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変化するダンジョン事情と旅立ち

 実のある話、特に中身のない話、取り留めなく話しながら最下層へ辿り着く。オクスタイゼン領のカスタニダンジョンは4階層までしかないほど小規模なので、寄り道しないで真っ直ぐ下りれば小一時間程度で到着した。


 今回の目的は2つ。

 ダンジョン核の位置を把握しておく事と、規模を拡張しないまま人工ダンジョンを設置するにはどういった設計にするべきなのかを考案する事だった。


 元々の予定では魔物の討伐数と採取鉱石量の相関を確認する筈だったのだけれど、人工ダンジョンを実現する過程で法則については確定してしまった。

 絶命した魔物はダンジョンへ還る。そしてダンジョンが記憶した魔石の情報をもとに、同一個体が複製される。どうしてそんな現象が起こるのか、どうすれば生命体の複製なんて奇跡が可能となるのか、ダンジョン核に備わった機能ってだけで理論的な詳細は判明していない。けれど事実として、ダンジョン壁へ還った魔石の情報から魔物は再生する。魔石を回収したなら、少し時間を置いた後に前回複製時と同じ状態での再誕となる。どういった情報処理機構なのかは理解できなくても、核の力場範囲内に魔石を配置すれば、魔物を生むダンジョンの機構を再現できた。

 そして魔物が複製される際、当然魔力を消費する。膨大な魔力渦巻くダンジョンの総量からすると僅かであっても、ダンジョン壁の一部が制御から外れてしまう。それが採取鉱石の正体だった。元ダンジョン壁が変質するのはただの岩だったり泥だったりするので一度の討伐で必ずしも成果が得られる訳ではないけれど、現象を繰り返せば有用な鉱石も得やすくなる。


 構造が判明すれば、相関があるのは当然と言える。ダンジョンの機構上確実に生じる現象で、魔導織を調整すれば鉱石化箇所の任意指定も可能だったから間違いない。勿論、討伐する魔物が強力な個体なら、魔力消費分も大きくなって鉱石化効率も向上する。


 そういった事情で、カスタニダンジョンを実験場として借りる理由はなくなった。

 けれど、人工ダンジョンの試験場として改めて決まっている。これは領主同士で取り決めた私の裁量内の話ではなく、辺境伯と王国議会の協議で決定した正式なものだった。

 人工ダンジョンは一応の成功を見たものの、ダンジョン核の全容が不明だと言う不安要素を抱えている。おまけに悪魔の心臓だなんて呼ばれていた不吉な歴史も、憂慮を後押ししてしまう。

 それでも、人工ダンジョンに期待できる産出量増加は諦められない。

 そこで、国としては事故が起きても被害が軽微な小規模ダンジョンから変造していくと決めた。中規模ダンジョンで試設したラマン人工ダンジョンが例外となる。私としても、小規模ダンジョンで魔法鉱石を採取できるような調整は可能なのかとか、低出力のダンジョン核に対して魔物の脅威度をどこまで設定できるのかとか、検討する内容はいくつもあるので都合がいい。


 そうして白羽の矢が立ったのがカスタニダンジョンだった。オクスタイゼン領にはもう1つダンジョンがあって、万が一の損害も少ない。ついでに国内で最も浅いダンジョンで、魔物頭数の調整に見合う産出量を期待できないって事情もある。


 最下層に降りると、直後にノーラがダンジョン核の位置を特定してくれた。でも今日すぐ回収するんじゃなくて、懸賞金を提示して冒険者に別途捜索してもらう予定になっている。ノーラでなくても見つけ出せるかどうか、核の存在が確定した状態で探索可否を検証する。


「あたしは無茶だと思うんですけどね」

「私もそう思うよ。これまで何の痕跡も見つけられなかったからこそ、ダンジョン核の実在は不明のままだった訳だし」

「ですが…、ですが、存在するかどうか分からなかったせいで本腰を入れて捜索できていなかったとも言えます。ダンジョン探索の専門家なら違った切り口を見つけられるかもしれません」


 そう思ったから、ディーデリック陛下も冒険者を試す決定を下したんだろうけどね。経験や偶然が上手く働く可能性も期待できる。

 とは言え、こうしてダンジョン核の近くに立ってみても、まるで見つけられる気がしない。烏木の牙で斥候役だったグラーさんも匙を投げているのに、何か成果を得られるのかな。


「少なくとも悪魔の心臓として教国に保管してあった核が存在するのですから、不可能とまでは言えないのではないですか?」

「わたくしとしては、誰かに捜索を任せられるなら最下層到達の度に呼び出されなくて済みますから、オーレリア様の言う可能性に期待したいところですわ」

「将来的な事を考えるなら、その方がいいんだろうね」


 王国のダンジョンならともかく、他国の核までノーラに背負わせられない。ダンジョン核が見つけられないからって王国だけが人工ダンジョンで繫栄する未来も、これから私が皇国へ赴く意義を疑ってしまう。しばらくは王国の独自技術であっても、いつかは大陸中に独自のダンジョンを造設していてほしい。


「ま、先の事は国に考えてもらうとして、私達は低階層ダンジョンをどう設計するのか考えながら帰ろうか」


 4階層で終着するダンジョンに潜行エレベーターを設置する予定はないので、帰りも歩いて戻らないといけない。


「最下層は鉱石の採取、地上へ魔物があふれ出る事態を回避するために第1層は空間的に切り離すとなると……、活用できる範囲は本当に少ないですね。レティ様の領地のダンジョンと違って魔物を転落死させる訳にもいきません。やっぱり感知型の熱射砲を設置しますか?」

「それだと討伐効率が課題かな」

「それなら…、それならいっそのこと2,3層は障害物のない広い空間にしませんか?」

「それだと鉱石採取の為だけのダンジョンになってしまいます。できるなら、2層は冒険者が探索できる階層にできませんか?」

「鉱石の品質を上げるのに魔物はそれなりに強力な個体を配置したいから、浅階層で魔物の切り替えができない事を考えるとかなり危険なダンジョンになるよ、オーレリア」

「……規模と探索難易度が一致しないのは問題ですね」

「空間魔法で拡張するのはどうでしょう? 階層を増やさず活用範囲を広げられるなら、手段の幅も可能性も広がりますわ」

「うーん、それは空間魔法とダンジョンの力場、両立が可能かを検証してからになるね」


 ラマンダンジョンが経過観察状態にあって、空いたダンジョン核が他にないから実験の場所がない。試すにしても、カスタニダンジョンを作り替えるついでになってしまう。


 結局、話し合いはまとまらないまま地上へ戻ってきた。これはなかなかの難題かもね。しかも、自由に設計できたラマン人工ダンジョンの時と違って、試案の段階で国に許可を貰わないといけない。

 実現が不確かな空間魔法との併用とか、計画に組み込める筈もなかった。


 で、私はこれから皇国に向かうから、講師役と並行してカスタニダンジョンの人工変造も進めることになる。治める領地もあるって事、忘れられてないかな。

 まだ気になるものの、人工魔石について悩んでいる余裕は本格的になさそうだね。


「それではレティ、気をつけて行ってきてくださいね」

「あ、うん。今日はウェルキンで一泊、明日は皇王陛下と謁見して、夕方にはまたダンジョンの計画についてオーレリア達と議論する予定なのに、こうして見送られるのも変な話だけど」


 壮行会って名目の慰安旅行だったので、行動としては間違ってないのかな?

 私に同行するのはウォズだけで、オーレリア達が戻る用のコントレイルは既に用意してあった。真逆へ向かうのは確かだね。


「行き来が容易であっても他国です。短時間の滞在中に何か起こる可能性は否定できません。そうでなくても、レティは面倒事に巻き込まれるのも引き起こすのも得意なのですから」

「私、そんな特技を持った覚えはないよ!?」


 境遇として、あんまり否定はできないけども。

いつもお読みいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] ダンジョンの力場って空間魔法にも多少は作用してたよねぇ(笑)
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