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思いがけない言葉

 ひたすら驚いた褒賞の伝達会の後、私は予定通りに王都邸の下見へ出た。

 せっかく久しぶりに顔を合わせたのだから皆とわいわい候補地を見て回りたいところだったのだけれど、突然の陞爵が決まったキャシーはその足でウォルフ領へ帰ってしまった。取り急ぎ領地中の主要人物を集めて話し合わなくてはならないことが山のようにある。

 ノーラも似た立場で、マーシャは子供達が待っている。オーレリアはカミンと約束があると言うので、引き止められる筈もなかった。


 結果、ウォズと2人で貴族街を歩く。

 フランやグラーさん達がいるから2人きりって訳じゃないけれど。


「それにしても、ウォズが貴族になりたがっているとは思わなかったよ。言ってくれれば協力したのに」

「すみません。自分の力を試したかったのです。スカーレット様のおかげで貴族になれた、そんな風に周囲からも自分からも軽んじられる叙爵ではいけないと思ったもので……」


 それは確かに、私も面白くない。

 おかげで、私が推薦なんてしなくても自力で爵位をもぎ取ってこれるくらいに私のウォズは凄いんだって胸を張れる。


「いいよ。相談してもらえなかったのを少し寂しく思っただけで、立場を必要とした動機には納得できたから」

「今思えば決意表明くらいはしておいてもよかったですね」

「結構前から目指してたの?」

「そうですね。以前からうっすら夢見ていたこともありますが、ストラタス商会設立の一端ではありました。ビーゲール商会も一枚岩ではありませんから、商会内の思惑の外へスカーレット様の事業を置いておきたかったのが一番でしたが、家の方針とは違う道を行くのだとはっきり自覚したのはあの時でした」

「随分しっかりとした決意だったんだね。それで、開戦派の解体とかこっそり功績を上げてた訳だ」


 その事実を、私は今日まで知らなかった。身内のウォズが暗躍してたんだから、これはお茶会で呆れられる訳だよね。中には、私の指示をウォズが遂行しているのだと解釈した人もいただろうし。

 そのウォズとの伝達ができていないとか、誰も思わなかったに違いない。


 とは言え、報告してこなかったウォズは責められない。こうして叙爵に繋げるための利己的な行動だった訳だからね。

 当然、取引相手を失って混乱する領主や、当主を挿げ替えて許しを請う貴族はいた筈だから、そのあたりの兆候を拾うアンテナの感度が低過ぎた。

 実際、あの場の大勢はウォズの働きかけを嗅ぎ取っていた。

 私もそうでなければならなかった。しばらく数字漬けだったからって、ダンジョンに籠っていたオーレリアを笑えないくらいに貴族としての失態だよね。


 話しながら候補地を巡る。

 貴族の移動は車を使うのが一般的で、使用人の出入りには別に裏道があるので人影はない。


「そう言えば、ウォズもお屋敷が必要になるんじゃない?」


 これからもコントレイルで大陸中を駆け回るのだろうけど、王城で役職を拝命する以上、王都に拠点は必要となる。


「あまり具体的に考えていませんでしたが、そうも言っていられないのですよね……」

「気が進まなそうだね」

「ええ……、貴族街で生活する自分と言うのをなかなか想像できないのです」


 分かる!

 前世を一般人として生きた私としては、その気持ちも理解できる。自分の事だと実感し辛いと言うか、どこか別の世界のお話みたいに思ってしまうんだよね。

 ウォズってお金を貯めるのは得意でも、自分の為の散財は苦手そうだし。


「でもウォズのこれからを考えるにも大事なことだよ? 貴族なんて見栄が服着て生活しているようなものだから、お屋敷がしっかりしていないと実は財力に余裕がないんじゃないかって侮られる。そうなるとウォズの商売にも差し障るでしょう?」

「まさしくその通りですね。商談に屋敷へ招く機会もあるでしょうから、俺はスカーレット様の新技術を世間に広げるのに相応しい装飾を誇示しないといけない訳です」

「それなら協調してるんだって分かりやすいように、近所にお屋敷を構えた方がいいのかな。ついでだから一緒に土地の目途をつけておこうか?」

「……そう、ですね。よろしくお願いします」

「それじゃ、こっちにも寄って行こう!」


 散策の範囲が広がった。

 ついでに公園を歩いて、川を眺めながら帰るのもいいね。ちょっと遠回りだけど。


 そもそも私の土地探しなんて、それほど手間を必要とするものじゃない。

 候補地は、王城からまっすぐ伸びたメイン通り沿いでノースマークの王都邸の傍、王城から少し距離はある代わりに広くて研究所を併設する余裕のある場所、それから大火跡の中心であの事件への功労を主張するところ、その3つしかない。

 最後の1つは私的にあり得ないと思っているし、第1候補でほぼほぼ確定している。研究所は大規模実験場と一緒に郊外へ建設予定だから、私が何となく想像しているお屋敷のスペースを確認して、フラン達使用人向けの建物の配置を検討するだけの作業だね。

 金額とか考慮しない。とっても贅沢な買い物だとは思う。


「しかし、こんな一等地がよく空いていましたね」

「大火の後、区画整理があったでしょう? その時、ジローシア様が私にって確保してくれてたみたいだよ」


 だから第3候補みたいな土地がある。


「なるほど、その時点でスカーレット様がいち令嬢でなく、貴族に名を連ねると見越されていたのですね」

「私を国に縛り付けるつもりだったとも取れるけどね」


 故人の思惑はともかく、土地探しで苦労しないなら何でもいい。私は今の立場に満足している訳だしね。


「ウォズは少しでも商業区が近い方がいいのかな。なら、西側を見てみようか?」

「大火跡である東側の方が空きは多いのではありませんか?」

「そうかもね。でも区画整理で移動した貴族もいるし、まずは確認してみようよ。妥協はその後でいいんじゃない?」


 残念ながら私の予定地と隣接する場所は空きがなかったので、公園に寄り道しながら西へ移動する。

 コスモスが綺麗だった。


 裕福な貴族の中には大火で空いた河口湾付近の方が利便性がいいと移動した家もあって、いくつかは候補として考えられた。思った通り、王都邸は貴族にとって示威の為のものでもあるから大火を好機とした貴族もいたみたい。


「成り上がりの男爵としては、広さで財力を誇示するより、内装にこだわるべきでしょうね。そうなると……」


 真剣に検討している様子のウォズを見て、ふと思い出したことがあった。

 私、彼に伝えていないことがある。


「そう言えば、肝心の言葉がまだだったよ。叙爵おめでとう、ウォズ。夢が叶ってよかったね」

「ありがとうございます。爵位を得るのは最終的な目標の過程といったところですが、大きな壁を越えたのだと感慨深いものはありますね」


 自力で爵位を掴み取るなんて、数十年に1人もいない。それを過程だなんて、志が高いね。

 でも考えてみると、私はウォズがどこを目指しているのか具体的に知らない。


「それじゃあ、ウォズの最終的な目標はストラタス商会を実家より大きくするってところ?」

「それも目指してはいますが、このままスカーレット様の技術を独占していけるならいつかは実現するものと思っています。夢と呼ぶほど切実なものではないですね」

「そうじゃあ一体何を?」


 軽い気持ちで雑談を振ったつもりだったのに、思ったより真剣な様子で見つめられて少し怯んでしまう。


「……俺は、貴女の隣に立つことを望んでいます」

「え?」

「俺は願うだけ。最終的に決めるのはスカーレット様だと思っています。俺はその決定に口を挟みません。ですが、貴女の婚約者候補の1人として、名前を連ねさせていただけませんか?」

「…………え゛!?」


 とんでもない事を言われてしまった。

 二度目の人生にして初体験です。


 と言うか、婚約者候補の1人って何? そのリスト、いまだに白紙なんだけど?

 え? ウォズって私と結婚したいの?

いつもお読みいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] これ以上ないタイミング だが、まだまだ決まらないのは分かっているはず けど、ぶっとい楔は刺さったね がんばえー
[一言] ウォズよく言ったー! このまま押し込めー!
[気になる点] だから当主同士は陛下の面子も潰すし許可下りないと思うけれども… どこか適当な貴族家に養子にはいるのは駄目だったのかな
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