ、存在して当然だと思う。

 魔法があるから前世の不可能も実現できたけど、それで前世の発展に並べた訳でもないからね。人の創造に際限があるだなんて思っていない。


「ふむ、なかなか興味深い推論だ。魔導士殿はどこの国が怪しいと?」


 そこで動きを見せたのは第四皇子だった。もっとも今気付いた訳ではないらしく、その表情に緊迫感は見られない。何が琴線に触れたかわからないけど、会議に参加する気になったみたいだね。


「現時点の情報でそこまでは。けれど、王国とも国交がある東西の大陸である可能性は低いかと。ストラタス商会の情報網にも引っ掛かっていません」

「道理だね。大陸内ほど情報収集が容易ではないとは言え、急に軍備が増強されたような話は我々も聞かない」

「新兵器を開発しました。全部海外へ輸出しましょう、なんて国があるとは思えませんからね」

「うん。自国の強化を優先するに決まっている。それに、新兵器を試すとしても、最初の矛先は手近へ向ける方が自然だ。いきなり海を越えてくる理由がない。そうだろう、ウィティ?」

「……はい。殿下の意見に捕捉しますと、軍勢を送り込んでくるような大型船が停泊した様子は確認できておりません。渡って来たとしても少数、使用方法の伝達と観察がせいぜいではないでしょうか。支援は武器の供与にとどめているものと考えております」

「ま、待て! どうして外の国がレゾナンスを支援する?」

「そ、そうだ。一領主を支援する事にどんな得がある⁉」


 漸く事態の深刻さが理解できたみたいで、げっそり宰相と寂し毛大臣が青くなった。ついでに脳筋は、何も分かっていなさそうな顔で頷いている。


「支援、でしょうか?」

「な、何?」


 私が首を傾げると、彼等の顔色は更に悪くなった。


「最新鋭の武器を譲渡する国があるとは思えません。そうなると、レゾナンスへの武器供給は旧式装備の払い下げ。或いは、試作武器の投入実験でしょう。……配備数が配備数ですから、後者の可能性は低いかもしれませんけれど」

「それか、この大陸の戦力を量っているとも考えられます」

「そうだね、ウィティの言う通りだ。皇国の軍事幇助を目論めば、大国同士の激戦となる。規模が大きく、戦場も広がるだろう。観察には向いていない。かと言って、小国家群を唆した場合は我々や王国が仲裁に動くかもしれない。どれほど兵器が優れていようと国力差は覆せないから、実験は不完全で終わる。そうなると、内戦程度が手頃だったのではないかな? 本来であれば劣勢の筈の連合軍がどこまで通用するか、丁度いい目安になる」

「で、では殿下、他国がレゾナンスに与したのは……」

「都合が良かったからだろう。それなりに力を持っているが、国を討つには不相応な貴族。条件にさえ合致していたなら、どこでも良かったのではないかな」

「「「……!」」」


 私やリンイリドさんの言葉は軽んじられても、皇子が言うなら真剣に受け止めざるを得なかったみたいで、皇国の有力者達は絶句した。

 それにしてもウィラード第四皇子、大陸の危機を随分軽く語る人だね。


「皇子、どこの国の目論見かは分かりませんが、見極めの結果次第ではその国からの軍勢が皇国へ押し寄せてくると考えておられるのですね?」

「そうだね。少なくとも連合軍を圧倒できるくらいでなければ、その可能性は高い」

「レゾナンス侯爵はその危険性を認識しているのでしょうか? 攻め滅ぼされるような事態を避けられたとしても、戦力差を見せつけて属国として扱われる懸念も考えられると思うのですが……」

「さてね。他国の思惑通り使われている御仁だ。その頭の中は僕の推し量れるものではないよ。厚意だけで新型武器を供与してくれるだなんて都合のいい夢を見ているのか、侯爵の中には他国の干渉を退けられるだけの算段があるのか、困った事に我が国の貴族は自己評価を高く見積もる傾向にあるからね」

「「「……」」」


 私や連合軍を軽んじていた事への当て擦りに、有力者達は嫌そうな顔をした。けれど、続く皇子の言葉で気を引き締める。


「危機的状況を認識してほしい。目下の問題は連合軍であるが、その背後にいる敵性国家についても注視しなければならない。これまでのような一地方の反乱だなどと油断はできない。不穏な動きを見せつつある東部南部貴族からも目を離せない。そして、我が国を踏み荒らそうとする者達に、我々はそれほど甘くないと見せつける必要がある」

「「「はっ!」」」


 明らかに空気が変わった。私への態度はともかく、皇族への信頼は篤いらしい。

 当て馬に使われた気がしないでもないけど、皇国貴族ってこういうものだと思っているから今更印象に変化もない。それより、役に立てたならこの魔道具、貰って帰れないかな。


「ところで皇子、この情報は王国や帝国と共有しても?」

「うん、干渉がレゾナンスだけとは限らないからね。警戒はしておくべきだろう。とは言え、我が国の現状をなにこれ構わず洩らされると困るから、文書の検閲はさせてもらうけど」

「ええ、勿論です」


 言質は貰った。口頭については禁じられてないから、戻って直接報告するけれど。

 海に面した私の領地も、他人事じゃないんだよね。

いつもお読みいただきありがとうございます。

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