テロ事件勃発!
王城へ入ると、私達は大議堂へと案内された。
本来は国の重要事項を審議する場所で、未成年が出入りするような前例はなかった筈なんだけど、私って割とここに縁があるよね。以前に陛下が割った大理石製のテーブルもきちんと修理してあった。
魔導士を呼ぶだけあって、錚々たる顔ぶれが既に待っていた。
カロネイア将軍にライリーナ様、軍務、法務、魔導技術、国土交通各種大臣、情報局庁長官、ここの主と言っていい王国最高議会の議長と宰相、相談役としてエルグランデ侯爵にロイアー准侯爵、アルドール導師もいる。そして、新しい騎士団長のライル・アイシュタート様、更に―――
「お久しぶりです、キリト隊長」
「私の方こそご無沙汰しております。スカーレット様の活躍は騎士団の方にも届いていますよ」
「私としては、できれば領地に引き籠っていたいのですけどね」
「ははは。それを周りが許してくれないのも、我々が護衛していた頃と同じですね。時代が放っておかないのでしょう」
「そうだとするなら、とってもはた迷惑な時代ですね。さっさと時計を動かしてしまいたいです」
ワーフェル山のダンジョン化に帝国との戦争、散々暴れたせいで国として私を放置できなくなった事情は理解しているから魔導士って役目は受け入れたけど、それを名誉だなんて思っていないし、体良く使われたいと思った事もないからね。
軍事面の技術をもっと充実させれば、もう少し放っておいてくれるかな。
「今回はキリト隊長も同行するのですか?」
「はい、そう言われています。スカーレット様が出陣するにあたって、護衛していた経験から連携が容易だろうとの人選です。オーズとガイムも張り切っていましたよ」
「それは頼もしいですね。よろしくお願いします」
私に付いていてくれた頃には、本当にいろんな事をお願いしたよね。
ワーフェル山では指揮権を委譲したし、魔法籠手の実験にも付き合ってくれた。新米兵士の訓練とか、明らかに騎士の仕事じゃないお願いまでこなしてくれていた。他の騎士とは、何でも頼れるって安心感が違うよね。
騎士団改革にも尽力して、爵位も準男爵から男爵へ上がった。いつかは騎士団長にも届くんじゃないかって期待を背負っているとも聞いた。
他に知った顔では、騎士団の再編成に伴って元第4騎士隊のカッツ・ニアーロさんが副団長へと昇進した。有事に備えて団長か副団長のどちらかは本部に詰めると規定が変更になったから、残念ながら今回は会えそうにない。
「オーレリアも久しぶり、ダンジョンは満喫できた?」
「はい。満喫し過ぎて、とっても叱られました」
あー、大事なお茶会をすっぽかした件だね。
オーレリアの顔には表情がない。余程こっぴどく叱られたのだと分かる。ここで庇うとライリーナ様の怒りがこちらに波及してきそうなので、私も迂闊な事は言えない。
煌剣を持つ彼女も今回の同行者に選ばれたらしい。何が起きたのか聞けてないけど、数を集めるより精鋭を揃えて解決にあたらないといけない事態が起こったみたいだね。
「でも、わたくしはとっても助かりましたわ。ありがとうございます、オーレリア様」
「探索より階層の移動を優先して、短期間で40階層まで到達したんだって? 潜行昇降機も設置したって言うし、これからのダンジョン活用が随分楽になった筈だよね。かなりの貢献だと思うけど?」
「……ありがとうございます、そう言ってもらえると報われます。しばらくダンジョンも魔物討伐も禁止されましたから」
うん。
そう言う事情なら、せめて今回の要請がストレス発散に繋がるものだと良いね。
ノーラは今回の呼び出しに名前があった訳じゃないけれど、彼女の魔眼が役に立つ事があるかもと私が連れてきた。役職無しのノーラへの要請は手続きが煩雑になるから、気を遣ったって言うのもある。叔父様の捜索が先延ばしになったからって、ノースマークに置いて来る訳にもいかないしね。
どさくさ紛れの同行者となったのはお父様も同じで、一緒にウェルキンで飛んで来た。情報収集って目的もある。侯爵にはどんな会議においても相談役として立ち入る権利があるから、大議堂の入り口に立つ騎士に止められる事もなかった。
しばらく談笑して待つと、ディーデリック陛下がやって来た。アドラクシア殿下も後に続く。
「待たせてしまったようだな。急な招集に応えてくれた事、感謝する」
そう切り出した陛下の顔色は疲労が色濃い。臨場が遅れたのも、ギリギリまで収集した情報を精査していたからかもしれない。
大議場の空気も張り詰める。
「既に気付いていると思うが、ここに集まってもらったのは文武における我が国の精鋭である。遺憾ながら、諸君の力を借りなければならない事態が起きた」
「只事でないのは察しておりました。して、ノースマーク子爵を動員しなければならない事態とは一体?」
カロネイア将軍に促されて、ディーデリック陛下は大議堂の面々を見渡す。改めて緊張が走る。それだけ慎重にならざるを得ない事態だと窺えた。
ここにいるメンバーに個人的な損得で口を挟んだり、みだりに情報を漏らすような愚か者はいない。
「昨日、ラミナ伯爵領にある飛行列車発着場が正体不明の集団に占拠された」
「「「!!!」」」
流石に衝撃だった。
都市間交通網の整備は国家事業だった。その為、各地に設置した飛行列車の発着場は国の管轄下にある。
そこを強襲するなんて、国家への反逆に他ならない。
「それは陛下、ラミナ伯爵からもたらされた情報ですかな?」
「いや、違う。後続の便が異変を察知し、次の発着場で乗員を降ろした後、王都まで直接報告に飛んでくれたことで発覚したものだ。現在、諜報部をラミア領へ向かわせて、情報収集を行っている」
飛行列車の機動力があったから、早期に露見した訳だね。陸路ならラミナ領まで10日はかかる。魔力波通信機の設置個所も限られるから、状況がどうしようもないところまで悪化するまで判明しなかった可能性は高い。
もっとも、飛行列車があるから発着場を襲ったとも言えるけど。
「多くの者にとっては既知かもしれませんが、最近になって伯爵が武器を買い集めていたとの情報があります。その件との関連は?」
「……否定できん。確証は得られていないが、襲撃者の多くが冒険者然とした無頼漢で構成される中、ラミナ伯爵家に仕える騎士の姿を見たと言う情報もある。可能性は高いと思っていいだろう」
「「「!!!」」」
これまた驚いた。これってほぼ確実に造反だよね。
「まさか、発着場を襲ったのは飛行列車を他領侵攻の手段として使う為か!?」
国土交通大臣の仰天で、大議場が騒然とする。
飛行列車を侵攻に用いた場合の恐ろしさは私が証明した。空への対策は十分に構築できたとは言えないから、まだまだ脅威と言える。
でも、私は胸を張って大丈夫だと言える。
「その心配は必要ありません。こういった事態に備えて、飛行列車の動力部は遠隔で停止できるようにしてあります。後続が異常を察知したなら、その時点で停止の申請を出している筈です」
「うむ、その通りだ。事件の報告を受けた時点で、停止を命じた。諜報部からの連絡でも、未だ飛行列車は飛び立っていないと報告を受けている」
私の指摘と陛下の保証で空気が幾分か和らいだ。兵器に転用する以上、万が一の対策は練ってある。
だけど私は彼等と一緒に安堵する気分にはなれなかった。別の事が気にかかる。
「つまり陛下、運用の可否はともかく、飛行列車は襲撃者達に拿捕されているのですよね?」
「ああ、そうなる」
「それでは、乗員は?」
「……そこが最も厄介な点だ。乗客200名余りが敵の手に落ちた。動力部の停止が故障によるものと思われているらしく、その対応に追われて現状では危害が加えられた様子はないとの事だが、予断は許さない」
「「「!!!」」」
三度目の驚愕。
なるほど、魔導士が召集される訳だね。
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