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大魔導士と呼ばれた侯爵令嬢 世界が汚いので掃除していただけなんですけど… 【書籍2巻&コミックス1巻発売中!】   作者: K1you
新時代のダンジョン編

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家族の結末 1

どうも上手くまとめられないので、申し訳ありませんが前後編に分割します。

 防護札。

 一般にはお守りとも呼ばれる護身用魔道具。不意の事故や暗殺に備えた代物で、持ち主の危険に自動で反応して極短い間の防護壁を作り出して身を守る。携帯できる小型のものがほとんどなので、長時間の使用に足りるだけの魔力の準備は難しい。

 主に貴族の防衛が目的で、一瞬の致命さえ凌げれば、その後の安全確保や堅守は護衛の仕事となる。


 だから、第9騎士隊の斉射を防げるほどの性能は持っていない。それを見越しての一斉射撃の筈だった。実際、元伯爵夫妻と元教皇は銃弾に倒れている。


 でも、ジャスパー・ノースマークが展開した防護札には明らかに手が加えてあった。展開時間の延長を可能にするだけの省魔力化、更に防護壁の強度も調整してある。

 その防護壁を展開させた叔父さんの後ろに立っていたおかげで、祖母フクスィア・ノースマークは守られる形で銃弾を免れた。


 私の無効化魔法なら掻き消せない事もないだろうけど、あれは同威力の魔力をぶつけて魔法を分解する手法となる。防壁の限界値が不明だから、出力を誤ると魔法を展開している叔父ごとミンチに変えかねない。

 事件の背景とか聞き出したい情報はまだあるからその手段は早い。それ以上に、私がそんな肉塊見たくないからね。


 スクノで見た大規模魔法を思えば、このくらいの小細工は驚くほどって事もない。ただ、元伯爵達が倒れている事を考えると、用意できた防護札は1人分。彼等は飛行列車を奪取するって計画が上手く進まず、無防備に口上を垂れようとして撃たれた訳だから、叔父だけがこの事態に備えていた事になる。

 益々油断ならないとオーレリアやキリト隊長も警戒を強めた。


「ジャス。こんな事件に加担して、どんな結末を迎えるか考えが及ばない君ではないだろう?」


 アドラクシア殿下に許可を得たお父様が語りかける。

 会話で解決できるほど甘い事態じゃないと思うけど、未知数の大規模魔法発動はなるべく回避したかった。そうなると、叔父さんを止められる可能性はお父様にしかない。


 初めて対面した叔父さんはお父様ととても似て見えた。体型が違うからそっくりって訳にはいかないものの、優しげな雰囲気や困り顔で佇む様子が凄く重なる。

 一方で背はお父様よりずっと高くて体つきもがっしりしている。大規模魔法に通じる様子から考えても、強みとする才覚も違うんだろうね。別の形で出会って熟議を交わしたかった。


「君が娘の命を狙ったと聞かされた時、一時的に怒りで我を忘れそうになった。だが、改めて冷静に考えてみると色々な点が引っ掛かる。まず、魔導士であるレティの殺害を目論むには計画が手緩い。呪詛魔道具程度では周囲に被害は出せても、本人にまで及ばないと少し考えれば分かる。前騎士団長やガノーア元子爵の例を見れば、そうした行いはレティを怒らせる結果になるだけだと判断できた筈だ」

「……」

「実のところ君は娘に害意を向けたのではなく、あの襲撃事件は挑発だったのではないのかい? そして、時機的に飛行列車発着場占拠事件とも連動して見えた。だと言うのに、元ラミア伯達を守る様子も、彼等が撃たれて動じる様子もない。君の目的は一体何だい?」

「そんな事、決まっているでしょう! 侯爵家の当主に相応しいジャスが返り咲く為です! あんな島に追いやられてから、私達がどれだけ惨めだったと思っているのです!? 兄でありながら、可愛そうなジャスの身になった事があるのですか? 私達を省みる事無く10年以上も放置しておいて、どうして被害者面できるのです?」


 問いかけた筈の叔父さんは沈黙を貫き、代わりに答えたのは祖母だった。勿論、期待していた真相は含まれていない。倒れている元伯爵夫人と同じく、感情的になるばかりで理屈も通っていない。

 銃弾から守られて無駄に元気な分、音量だけは大きいね。


「そもそもノースマーク子爵? ジャスに不自由を強いておきながら、自分の娘には爵位を与えたのですか? なんて甘い! 子供におもちゃを与えるように爵位を贈るなど、貴族として恥ずかしくないのですか? そんな小娘、いっそ死んでいれば、空いた爵位にジャスが収まれたものを……」

「はぁ?」


 いちいち取り合うのも面倒だと思っていたけど、あんまりな勘違いに思わず驚嘆の声が漏れた。

 多分、この場の全員が絶句したと思う。


「……自分に都合のいい現実に閉じ籠るばかりで、母様は貴族の常識すら忘れたのですね」

「何を―――!」

「爵位を授けられるのは王族だけ、お父様にそんな権限なんてありませんよ。私がノースマーク子爵となったのはそれに見合う功績を挙げたから、叔父さんには何の関わりもない話です」


 まさか、こんな訂正をしないといけないとは思わなかった。

 当たり前だけど私は既に侯爵家から独立しているし、子爵家の継承権は私の血を継いだ者だけに与えられる。現状で子爵家を継げる人間は存在しない。今私が死んだとしても、領地ごと爵位が返還となるだけで、カミンやヴァンにだって次期子爵となる権利は生まれない。叔父さんへ爵位が巡っていく可能性なんて、初めから露ほどもなかった。

 もっとも、叔父さんの思惑とは違うんだろうけど。


「小娘が賢しげに……! 親が親なら子も子ですね。年長者に対する礼儀も知らない!」

「知らなかったのですか? 私を殺害する容疑が及んだ時点で侯爵家の貴族籍は停止、当主であるお父様の謹慎命令を無視して脱走したのですから、既に除名されています。おまけに大逆に加担したのですから平民どころか罪人、私の方がずっと上位者です。小娘呼ばわりされる謂れも、敬う道理もありませんね」


 お父様からするとあれで親子なので、母親に対する遠慮もあるんだと思う。健康に生まれなかった負い目もあるのかもしれない。

 でも、私にとっては一面識しかなかった人、血の繋がりはあっても慮る必要性を感じない。

お読みいただきありがとうございます。

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今後も頑張りますので、宜しくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] もしかして叔父さん、最初から暴走する母親と心中するつもりだった? 自分の知らないところで暴走して取り返しがつかなくなるくらいならいっそ…みたいな
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