表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大魔導士と呼ばれた侯爵令嬢 世界が汚いので掃除していただけなんですけど… 【書籍2巻&コミックス1巻発売中!】   作者: K1you
新時代のダンジョン編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

488/696

義憤と苛立ち

 王国貴族の反逆、本来なら軍を動員して徹底的に殲滅する案件ではある。一切の手心は加えない。決して許さないと意思を示す。


 ただ今回の場合、人質がいるからそう上手くは運べない。

 それに発着場占拠に関わったほとんどは外部の冒険者崩れで、一部伯爵領の騎士が混じっているとは言うものの、どこまでの人間が関与しているか判然としない。


「ラミナ邸には魔力波通信機が設置してありましたよね? 伯爵から連絡は?」

「……ない」

「事件を知った後、当然状況確認の為に伯爵へ問い合わせを試みた筈ですよね? 反応は?」

「……それもない。通信に対して応答すらないのが現状だ」

「つまり、何かの声明もない訳ですか。どうも意図が読めませんね」


 伯爵が関与しているのはほぼ間違いない。

 国家の尊厳を揺るがす大事件が起きて、その件について王城へ領主から報告がないなんてあり得ない。暴徒の反乱に巻き込まれたって可能性は除外していい。


「もしかして、伯爵は凶行を我々に知られている事をまだ認識できていないのでは?」

「後続の飛行列車が来ない時点で、異常を察知されているくらいは分かるだろう。故意に無視している状況に他ならない」


 法務大臣が口にした希望的観測を陛下がすぐさま否定する。


 少し前なら連絡員の行き違いって可能性もあった。でも魔力波通信機の開発から2年、国内の主要箇所への設置が進んでいる。上級貴族の邸宅もその内に入る。

 当然、王城からの連絡に応えないとか許される筈もない。


「最早一刻の猶予もありません! すぐにラミナ伯を討つべきです!」

「対応が遅れれば弱気と受け取られかねません。連中が増長するような時間を与えてはなりませんぞ!」

「伯爵側からの布告がないのは、飛行列車の件を含め、向こうの準備が整っていないとも考えられます。態勢が整う前に攻め込むべきでしょう!」


 こんな愚挙は許してはならないと、会議参加者の威勢が轟く。

 国境線が現在の位置に確定して以来、ヴァンデル王国で内乱が成功した例はない。その逸脱はもまた許容できないと方針が揃う。


「アド、頼めるか?」

「はい。私が手勢を率いてラミナ伯爵領へ向かい、事を収めてまいりましょう」


 逆賊の誅罰は王族の役目。アドラクシア殿下もまた、気勢を上げた。

 反乱を完全否定するには魔導士(わたし)やカロネイア将軍でもまだ弱い。勿論前線に出るなんて危険は冒さないけど、威信を背負い、部隊の旗頭になるのは殿下になる。

 今回、私は殿下の指揮下へ入ることになる。


「占拠部隊の掃討が目的だが、人質の無事を優先してくれ」

「勿論です。こんな事で民を死なせるなど、あってはなりません。まして、被害に遭っているのは偶然列車に乗り合わせた者達、傷付けられる理由など無い筈です」

「……頼む」

「お任せください、父上。こちらにはノースマーク子爵がいます。逆賊共に後れを取るなどないでしょう」


 まあ、乗員が害された時点で大損害と言える。反逆者から一般人を守れなかったって事実は国の信用に傷をつける。


「到着の時点で私は乗客の救出に専念するべきでしょうね。殿下達の接近に気付かれる前に存在を隠す魔道具で潜伏して、人質の安全を確保してしまいましょう。その間、殿下には降伏や人質解放の勧告を行って気を引いてもらえればと思います」


 空間固定化の魔法で隔絶してしまえば手出しはできない。

 ノーラについて来てもらえば捜索は早いし、人質に武器が突きつけられた状態でもオーレリアがいるなら容易に無力化できる。

 こうしている間に危害を加えられた場合はどうにもならないけど、その分、痛い目に遭ってもらう事で埋め合わせよう。


 急に振られた保証に応えて真面目に対策を提案したら、アドラクシア殿下から訝し気な視線を向けられた。


「何か?」

「……いや、急な面倒事に巻き込んだと言うのに、妙に其方が積極的な気がしてな。助かる事には違いないのだが」


 ……私を何だと思ってるんだろうね、この人。


 国家の一大事ってくらいは分かってるんだから協力くらいはするよ。200人以上が理不尽に拘束されてると聞いて、許せないって気持ちもある。

 人質のいない単なる反乱事件だった場合に回れ右した可能性は否定しないけど。


「個人的な憤りもありますので」

「うん? 個人的……?」

「はい。都市間交通網の構築は国家の事業、その発着場は国の管轄ではありますが、飛行列車自体の開発は私達から始まっています。全てはあれらを用いた国の発展と利便性の向上を願ってのものです。だと言うのに、連中は侵攻の道具にしようとしている。安価に技術を提供した私の配慮へ泥を塗った。そうでしょう?」

「お、おお……」

「飛行列車を購入、或いは独自に開発して侵攻に利用しようと言うならまだ分かります。その時点で車体は彼等のものです。活用方法について私は口を挟みません。派手に飾り付けるなり、無骨に大量の武器を装着して示威行動に使うなり、好きにすればいい。でも連中は安易に発着場を襲って研究の結実を奪った。許せる訳がないではありませんか」

「あ、ああ。その気持ちは分か……らないでもない」


 荒事に向いてないから今回は呼ばれてないけど、飛行列車を溺愛しているキャシーが聞いたら泣くよ?

 来られなかった彼女の分まで怒ってあげないとね。


「それに、今後の飛行列車運用の事もあります。これからも多くの人々に安心して利用してもらえるように、今回の占拠犯達は徹底的に叩いておかなくてはなりません。後に続く者が出るような事態にはさせられませんから」


 飛行列車の運用が始まったばかりの今だからこそ、安全が保障できる体制を敷いておきたい。飛行列車のジャックが大罪であると見せしめにしておきたい。


「ふむ、ノースマーク子爵の言う通りだな。これは都市間交通網を計画した我々の否定でもある。国の発展を妨げるような輩に容赦の必要も無かろう」

「この様子なら、頼もしい事には違いないでしょう。そう言う事なら、せいぜい思い知らせてやってくれ」

「ええ、大暴れをお約束します」


 ここしばらく、ささくれ立っていた気持ちをぶつけるのにも丁度いい。八つ当たりとも言う。

 誰かが可哀そうに……って呟いたけど、私は容赦する気なんてないよ。馬鹿な事をしたと、たっぷり後悔してもらおう。飛行列車ジャックとか目論む方が悪い。


「アルク、軍の派遣はいつになる?」

「圧政に耐えかねて領地全体が決起した訳でもないようですからな、装備の充実より事態の収束を優先しましょう。明日中に編成を終えて出立する」

「分かった。占領に合わせて統治官を派遣する」


 領主が国へ牙を剥いた以上、ラミナ領全体が反逆の地となる。

 土地は一旦接収されて国の直轄地となるから、領主に同調して一部が造反する危険も踏まえて武力で制圧しないといけない。同じ接収でも、領主個人が悪逆を犯したかつてのエッケンシュタインとは対応が異なる。

 領民が抵抗しないなら監視体制を敷くくらいで済むんだろうけど。


 ちなみにアルクって言うのはアルケイオス・カロネイア伯爵の愛称で、陛下と将軍、それからエルグランデ侯は旧知なので、時々気安さが滲む。


「諸君」

「「「……」」」

「我が国での反乱は先々代の治世まで遡らなければならない。その間、常に情勢が安定していた訳ではないが、それが国を挙げて発展に取り組もうと言うこの時勢に重なった事を嘆かわしく思う」


 陛下の語り掛けに全員が傾聴の姿勢となる。再び空気が張り詰めた。


「技術の発達が新たな犯罪の種となる……そう言った側面もあるだろう。だが! それに屈する国家であってはならない! 今回の事態が、都市間交通網の展開や飛行列車の開発に起因するものだなどと風説を呼ぶものにしてはならない! そもそも、今回の件で悪逆を背負うのは誰だ!?」

「「「無論、ラミナ伯爵、そして同調した者達であります!」」」

「そうだ! そんな者共に我が国民が傷付けられる事態などあってはならない! 故に余は其方達に望む。愚か者達を徹底的に叩き潰し、国を先に進める意思を世に示してもらいたい」

「「「はっ、完膚なきまでの勝利をお約束いたします」」」

「うむ。余が万人に誇れる其方達なら、必ず完遂してくれるものと信じている。この程度の事件は発展の足を止めるものではないのだと、ラミナ伯爵ごときの造反で国が揺らぐ事などないのだと、其方達には広く示してもらいたい! 奮戦を期待する!!!」

「「「応っ!!!」」」


 さて。

 陛下に檄も貰ったし、伯爵家の歴史を終わらせに行こうか。

お読みいただきありがとうございます。

ブックマーク、評価で応援いただけると、やる気が漲ってきます。

今後も頑張りますので、宜しくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 伯爵が縛られてでもいない限り、領地が血の海、灰燼に帰することも考慮しないとね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ