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それはそれとして

 義務として王国への報告を終えた私は、領地にいた。……って、情報収集の命令を忘れた訳じゃない。公式には、皇国への滞在を続けている。

 でも、講義を続けるかどうかの了解は、皇国側からも得なくてはならない。とはいえ、今の皇国はそれどころではなかった。


 アンハルトへ軍勢は送ったものの、西側諸侯が蜂起したとなると第一陣にしかならない。急いで軍を編成し、不穏な動きを見せる西や南へ備える必要もあった。レゾナンスの暗躍について更なる情報を集めないといけないし、当然裏付けも要る。悲惨な事故で不安を抱く臣民が混乱しないように導く役割も、内乱へ向けて中央貴族の意思統一を図るのも急務だった。


 そんな状況で、私への対応が後回しにされるのは仕方ない。むしろ、機密保持の観点からも、私の行動は制限しておきたいのだと思う。普通のお嬢様っぽく、事件のショックで引き籠っているのは皇国としても都合が良かった。

 全部、王国へ報告した後だけど。

 十四塔から出入りする様子がなくて、ウェルキンも動かないなら、行動を自粛しているのだと信じていてくれてるに違いない。諜報員は、存在を隠す魔道具があるから割と自由に皇国入りしているしね。


 皇国からの回答を待つ間を、無為に過ごすような余裕は私にない。皇子達やリコリスちゃんの様子は気になるものの、問い合わせたところで回答が得られる筈もないから、領地の業務に専念することにした。


 現在、ノースマークでは三つの大規模工事を計画している。

 一つは電波塔の設置。領内限定になるけれど、魔力波通信機とは異なる連絡手段を構築しようと思う。


「これまでは……、これまでは建造物の維持が障害となっていましたけれど、オリハルコンのおかげでその心配は必要なくなりましたからね」

「特殊合金を開発したってくらい曖昧にしか、情報を明かす予定はないけどね」


 マーシャが乗り気なのは、婚家の運送業に生かせるから。カーレルさんの運送会社には、お友達特権でアイテムボックス採用車両や飛行ボードといった最新型製品を提供してきた。その中には魔力波通信機もあり、互換性があるから移動中も綿密に連絡を取り合えるようになる。

 通信用の端末は、機能を通話に限定する代わりに大幅に小型化する予定だからね。使用者の魔力で染めた魔石とか、虚属性の誘引力とか必要ないから、前世のガラケーサイズを目指せる。


 電波式通信の障害には、魔素が電波を乱すって難点もあった。けれど、魔導変換器の普及で居住領域のモヤモヤさんは大幅に減った。おかげで、町村に限定するなら電波通信も可能になっていた。

 そして、限定範囲内を超えて送信する際には電波をアンテナに集約させて、魔力波に変換して中継する。送信先で再変換すれば、それぞれの端末へ音声を届けられる。


 とりあえずはマーシャのところの運送会社やウォズのストラタス商会、領地内の主だった企業やギルドで運用させて、利便性を浸透させていく。量産を可能にすれば端末の製造コストも抑えられるものの、個人的な通話を行う習慣がないから、まずは意識改革から始めないとだね。


「レティ様、ウォルフ領にも電波塔を作れませんか?」

「わたくしも、図書館の連絡用に欲しいですわ」


 ノーラの図書館、迷子になれるくらいに広いからね。本を探しに行って、帰ってこないなんて話もよく聞く。

 電波式の通信機をエッケンシュタイン領都アルベルダ限定で採用するなら無理な話じゃないと思う。電波の活用が一般的ではなかったせいで実現の機会がなかっただけで。だけど――


「うーん、魔力波での中継は距離に依存しないから、技術的には問題ないよ。でも、それってオリハルコンを領地の外へ出すって話になるから、国の許可を得た後かな?」


 そのためにも、南ノースマークで実績を示さないといけない。

 オリハルコンを受け入れられる素地の形成を急ぐくらいの注目を集めないとだね。


「う゛~~、領地ごと、ここへ引っ越してきたいです!」

「……それは、オリハルコンをどんなに活用しても、実現できないんじゃない?」


 二つ目は、各町村を結ぶ有線ケーブルの敷設。電波塔同様に魔物によって破損する可能性が壁となってきたけれど、オリハルコンでカバーを作れば解決した。これで、道路に沿って各地を繋ぐ。

 こちらの目的は魔力の循環。主に魔素が豊富な過疎部から都市へ魔力を送配する。それでも不足する箇所があるなら、キミア巨樹を有するコキオから送ってもいい。これによって魔力充填器を運搬する必要はなくなり、領地内のどこであっても消費魔力量を気にすることなく魔道具が使える。

 ついでに、オリハルコンを使って、魔力ロスを抑えた属性変換器を開発。領内を循環させる魔力は無属性に限定した。属性の偏りによる不便や、属性ごとのケーブルを這わせる手間も省ける。


 通信用のケーブルも一緒に敷設しなかったのは、新技術の採用で不測の事態が起きた場合、通信と送魔力が同時に止まる事態を避けるためだね。万が一の混乱は最低限でいい。


 そして三つ目が、廃棄物分解槽の設置。

 魔力波や電波を中継するアンテナの設置や、ケーブルの敷設は、これまでの王国でも幾度となく試みられてきた。その全てが魔物に阻まれて失敗してきたのだけれど、最も障害となったのは、設備をかじる獣型や倒壊させる大型種ではない。

 オリハルコンを除けば最硬を誇るアダマンタイトすら腐食させ、あらゆる耐酸性塗装剤をも溶かす魔物がいる。ウーズ粘虫と呼ばれる種族で、主に無機物を捕食する。

 魔物としては特に強力な部類ではなく、食物連鎖のピラミッドとしては下層に属する。過去にはスライムと混同された不定形生物で、雌雄を持たず分裂で増殖する。ただし、明らかにスライムと異なる点として、口腔部を持ち、消化器官も備える。石や土といった補食対象を軟体部分へ取り込み、或いは対象へ張り付き、分解液を分泌させながらゆっくりと消化する。

 ただし、どれほど強力な分泌液を有していようと、オリハルコンは侵せない。


「……ウーズ粘虫を、あの巨大槽を埋めるほどに集めてくるのですか?」


 体色を持たず、内臓部分が透けて見えることから非常に不人気な魔物でもある。

 ウーズ粘虫は環境によって進化する魔物で、歴史を振り返れば町を飲み込むような災害種に至った例もあったらしい。とは言え、そこまでの危険性は極めて低い。動きが鈍く攻撃手段を持たないほとんどのウーズ粘虫は他の虫型や小動物型の糧となる。つまり、矮小な個体を大量に取集する必要があった。捕獲を依頼したときの、金剛十字を統括するサンさんの顔は、マルチアイスラッグの捕獲を依頼した烏木の牙を彷彿とさせた。

 ダーハック山で大地竜から助けた事に恩義を感じているらしくて引き受けてくれたけど。


 巨大なオリハルコン槽まで作ってウーズ粘虫を利用するのは、廃棄物の処理が主目的じゃない。

 無機物を分解する際、この世界の物質は魔素を放出する。ウーズ粘虫の目的はその魔素を取り込む事なのだけれど、その摂取効率はそれほど高くない。そこで、不燃ごみを処理するのと同時に魔素を得る施設を考えた。

 魔力変換器やキミア巨樹があるとは言え、魔力需要がこれからも増大することを考えると、獲得手段は複数用意しておいた方がいい。分解槽の内部を私が覗く予定はないけれど……。

いつもお読みいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
おお! 廃棄物から魔素の回収。 居住エリアでの循環型社会ですね!
電波を阻害する魔素ってミノ〇スキー粒子みたいですね。 電波を魔力波に変換して…擬似的なデジタル通信みたいなもの?と考えていいのかな。 ノーラのエッケンシュタイン領はスカーレットのノースマーク領と隣な…
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