友達のお父様に挨拶を 1
社交シーズンと言っても、未成年の私にできる事はあまりない。
お父様達の会談中、訪ねた先の子女の話を笑顔で聞き流すとか、求婚をそつ無く拒絶するとか。鼻持ちならないボンボンをへこませたり、パーティーで壁の花になったりなんて得意だけども。
でも、避けて通れない案件も存在する。
特に、今日の相手は格別だから、赤のドレスをまとって気合を入れる。フランも、腕を振るって磨き上げてくれた。
学院で講師資格を取って、私の立場に少し変化があった。
一令嬢なのは変わらないけれど、自分の研究成果には責任を持たないといけない。貴族子女なら流せても、貴族当主相手に研究の話は誰にも任せられない。
そうは言っても、対談相手のお屋敷に向かうのはお父様も一緒。研究について話すとしても、家同士のつながりを飛び越えられる訳じゃないからね。
車に揺られる事、数十分、貴族街の最も南にある屋敷に到着した。
最も南、つまり軍施設に近い場所。
王国軍 陸・海統合大将軍 カロネイア伯爵、今日の対談相手の王都邸です。
オーレリアは寮住まいなので、実は初めて訪れた。すぐ南が公園だから、近くを歩いた事はあるけどね。
残念だけども、友達の家に遊びに来たってほど気楽にはいかない。
書面のやり取りで両家の方針の大枠は決まっているし、オーレリアからも詳細に報告されてるだろうけど、私の研究を軍の責任者がどう扱うかという話だから、緊張しない筈がないよ。
「ようこそ、ノースマーク侯爵。そして、スカーレット嬢。2人にまみえる今日を、楽しみにしていたよ」
着いて早々、カロネイア伯爵本人に迎えられた。噂通りにフットワークが軽い。
白熊が出た。
それが最初の印象。オーレリアによると、10人中9人が似た感想を抱くと言う。何しろ大きいし、いろいろ太いし、何かと厳ついし、白銀色の髪が境目無しに髭とつながるくらい毛深いから、無理もない。
私はドレス、お父様は三つ揃えで来たのだけれど、伯爵は軍服姿だったよ。今は軍務中ではない筈だけど、まさかそれで生活してます?
「初めまして、カロネイア伯爵。スカーレット・ノースマークです。日毎夜毎、護国に尽力されている将軍にお会いできて光栄です」
友達のお父様だし、少しでも印象良くしようと丁寧に頭を下げると、面白そうに笑い返された。迫力があり過ぎて、私が年相応の少女だったら、泣いてたかもしれないよ。
「護国、と来たか。初対面で英雄扱いされないのは、なかなかに珍しい」
「オーレリアより、人となりを伺っています。かつての大戦でのご活躍は英雄と呼ばれるに相応しいとは思いますが、それをひけらかす事は無いとも」
「それを理解してくれているなら、娘にとっても良き友なのだろう。英雄という言葉は聞こえが良いが、敵も味方も多くを殺した称号なのでな。アルケイオス・カロネイアだ、これからも娘をお願いする」
とりあえず、第一印象はまずまずでクリアできたみたい。
挨拶が済んだら、協議の為に応接室へ移動する。
ノースマーク邸は絵画や花で飾られているけど、このお屋敷は武器や盾で彩られていて、とっても物騒です。飾り物のレプリカじゃなくて、すぐさま使えるやつだよ。きちんと手入れもしてあるね。常在戦場ってやつですか? ヴァンならかっこいいって喜んだかも。
応接室には夫人とオーレリアの姿もあった。聞いてはいたけど、オーレリアだけ小さくて、家族の中で異質なんだね。執事や侍女も鍛えている人が多いのか、皆身体つきがしっかりしていて、1人だけ小人が迷い込んだみたい。
今は間違いなく私もだけど。
あと、ぽっちゃりお父様も、ここではかなり目立ってる。
「キッシュナー伯爵が来るまで、まだ少しある。先に強化魔法の練習着とやらについて、話を聞かせてほしい」
今日の約束は、キッシュナー伯爵、つまりマーシャのお父様も呼んである。娘を研究に借りておいて、家に話を通さないなんてあり得ないからね。
キャシーの家、ウォルフ男爵家とは別に話し合いの場を持って、うちの傘下貴族に名を連ねる事が決まってる。身分差があるので対応を別けたから今日は来ない。この会談の後、キャシーだけ合流する予定。
「では、失礼します」
勧められるままにソファに座ると、私に視線が集中した。
まあ、そうだろうね。
席を勧めたのがお父様に向けてだって事は分かった上で、スルーさせてもらったよ。
会談の場で席に着くって事は、責任者として参加するって意志表示だからね。お父様に代理をお願いして、私は補佐として後ろに控えるのが通例。実際、オーレリアも、彼女のお母様も伯爵の後ろに立っている。従者みたいに発言が許されない立場ではないけどね。
「そんなに意外ですか? お知らせ致しました通り、練習着を考案しましたのも、素材活用研究所の長も私です。侯爵家としての判断をお願いする為、父に臨席してもらっていますが、詳細を語るのは私の役目だと思っております。問題がございますか?」
「いいや、失礼した。娘から君の事を聞いていても、そこまで毅然とした12歳というのは想像できなかったものでな」
必要だからそういうキャラを作っているだけだけどね。侯爵家の教育と、前世30年弱の経験は伊達じゃないんだよ。
「父の薫陶が良かったのでしょう。……何より、私の思い付きを形にする事から始まった研究に、価値を見出し集まってくれた方々がいる以上、臆してはいられません」
「ははは、流石はジェイド殿の娘さん、剛毅な事だ」
「恐縮です。最近は、私のあまり良くないところまで真似るようになった上に、親元を離れて強かさまで身に付けたようです」
「周りに人が集まって、責任感をより強く意識するようになったのでしょうな。頼もしい事です。スカーレット嬢の言葉は侯爵の代弁と考えてよろしいのですかな?」
「ええ、そう捉えていただいて結構です。勿論、細かく報告は入れさせて、必要であるなら、都度修正するよう監督は行います」
「ふむ、了解した。―――では、スカーレット嬢、改めて強化魔法練習着について、聞かせてもらえるかな?」
お父様に確認を取って、一応は納得したらしい伯爵の視線が私を向く。一気に迫力が上がったよ、何もしてないのに謝りたくなってしまうくらいに。
オーレリアのお友達扱いはやめるって事だね。対談相手になるなら、これくらいは受け流して見せろ、と。
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