弟達にお土産
「迷ってるカミンのヒントになるかは分からないけど、2人にお土産があるの。受け取ってくれる?」
「お土産! やった!!」
はしゃぐヴァンをなだめながら、フランにおもちゃを配ってもらう。
見た目はシンプル、掌に少し余るくらいの円筒。その片側にレンズが嵌まって、反対側には紐が伸びている。
「私がお友達と作ったの。部屋を暗くして、筒の紐を引いてみて」
「お姉様が!? 凄い!!」
興奮したヴァンが、消灯を待たずに紐を引く。
その瞬間、筒の先から光の粒が飛び出して、キラキラ舞い降りる。
「うわぁ! 綺麗!!」
「はぁぁぁ……」
部屋を暗くするともっと幻想的だったのだけど、ヴァンは大興奮、カミンからも感嘆のため息が漏れた。
イメージしたのはクラッカー。
光属性の魔石を使ったから、音もしないし、飛び出すのは紐テープや紙吹雪じゃないけどね。
「わぁ! わぁ! わぁ!」
ヴァンは気に入ってくれたみたいで、何度も紐を引いて光を撒き散らしている。
この世界、花火もクラッカーもあるけれど、魔法の色彩を楽しむものは、在りそうで無かったんだよね。そういう意味でも新しいおもちゃになった。
「姉様、これは光魔法を使った魔道具ですか?」
カミンは光が溢れた事には驚いていたけれど、一度試してみたきりで、単一しか機能を持たないおもちゃへの興味は、現象より機構の方へ移ったみたい。想定通りの素直な子で嬉しい。
「そうよ。レンズの部分は薄刃蝶の魔石を使っているわ」
「これは光属性だけど、他の属性の色も加えたら綺麗だよね。お祝いとか、演出に使うと特に女性に喜ばれそう」
「色を変えるのは面白そうだけど、火属性や水属性を使うと、火花や水滴が漏れて大変よ」
「あ、そうか」
でも目の付け所は面白い。
風魔法で偏光とかできないかな。
「でもそうやって思い付きを形にするのは悪くないわ。カミンに時間が作れないなら、誰かにお願いしてもいい。貴方の周りにはヘキシルをはじめとして人が大勢いるのだから、貴方が望めば助けてくれるし、問題があるなら止めてくれるわ」
きちんとお願いするのなら、それは我儘とは言わない。ヘキシル達も仕事として受け止めるだろうし、必要なら別途人を雇うだろうしね。
私なんてフランに頼りきりだよ。
「うん。でも、うちの近くに薄刃蝶はいないよね、代わりは何がいいかな?」
あんまりヴァンが気に入ってるものだから、すぐに電池代わりの魔石の含有魔力が切れそうだって心配したかな。
「大丈夫よ、これはヴァンやカミンの魔力で動かしてるから、魔力切れの心配はいらないわ」
「―――!」
「―――!?」
私の言葉に反応したのは、後ろに控えていたヘキシル達側近勢だった。
「……お話し中、申し訳ありません。スカーレット様、今、カミン様の魔力で、その光魔法の魔道具を動かしたと仰いましたか?」
「ええ。そういうふうに作ったもの。だから、私が使っても、貴方が使っても、同じ結果が得られるわよ」
カミンの側近ヘキシルが信じ難いと言った様子なので、カミンからおもちゃを受け取って紐を引いてみる。きちんと稼働する事を確認してからヘキシルに渡した。彼が紐を引いても結果は変わらない。私の言った通りに光が溢れて愕然とした。
驚き過ぎて、いつもの気安い口調がどこかへ飛んで行ってるね。
私は無属性って事になっている。ヘキシルは確かカミンと同じ水属性だったかな。
魔力は属性によって偏りがあるので、互換性がない。
人の魔力で魔道具を動かそうと思ったら、その人の属性のものに限られてしまう。本来なら、カミンは光の魔道具を動かせない。
だから、代わりに魔石を使って、魔道具を動かすのが一般的。
基盤の魔石は、魔法を起動させる為の回路の一部で、これの魔力が切れると回路自体が死んでしまうから、動力は別に用意するのが基本。暖房器具には火の魔石、冷蔵庫のには水の魔石といったように、対応した属性魔石が必要となる。
回転の魔法が付与されている扇風機のように、魔力を運動エネルギーとして使うだけの場合でも、魔力を抽出する為の構造は属性毎に用意しないといけない。火の魔石で扇風機を動かすなら、火の魔石からエネルギーを引き出すユニットが要る。
魔導変換炉で地、水、火、風の4属性を揃えていたのも、魔道具の要求属性に合わせる為だからね。あれは魔力を生み出す装置だから、変換した魔力の一部を動力としても使っていた。
で、私が作ったおもちゃはその前提が崩れてる。
実はこれ、全く新しい技術で作られたおもちゃなんだよね。
コールシュミット侯爵領に待機中、ぽっかり時間が空いたので、キャシーやマーシャといっぱい話し合った。
中でも特に盛り上がったのは、これからの研究の話。予定とか計画とか、そんな真面目な内容じゃなくて、こんなものが作りたい、あんなものは作れないか、夢を語ったと言ってもいい。
回復魔法を溶かし込んで、傷を癒すポーションを作れないか。
自動で走り回って魔素を集める変換器があったら、沢山魔素が集まるだろう。
小さな魔石に魔素を込めたら魔石の質が上がらないか。
魔素ではなく、魔力を吸収して魔物を弱体化させたりできないか。等々。
1つ挙げては、実現する為の問題点も皆で考えて、研究に値するかどうかを振り分けていった。
そして、個人の魔力で魔道具を起動できないか、とマーシャが語った時、それが現行の技術で可能だと気が付いた。
変換器の逆、魔力を魔素として放出してしまえば、属性の差は消える。
これまでは魔素を魔力に戻す方法が無かったけれど、私達は魔導変換器を開発した。つまり、吸収した魔力を魔素として放出する回路と、魔導変換器の2種類の基盤を組み合わせれば、変換器側の魔石次第で任意の属性魔力を作り出せる。
動力となるのが魔石でも、人が放出した魔力でも同じに、ね。
思い付いたなら、早速設計に取り掛かった。
オーレリアは途中で寝ちゃったけど、私達は徹夜だよ。別に急かされてないけど、その時のノリって大事だからね。できるかもって思ったなら、すぐに試したいに決まってる。私、研究者だもの。
朝起きたオーレリアには呆れられたし、昨夜部屋の前で別れてからの間に新しい技術が生まれてて、ウォズは頭を抱えたけれども。
魔素を放出する方の回路には、無属性の魔石を用いた。
希少属性だけど、小さくて使い道のないクズ魔石なら、某名作RPGで有名なスライムから採れるからね。あんなに可愛くないけど、柔らかいゼリーの塊みたいな外見で、原初生物の一つで、属性を得るほど進化していないとか言われてる。
今回はおもちゃを作るだけだからこれで十分。
属性を限定しないで魔力を扱う為に無属性魔石を使うのは、この回路の問題点の1つだね。全属性分揃えれば済むかもだけど、その場合はどうしても回路が大きくなってしまう。まだ思い付きの段階だからクリアしないといけない課題も多いかな。
勿論モヤモヤさんからも作れるけど、私しか作れないものを使っても、それを開発とは言わない。
変換器側は、既に試作したものの魔石を光属性に換えて、発光と分散をそれぞれ単付与した基盤を加えるだけ。
おもちゃサイズに合わせて、魔石の質を落としてついでに小型化してみた。
紐は魔導線になっている。
意識しないで人が力を込める際、そこへ微弱な魔力が集中する性質を利用して、装置を動かすだけの魔力を吸収する。
紐を引く際、強化魔法を使っていると、うまく魔力が吸収できないのだけれど、特殊な例として無視してる。光を撒くだけのおもちゃにしては、使ってる技術が斬新過ぎて、商品化の予定はないからね。クラッカーもどきとして使うだけなら、従来の魔石電池型の魔道具を作った方が、実のところ早い。私達は浪漫を形にしたかっただけ。
無属性魔石の問題の他にも、並列に複数の魔法付与を繋げ過ぎて変換効率が悪くてロスが大きいとか、実用化には遠いけど、ひと先ずおもちゃは完成した。
勿論、お父様には報告済みで、カミン達に渡す許可も貰ってあるよ。
だから、ヘキシル達の驚きも無理はない。
カミンはポカンとしている。全て側仕えが用意してくれる立場だし、普通は魔道具の機構を一々考えたりしないから、理解が付いてこなくても仕方ないね。
魔法理論の基礎が終わったら、魔道具の詳しい機構についても学ぶのだけど、まだそこまで辿り着いてないみたい。
「ヘキシル、それってそんなに凄い事なの?」
「えっ…と、その、まあ、はい」
主に問われたヘキシルの答えは歯切れが悪い。本来、私達姉弟の会話に混じれる立場じゃないから、何処までここで説明していいものか迷っているんだと思う。
「後でゆっくり説明してもらいなさい」
「……うん」
気になるのに後に回されて、カミンが少し不満そう。
私が説明してもいいけど、専門的な話になるとヴァンが寝ちゃいそうだからね。
お姉様の新しい発明の凄さ、じっくり説明してもらうといいよ。
ついでに、カミンがやりたい事を見つける助けになれればいいな。ちゃんと背中を押してあげられるかな。
「ヘキシルに聞いた後で興味があるなら、私が特別講義をしてあげるわ」
「うん、楽しみにしてる」
「―――僕も!」
ありゃ、ヴァンまで食い付いちゃったか。
ヴァンに分かる範囲で説明できるかな? ううん、弟に請われて、否なんて無い。お姉ちゃん、頑張るよ!
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