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反省会 2

「レティは何をしに行ったんです?」


 お茶会の結果について報告を聞いたオーレリアの声が冷たい。


 結婚相手を見極める目的で出席したお茶会で令嬢との歓談を楽しんできたんだから、何の為に参加したのか不明なのは間違いない。

 でも、それって私のせいかな?


「思ってもみない事態に戸惑ったまでは分かります。けれど、レティならその場を諫められたのではありませんか?」


 う。


 可能か不可能かで言えば、私なら止められた。

 お茶会の作法に相応しくないと。貴族として見苦しいと。

 何なら率先していたクニーア令息とコンフート令息を強制的に退場させるって手段もあった。


 そういった判断を下すのは普通、主催者のお役目となる。

 ……なんだけど、メガネがよく似合う知的で少し神経質そうなアルドール先生の甥っ子は、その見た目に反して喜々と筋肉品評会へ参加していた。爽やかに汗を流しながらサイドトライセップスを披露して、婚約者から冷たい視線を浴びせられていたよね。

 アルドール伯爵家の令息が役に立たないとなると、次に場を鎮められるのは私しかいない。


 貴族なので、その場の最高権力者が発言権を持つ。同爵位でも序列はあるのだけれど、侯爵家出身で伯爵になることが内定していて、令息令嬢じゃなくて当主本人。王族の参加が有り得ない時点で私より立場が上の人間なんていなかった。


「いや、あの狂態を見た時点で止めるのも馬鹿馬鹿しくなったというか……、全員候補として失格したからどうでもよくなったというか……、関わりたくなくなったんだよね」


 私と研究談議を交わしていたほとんどが似た心情だったと思う。私の場合はエノクとかいたので尚更だった。

 男性陣はチラ見していた令嬢の中からお相手を見繕えばいいんじゃないかな。それ以外は二度と結婚対象として見られないだろうから。

 エノクの場合は帝国へ連れて行ける令嬢の幅が更に狭まったね。それとも、帝国人の気質としては強い男性を好む女性を迎えられるなら都合がいいのかな? アルドール令息については婚約破棄の危機って気がするけども。


「気持ちは分からないでもないですけれど、選り好みしているといい加減お相手がいなくなりますよ? 来年には成人を控えているという自覚はあるんですよね?」

「うぐっ……!」


 オーレリアの正論が私の胸を深く抉る。未来の親族の醜聞に繋がりかねないからか、割と容赦もなかった。勉強で忙しい苛々を私へぶつけている……訳、じゃないよね?

 当然、私から反論できる余地はない。


「そりゃ……ね。私と同学年の令嬢の参加がなかったのは確認したから、嫌でも思い知るよ。1つ下の学年の参加者も随分減ってたし……」

「卒業が迫ってきた時点で慌てて婚約者探しなんて、普通はしませんからね」

「……はい、その通りです」


 私たちは学院の卒業をもって成人として扱われる。平民なら16歳になった時点なんだけど、貴族は学院の卒業が成人の条件に含まれる。中退した場合は洩れなく平民落ちだね。

 叙爵の時点での卒業を提案された私は、学院での単位を全て取得済みだった事と、爵位を賜るだけの実績で資格は十分って特例を作る予定だった。


 成人した貴族令嬢がすぐさま結婚するとは限らない。数年は婚約期間を置いてお互いの領地のことを勉強するのが一般的ではある。在学中にも勉強はできるとは言え、実務に携わる余裕はなかったからね。

 そんな訳で女性の結婚適齢期は20歳前後なのだけれど、そこまでにお相手を見つけておけばいいって話にはならない。学院は令息令嬢の交流の場、自分でお相手を見つけるなら在学中でなければならないって暗黙の了解がある。

 しかも、両親の承認や家同士の調整といった面倒な過程を経なければならない。根回しが容易な期間は学院在籍中に限られるから、お茶会で同級生を見かけなくなってきた理由がこれだね。カミンとオーレリアの交際開始から婚約式までが少し空いたのも同じ理由なんだけど、あれは超速で急いだ例だった。ちょっと真似は難しい。


 卒業後に結婚相手を探す場合は家の意向によるものとなる。本人達の意思が反映されるとは限らない。

 そもそも当人の自由意思で結婚させるつもりはないと、ああいったお茶会への出席や異性との積極的な交流を禁じている家もある。近年ではその傾向は随分と減ってきているけどね。血脈の補強が何よりの家の発展だった名残だね。私の身近では、祖母の実家チオルディ伯爵家がその慣習を続けている。

 とは言え、それほどこだわらなくても家同士が結び付けば厚誼範囲も広がって発展へ繋がる。家同士の確執があったり身分差で隔てられていたりと問題を抱えているなら、恋愛関係にあっても結婚は成立しない。

 計画的に最良を目指すか、臨機応変に最善を尽くすかってくらいの違いだね。カミンみたいに最高を勝ち取ってくる場合もある訳だけど。


 ちなみに、うちの両親の結婚も実は遅い。お父様の境遇が特殊だったから、家を継いだ後でお相手を探した。その時点でお母様は成人していて、女伯爵として家を継ぐ準備を進めていたんだとか。当主となったお父様の手腕に期待して、お母様のハートウィグ伯爵家から打診があった。蔑ろにされる状態に甘んじてお父様が先代を排斥することがなかったら、2人の結婚は実現しなかったらしい。

 なので、あんなにラブラブなのに両親は政略結婚って事になる。不思議だね。


「レティを見ていると、まるで結婚できなくてもいいと立ち回っているように思えますよ?」


 なにそれ!?

 人生が懸かった状況でそんな投げやりな事、しないよ?


「いや、オーレリア、私真剣だよ? 確かに、今更恋愛結婚は難しいかもと思ってるのは認める。それでも政略結婚だろうと少しは気の合う相手を見繕いたいし、領地の事を考えれば利のある相手がいい……とか考えてたら迷走はしてるかもだけど」

「家を存続させたくないという心算ではないのですよね?」

「それは当然。だからこうして苦労している訳で……」


 歴史ある貴族なら血縁者を養子に迎えるって選択肢もあり得るのだけれど、家を立ち上げた私は実子へでないと爵位を引き継げない。カミンとオーレリアの子は勿論、ヴァンにだって継承させられない。

 それにこんな多忙な立場、一生なんて続けられない。どこかで交代したい気持ちもあった。クローンとか作ったら代替わりできないかな?


「結婚したなら配偶者に代行を任せられるけど、それができる相手となるとどうしても評価が厳しくならない?」

「評価以前に女性とお茶を楽しんできたって話ではありませんでしたか?」

「あ、あれはあれで貴重な機会だった訳だから、その……」


 学院へ顔を出さない私は、後輩との接点が極端に少ない。成人貴族との社交は十分こなせているとしても、将来的な人脈には若干の不安があるんだよね。

 今回の件はその埋め合わせになった。また王都で会う約束も取り付けたんだよ。


「そんな様子だから、危機感が乏しいように思えてしまうんですよ。それとも、行き遅れないで済む当てでもあるのですか? ほら、どうしようもなくなったなら貰ってくれる相手に心当たりがあるとか」

「そんなのあるなら私が聞きたいよ……。いざって場合にお父様が準備してくれていた政略相手も私が結婚の意思を見せないものだからだんだん埋まっていってるって言うし、この間は全て忘れろとかよく分かんないこと言い出すし、自発的に動いてみたらこれだし、ホントにどうしたものだろうね」

「はああああああああぁぁぁぁぁぁ~~~~……」


 泣き言をこぼしたら大きな溜息で返された。

 あれ? 私、もしかしてオーレリアに見捨てられた?

いつもお読みいただきありがとうございます。


申し訳ありませんが、1週間程度お休みをいただきます。ちょっと更新の時間を確保できそうにありません。

再開は6/17月曜日の予定です。

レティにイラっとするかもしれない状況でお待たせしてしまいますが、再開後もよろしくお願いできればと思います。

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― 新着の感想 ―
[一言] 最後にはどこかの魔法少女みたいに「どこかにいい男が落ちてないかなぁ。」になるんですね(笑) 魔法少女1「魔法少女なんてやってたら恋人作る暇無いし、出会いもろくに無いからなー」 魔法少女2「魔…
[一言] そうなると幽閉中の馬鹿王子に種付けだけしてもらうしか?
[一言] 気が付かないのはレティだけか(*´艸`*) ウォズ君とはよくっつけ(ノシ ‘ω’)ノシ バンバン
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