弟達と未来の話
また遅れました。
すみません。
「相変わらず、ヴァンはお姉様の言う事はよく聞くね」
少しヴァンが落ち着くのを待ってから、カミンがからかうように言った。ヴァンの様子をよく見てる、お兄ちゃんの顔だ。
空気を入れ換えてくれるのは助かるよ。
「……お兄様だって、お姉様には頭が上がらないくせに」
「うん。学院でも優秀で知られていると言う姉様だもの、いつだって目標にしているんだから、敵う訳がないよ」
君もそうだろう、と笑う兄に、泣いたばかりの弟は膨れて外方を向いた。わだかまりを募らせているようには見えない。
この様子なら大丈夫そうかな。
うーん、私としては、お母様やお父様を目標にしてほしいんだけどな。
いつも意識してるけど、お母様みたいな柔らかい物腰を真似できているとは思えないし、お父様なんて、私のチートを足しても、全然及ぶ気がしないんだよ。
「姉様がどんなに凄いのか、ヴァンに教えてあげて。講師試験にも最短で合格したんでしょう?」
あんまり持ち上げられるとくすぐったい。
「カミンもヴァンも、きっと私に続いてくれるって信じてるわ。だから、頑張りましょうね」
ノースマークでは最低限みたいだしね。モチベーションを保たせる為にも言わない方がいいのかな。
「それより、そのあと何をするかの方が大事よ。何をしてもいいって事は、自分に責任を持たなくちゃいけないって事だもの。2人は講師になったら何をしたい?」
「僕は、お姉様と同じで、けんきゅうがしたい!」
あらら、ヴァンは研究がどういうものかは分かってないみたい。
まあ、勉強漬けで悲鳴を上げているヴァンには、自主的に勉強するって状況は想像しにくいかな。
「そう。何か知りたい事はある?」
「うーっとね、騎士! 騎士が、ぱあって凄いの!」
魔法に興味があるのかな?
「どんなふうに凄かったの?」
「1人だと小さい火の玉が、2人、3人とだんだん大きくなっていくんだ。僕もできるかな?」
なるほど、それを見たかったんだね。
使いたいのか、知りたいのか、その好奇心を伸ばしてほしい。今回はそれが間違った方向に作用して叱らなくちゃいけなくなったけど。
「何人かが同じ魔法を重ねる連携魔法ね。10歳になったら、属性を調べるから、それから練習してみましょうか。それまでは強化魔法を練習して待ちましょう」
それだって普通に習得する子より4年早いんだけどね。
連携魔法は複数人が同じイメージを共有しなきゃいけないから制御が難しいらしい。使う魔法を規格化してる騎士団や軍で、魔法を覚えてすぐから感覚を身体に染み込ませるらしい。私みたいに好き放題の魔法を使う場合は無理って事だね。
「……強化魔法はもう覚えたけど、属性魔法みたいにカッコ良くないもん」
「そんな事ないよ、この間知り合った冒険者さんなんて、1キロもある谷を、ぴょーんって飛び越えてたもの」
「!! 本当?」
「ええ。そんなの、まだヴァンには無理でしょう? いっぱい練習しないとね。それから、家に帰ったら、騎士団長にお願いして本格的な強化魔法を見せてもらいなさい。きっと、今ヴァンが思ってるのより、凄いところを見せてもらえるよ」
「うん!」
強化魔法の可能性を教えてあげたら、瞳がキラキラしはじめたよ。見映えって大事だからね。
騎士の訓練って、集団で行動する事が前提だから、特出した運動能力があっても控えてるだろうからね。烏木の牙の人達を知るまで私も失念してたけど、きっと個々の能力は高いと思う。ヴァンの憧れになってくれるといいな。
「カミンは研究したい事ってあるの?」
「うーん、お父様みたいな立派な領主になりたいから、政治や経済について学びたいとは思ってるけど、具体的にはまだ迷ってる」
勉強って、はじめは教えてもらう事から入るから、自分で新しいものを作り出すってハードル高いからね。
「お父様は経済学と心理学を合わせた研究をしていたわよ。人の行動理念を学術的にまとめた上で、経済モデルに当てはめて考察したみたい」
「うわぁ、流石お父様だね」
「そうね、着眼点から面白いと思ったわ。今カミンが迷っているなら、これから勉強する事を、自分ならどうするだろうって考えてみなさい。すぐに役に立つ事をしようなんて考えなくていい、例えば、カミンが歴史上の人物ならどうしたろうって考えてみるの。そこから新しいものが見つかるかもしれないわ」
「うん」
前世なら10代後半、20代前半に考える事を、幼いカミンに求めてるんだから、迷って当然だよね。できる限りの助言はしてあげたい。
「姉様はどうして今の研究を始めたの? 僕はてっきり、お父様みたいな研究をすると思っていたけど」
私としては、できる事をしてるだけのつもりなのだけど、そう見えてたか。
貴族らしくあろうと思ったら、政治や経済、経営なんかに興味を持つのが普通かもね。
「新しいものを作ろうと思ったの」
モヤモヤさんが見える事や、前世の知識を、国や領地に還元したい。
「300年前、ロブファン・エッケンシュタイン博士は魔導変換炉を作った事で国を発展させた。その真似事かもしれないけれど、技術で人々を支えたいと思ったの」
「……そっか、それも貴族の義務の一環なんだね」
「運良く閃きがはまって、素晴らしい仲間にも恵まれて、何とか形になってるだけで、まだまだ先は長いけどね」
「うん。……でも、そっか、なんでもいいんだね。貴族らしい研究ってなんだろうって、少し考え過ぎてたみたいだ。ありがとう、姉様、もう少し考えてみるよ」
「ええ、時間はまだあるもの。今は決められないって言うのも、答えの一つでいいと思うわ」
弟を導くお姉様、ちゃんとできたかな?
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