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大魔導士と呼ばれた侯爵令嬢 世界が汚いので掃除していただけなんですけど… 【書籍2巻&コミックス1巻発売中!】   作者: K1you
新時代のダンジョン編

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困った時のノーラ頼み

すみませんが、前話「島を覆う気配」の展開を修正してあります。未読の方はそちらからお願いします。

変更前とは話が繋がりません。

 発動した魔法について詳しく知る術が私にはない。だから翌日、ノーラにスクノまで来てもらった。


 予定にはなかったけどスクノの別邸に一泊する。

 食材はお爺様が釣ってきた魚があったし、一緒に謀られていたお爺様を今更疑う理由もない。急な滞在でも対応できるくらいにノースマークの使用人は精鋭が揃っている。

 会話は弾まなかったけども。


「ごめんね、ノーラ。領地が忙しい時に呼び出して……」

「いいえ、本当に大変な時期は過ぎましたから問題ありませんわ。それに、わたくしはいつだってスカーレット様のお役に立ちたいと思っています。わたくしが力になれるなら、どうぞ遠慮なく呼んでください」

「ありがと、今度一緒に美味しいもの食べに行こうね」


 あんまりいじらしいものだからハグで歓迎する。

 オーレリアは私がまとわりつくと微妙な顔になるし、キャシー達の場合は逃げるんだけど、ノーラはされるがままに受け入れてくれる。愛い愛い。


「私の魔眼と違って何かと便利だから、ついつい頼っちゃうんだよね。鑑定魔法に適性のない私からすると羨ましいし」

「お役に立てているなら嬉しいです。でもわたくしからすると、羨ましいのは属性に縛られず魔法を使えるスカーレット様も同じですわ」


 その羨慕は分からないでもない。魔法はいろいろ便利なのに、属性の縛りは何かと面倒なんだよね。

 もっとも私の場合、属性に偏りがないせいで属性保持者固有の知覚もないから、言うほど安易でもないんだけど。


「それにしても随分と大規模な魔法ですわね」

「規模に応じて消費魔力も莫大になるところを、魔力充填器から島中へ張り巡らせた魔導線から供給してたみたいなんだよね。おかげで私では手を出せなくて……」


 ノースマークでは魔導変換炉で満たした充填機を各所に配置して、そこから生活基盤に必要な魔力を行き渡らせている。魔導線を魔法の構築に組み込んであるから、強引に無効化すると島のインフラが止まってしまう。

 私は今、ノーラの案内で魔法を構成している勘所となる部分を探り当てて、島を覆うほどに効果を拡大する為の媒介を崩して回っている。かなりの広範囲に、しかも入り組んだ場所にも散らばっているものだから、飛行ボードで島中を巡る。


「言ってみれば島を魔道具に見立てたようなものでしょうか。特別な技術を用いている訳ではないようですけれど、巧妙に偽装しながら鮮やかに術式を組んでありますわ」


 それぞれの媒介が、大型の魔道具で言う基板の役割を果たす。そのおかげで術師がいない状態で魔法を維持している。


「うん、私も見事だとは思うよ。こういう大規模魔法は戦略的に使う事が多いから私が関わる機会はあんまりないんだろうけど、簡単に真似できる気がしないよ。有線で繋ぐ訳でもないから、各所に設置した媒介ごとに出力を調整して干渉させないといけない。当然、干渉し合う中継点が増えるほどに設定は難解になるよね」

「認識阻害の魔法範囲をただ重ねればいいと言うものでもありませんからね。多数の魔法を同時発動はスカーレット様でもなければ無理です。複数の媒介が生む力場を共鳴させて1つの大魔法を構築する。奇跡を意図的に再現するようなものです」


 共鳴魔法自体が偶発的に発生した奇跡だった時代があった訳だから、ノーラの形容は外れていない。

 それを戦場で使えば、体力の消費を軽減する、気分を高揚、或いは減衰させる、特定の魔法の威力を増減させると言った活用方法で戦局を急転できる。

 ただし、こうした大規模魔法は本来、複数人が寄り集まって発動させるのが基本になる。媒介を用いて個人で発現させるのは驚異的と言っていい。


「認識阻害自体はそれほど強力な魔法じゃない。普通に考えれば、逃走経路が橋か海路に限られる中、しかも常に警戒されている状況を掻い潜れるほどの効果は期待できない筈だった。でも、魔法の効果範囲を広げる事で副次的に効力も高めた。特定の人物の記憶を島中から消し去ってしまうくらいにね」

「魔力を供給する構造を作って、魔法を共鳴、増幅させる媒介を的確な場所へ配置するだけでも並外れた労力となります。よく実現できたものだと感心しますわ」


 いろいろ情報が読み取れるノーラなら得意分野にも思えるけど、その彼女が驚嘆するくらいには尋常じゃないらしい。


 この魔法の更に凄いところは、これだけ精神へ浸透する効果を持ちながら、呪詛魔法じゃないって事。

 少しずつ効果範囲を広げ、微弱な魔法を重ね、何年もかけて記憶へ干渉した。呪詛魔法を凌ぐ効果へと昇華させてある。勿論、虚属性も発現させていない。


「お爺様によると、島に貴族を呼び込む目的で各所を飛び回ってたって話だったからね。その過程で設置場所を吟味して、微調整を繰り返しながら少しずつ下地を整えていったんだろうね」

「根気……、むしろ執念と言っても良いかもしれません」


 魔法が完成してしまえば、誰の目にも止まらない。堂々正面から島を出て行ったんだろうね。


 お婆様の期待にこそ応えられなかったとは言え、お父様に並ぼうとしていたくらいだから優秀な人には違いないんだろうね。この魔法の構成を見る限り、その才能はお父様より私に近かった気もする。

 それだけに、才覚を間違った方向へ活かしている事が残念でならない。


「確か、広域への精神干渉は法律で禁じられていましたよね」

「うん。既に私への暗殺疑惑もあるし、貴族籍の剥奪程度では済まないよ」


 悪用すれば市民を扇動する事も、錯乱させる事も可能なのだから、規制するのは当然と言える。かなり厳しい罰も規定してある。

 惜しい才能だと私が思ったところで、見逃すのは王国法が許さない。

 私としてはどうしようもない状況でしかないのだけれど、お父様がどう受け止めているのか考えるとちょっと気が重いよね。


「それでノーラ、魔法の痕跡は追える?」

「西の方から、とだけ……。距離があるせいか、術者の意思が微弱で詳しい情報は得られませんわ」


 持続させる魔力を充填器に頼っていても、魔法を発動させるのは術師本人、今回の場合はジャスパー・ノースマークその人って事になる。

 そしてノーラは魔法と術師の繋がりを認識できる。魔法の発動は既に過去でも、その結び付きが消える事はない。


「西……、エルグランデ、ラミア、オクスタイゼン、主要な領地はこんなところかな。キャシーのウォルフ領もあるけど流石に除外していいだろうからね」

「認識阻害が働くのはこの島だけですから、他では隠密行動を余儀なくされます。不審者が大領地のエルグランデに潜伏するのは難しいのではありませんか?」

「うーん、確かに、バルドル様の目を掻い潜って協力者を見つけるのは現実的じゃないよね」


 その点、オクスタイゼン辺境伯領やラミナ伯爵領は魔物領域も多くて管理の行き届かない範囲も多い。今回の嫌疑範囲の話ではないけれど、過去には領主に知られないまま魔物領域を開拓して、黒曜会が軍事拠点を構築していた例もあった。

 同様に他の小領地への警戒も外せない。


「近付けば術師の居場所を特定できる?」

「そうですね。かなり近くへ寄る必要はあるかもしれませんが、今よりずっと捜索個所を絞り込めると思いますわ」

「よし、じゃあ、ウェルキンを動かそう。適当な訪問理由を装って領地を巡るよ」


 私達は魔法媒介を1つだけ残して術師の痕跡を追う事にした。

 媒介が残るなら繋がりは途切れない。本人が魔法効果を持続させている訳ではないから、こちらの異常は術師へ伝わらない。そして、媒介1つの効力ではほとんど阻害効果をもたらさない。


 そうと決まれば、急いで別邸へ戻る。

 認識阻害効果が消えた事で記憶が繋がり、使用人達は戸惑い、お爺様は愕然とした様子を見せていた。

 叔父様達を止める事も叶わず蚊帳の外に置かれたのだと考えれば、気持ちが分からなくもない。だからと言って、私はお爺様へ掛ける言葉を持たない。

 趣味に傾倒して叔父様達との交流を怠った結果、脱走の計画から外された疑いがない訳でもないしね。


「……そうか。ジャスを追えるのだね? それなら、私も同行しよう」


 私達が島を巡っている間、お父様はお爺様や家人達からの聞き取りを進めてくれていた。媒介を減らすごとに阻害効果は収まって、出奔前後の叔父様達の不審な行動についても情報が得られたらしい。

 ここしばらく、叔父様は学院生時代の友人達と頻繁に連絡を取り合っていたのだと言う。交友範囲を調べれば、叔父様達の潜伏先も絞り込めそうだね。


 そして、私達から経過を聞いたお父様は同行を迷わなかった。

 事件を許してしまったノースマーク侯爵家当主の責任、叔父様が暴走する原因を作った兄としての悔悟、家族の軋轢に決着をつける覚悟、それらと向き合うなら私は止めようなんて思えない。


「それじゃあ、急ごう。忙しいノーラをいつまでも拘束していられないしね」


 ダンジョンの実証実験を放置したままというのもある。

 ウォズとマーシャが準備を進めてくれてる筈だけど、他領のダンジョンを使わせてもらう以上、責任者の私が赴かないと実行段階まで進めない。


 なるべく早く決着しようとウェルキンへ向かった時、魔力波通信機の警報が鳴り響いた。

 着信を知らせるいつもの音調とは違う。聞き逃しがないように大音量で、設定して以来鳴った事もなかったせいで耳にも慣れない。


「スカーレット様、これって……」

「うん、緊急を伝える呼び出し音だね、非常時専用の」


 領地に異変があったとしても、このアラームは鳴らない。通常の着信で用件を伝える設定にしてある。それだけ特別で、この回線へ連絡できるのは王城と軍の上層部、そして各辺境伯領の国境砦の責任者しかいない。

 正直、鳴る事態を想定してもいなかった。


 しかもこれ、ノースマーク子爵宛じゃなくて、魔導士の私を呼び出すものだね。つまり、埒外の魔法使いの投入を必要とするだけの何かが起きた。

 ただし、通信相手は国境じゃない。どこかから攻め込まれたって話でもないみたい。


 当然、魔法技能を国と領地に捧げると宣誓した私はこの呼び出しを拒否する権利を有していない。

 17番目の魔導士、初出撃となるのかな。あんまり気分は上がらない。


 叔父様を追い詰めるって予定は先送りする他ない。ノーラやお父様にしても、情報を手に入れて備える必要があるかもしれない。

 とりあえず西方領地行きは後に回して、王都で要請の詳細を確認かな。

お読みいただきありがとうございます。

ブックマーク、評価で応援いただけると、やる気が漲ってきます。

今後も頑張りますので、宜しくお願いします。

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