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大魔導士と呼ばれた侯爵令嬢 世界が汚いので掃除していただけなんですけど… 【書籍2巻&コミックス1巻発売中!】   作者: K1you
1年生編

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友達のお父様に挨拶を 2

「では、こちらをご覧ください」


 そう言ってフランに用意してもらったのは、練習着の元となった布。

 使われている糸が太く、編み物のように厚手で、伸縮性と保温性に富んだ変わり種の布として流通している。


「これは、プラウ蜘蛛の糸から作った布か?」

「はい。防寒着素材として優秀ですが、魔力に反応して色が変わる特性がある為、風変わりなマフラーやショールとして使われているものです」


 ジョークアイテムの域を出てないけどさ。


「ところで、私は強化魔法とは、魔力を体内に留めて全身に薄く巡らせる技術だと考えていますが、閣下は如何でしょう?」

「うむ、あえて言葉にするなら、そういう印象だろう。多くの部下にも、娘にも、その感覚をうまく伝えられずにいるが」

「無理からぬ事と思います。もとより魔法はイメージに形を持たせるもの。同じ話を聞いたとしても、抱く印象にはズレが生じます。その点、連携魔法の規格化はその欠点をうまく埋めていると思いますが」

「そう言ってくれるのは嬉しいが、あれも問題は多い。うまくイメージを合わせられた者同士を組ませているのが現状だ」


 改良の余地があるなら、考えてみるのは面白いかもしれない。考えるのを楽しむだけで、手を回す余裕は無いから、どこかへ丸投げだろうけど。


「失礼、少々脱線しました。私は強化魔法のズレの原因を、属性魔法と異なり、目で違いが見えない事と考えました。そこで注目したのが、こちらのプラム布の特性です」

「ああ、なるほど、可視化する訳か」

「はい、そうです。見るという行為は、目と脳の緻密な連携によって成り立つそうですから、魔法を構築するイメージにも大きく影響を与えると思っています。騎士タイプ、術師タイプに分類こそしていますが、はっきり2種類で別けられる訳ではありません。そこで、その境界を崩す一助として、魔力の流れを間接的に目視できる、プラウ布を使った服を考案しました」

「ふむ、話を聞く限り、理に適っているように思える。よく理論立てて考えたものだ」


 ごめんなさい。

 嘘とは言いませんけど、伯爵に納得してもらう為に、後付けで理屈を盛ってます。


 カミンが強化魔法を苦手にしてるなんて大変だ。

 何とかしたい!

 そう言えば、前に見たプラウ布って使えないかな?

 駄目で元々、とにかく作ってもらおう―――って感じだったからね。


 理論? 説得力? 全て後から考えたよ。


「プラウ布を服にするだけなら、他にも気付いた者がいるかもしれん。君の独自技術と証明するのは難しいのではないか? 軍の技術が簡単に真似られるようでは困るぞ」


 私を試しているのかもだけど、そう言い張って情報を盗み、技術を模倣される可能性は考えた。

 貴族は自領を富ませる為に、新しい技術は秘匿するのが常だから、特許みたいな法整備は進んでないんだよね。


「これだけでは足りませんから、問題ないと考えております。もうしばらく、話をお聞きください」

「うん?」

「プラウ布は防寒着の下地に向くほど、生地が厚みを持っています。現在流通している品そのままでは、目的にそぐいません」


 蜘蛛の糸を加工したものだからか、強度に欠ける。そこで、太く束ねて毛糸のような状態で織られている訳だけど、その厚みでは肌に接触する部分だけが変色して、外見には変化が乏しくなってしまう。

 だから、練習着として使う為にはもう一手が要る。


「ははは、良くできているものだな。確かに、条件を満たす布地に作り替えてある」

「はい、新しい生地として、既にその製法はノースマークで秘匿しています。それでも模倣できたなら、それはその者の新技術でしょう」


 後追いは必ず出る。それが法や同義に反していないなら、私達が苦情を付ける事もないよ。


 実際に練習着に使用している方のプラウ生地を確認した伯爵は満足してくれたけど、別にそれは私の功績じゃない。


 私がしたのは、屋敷に出入りする服飾商会に、プラウ布でタイツを作りたいと無茶を言っただけ。

 侯爵令嬢(わたし)の要望に応える為、複数の樹液を加えて伸縮性を更に向上させて、それでも足りない強度を織密度の高い繻子織で埋めるなんて方法で実現してくれた。侯爵家に長年ドレスを納品してきただけあって、職人の知識と技量がとんでもなかったよ。

 これだけの職人芸なら、偶然の一致はあり得ない。私が何もしなくても、技術模倣は対策済みだったよ。


 ちなみに、練習着の効果が明らかになった後、業者に無茶を言ったと両親に知られて、たっぷり叱られました。カミンが絡んで視野が狭くなってたけど、貴族として完全にNG(ダメ)行為だったからね。


「こちらに詳細をまとめましたので、検討の材料にされてください」


 追加で差し出した資料に沿って説明を続ける。

 量産計画の概要に、本製品の仕様と試作品との相違点、コスト試算、ノースマークで想定している新しい用兵案、等々。次々と進めていると、ノースマークで実施している試験の経過報告あたりで、戦征伯が動かなくなったよ。後ろから資料を覗き込んでいた夫人の動きも止まったね。


 最新の情報はお父様が運んできたので、私も先日知ったばかり。

 練習着を使用した術師タイプの強化修得率7割って、驚異的だよね。属性測定したばかりの子供の修得率なんて、実施例がまだ少ないとは言え、今のところ10割が続いてる。逆に世代が上がると数字が下がるけど、思い付きが呼び込んだ出来過ぎの結果に、背筋が冷たくなったよ。


 可視化が魔法修得に及ぼす影響について、誰かきちんと調べてくれないかな。気になるんだけど、私余裕ないからね。


「くっくっく、この数字を見せられて否は言えんな。試験期間すらもどかしいくらいだ」


 あ、再起動した。


「納得してもらえたなら、伯爵、プラウ蜘蛛を確保する為に協力をお願いしたい。冒険者ギルドにも顔が利く貴方なら、養殖も含めて検討してもらえると期待しているよ」


 すかさず攻めるお父様、素敵です。

 プラウ蜘蛛は無属性魔石が採れる希少な魔物だから、研究の分も欲しいです。


「ああ、これを軍で扱わせてもらえるなら、いくらでもこき使われておきましょう。しかも、研究室の成果はまた別にある、と。ジェイド殿が全面的に背を押す訳ですな」


 研究室の方はまだまだ改良の余地ありだけどね。


「ジェイド殿の薫陶は確かなようだな。理詰めで説明して、情報量で畳みかける手腕がそっくりだ」


 他に見習う背中、知らないからね。


「しかも、この資料を後に持ってくるあたり、親子揃って性格が悪い。これを見せれば話は早いというのに、出し渋るとは」

「申し訳ありません。閣下にある程度納得いただいてからでないと、虚偽、或いは数字の捏造を疑われるかと思っておりました」


 発案者の私でも少々受け入れ難かったからね。


「ああ、言われてみれば、それくらい強烈な内容ではあったか。だが、君がその程度の小細工をするとは思わんよ」

「……信じて宜しいのですか?」

「構わん。軍を背負う以上、全てを疑ってかからねばならない立場にはある。だが、君を疑う事は、娘を信じない事に繋がる。そこまで薄情な親ではないつもりだ。娘が君を受け入れるなら、できる限り私もそれに倣おう」

「ありがとうございます」


 うん、オーレリアなら、私も信じて任せられるよ。


「それに、一々疑っていては、次に待っているらしい研究室についての分厚い資料は、読むだけで時間が掛かってしまいそうだからな」


 話が移った時に備えて、丁度フランが取り出したところ。

 ああ、あっちも勿論盛り沢山だからね。


 今日は、ノースマーク以外で初めての試験対象となるオーレリアの練習着も持ってきている。

 彼女は強化魔法の代替となる技術を高いレベルで身に付けたせいで、魔力の扱いが強化魔法向きでなくなっている稀な事例。そんな彼女から得られるデータは、間違いなく貴重なものになるって期待してる。

 年嵩の術師が、練習着でも強化魔法を修得できなかった原因を究明する助けになってくれるかもしれない。


 この後予定しているオーレリアの実験について話そうとしたところ、入ってきた執事が来客を告げた。


 弛緩しかけた空気が再び締まる。

 来訪はほぼ時間通り。


 客人は、ニコラウス・キッシュナー伯爵。マーシャのお父様。

 今後私が研究を続ける為に、今日説き伏せなければならない相手。何しろ、キッシュナー卿は、第1王子派に属する方だからね。


「私が最後だったようですな、お待たせして申し訳ありません、カロネイア将軍。ノースマーク卿も、お久しぶりです」


 部屋に案内されてきた、マーシャと同じツツジ色の髪をした男性の目には、一令嬢でしかない私なんて入ってもいないみたい。

 カロネイア伯爵のような迫力はないけれど、話し相手として認識もされていないあたり、彼は彼で手強いね。


 視界にいないなら、無理矢理でも割って入るしかないよね。


「初めまして、キッシュナー伯爵。スカーレット・ノースマークです。初めに、かつて国家防衛に尽くしてくださった事、御礼申し上げます」


 そう言って私が頭を下げた伯爵には、右手が無い。

 16年前の大戦で失い、争いの最中に領地で生まれたマーシャをその手で抱く事はできなかったと聞いている。

 強化魔法を応用して、義手に魔力を通す事で、元の右手に近い動作はできているらしいけど、硬く冷たい仮腕に思うところがないなんて思えない。


「国の将来について語ろうと、カロネイア将軍の招待を受けたつもりでしたが……違いましたかな」


 話が違うとばかりに、キッシュナー卿は私を冷たく見下ろす。昔の思い入れを突く作戦は失敗したみたい。

 漸く私を見たから、まあいいか。


 カロネイア伯爵に仲介を頼んだのは、本当の事。

 所属する派閥が違うから、お父様が呼んでも応えてもらえない可能性があったからね。キッシュナー卿は元軍属なので、将軍の招待なら応じてくれると思ったよ。


「国の未来を憂いての集まりには、間違いありませんよ」

「……子供が国を語るのか?」

「確かに私は経験乏しい若輩の身、利いた風な事は申せません。しかし、国への想いに年齢制限があるとは知りませんでした」

「―――賢しい子供ではあるようだ。場を整えてくださった将軍の顔を潰す訳にもいくまい。娘が世話になっている事もある、少しならば付き合おう」

「ありがとうございます」


 とりあえず交渉の席には引き込めた。

 さて、ここからが本番だね。

お読みいただきありがとうございます。

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