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大魔導士と呼ばれた侯爵令嬢 世界が汚いので掃除していただけなんですけど… 【書籍2巻&コミックス1巻発売中!】   作者: K1you
1年生編

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憂国会談 2

すみません、遅くなりました。

「―――」

「―――」

「―――」


 願い事を口にしたら、3人とも固まってしまった。

 はて? そんなにおかしな事を言っただろうか。


「理解に苦しみますな。強い国を作る為に新技術を提供すると語っておいて、その見返りに望むのが娘だと? 確かに、派閥の異なる君との交流を快く思っていなかったが、在学中は君の研究に携わる事を既に許しています。君が娘の何を気に入ったのかは分からないが、この場の話に娘は関係ないでしょう」

「そうでしょうか? 私はこの国を、領地を、豊かにする為に研究を行っています。成果の軍事供与もその一環です。研究はまだ始まったばかり、運に恵まれて短期間で想定以上の成果を得られましたが、これからも多くのものを作っていきたいと思っています」


 これが私の貴族としての在り方だからね。


「けれど、研究は私の力だけで行えるものではありません。今も多くの人に助けられています。その助力の一つ、マーシャの協力はこれからの研究にどうしても必要なのです」

「……娘にそんな力があると?」

「御存知ありませんでしたか? それなら知ってください。その資料を作った彼女の細やかさを、分割付与を形にするために思い付くだけの魔物素材を組み合わせて法則性を見出した才覚を、1日も早く新しいポーションを実用化したいと研究をまとめたその情熱を、世に出た多くの論文を読み込んだ生き字引のような幅広い知識を、何より、研究がしたいとなりふり構わず私のところへやって来たその渇望を!」


 マーシャは今年で卒業する。

 その後の具体的な話は聞いていないと言っていたけれど、ほとんどの場合、婚約か結婚をするのが貴族令嬢の進路だから、マーシャに話が行っていなくても、水面下では婚約者が選出されている筈。


 だから、フランに調べてもらった。


「キトリート伯爵家の御子息ですよね」

「!! どこから、それを!?」

「ご本人が友人達に話していましたよ。マーシャが私の研究室に出入りしてますから、将来的にはノースマークとの縁も作れると、得意気に」


 勿論、そんな皮算用しているような奴に、大事な研究成果を渡すつもりはないけどね。


 キトリート伯爵家は鉱山を領地に持つ豊満貴族で、戦争を望む第1王子派が取り込もうとする対象としては分かりやすい。資金に困っていないから国内情勢に鈍くて、中立派にも属していない無所属貴族だしね。


「その資料と、口も頭も緩い次期伯爵、キッシュナー卿はどちらを選ばれますか?」


 家と家をつなぐのが貴族女性の仕事と知ってはいるけれど、とてもマーシャと釣り合うようには思えない。

 本来、他家の方針に口を挟むのは礼儀に反してる。だから私はこの場を用意してもらった。マーシャの婚約をキッシュナー領の問題ではなくて、国軍の強化に必要な人員の話として扱う為に。


「キッシュナー卿、最初に仰いましたよね、ここは国を憂いた者の集まりだ、と。私は初めからそのお話を続けているつもりです。強い国を望まれるキッシュナー卿は、その為に尽くせるマーシャを、どう扱われますか?」

「……卒業後も研究への協力を続けさせると? 娘の結婚の機会が失われてもいいと、君は言うのか?」


 この国で女性は20歳までに結婚するものとされている。

 行儀見習いに出たり、婚約期間を置いたりする事もあるので卒業後すぐの場合は多くないけれど、18歳で行き遅れ、20歳を過ぎると貰い手が無くなる。

 アラサー未婚の前世の私なら、何か瑕疵がある筈なんて周りに思われてただろうね。


「それはお相手次第でしょうな。気位が高いと聞くキトリート家なら、女は家に入るものと考えるだろうが、軍属として公私に渡って支えてくれている私の妻のように、家の事は家令に任せる場合も珍しくない」

「まだ数年は猶予があります。それほど急いで決めなくても良いのではありませんか? 娘の無茶に付き合ってもらっているのですから、御令嬢の結婚はノースマークで世話をしても構いませんよ」


 おや、思ってもなかった方向から心強い援護が来たよ。

 まあ、2人からしたら、私の研究を支えてくれるマーシャは、派閥に縛られてる伯爵以上に取り込んでおきたい人材かもしれない。

 帰ったらキャシーも推しとこう。


「……」

「決めかねるなら、その資料をよく読む事をお勧めします。それはマーシャの能力の証明ですから」


 ついでだから意思表明もしておこう。


「実験中で今回の報告には間に合いませんでしたが、現在、小型魔導変換器を使って魔物の森の魔素を減らした場合の影響を調査中です。結果次第では開拓が容易になる日も来るでしょう」

「それは良い話を聞いた。うまくいくなら間伐部隊の者達も喜ぶだろう。その結果も貰えるのだろう?」

「ええ、本日開示した技術の研究結果は続報も含めて共有して、軍と領地と研究室それぞれで発展させて行けばと考えています」

「念の為に確認するが、成果をスカーレット嬢の名前で広く公表する気はないのだな?」

「はい、過ぎた名声は欲していません」


 どうせ研究室から発信した事は噂になって、私の名前は独り歩きすると思う。

 それを嬉しいとは思えなくて、面倒事が返ってくる事を警戒してるくらいなんだよね。


「それより、開発が進んで国中で開拓が行われる未来を望みます。国内開発に躍起になって、戦争の選択肢が消えるくらいが理想ですね」

「―――」

「―――」

「―――また大きく出たものだね、レティ」

「言うだけならタダですもの。それに、国や領地を富ませる事を望み、戦争は望んでいないここに居る方々なら、きっと力になってくださると信じてますから」


 零細研究室ではできる事が限られるので、委託先の協力は助かります。

 毎回こういう協議は大変だから、開発を報告すればそのまま後の発展を引き受けてくれるくらいが理想だよね。


「―――はあぁぁ、……新技術を譲られ、将軍をそちらに引き込まれ、理詰めで押し切られた、か。少し頭の回る子供と思って席に着いた時点でどうにもならなかったのだろうな」


 言葉を失っていたキッシュナー卿が、重いため息とともに話し始めた。


 まあ、この日の為にマーシャから伯爵の人となりを聞いて、フランに下調べをしてもらって、十分に対策を立てた上でこの場を取り持ったからね。子供は大人の言う事に従うものだと思ってたんだろうけど、無策で来た伯爵にこの場を覆すのは難しかったと思うよ。


「マーシャの結婚を強行して、新技術を手放して、将軍との関係にひびを入れたのでは、あまりに利がないでしょう。キトリート家との話は、白紙に戻すと約束します」

「ありがとうございます、伯爵」

「その後の話は娘と話し合った上で、改めて決める。少なくとも、在学中のあの子に口を挟む事はしないよ。これからも、娘をお願いします」

「ええ、勿論です」


 うん、最善の結果が得られたんじゃないかな。

 親子なんだから、ちゃんと話し合うべきだよね。マーシャが知らないところで結婚話が進むくらいだから、彼女側からも没交渉だったんじゃないかな。父親がウザったく思える年頃だしね。

 でも、マーシャは凄いんだって、キッシュナー卿に教えてあげてほしい。


 そしてこれからも私に協力してもらえるなら、最高です。

お読みいただきありがとうございます。

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頭弱々男とは先行きが怪しすぎるしな(笑) こっちの方が魅力的かつ、いい縁談来そうじゃね?
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