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大魔導士と呼ばれた侯爵令嬢 世界が汚いので掃除していただけなんですけど… 【書籍2巻&コミックス1巻発売中!】   作者: K1you
新時代のダンジョン編

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苦手な人

 ジローシア様がご存命の頃から続く、国中の貴族の交流を目的としたお茶会に派閥の偏りはない。普段はいがみ合う間柄にあっても、異なる立場からの意見へ耳を傾ける事も必要だろうと、広く門戸を開いてある。


 なので、反スカーレット派の中心に君臨するシャピロ伯爵家の夫人が参加していても不思議はない。


 ―――ただ、私が彼女を苦手としているってだけで……。


「そう警戒しないでくださいませ、スカーレット様。わたくしは何も、所構わず敵対しようなどと思っておりませんわ」

「失礼しました。不快に思われたなら、申し訳ありません」

「わたくし達が、未だ幼く、経験の不足した貴女が台頭する事に不安を覚えているのは事実です。けれど同時に、こうして新しい技術を生み出して国を豊かに導いてくれる事には頼もしさを感じてもいますのよ」

「……諫言も期待も、ありがたく受け取っておきます」


 ほんの一瞬の狼狽だった筈だけど、しっかり勘付かれてしまったものだから余計にばつが悪い。迂闊を晒してしまった。

 本当に目聡いったらないよね。おかげでロバータ様の主張を否定しきれない。


 学院生時代、ジローシア様と意見を違える立場にあって、今尚派閥を牽引するだけの影響力を備えているって事は、それだけ優秀だって事実を示している。ジローシア様に蹴散らかされるくらいの貴族なら、もっと権威の乏しい家に嫁がされているだろうしね。


 おまけに彼女はお母様の姪、私にとっては従姉にあたる。

 彼女も伯母も、当然お母様も嫁いで家を隔てているから、血の繋がりはあっても親戚付き合いはほぼ皆無だけどね。


 お母様やライリーナ様、私がまだ当分は敵いそうにないって思える女傑に数えられる。

 正直なところを言えば、あまり関わりたくはない。これまでのお茶会では近付いてこなかったから、私にも油断があった。


 でもって、ロバータ様は油断してくれるほど甘くないんだよ……!


「それとも、わたくし達が殺害を企んでいたとでもお疑い?」


 真っ赤にお化粧を施した唇が綺麗に吊り上がる。


 ……チロリと、蛇が獲物へ向けるみたいな二股の舌が覗いて幻想()えた。

 そうですか。隙を見つけたらひと呑みする気満々ですか。


「いえ、まさか。一時的にディルスアールド侯爵家が派閥に君臨していた頃とは違うと聞いています」

「そうね。同じヴァンデル王国内の貴族、対立する事はあっても敵対しようとは思っていないわ。卓越した魔導士として知られるスカーレット様を殺害しようだなんて、どう考えても割に合わないでしょう? そんな短絡的な手段に訴えるなんてあり得ないもの」


 この回答は信じられる。

 実際、反スカーレット派の主要貴族の関与は私も疑っていなかった。シャピロ家が関わっていたとしたら、あの時の冒険者達は失敗を悟った時点で、絶対に跡を辿られないように自害していたと思う。本物の暗殺者は、未練がましく許しを乞うような視線を私へ向けたりしない。

 あったとしても、派閥の方針を勝手に解釈した末端貴族の仕業だろうね。もっとも、その場合はすぐに足がつく。


「それに、ロイガー・ディルスアールドをわたくし共の代表のように言われるのは不快ですわね。わたくしは彼を派閥に迎え入れたつもりはありませんもの」


 ガノーア元子爵に便乗して私を排除しようとしたディルスアールド家は、継承権簒奪で成り上がった次男が勝手に方針を決めたに過ぎない。本来の侯爵家は、周囲の規範となれる貴族なんだよね。

 派閥をまとめ上げたシャピロ伯爵家からすると、突然派閥員面し始めて、爵位が上位にあるからと代表者を僭称していただけらしい。


 彼は私の貴族としての権利を剥奪して、これまでの研究成果も徴発するつもりでいた。魔導士は扱いやすい人間兵器でさえあればいいと。


「……わたくし共の方針は初めから変わっておりません。帝国との戦争をたった3日で終わらせるだけの武力を持ち、ノースマークに連なる影響力を備え、飛行列車や回復薬の開発で社会を一変させ、聖女と呼ばれるほどに民からの信頼も厚い。王威すら揺るがしかねない子爵は、国政から距離を置くべきだと」

「国政に口を挟むつもりはありませんが?」

「あくまでも、今のところは、でしょう? それに、今回のダンジョン改革に加えて、先日は新しい肥料について意見していたと聞いています。規制される側がその法改正について意見する、癒着を疑われても仕方ないとは思いませんか? 貴方の意思一つで歪みかねないこの状況を、わたくし共は危険視しているのです」


 陛下も殿下も良識ある人だから、私の意向なら何でも推し進めるって事はない。


 でもそれは現状ではって話で、変わらない保証はない。人は変わる。良くも悪くも変化を続ける。私が悪意を持たないって証明はできないし、私を囲い込む目的で過剰に意思を汲む未来が訪れないとも限らない。

 私にそのつもりはなくても、周囲はそんな未来を望み、また警戒する。


 今の反スカーレット派の方針は私への戒告であって、私との敵対じゃない。

 これはジローシア様に言われた事でもある。私は影響力が強過ぎる。言動1つにも気を配らなければならない。学院生にも関わらず、活動場所を王都から南ノースマークへ移した原因でもあった。ジローシア様は私を諭す事を選択して、ロバータ様達は対立を選択した。

 私が過ちを犯すなら、いつでも権威を剥ぎ取ろうと狙っている。


 派閥外の誰かが暗殺を計画するなら、成功に微かな期待くらいは抱いているかもしれないね。


「ですから、普段のように領地へ籠っていてくれる分には、歓迎しているのよ。必要なら、援助も厭わないわ」

「既に基金への多額の出資をいただいています。これ以上は恩を返せる手段がありません」


 派閥を隔てている以上、お礼に技術の一部を流すって訳にもいかない。


 政治に全く興味がなくて、全てを奥様に一任した初代エッケンシュタイン侯爵みたいな在り方を望んでいるんだろうね。彼は生み出した技術についても、国へ分配を委ねた。

 私は貴族との関わりを極力避けて、領地で研究だけに勤しんでいてほしいってところかな。


「さっきの話にしても、希少な宝石が手に入りやすくなるなら、比較的安価に市場へ流れる宝石も増えるのでしょう? 新しい流行が生まれるかもしれません。これでもとても楽しみにしているのよ」

「私も、加工職人の技術向上が望めるのではないかと期待しています」

「そうね、既存の技術の向上も望ましいわ。新しい技術が従来の職人から仕事を奪うだけではないと、そうした方針はわたくしも好ましく思っているのよ?」


 だから、貴族に対してももっと配慮しろって副音声が聞こえた気がした。


 単なる否定じゃなくて、認めるべきところは認めてくれる。好悪は勿論、有利不利も超越したバランス感覚が私に及ばないって思わせているところだよね。


「ともかく、ラミナ伯爵がおかしな動きを見せていると言うのは本当の話ですよ。恩を売ろうと言う訳ではありませんが、貴女にいなくなられると困るのも事実ですわ。もっとも、貴女が欲している情報に関わりがあるかどうかまでは保証しませんけれど」


 そんな事言われても、何か含みがある気がして信用は難しい。思わず、扇で口元を隠して感情を悟らせないロバータ様をじっくり観察してしまう。

 私がこうして悩むところまで織り込み済みって気もするね。


 ラミナ伯爵領はオクスタイゼン領の北東に位置している。領地の大部分をソーヤ山脈の生活困難地帯が占める。伯爵領としては険しい環境にあるんだけど、かつては鉱山が機能して栄えた場所でもあった。

 その分、魔物の営みは活発で、その対処の為に武器を集めたと考えれば不審と言うほどでもない。ただし、この数十年に渡って魔物への対処を伯爵は軍と冒険者に頼ってきた。その為、魔物領域に隣接している割には武力への投資が少ない傾向にあった。

 どうして今になって? という疑問は浮かぶよね。


「ラミナ伯爵領と私の子爵領は国の両端と言っていいほど離れています。伯爵に何か企みがあったとしても、私の殺害と結びつけるのは難しい気もしますね」

「その判断はお任せしますわ。わたくし達は貴女の要請に応えて不審な動きの心当たりを答えただけでしてよ」

「……それもそうですね」


 私としても、国全体の安寧を守ろうとまでは思っていない。

 殺害計画に関わっていないなら、対処はカロネイア将軍あたりに任せればいい。


「ところで、武器以外に人を集める動きはあるのですか?」

「不思議と、徴兵を強化した話は入っていませんね。周辺から腕利きを招聘したくらいでしょうか。呼びかけに応えたのは数十人と言ったところでしょう」


 それなら、内戦を目論んでいるって可能性は低いね。いくら武器を揃えても、その程度の人員では戦力が増加したとは言えない。

 開戦派と同調したのかもと少しだけ考えはしたものの、そもそもこの国、辺境伯領とノースマーク、そして深山を越える険道以外で他国へ抜けるルートがない。勝手に開戦ってできないんだよね。


「ありがとうございます。参考にはなりました。確かに不思議な動きではありましたが、ラミナ伯爵は開戦派と言う訳でもありませんし、将来的な開拓を見越した準備かも知れませんね」

「―――」


 あれ?


 私としては現時点で下せる判断を話したつもりだったけれど、帰ってきたのは沈黙だった。ロバータ様の視線は冷たく、さっきまで話していたキトリート夫人も呆れている。

 そればかりか、周囲にいた御婦人方も揃って不思議そうな顔を向ける。イローナ様とか、頭を抱えているよね。


 これはあれかな?

 誰もが知っていないといけない筈の情報を、私が把握していなかったヤツかな。


 そっとキャシーの方を確認すると、気まずそうに目を逸らせていたからあそこにもお仲間がいる。けれど当然、そんなものは言い訳にならない。

 ダンジョンの研究で手一杯だったとか、王都を離れて情報が入りにくい状況にあったとか、何の酌量も生まない。さっきポーカーフェイスに失敗した時以上に居た堪れない。


 そして、何を失言したのかも分からない。


「レティちゃん、帰ったらウォズ君にきちんと説明してもらっておきなさい……」


 え、ウォズ?

 どうしてここでウォズの名前が出てくるのか。まるで分らないくらいに心当たりがなかった。


 でもライリーナ様の様子を見る限り、私は知っておかないといけない事みたい。

 えーと……、ウォズ? 何があったの?

 助けを求めたいけど、彼はここに居る筈もない。


 当然のことながら、お母様の視線は誰よりも冷たかった……。

お読みいただきありがとうございます。

ブックマーク、評価で応援いただけると、やる気が漲ってきます。

今後も頑張りますので、宜しくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 「なので、反スカーレット派の中心に君臨するシャピロ侯爵家の夫人が参加していても不思議はない。」 修正されていないですねー・・・。
[一言] シャピロ侯爵家? 前話ではシャピロ伯爵家だったけど、どっち?
[一言] 領地に引きこもって研究だけしていてくれと主張する連中に、その研究を政治的な都合で 邪魔される可能性が無いとは言えないからこそ、研究者であっても政治に関わらざるを得ないんだけどねー 実際に(例…
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