表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

547/681

皇都カムランデ到着

 ダイポール皇国の建築物は皇国貴族の気位ほど高くない。

 そんな誹謗表現がある。皇国の歴史を重んじ過ぎる性質上、皇国人は他国との交流の場でトラブルを起こしやすいのだとか。そのせいで誹りを向けられることも多かった。


 第5皇子とその周辺くらいしか知人のいない私がそんな中傷を真に受けて皇国を非難する気はないけれど、ある意味この表現は皇国の一面を現していると思う。一日皇国を上空から眺め、皇都カムランデが視界に入ると尚更に前半部分を実感した。


 基本、皇国には高層の建築物を作る文化がない。軍事的な警戒目的で塔や城郭建築を配備している場合もあるから技術が不足しているって話でもない。使わない技術は錆びつくので他国と比べて後退してる可能性は否定しないけど。

 それでも皇国には、階層を重ねて生活領域を増やすと言う考え方自体が存在しない。富を示すなら建物面積を増やし、庭を誇る。土地に空きがなくなったなら、街を広げるのが一般的らしい。実際、皇都カムランデは建国以来拡大を続けている。学んだままの景色がそこにあった。


 大河に挟まれた土地を首都とした王国や、凶悪な魔物が広く分布して都市に強固な防壁を必要とする帝国には真似られない慣習で、だからこそ広さに固執したんだろうと断じる者も多い。

 同時に、建築物の高さが権力を誇示するものだと言う考え方も潜在していて、皇族の暮らす城だけは街を見下ろす形で聳え立っている。広さで財力を示すのも忘れないので、大陸で最も巨大な建造物としても知られる。


 皇城を中心に八方へ主要道路が伸びて、綿密に区画整理された平屋の邸宅が広がる様子は壮観だった。

 皇都の見栄えを非常に重んじていて、景観を崩すような建築許可は決して下りず、換地や移転を繰り返して都市整備を続けているらしい。道路の整備や区画の効率化のために移転を迫られることも珍しくなくて、都市計画の為なら反感も生まれにくいのだとか。空からの眺めは想定していない筈なのに、区画ごとに様式を統一された街並みは見応えがあった。


「これだけ広いと、空を飛んだ方が移動も楽だろうね」

「ええ、飛行ボードを販売できれば、飛ぶように売れると思います。移動手段としてだけでなく、景観を楽しむための需要も多いのではないでしょうか。規制が解かれる日が楽しみです」


 皇都が広がれば、移動手段の重要性が上がるって事でもある。実際、皇国の自動車普及率は高い。貴族や富豪とまではいかなくても、それなりに資産があるなら車を買って移動時間を短縮する。車を停める為の庭を用意するのも、皇国では裕福のステータスらしい。

 眼下に広がる街並みにも、多くの車両が見て取れた。これも皇都の特徴だと思う。


 もし空路が解放されたなら、交通事情が一変するのは間違いない。建物に高さがないのは空を飛ぶ際の障害物がない事でもある。建物や壁を越えて悠々と目的物に辿り着ける手段に人気が集中するだろうね。

 けれど、軍事、犯罪利用が容易な技術の流出については入念な制限が設けてある。当面、飛行ボードを輸出する予定はない。今回の講義に必要技術を含めるつもりもないから、独自開発に成功しない限り、ストラタス商会に搾取される未来が確定していた。


 ビーゲール商会(実家)が競合となる筈なのに、ウォズからは余裕が察せられた。既に販売計画は練ってあるみたいで、それなりに勝算もあるらしい。三大強国の一角を将来的なお財布くらいにしか思っていなさそうなウォズに呆れながら、私は目的地を見やる。


 当然、皇国に発着場なんてない。

 代わりに景勝を目的とした公園がいくつも整備されているので、その一つへ降りる手筈となっていた。


「……思った通り、見物に来た人でいっぱいだったね」

「普段、俺が訪れるときよりずっと多いです。王国貴族を示すスカーレット様の紋章による効果でしょうか」

「私が来るって通達している可能性もあるんじゃない?」

「ああ、確かに。墳炎龍を討伐した大魔導士の噂は皇国でも有名ですからね。あの人出も頷けます」


 帝国の北方で猛威を振るっていた墳炎龍の影響は、一部地域の魔素濃度が増加する、時折魔物の上位個体を見かけると言った現象で皇国へも及んでいた。そうでなくてもほぼ討伐不可能とされる魔王種、それを単独で、しかも帝国侵攻のついでに討伐した私の勇名は皇国へも響いているらしい。

 あくまで魔導士としての実績だけで、聖女だとか未成年子爵だとか詳細は伝わっていないとの話だけれど。


 そんな人出のせいで、公園の敷地は大部分が埋まってしまっている。最低限の人員整理は行っているようで、強引に降りられなくもないけど事故が怖い。

 それに、あれだけの人に囲まれるとなると秘密保全上も問題がある。予定通り転移鏡も搭載してあるし、そもそもウェルキンが機密の塊だからね。


 とは言え、こんな事態を想定していなかった訳じゃない。


「それじゃ、やっぱり飛行ボードで降りようか」

「ええ、大々的に宣伝と行きましょう!」


 いや、まだ販売する予定はないからね。

 飛行ボードのお披露目と言うか、見せびらかすだけになる。教国侵攻でも使ったから存在は知られてるだろうけど。


 今回は私も飛行ボードで降りる。目的は教国の時と同様の示威行為、ただし見せつけるのは技術力の格差だから、魔導士が魔法で飛んで見せても効果は薄い。

 同行者のウォズは勿論、フランやグラーさん達烏木の守、皇国滞在中限定で再び護衛を買って出てくれた第9騎士隊の面々も連れ立ってウェルキンから飛び降りた。


「おお! よく来てくれたな、スカーレット殿。空を飛んでの登場とは、羨ましい限りだ」

「ようこそおいでくださいました、スカーレット・ノースマーク様、ウォージス・ストラタス様。この度は当国からの要望に応えていただき、本当に感謝しております。ヘルムス殿下に代わりまして、深く御礼申し上げます」


 迎えてくれたのは筋肉皇子。存在感ある彼が動くと、人ごみの中でも自然と道が空く。そして、挨拶もそこそこに飛行ボードへ関心を移したヘルムス皇子に代わって、リンイリドさんが丁寧に頭を下げてくれた。

 帝国のホスト役は彼等らしい。ちょっと騒々しそうだけど、顔も知らない皇族相手に気を遣うよりは楽でいいかな。


 同時に、皇城へ案内される私達をざわめきが迎える。

 内容は主に二通りで、片方は私の若さを驚くもの。どうも魔導士と聞くと熟練の魔法使いを連想するみたいで、戦士国や共和国でも散々晒された。いい加減、慣れてきたね。

 もう一方はウォズへ向く。

 リンイリドさんから明らかに貴族として応対されたから無理もない。それだけ、ストラタス商会が皇国発祥と信じていた人が多かったって事だろうね。結構な混乱が見られた。訂正していないのも皇国側の不手際だから、私はこの喧騒に関知しない。


 今回の遠征から、ウォズは公然とストラタスを名乗る。

 陞爵が決まっていることも先方へ伝えてあるから、王国の使者としての立場を持っている。新技術を混乱なく国中へ広げていくためには他国を知っておく必要があると、新役職へ強引に絡めて許可をもぎ取った。同行者と言っても私の補佐、侍女や護衛と違って公人として重んじないといけない。

 気位が無駄に高いって言う皇国で、暫定爵位がどの程度機能するかは不透明ではあるんだけどね。

いつもお読みいただきありがとうございます。

ブックマーク、評価をいただけるとやる気が漲ってきますので、応援よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ