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それぞれの関心事

更新が止まってしまってすみません。

パソコンが壊れる、仕事が積み上がると想定外が重なって、執筆の時間を確保できませんでした。しばらく不定期になるかもしれません。

 南ノースマークで預かる双子の紹介の為に侯爵家を間借りするのもおかしな話なので、オーレリア達との合流は学院の研究室を指定していた。もうほとんど使っていない場所であっても、卒業までは私のスペースだからね。偶には有効活用するのもいい。

 私のメイド達が定期的に通っているため、突発的な思い付きにも対応できるように場を整えてある。指示した覚えはないけども。


「オーレリア・カロネイアです。これから、よろしくお願いしますね」

「キャスリーン・ウォルフです。初めまして」

「……お二人の噂は聞き及んでおります、オーレリア様、キャスリーン様。お世話になります」


 二人の紹介をベリル君が無難に返す。二人とも、詳しい説明は要らないくらいの有名人だからね。

 一方で、フェリリナちゃんの反応は予想から大きく外れた。


「初めまして、キャスリーン様! 是非、お会いしてゆっくりお話したいと思っていました。こうして面識を得られて感動です!」

「え……、あ、あたしですか?」

「はい! 飛行列車を初めて見た時に衝撃を受けたのです。こんなにも合理的な装置が組めるものか、と!」


 私やマーシャと挨拶した時とはテンションがまるで違う。オーレリアなんて、彼女の視界に入っているかすら怪しい。


「効果の異なる複数の付与魔法を無理なく共存させている様子には、思わずうっとりとしてしまったほどです。難解な装置なのに、稼働する事だけを見越して組んでいる訳ではなくて、製造側や整備する人のことまで考えて設計されていました。あれ、素材の品質を細かく変えることで魔力の浪費を抑えてますよね? 分割付与で基板が増えた事によって複雑化しがちなところを、魔導線を減らす工夫で制御していました。製作時の手間はあっても、組み間違いの可能性はずっと減る筈です。その美しさには、感服を覚えたほどでした!」

「……すみません。フェリリナはキャスリーン様にずっと憧れていたのです」


 この様子からすると、のめり込み方が尋常じゃない。

 彼女が器用だって陛下からの話も、関心から生まれたスキルみたいだね。飛行列車の乗り心地や運送能力じゃなくて設計の精緻さに注目するあたり、技師としての素養が窺える。

 魔導線が複雑に絡み合う基板を美しくないと評して改善を重ねたのもキャシーだったから、彼女の感性はどう考えてもあっち側に違いない。


 令嬢らしくないと敬遠する貴族も多いかもしれないけれど、許容する風潮を私達が切り拓いた。南ノースマークなら、彼女の宿願を叶える環境も揃っている。その心酔に形を与えてあげられる。

 身の安全を確保する関係上、ウォルフ領に滞在させてあげるって訳にはいかないけれど。


「私、ずっとキャスリーン様に師事したいと思っていました。あの……、キャシーお姉様って呼んでいいですか?」

「え、ええっ⁉」


 羨望の暴走に、キャシーもたじたじだった。

 妹がいるから年下の女の子への接し方には迷わなくても、こうも真っ直ぐな憧憬を向けられた経験はなかっただろうしね。むしろ、実の妹(メアリ)はこうも素直な好意を向けてくれない。しかも、相手は元王族。キャシーももうすぐ子爵になるとは言え、本来なら傅かないといけなかった相手になる。

 それ以前に、教えを請うなら先生呼びが普通じゃないのかな。


 フェリリナちゃんの興奮を抑えられる気はしないので、気の合う二人で交流を深めてもらおうと距離を取ったところに、最後の一人がやってきた。


「……おや、俺が最後ですか? すみません、遅くなりました」

「いいよ。私達も、さっきお城から戻ったところだし」


 そもそも、昼頃に会おうってくらいアバウトにしか約束していない。


「もしかして、忙しかった?」

「新年に挨拶回りが大切なのは毎年の事なのですが、俺が貴族となると知って、あわよくば繋がりを作っておこうと殺到した商家の対応に追われていました」

「忙しいなら、時間くらい調整したのに」

「いえ、今更接触してくる程度の者達ですからね。新年休みを返上してやってきた気概は評価できますが、あまり期待はしていないのですよ。解散するいい口実になりました」


 それでも、どんな原石が混じっているか分からないから、会う機会だけは捻出したってところかな。ここにいる時点で想定以上の出会いはなかったんだろうね。期待してなかったって言うのも言葉通りみたいで、特に残念そうにも見えない。


 ちなみに、一部を除けば今日くらいは休むのが一般的なので、私も烏木の守を連れていない。護衛無しの外出は久しぶりになる。ヴァイオレットさんは実家に帰ったし、グラーさん達はグリットさんと飲もうとウォルフ領へ行っているのだとか。ちょっといいお酒を渡しておいた。

 フラン達古参のメイド達は休むって事を知らないのだけども。


「初めから望み薄だったなら、面会自体を断ってしまってもよかったのではありませんか?」

「そこは難しいところですね、エレオノーラ様。特定の人物とだけ取引するのだと世間に思われてしまうと信用に影響しますし、俺は商売人ですので、可能性がある以上は見極めの機会を持っておきたいのです。商機は何処に転がっているのか、分かりませんから」

「提携を断られたばかりの侯爵令嬢と偶然再会する……なんてことも、もしかしたらあるかもしれないしね」

「あれはかなり特殊な事例の上に、随分な幸運に恵まれたと思っていますが、無駄に思えても自分以外の考え方が刺激になる事だってあり得ます。その機会をはじめから投げ捨てるべきではないかと」

「……そのお話、もっと聞かせていただけますか?」

「え……、と?」

「ベリル・ロイアーです。ご自身のみの才覚で爵位を掴んだウォージス様と、是非お話したいと思っていました」


 ウォズの困惑を初対面からだろうと察して略式の自己紹介だけ済ませたベリル君だけど、困惑の根はそこじゃないと思う。この場に誰がいるかは知っていた筈だし、南ノースマークに滞在する事になる双子の詳細は、ウォズも調べたに決まってる。

 けれど、ベリル君はそんな行き違いに気付かないまま畳みかけた。


「ご実家である大商会を離れて、いくらも経たないうちにストラタス商会を盛り立てたその嗅覚、今のお話だけでも興味深いです。やはり、世間に伝わる成功ばかりが実態ではないのですね。そこに至る過程を、どうか教えていただけませんか? 例えば、どんなことを心掛けていますか?」

「あ、いえ。俺はスカーレット様の成果を然るべき形で売っているだけですから……」

「そんな事ないよ。友人だから任せたのが始まりだけど、ウォズはその期待を何倍にもして返してくれた。私が思っていたよりずっと大きく商機を広げてくれた。次々顧客を開拓してくるその手腕を、じっくり語ってあげたら?」

「え、え? スカーレット様……」


 背を押す私へ、恨めしそうな視線をウォズが向ける。それでも、今は取り合ってあげられない。ベリル君の人となりを知る方が優先だからね。

 そのあたりの事情、まだウォズにもキャシーにも話してないけど。


「ベリル君は…、ベリル君はウォズがお気に入りですか」

「ちょっと意外ではあったかな。でもよくよく考えてみれば、元王族の准侯爵家の嫡男に、商人と交流できる機会があったとも思えない。もしかすると母親の事もあって、会う人間を厳選していたのかもだし、関心が表面化する機会もなかったのかもね」


 ファーミール服役囚の血を引くってだけで、謂れのない悪意を向けられる可能性は考えられる。アノイアス様含めて、周囲が過敏になっていたとしてもおかしくない。加えて面倒な信奉者達からすれば、英才教育を施すのが当然だった筈。そこに当人の意思は介在しない。

 そしてこの二人の場合、そういった空気も敏感に察していたんじゃないかな。我儘なんて言えなかったに違いない。そうなると、双子の内心はアノイアス様にも伝わらない。


「少し安心したよ。自分を抑える事ばかりに慣れて、関心事に気付けないってほど追い詰められていなくて」

「アノイアス様も…、アノイアス様も随分と気にしていらっしゃったようですからね」

「今の興味が一過性のものだったとしても、あの様子ならすぐに次だって見つけられるんじゃないかな」


 何しろ、ベリル君の寡黙キャラが何処かへ行ってしまっているくらいだからね。


「あの二人に思ったほど構ってもらえなくて、レティとしては少し寂しいのではないですか?」

「んー、そうでもないよ」


 茶化すオーレリアの意見を否定すると、訝しむような、心配するような視線が私へ集中した。

 そんなに意外? いつもの私の行いって……。


「だって、あの二人にとって私は、母親を糾弾した人間だよ。罪を犯したのはファーミール服役囚だって二人が理解していたとしても、簡単に心の整理ができる話じゃないと思う」


 屈託のない親愛を向けられたとしても、その内心を私が信用できない。表に出さなくてもわだかまりがあるのが普通だと思う。

 私は距離を置いた状態で、あの二人に成長の場を提供するくらいが最善じゃないかな。子供扱いしないと決めたのも、その一環だった。あの子達を甘やかすのは私の役目じゃない。双子を導く役目は、私以外の誰かのものでいい。

 可愛い子供を愛でて癒されようって思惑は、あの二人に限って二割もなかったからね。それより、大人の悪意に晒される二人が心配だった。


「小さな女の子に構ってほしくなったら、これからオーレリアが作る学校を見学に行くよ」

「私はそんな目的で騎士学校を作る訳じゃありませんよ?」

「分かってるって、私だって邪な目的で土地を提供する訳じゃない。女性騎士が増える未来も期待してる。オーレリアが成果を上げるのも応援してるよ。ただそれはそれとして、領主の役得があるくらいはいいんじゃない?」

「あんまり目に余るようなら、訓練生と一緒に厳しく扱き上げますからね」


 可愛い女の子や奇麗な女性と一緒に汗を流す……。それもいいかもしれない。


「あ、それから、不定期の講師としてお母様も参加するそうです。レティが鍛えてほしがっていたと、伝えておきますね」


 待って。

 私はカロネイアの流儀に染まりたい訳じゃない!

いつもお読みいただきありがとうございます。

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