多忙 怱々 東奔西走
月曜日の更新は申し訳ありません。体調を崩してしまい、どうしても書き上がりませんでした。
悩んでいても時間は流れる。むしろ、体感的には普段より早いくらいかもしれない。
ウォズとの事、もしかすると領地の将来に繋がるのだとしても、今は収穫祭を無事に終える事の方が優先度は高い。じっくり悩む時間なんてものは、領主の義務を果たした後の話だった。
領地へ戻った私は開発の為にノーラを呼んで、神殿からのお客さんを迎えて、今年は収穫祭を南ノースマークで迎えたいって貴族からの面会状へ返事を書いて、慌ただしく日々が過ぎていく。
収穫祭を自領以外で過ごせる貴族が少し羨ましい。お父様だって徐々にカミンへ引き継いでいくみたいだし、親族がいるなら代理を立てられる。準備の段階では忙しくしていても、当日は他所の領地を巡る貴族も多い。
私には真似ようもない話だよね。領民の一年の成果を労う機会を任せられる人物なんていないし、他領からの貴族が訪れるなら私が対応する他ない。
結婚したなら、こういう場合に分担できるかもって思ったりもする。それだけで答えを出す気はないけれど。
そうして収穫祭を3日後に控えたところで、王城から召喚状が届いた。
「…………」
嫌がらせかな?
ついつい良からぬ可能性を邪推してしまう。
そのくらい、このタイミングでの呼び出しは非常識だった。飛行列車の普及で無茶の頻度が上がっているよね。以前なら数日を必要とした書状が僅か1日で届いてしまう。それだけ気軽に呼びつけられるようになってしまった。思わずイラッとするくらいは許されると思う。
「差出人はイローナ様、か……。これを無視すると私と彼女が対立しているとか余計な噂が生まれるよね」
「それ以前に、王族からの招集を拒む選択はあり得ませんが……」
フランの言う通りではあるけれど、明日からは前入りした貴族と面会予定が詰まっている。王都への往復に費やせるのは今日しかなかった。文面もとにかく急いでほしいとあるだけで、収穫祭にどう影響を与えるのか分からない。
王族からの要請なら面会中止の理由に足りるとは言え、埋め合わせは必要になる。面倒である事には違いないんだよね。
「こちらの都合を理解してないって事はないだろうし、それだけ急ぎの可能性は高いかな。イローナ様からの呼び出しとなると、国際問題とも考えられるし」
「戦士国の時のような、お嬢様でなければ対処できない事件でしょうか」
「人命がかかっていない程度の緊急性なら、収穫祭を優先させてほしいところではあるけどね」
貴族の対応はともかく、私がいなければ収穫祭の準備が滞るほどは差し迫っていない。私が神様の使徒を演じるより、魔王種の討伐に行くとでも噂を流布した方がお祭りは盛り上がるかもしれないしね。
私が次は何を仕出かすのかと、内心で期待している人も多い。話題を提供するのも領主の役目と割り切っている。
「とりあえず、収穫祭を中止しろって文言はないから、日帰りするつもりで予定を組もう。帰着は日を跨ぐかもだけど」
「はい。通信機の前で待機する係は増員しておきます」
「それから、収穫祭の後で報告する予定だった新型の魔道具もウェルキンに積み込んでおいて。せめて、ついでに説明を済ませてくるよ」
「承知しました」
こうしてドタバタしながら向かった王都だったけれど、慌ただしいのは到着した王城も同じだった。
「スカーレット様、お待ちしておりました。こちらで身支度を整えさせていただきます」
取次ぎを頼むと同時に、慌てた様子で化粧室へ通される。イローナ様達との個人的な面会だと思っていたら、正式な謁見の場が整えられてるとの事だった。そうなると、必然正装が必要となる。
そんな準備はなかった筈なのに、化粧室には私の赤いドレスが用意されていた。ノースマークの王都邸へ連絡して、謁見に相応しいドレスを運んできたらしい。そんな話は召喚状になかった訳だから、送付後に状況が変わった可能性が高い。それだけ状況は逼迫していた。
「方向性は違っても、緊急ではあるみたいだね」
「この状況から魔物退治へ行けと命じられるとは思えませんから、急な国賓でしょうか……?」
「私が呼ばれたって事は神殿……は、ないかな。先日、クリスティナ様と会った時に何も言ってなかったし」
それ以前にまだ教皇の立場が空位なので、これだけの応対を必要とする人物がいない。
「急に来たって事なら、おばちゃん?」
「お嬢様は気安く接しておいでですけれど、冒険者ギルドを束ねて、各国の王といつでも面会できる権限を所持していらっしゃいますからね」
急ぎでフランに髪を整えてもらいながら予想を絞る。
おばちゃんなら、私を呼び出した件にも頷ける。他国の人間が私を呼びつけるなら、南ノースマークへ直接書状を送るより王族を経由した方が早い。冒険者ギルド絡みとなれば、緊急性の高い事件も想像できた。
私が着替えている間も、部屋の外では大勢が駆けずり回っている様子が察せられた。本当に急ぐだけの事態が発生したみたい。とりあえず、収穫祭前に呼び出された不満を顔に出せる空気じゃなかった。
本来なら舞踏会なんかに参加する準備を整える部屋。ドレスに合わせて髪やお化粧を調整できるフランを連れてきていてホッとした。事前の通達がなかったから、領地で私の代理を任せる選択肢もあったんだよね。
貴族の正式な場へ、前世の記憶を頼りに整えた程度の身嗜みで出席する勇気はない。
「多忙と知りながら、貴女をお呼びする他ありませんでした。申し訳ありません、スカーレット様」
先に準備を終えたらしいイローナ様が直接謝罪に来たことで、突然の事態に振り回されてるのは王族も同じだと理解した。
ここは貴族が準備する区画、王族が身なりを整える場所はまた別だからね。余程でなければイローナ様はこちらを訪れない。最低限の事情説明になんとか時間を割いてくれたらしい。
「一体、何があったのです? 冒険者ギルドのグランドマスターが凶悪な魔物の情報でも携えてきましたか?」
「……完全な的外れではありませんね。救援依頼という訳ではありませんでしたが、エリザベートさまも同行されております」
「あ、半分当たってた」
「けれど彼女は堅苦しいおもてなしを好まない方ですから、彼女だけならここまでの事態にならなかったのです。スカーレット様をお呼びするのも、収穫祭終了まで待てていたと思います」
それもそうだね。魔物の心配がないなら、おばちゃんは誰よりも収穫祭を満喫してそうな気がする。
つまり問題は帯同者、グランドマスターを連れ歩けるだけの人物って事になる。
「わたくし達としても本当に急だったのですが、皇国の皇子を迎えなければならなくなりました。更に、皇子はスカーレット様との面会をご希望です」
なるほど。
帝国が恭順している現状で、王国が最も気を払わなければならない対象が皇国となる。その皇子が訪れたなら、どれだけ急であっても最大限の歓待が必要となる。今回の急展開も納得できる。
でもって、特大の面倒事だと思い知った。
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