弟達と友達と
今日はカミンとヴァンを連れて、王都観光に出た。
私が案内できるところなんて知れてるから、オーレリア達にも応援を頼んだよ。弟達の紹介もしたかったしね。
だから、普段から連れてるフランに加えて、カミンとヴァンの側近に護衛と、大所帯です。2人は私と違って、護衛無しで外を出歩けたりしないからね。
待ち合わせ場所の空中球池には、既にオーレリア達が揃ってて、キャシーが手を振って迎えてくれてる。
ただその前に、空中球池を見上げた2人が動かなくなってしまったけども。
「お姉様、おっきな水が浮いてるよ! あれ何、あれ何?」
「聞いていた以上にすごい迫力だね。わぁ、魚が普通に泳いでるや」
早速満足してくれたようで何よりです。
水の都の象徴で、王都観光の目玉らしいけど、私にはモヤモヤさんが大量に渦巻く黒い塊にしか見えなくて、あんまり感動できなかったんだよね。
今は、人が集まる場所のデータを集めたいと申請して、試作掃除機がこっそり設置してあるから、私もきちんとその佇まいが見られる。王都モヤモヤさん一掃計画の一環です。
「空中に浮かんだ池が気になるのは分かるけど、私のお友達が待っているから行きましょう。ヴァンも、お魚さんよりあっちで手を振ってくれてるお姉ちゃんを気にしてあげて」
貴族が王都に集まる年始は、本来なら挨拶回りが忙しい時期で、そんな中時間を割いてくれた彼女達を待たせるのは申し訳ない。キャシーやウォズからすると、侯爵令嬢との交流は他の貴族に会うより優先度が高いかもしれないけど、それはそれ。
「皆、遅れてごめんなさい」
「いいえ、レティ達が空中球池の前で止まっているのは見えてましたから、大丈夫ですよ。初めて見ると驚きますよね」
「それより、それよりレティ様、そちらの可愛らしいお二人が弟さんですよね。早く紹介してください」
珍しくマーシャが興奮気味だね。私と一緒で可愛い子供は愛でたいタイプかな。
「カミン、ヴァン、こちらが私のお友達で、オーレリア、マーシャ、キャシー、ウォズよ。2人も自己紹介なさい」
「はい! ヴァーミリオン・ノースマークです! よろしくお願いします!」
ヴァンの元気は100点だけど、習ったお作法はどこかに行ってしまってるね。可愛いから許してもらえるだろうけど、それに甘えるのは良くない。後で注意か、お母様に報告が必要かな。
「わー、可愛い……。…マーシャリィ・キッシュナーです。よろしくね、ヴァンくん」
「キャスリーン・ウォルフです。よろしくお願いします」
マーシャの視線はカミンを通り過ぎて、ヴァンだけに集中している。小さい子がいいのかな。確かにヴァンはめちゃめちゃ可愛いから仕方ない、のかな?
ちなみにヴァンは、そっくりの2人に吃驚して固まっている。双子に会った事ってなかったかな? あの2人は従妹だけども。
「は、初めまして、カーマイン・ノースマークです。…その、姉様がいつもお世話になってます」
カミンはと言うと、オーレリアの前で真っ赤になってる。
おや、彼女みたいな娘が好みだったかな? 成長乏しい私より更に小さなオーレリアは、カミンと同世代くらいに見えるからね。
前世の記憶から考えると、カミンくらいなら女の子に興味を持つお年頃だって、今更思い出したよ。普段落ち着いて見える弟のこういう姿はちょっと意外。
「初めまして、オーレリア・カロネイアです。貴方の事はレティからよく聞いてるわ、よろしくね、カミン君」
「は、はい! よ、よろしくお願いします、オ、オーレリア、…さん」
からかったり、口を挟んだりする気はないけど、文系肌のカミンに体育会系のオーレリアは難しくないかな。現時点で、友達の弟としか見てないよ。年上のお姉さんへの憧れか、恋心なのか分からないけど、後者なら、まず気付いてもらう為に猛烈なアピールが要りそう。
真っ赤なカミンも可愛いから、私は見守るよ。
それぞれの紹介が終わったら、空中球池をゆっくり見学してから、東の公園を通って商店街へ足を向ける。
新年を厳かに迎えたら、学院生の親を中心に集まった貴族は社交シーズンに、平民は新しい年の始まりを祝ってお祭りモードに移行する。
私達は社交の間を縫って出てきた訳だけど、公園以東の平民エリアは屋台とか出ていて楽しそうだったから、一度は来たかったんだよね。
キャシーは男爵令嬢で、領地にいた頃から平民との距離が近かったので、こうしたお祭りも抵抗がないらしい。マーシャも、親戚としてウォルフ男爵領を訪ねた際にはキャシーに連れられて、平民に混じって遊んでいたとか。
私とオーレリアは言わずもがなってね。
「そろそろ付き合いも長いですから、レティ様がそういう方だって事は理解してますけど、カミン様やヴァン様までこんなところに連れてきちゃって、良かったんですか?」
物珍しそうに、ケバブっぽい塊肉を焼く屋台を覗き込んでいるカミンの方を気にしながら、キャシーがこっそり訊いてくる。
ヴァンはマーシャに串焼肉を買ってもらってご満悦みたいだし、今更だと思うけどね。
「大丈夫ですよ、キャスリーン様。お姉様大好きのカミン様は、スカーレット様とご一緒ならいつだってご機嫌ですから」
答えたのはカミンの側近。
キャシーは声を抑えていたのに、まるで主に聞かせるように話すものだから、カミンが飛んで戻ってきた。
「ヘキシル! 姉様に適当な事を言うな!」
「おや、違ったっスか?」
思わず地が出て膨れているカミンに笑ってしまう。
前々から、側近との距離の取り方に迷っていたようだったから、こうして気安い関係が結べてるなら嬉しい。
「姉様! こんなきちんとした言葉遣いもできないヤツの言う事なんて、真に受けないでください」
「あら、彼が言葉を崩しているのは、貴方に気を遣わせない為でしょう? おかげで、貴方も気が抜けているように見えるわよ」
「そんな事はありません! こいつはただ無礼なだけです」
私があんまりヘキシルの肩を持っているからか、これ以上彼に余計な事をしゃべらせない為か、カミンはヘキシルを引っ張って先に行ってしまった。
私達と離れる事に配慮してウォズが追ってくれたので、任せて良さそう。
「本当に仲が宜しいんですね」
「ありがとう、キャシー。そう見えたなら嬉しいわ」
「―――」
ヴァンにはマーシャがべったりだし、カミンは逃げてしまったので、私も屋台を楽しむことに集中する。
屋台独特のしっとりしたクレープとか、好きなんだよね。
「あの、レティ?」
何かファンタジーっぽい屋台とかないかなと探す私に、今度はオーレリアが声を落として話しかけてきた。
「今日は少し様子が変ですけど、何かありましたか?」
「??」
いや、全く心当たりがない。
私、いつも通りのつもりですが? オーレリアは何が気になったの?
「あー、あれじゃないですか?」
私に分からないのに、キャシーは何か心当たりがありそう。
オーレリアと一緒に聞く体勢になってしまう。
「あたしも妹がいるから少し分かりますけど、カミン様達にいい所見せたくて、少し気を張ってないですか?」
「―――!!!」
ガツン!! と、殴られたかと思ったよ。
はい、その通りです。
王都邸に戻ってからお姉様モードのスイッチを入れたままだから、楚々と見えるように所作を盛ってます。
少し猫、被ってます。
貴族の態度として間違ったものじゃないから、フランは指摘してくれなかったんだね。
「それでいつもと様子が違ったんですね。私は兄しかいないので分かりませんけど、レティにもそういう可愛らしいところ、有るんですね」
「レティ様、弟さん達にとっても好かれてますけど、その為にとっても努力もしてるんですね」
ごめんなさい。
カッコつけてた私が悪かったので許してください。
だって、可愛い弟達の憧れのお姉様でいたかったんだもの。
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